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「官邸」2
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「これからが、今日の本題という分けだな? 」
渋江は佐竹の問いに黙って頷くと再びタブレットを操作し始めた。
「秘密裏に事を進めたいので、この件についての書類は紙にはしてません。私が口頭で伝えますので良く聞いて下さい。」
佐竹は、内閣情報官らしい顔つきになった腹心の目を見ながら、それを了解した。
「ドイツとイギリスでは、既に「来訪者」たちの超能力についての研究が始まっているとの報告が届いています。研究の中心になっているのは、BND(ドイツ連邦情報局)とSIS(英国秘密情報部)。もっとも、彼の国々では超能力ではなくMagicとかMagieと呼ばれているようです。」
「魔法か? 」
「ええ、イギリスの研究者の認識では「来訪者」の能力はExtra Sensory PerceptionではなくMagicだそうなんです。」
魔法という単語を聞いて一瞬心が引き掛けた佐竹だったが、今度は自分の意思で踏み止まった。
各国のインテリジェンスが動き始めているという話を聞かされれば、事の真偽を確かめるよりも信じて対策を練るべきとの渋江の意見は確かに正しい。新世界での生き残りを掛けて他国と競うには、あらゆる面で遅れを取ってはならないのである。
ドイツやイギリスは「浸食」を乗り切って生き残った国々であるが、国内に現れた「来訪者」の数は日本とは比較にならないほどに多く、様々なトラブルが発生したと伝わっている。特にドイツは、東隣に出現した「異世界」の国を相手に現在も国境紛争が続いているらしい。だが、そうしたトラブルを経験したおかげで、両国の「来訪者」に関する研究は日本よりも遥かに進んでいるに違いない。
そんな国々が、本気で「来訪者」の能力、つまり魔法の研究を始めたというのなら、これはかなり信憑性の高い話であるということは佐竹にも良く分かる。
「君は日本も魔法の研究をすべきだと言うのだな? 」
「はい。」
と、渋江は即答した
「まずは情報収集に力を入れたいと思います。今後、日本が外交をしていく際に、重慶政府を滅ぼした妖術使いのような物騒な魔法使いを抱えている国を相手にしなければならない機会はあるでしょう。その時に何の知識も無いでは済まされません。」
佐竹はそれを了解しながら、ふと思い付いたように、
「国内の「来訪者」の中に魔法使いはいないのか? 」
と、身近な可能性について確かめようとしたのだが、それについての渋江の回答は芳しくなかった。
「いるにはいますが大した者はいません。怪我や病気を治すという年寄りが各村に一名ほどいただけでした。」
「十分に凄いじゃないか。ゲームとかで見るヒーリングとかいう能力だろ? 」
国内にも魔法使いがいたと言うだけで単純に驚いた佐竹に対し、渋江はそういう認識では困ると嗜めた。
「まあ、確かに彼らは地元じゃ話題になって重宝されてるみたいですけど、それだけのことです。我々は絆創膏や抗生物質の代わりになるような魔法使いを求めているわけじゃありません。今後の日本が新たな国際社会で一定の力を得るために役立つ魔法使いを求めなければならないのです。」
佐竹は納得して不明を詫びた。
「つまり、君は人民解放軍を壊滅させた妖術使いのような、ハイスペックな魔法使いを求めようとしてるのか? 」
「そのぐらい凄いのがいれば有り難いですけど、せめて政治や軍事の役に立つぐらいの道具は確保しておきたいですね。」
その時、佐竹は渋江の口角が僅かに上がったのを見逃さなかった。
「何か、当ての有りそうな顔をしているような気がするが? 」
佐竹の指摘に渋江は意味有りげな笑顔を返してきた。
そして、透かさずタブレットを操作して一枚の写真を表示すると、ソファから立ち上がって佐竹の隣に立った。
「女の写真? 」
佐竹が受け取ったタブレットの画面には、金色の髪と青い瞳が印象的な、歳の頃は一〇代半ばと思われる美しい少女がいた。
「彼女の名前は、レヴィナ・フェルトス。魔女です。」
「魔女? こんな子供が? 」
佐竹は魔女のイメージを勝手に年老いた老婆か妖艶な熟女と認識していたので、いきなりあどけなさを残した少女の画像を見せられて戸惑っていた。
これは単なる先入観なのだが、魔女というグロテスクで陰鬱に感じられるイメージに若い少女を当てはめるのが悲惨で可哀想に感じられてしまったのだ。
だから、本来どうでも良い事なのだが、
「それが子供じゃないんですな。彼女の種族は成長や老化のシステムが我々とは異なるらしくて、その顔で既に三〇近い歳だそうです。」
との渋江の訂正に、佐竹は少しホッとしていた。
「それにしても、この若さを保つ方法を手に入れられたなら、我が国の女性たちは大喜びしそうだぞ。」
実際、佐竹にそう呟かせてしまうほど、レヴィナ・フェルトスという女性には二〇代後半の年相応に見える要素は何処にも見られない。肌の色艶を見る限りでは、せいぜい高校生である。
「これも正しく「異世界」の信じ難い事実の一つって奴だな。」
そんなことに感心する佐竹を置き去りにして、渋江は少女の容姿になど全く興味が無いようで話を先に進めた。
「日本は先月からシベリアに出現した「異世界」の王国と国交樹立することを模索してる最中でしたよね? 」
「ああ、クシェルとかいう王国のことか。中世丸出しの絶対君主制王国だが、我が国の資源確保のためにも是非友好関係を築きたいと思っている。新世界初の大物外交だから外務省も珍しく張り切っているよ。」
昨年の「浸食」後、世界には大小様々な「異世界」の国家が出現した。
日本の近くには、先に述べた重慶政府を滅ぼしたと言う中国北東部の国以外に、旧ロシアの東部から中部地域にかけてを占領したクシェルという王国が存在する。
クシェルと言う名称は本来の国名を日本人が発音し辛いので一番近い音を当てて表記した国名だが、王制国家であり人口は約一五〇〇万、主幹産業は農業と林業である。「異世界」においては軍事大国であるらしく、「浸食」によって弱っていたとはいえロシアをシベリアから駆逐し、広大な国土を奪ってしまっていた。
日本とはオホーツク海と日本海を挟んで向かい合っている状況だが、領土的な利害が絡まないので今のところ友好的な接触が続いている。
日本はクシェルとの国交樹立後に、中世国家には必要の無い地下エネルギー資源を丸ごと確保しようと目論んでいるのだが、その下準備をするために日本のあらゆる対外情報工作機関が多数の要員を現地に派遣している。
その中でも内閣情報調査室は最も多くの要員を現地に派遣し、主に政治工作や国家の内情調査を手掛けているわけだが、
「そうした情報収集活動の中で、実は半月ほど前に耳寄りな情報を掴んだんです。単発で手に入れた様々な情報を精査して、裏付けを取って、漸く今日こうして首相の耳に入れる段階に来たわけです。」
「興味深い内容のようだな。」
「もちろんです。部下たちの殊勲と言って良いでしょう。」
そう言いながら、渋江はホンの少しだけ鼻息を荒くしたようだった。
「首相はクシェルとロシアの戦争を覚えてますか? 」
「昨年末、ロシアが今よりは多少元気だった頃の話だろ? 」
知らないはずがなかった。
「浸食」によって疲弊していたロシアは、クシェルに占領されたシベリアを奪還しようと残存していた三〇万の地上軍全てを投入して戦争を仕掛けたのである。
ところが、開戦後間もなくして戦況が思わしく無くなり、窮地に陥ったロシアは、事もあろうに日本やアメリカに救援を求めるまでに追い詰められてしまった。
当時の日本は自国の問題で手一杯だったためこの要請を無視したが、開戦一ヶ月を待たずしてクシェルはロシア地上軍を駆逐してしまった。しかも、クシェルの勝利は完全な殲滅戦によって成し遂げられたので、ロシア軍は再起不能になり、領土の回復どころか国力も著しく低下してしまった。
そう言えば、あの戦争でも最新装備の地上軍と戦略ミサイルまで投じたロシア軍が、何故騎兵と歩兵が中心のクシェルに破れたのか話題になっていた。戦争に参加したロシア兵の生き残りが殆どいなかったので、その経過は謎のままだったのである。
「その謎は、漸く解けました。」
渋江は、レヴィナ・フェルトスの画像を指差した。
「このレヴィナって娘がクシェルの軍隊を率いて、僅か半月の戦いで最新装備のロシア地上軍を壊滅させてしまったそうなんですよ。」
「この娘が? 」
佐竹は重慶の妖術使いの話を聞いたときよりも驚いた顔をしていた。
本当は三〇歳近いのだと言われても、あどけない顔をした少女がロシア軍を駆逐するほどの大魔女だとは佐竹にはどうしても信じ切れていないのである。
「信じ難い気持ちは分かります。自分だって始めは信じる気になれませんでしたよ。でもね、これは事実のようです。」
「証拠はあるのか? 」
まずは信じて対策を練ることが大切だと言われても、こればかりは明確な証拠が無ければ頷くわけにはいかないと思った。
「先月の末、クシェル軍がロシア軍残党部隊の掃討作戦を行ったんですが、その際に観戦武官という体裁で内調から数名を同行させたんです。その時のクシェル軍の指揮官はレヴィナ・フェルトスだったんですがね、実際に彼女の魔法を映像で記録することに成功したんです。」
「本当か? 観られるのか? 」
渋江は返事の代わりに上着のポケットからプラスチックケースに入ったSDカードを取り出して佐竹の目の前に置いた。
「まあ、暇な時にでもゆっくりご覧下さい。一〇〇〇人近いロシア兵が一瞬で壊滅するシーンが映ってます。衝撃映像ですから観る際には心構えしといて下さい。レヴィナ・フェルトスがどんな種類の魔法使いなのかは現在も調査中ですが、彼女の威力はその映像のおかげで折り紙付きです。」
渋江は自信有り気な顔をして、人差し指でケースをトントンと叩いた。
佐竹はゴクリと唾を飲み込んでから、
「あ、後で見せてもらうよ。」
そう言ってケースを取り上げて自分の上着の内ポケットに仕舞い込んだ。
「観終わったら返して下さいよ。」
渋江は立っているのが疲れたようで、タブレットを佐竹に渡したまま一旦自分はソファに戻って座った。
「ところで、君はレヴィナ・フェルトスという魔女をどうしようと考えてるんだ? 」
有力な魔女を見付けたのは良いが、他所の国のしかも軍人だと言う。それを、どうやって確保しようとしているのか、佐竹は少し不安になった。
「誘拐とかは勘弁して欲しいな。」
そもそも情報機関にとって、非合法な活動は常套手段なので、勝手な判断に基づいて動いた挙げ句に失敗するようなことがあれば、せっかく友好関係を築こうとしている両国間にトラブルを発生させかねない。
しかし、渋江は心配要らないと手を振った。
「我が国は、是非彼女を正式に迎えたいと思っています。」
「親善訪問でもしてもらおうと言うのか? 」
「いえいえ、そんな短期間な話じゃありません。この話はいずれ外務省からも報告があると思いますが、レヴィナ・フェルトス嬢は近々我が国に亡命していただくことになりました。」
それを聞いて、佐竹は一瞬怒鳴りそうになってから慌てて口を押さえて堪えた。
総理大臣が内閣情報官を相手に執務室で怒鳴るなど、秘書官たちに聞かれてしまってはみっとも良いことではないので必死に声を殺した。
「冗談じゃない! 」
これから友好関係を築かなければならない国から亡命者を受け入れるなど、あって良い話ではない。その亡命が戦略的なものであれば尚更、両国関係には致命的な傷を生じさせてしまう。
「クシェルは、我が国のエネルギー問題を解決し生命線になる大事な国だぞ! いったい君は何を考えている! 」
佐竹の声は小さいが、暴挙に走ろうとする腹心に対する憤りが込められていた。
渋江は、そんな佐竹に全く動じることなく、
「まあまあ、落ち着いて下さい。」
と、顔色一つ変えずに声を掛けた。
「これはですね、向こうの王様の意向ですから、日本にとっちゃ外交的にも損は無い話なんですよ。」
渋江は外交に障害が出ないような仕掛けがあるのだと言う。
「王様の意向だと? 」
佐竹は直に話せと言ったが、その声は未だ震えており、話の内容如何では再び怒声を発するつもりのようである。
そんな佐竹の様子を見て、渋江は苦笑しながら亡命の種明かしをした。
「ロシアとの戦争でレヴィナ・フェルトスは一躍国民的な英雄になりました。何せ若いですし、クシェルの基準でも彼女は美人の類いらしくて、老若男女問わず全国民の人気者だそうです。ところが、そんな彼女の人気を妬む輩が為政者の中には沢山いまして、クシェルの政府内では厄介者扱いされているんですよ。彼女の人気が嫉妬の対象になってしまったんですね。そんな分けで、今じゃ刺客に命を狙われるような破目に陥っているらしいんです。どんなに協力な魔女でも、寝てる時を狙って刺されたり、毒を飲まされたらお終いらしいですから現状は大ピンチですね。」
酷い話でしょうと言って渋江は佐竹の同意を求めたが、自らにはレヴィナ・フェルトスの境遇を哀れむ雰囲気は全く見られなかった。
「確かに中世の時代劇にあるような腐った話だが、そんな状況にある彼女を助けようなんて話はお断りだぞ。」
佐竹はタブレットの画像をチラリと横目で見てから少々辛そうな顔をしていたが、直に総理大臣としての正論を口にした。
「外交は慈善事業じゃ無いんだからな。」
渋江は、仰るとおりですと言って態とらしく畏まってみせた。
「続きがあるんだろ? さっさと話せよ。」
佐竹は舌打ちした。
どんなに佐竹が声を荒げてみせても、全く動じずに受け流している渋江には腹案があるに違いない。
「それじゃ続けさせてもらいますが、レヴィナ・フェルトスは魔女として軍人としては優秀ですが、政治的には全く何の力も持たない弱者です。出自が王国では庶民に分類される身分らしいですから、政府内に影響力は皆無だということです。但し、彼女は王様にはたいへん気に入られていまして、王様は彼女の置かれている立場を非常に心配しているらしいです。まあ、王様のお気に入りってのも嫉妬の原因の一つらしいですから、あまり喜べる話じゃないようですけど、その王様から王宮内に出入りを許されているうちの部下に相談があったんです。」
話を聞いていた佐竹がポンと膝を打った。
「それは、もしかしてアレか? 」
渋江がニヤリと笑った。
「レヴィナ・フェルトスの身柄を、日本政府に預かって貰えるよう交渉して欲しいとのことです。国内の為政者には追放という扱いで告知するそうです。国民は残念がるでしょうけど、彼女が窮地に置かれていることは周知の事実らしいので、王様の処置は受け入れられるだろうとのことでした。」
佐竹は一通りの話を聞いて満足げに頷いたが、
「もしかして、そう仕向けたのは君たちか? まさかレヴィナ・フェルトスの立場が危うくなるような工作もしたのか? 」
渋江は、佐竹に向けられた疑いの眼差しを逸らしながら、
「さあ、それはどうでしょう。」
と、木で鼻を括ったような態度で言った。
(・・・さすが情報官だな。)
佐竹は渋江の諜報活動に於ける手腕を高く評価しているし、有能な指揮官だと思っているが、それは常に活動対象を非情に見ていられるという、冷たい素質によるものだとも理解している。
おそらく、渋江の手に掛かれば中世の王国政治など掌で転がせるほどに簡単な相手であるに違いない。政治的な立場を持たない小娘を陥れることなど雑作も無いだろう。
(使えるが、恐ろしい男だ。)
佐竹は追求するのを止めた。
渋江は相手が知己であっても、総理大臣であっても、自らが指揮した諜報活動の内容を明かすような男ではなかった。
それに渋江の諜報活動によって日本が有利になるのならば、そこに文句は必要無い。
「ところで、王様に返事はしたのか? 」
外交に支障がないならば、レヴィナ・フェルトスを引き受けることに異論は無い。
「その決断は総理に頂かなければなりません。一応、表面上は渋っておきました。そしたら持参金を付けてくれるらしいです。」
「持参金? 」
「シベリアの王室直轄領の地下資源開発権ですよ。クシェルの三分の一を占める直轄領で産出される金銀と鉄鉱石以外の資源は全て日本政府の自由にして良いそうです。」
「そりゃ凄い! 」
佐竹は、抱えていたタブレットを渋江に向かって差し出すと、
「全て任せる。」
と、言った。
渋江は立ち上がってタブレットを受け取ると、スイッチを切って鞄に戻した。
「魔女と持参金か。美味い話だが他に何か話しておく事は無いのか? 」
渋江は腕組みしながら数秒ほど考えていた。
「今のところはありません。但し、レヴィナ・フェルトスは命を狙われているわけですから、我が国への移動は極めて慎重に行わなければなりません。そのためには人手が必要でしょう。」
「ヘリを飛ばして連れて来るだけじゃダメなのか? 」
「国外に出るまでは、我が国が直接手を振れるのはマズいでしょう。クシェル国内では陰ながら身辺を護衛して、彼女が国外に出たところで速やかに確保するというのが正しい手順ですね。」
佐竹は、それに必要な段取りは全て渋江に任せることにした。
「外務省と防衛省、それと公安、海上保安庁には事前に協力を要請しておかなければなりません。これの段取りをお願いできますか? 」
佐竹は、良いだろうと言って頷いた。
「ところで、レヴィナ・フェルトスの日本国に於ける身分と立場はどうするつもりで考えている? 」
「そもそも彼女は軍人ですから、いずれは防衛省で働いていただきたいところですが、クシェルの意向もあるでしょうし、暫くは保留にしといたほうが無難でしょう。」
亡命者をいきなり政府機関で働かせるというのは、クシェルに対して遠慮が無さ過ぎるということらしいが、
「ま、そんなに長い間の気遣いをする必要は無いでしょう。」
渋江の頭の中には、亡命者を受け入れた後の政治工作も既にプランが出来上がっているのだろう。
「いずれにしても、レヴィナ・フェルトスの身柄を確保し、それを手駒として有効に活用する事が、新世界に於ける日本の立場を優位にするのだということだけは保証します。おそらく、魔法使いの価値は、その存在に慣れてしまった「異世界」の連中よりも我々の方が正しく認識していますし、扱い方に関しては我々のほうが何倍も上手だと思います。まあ任せておいて下さい。首相が日本の舵取りをしやすいよう私たちがお膳立てをしますよ。所詮、奴らの政治なんて我々の世界に比べれば児戯に等しいですから大した苦労もないでしょう。」
言い終わると同時に渋江は不適な笑みを浮かべながらソファを立ち上がって、佐竹に向かって一礼すると執務室を出て行った。
「手駒として有効に活用か・・・ 」
渋江が去った後、佐竹はレヴィナ・フェルトスの顔をもう一度思い出していた。
「魔女か。」
その単語には、どうしても違和感を拭えないものを感じる。
だが、その存在を実感できないまでも、佐竹は事実として認めようとは思っている。
魔女と言う存在が日本にとって有効な手駒になると言う渋江の論も承知した。
だが、レヴィナ・フェルトスの姿には、故郷で居場所を失った可哀想な少女というイメージの方がしっくり来る。そんな少女が、これから日本の外交政治に駆り出され、道具として使われ翻弄される事になるかもしれないのである。
そこには悲惨さを感じざるを得ない。
「俺は、あの男ほど冷淡に割り切れないな。」
佐竹は、今し方執務室を出て行った、切れ者とされる男の後ろ姿を思い出しながら溜め息を吐いた。
渋江は佐竹の問いに黙って頷くと再びタブレットを操作し始めた。
「秘密裏に事を進めたいので、この件についての書類は紙にはしてません。私が口頭で伝えますので良く聞いて下さい。」
佐竹は、内閣情報官らしい顔つきになった腹心の目を見ながら、それを了解した。
「ドイツとイギリスでは、既に「来訪者」たちの超能力についての研究が始まっているとの報告が届いています。研究の中心になっているのは、BND(ドイツ連邦情報局)とSIS(英国秘密情報部)。もっとも、彼の国々では超能力ではなくMagicとかMagieと呼ばれているようです。」
「魔法か? 」
「ええ、イギリスの研究者の認識では「来訪者」の能力はExtra Sensory PerceptionではなくMagicだそうなんです。」
魔法という単語を聞いて一瞬心が引き掛けた佐竹だったが、今度は自分の意思で踏み止まった。
各国のインテリジェンスが動き始めているという話を聞かされれば、事の真偽を確かめるよりも信じて対策を練るべきとの渋江の意見は確かに正しい。新世界での生き残りを掛けて他国と競うには、あらゆる面で遅れを取ってはならないのである。
ドイツやイギリスは「浸食」を乗り切って生き残った国々であるが、国内に現れた「来訪者」の数は日本とは比較にならないほどに多く、様々なトラブルが発生したと伝わっている。特にドイツは、東隣に出現した「異世界」の国を相手に現在も国境紛争が続いているらしい。だが、そうしたトラブルを経験したおかげで、両国の「来訪者」に関する研究は日本よりも遥かに進んでいるに違いない。
そんな国々が、本気で「来訪者」の能力、つまり魔法の研究を始めたというのなら、これはかなり信憑性の高い話であるということは佐竹にも良く分かる。
「君は日本も魔法の研究をすべきだと言うのだな? 」
「はい。」
と、渋江は即答した
「まずは情報収集に力を入れたいと思います。今後、日本が外交をしていく際に、重慶政府を滅ぼした妖術使いのような物騒な魔法使いを抱えている国を相手にしなければならない機会はあるでしょう。その時に何の知識も無いでは済まされません。」
佐竹はそれを了解しながら、ふと思い付いたように、
「国内の「来訪者」の中に魔法使いはいないのか? 」
と、身近な可能性について確かめようとしたのだが、それについての渋江の回答は芳しくなかった。
「いるにはいますが大した者はいません。怪我や病気を治すという年寄りが各村に一名ほどいただけでした。」
「十分に凄いじゃないか。ゲームとかで見るヒーリングとかいう能力だろ? 」
国内にも魔法使いがいたと言うだけで単純に驚いた佐竹に対し、渋江はそういう認識では困ると嗜めた。
「まあ、確かに彼らは地元じゃ話題になって重宝されてるみたいですけど、それだけのことです。我々は絆創膏や抗生物質の代わりになるような魔法使いを求めているわけじゃありません。今後の日本が新たな国際社会で一定の力を得るために役立つ魔法使いを求めなければならないのです。」
佐竹は納得して不明を詫びた。
「つまり、君は人民解放軍を壊滅させた妖術使いのような、ハイスペックな魔法使いを求めようとしてるのか? 」
「そのぐらい凄いのがいれば有り難いですけど、せめて政治や軍事の役に立つぐらいの道具は確保しておきたいですね。」
その時、佐竹は渋江の口角が僅かに上がったのを見逃さなかった。
「何か、当ての有りそうな顔をしているような気がするが? 」
佐竹の指摘に渋江は意味有りげな笑顔を返してきた。
そして、透かさずタブレットを操作して一枚の写真を表示すると、ソファから立ち上がって佐竹の隣に立った。
「女の写真? 」
佐竹が受け取ったタブレットの画面には、金色の髪と青い瞳が印象的な、歳の頃は一〇代半ばと思われる美しい少女がいた。
「彼女の名前は、レヴィナ・フェルトス。魔女です。」
「魔女? こんな子供が? 」
佐竹は魔女のイメージを勝手に年老いた老婆か妖艶な熟女と認識していたので、いきなりあどけなさを残した少女の画像を見せられて戸惑っていた。
これは単なる先入観なのだが、魔女というグロテスクで陰鬱に感じられるイメージに若い少女を当てはめるのが悲惨で可哀想に感じられてしまったのだ。
だから、本来どうでも良い事なのだが、
「それが子供じゃないんですな。彼女の種族は成長や老化のシステムが我々とは異なるらしくて、その顔で既に三〇近い歳だそうです。」
との渋江の訂正に、佐竹は少しホッとしていた。
「それにしても、この若さを保つ方法を手に入れられたなら、我が国の女性たちは大喜びしそうだぞ。」
実際、佐竹にそう呟かせてしまうほど、レヴィナ・フェルトスという女性には二〇代後半の年相応に見える要素は何処にも見られない。肌の色艶を見る限りでは、せいぜい高校生である。
「これも正しく「異世界」の信じ難い事実の一つって奴だな。」
そんなことに感心する佐竹を置き去りにして、渋江は少女の容姿になど全く興味が無いようで話を先に進めた。
「日本は先月からシベリアに出現した「異世界」の王国と国交樹立することを模索してる最中でしたよね? 」
「ああ、クシェルとかいう王国のことか。中世丸出しの絶対君主制王国だが、我が国の資源確保のためにも是非友好関係を築きたいと思っている。新世界初の大物外交だから外務省も珍しく張り切っているよ。」
昨年の「浸食」後、世界には大小様々な「異世界」の国家が出現した。
日本の近くには、先に述べた重慶政府を滅ぼしたと言う中国北東部の国以外に、旧ロシアの東部から中部地域にかけてを占領したクシェルという王国が存在する。
クシェルと言う名称は本来の国名を日本人が発音し辛いので一番近い音を当てて表記した国名だが、王制国家であり人口は約一五〇〇万、主幹産業は農業と林業である。「異世界」においては軍事大国であるらしく、「浸食」によって弱っていたとはいえロシアをシベリアから駆逐し、広大な国土を奪ってしまっていた。
日本とはオホーツク海と日本海を挟んで向かい合っている状況だが、領土的な利害が絡まないので今のところ友好的な接触が続いている。
日本はクシェルとの国交樹立後に、中世国家には必要の無い地下エネルギー資源を丸ごと確保しようと目論んでいるのだが、その下準備をするために日本のあらゆる対外情報工作機関が多数の要員を現地に派遣している。
その中でも内閣情報調査室は最も多くの要員を現地に派遣し、主に政治工作や国家の内情調査を手掛けているわけだが、
「そうした情報収集活動の中で、実は半月ほど前に耳寄りな情報を掴んだんです。単発で手に入れた様々な情報を精査して、裏付けを取って、漸く今日こうして首相の耳に入れる段階に来たわけです。」
「興味深い内容のようだな。」
「もちろんです。部下たちの殊勲と言って良いでしょう。」
そう言いながら、渋江はホンの少しだけ鼻息を荒くしたようだった。
「首相はクシェルとロシアの戦争を覚えてますか? 」
「昨年末、ロシアが今よりは多少元気だった頃の話だろ? 」
知らないはずがなかった。
「浸食」によって疲弊していたロシアは、クシェルに占領されたシベリアを奪還しようと残存していた三〇万の地上軍全てを投入して戦争を仕掛けたのである。
ところが、開戦後間もなくして戦況が思わしく無くなり、窮地に陥ったロシアは、事もあろうに日本やアメリカに救援を求めるまでに追い詰められてしまった。
当時の日本は自国の問題で手一杯だったためこの要請を無視したが、開戦一ヶ月を待たずしてクシェルはロシア地上軍を駆逐してしまった。しかも、クシェルの勝利は完全な殲滅戦によって成し遂げられたので、ロシア軍は再起不能になり、領土の回復どころか国力も著しく低下してしまった。
そう言えば、あの戦争でも最新装備の地上軍と戦略ミサイルまで投じたロシア軍が、何故騎兵と歩兵が中心のクシェルに破れたのか話題になっていた。戦争に参加したロシア兵の生き残りが殆どいなかったので、その経過は謎のままだったのである。
「その謎は、漸く解けました。」
渋江は、レヴィナ・フェルトスの画像を指差した。
「このレヴィナって娘がクシェルの軍隊を率いて、僅か半月の戦いで最新装備のロシア地上軍を壊滅させてしまったそうなんですよ。」
「この娘が? 」
佐竹は重慶の妖術使いの話を聞いたときよりも驚いた顔をしていた。
本当は三〇歳近いのだと言われても、あどけない顔をした少女がロシア軍を駆逐するほどの大魔女だとは佐竹にはどうしても信じ切れていないのである。
「信じ難い気持ちは分かります。自分だって始めは信じる気になれませんでしたよ。でもね、これは事実のようです。」
「証拠はあるのか? 」
まずは信じて対策を練ることが大切だと言われても、こればかりは明確な証拠が無ければ頷くわけにはいかないと思った。
「先月の末、クシェル軍がロシア軍残党部隊の掃討作戦を行ったんですが、その際に観戦武官という体裁で内調から数名を同行させたんです。その時のクシェル軍の指揮官はレヴィナ・フェルトスだったんですがね、実際に彼女の魔法を映像で記録することに成功したんです。」
「本当か? 観られるのか? 」
渋江は返事の代わりに上着のポケットからプラスチックケースに入ったSDカードを取り出して佐竹の目の前に置いた。
「まあ、暇な時にでもゆっくりご覧下さい。一〇〇〇人近いロシア兵が一瞬で壊滅するシーンが映ってます。衝撃映像ですから観る際には心構えしといて下さい。レヴィナ・フェルトスがどんな種類の魔法使いなのかは現在も調査中ですが、彼女の威力はその映像のおかげで折り紙付きです。」
渋江は自信有り気な顔をして、人差し指でケースをトントンと叩いた。
佐竹はゴクリと唾を飲み込んでから、
「あ、後で見せてもらうよ。」
そう言ってケースを取り上げて自分の上着の内ポケットに仕舞い込んだ。
「観終わったら返して下さいよ。」
渋江は立っているのが疲れたようで、タブレットを佐竹に渡したまま一旦自分はソファに戻って座った。
「ところで、君はレヴィナ・フェルトスという魔女をどうしようと考えてるんだ? 」
有力な魔女を見付けたのは良いが、他所の国のしかも軍人だと言う。それを、どうやって確保しようとしているのか、佐竹は少し不安になった。
「誘拐とかは勘弁して欲しいな。」
そもそも情報機関にとって、非合法な活動は常套手段なので、勝手な判断に基づいて動いた挙げ句に失敗するようなことがあれば、せっかく友好関係を築こうとしている両国間にトラブルを発生させかねない。
しかし、渋江は心配要らないと手を振った。
「我が国は、是非彼女を正式に迎えたいと思っています。」
「親善訪問でもしてもらおうと言うのか? 」
「いえいえ、そんな短期間な話じゃありません。この話はいずれ外務省からも報告があると思いますが、レヴィナ・フェルトス嬢は近々我が国に亡命していただくことになりました。」
それを聞いて、佐竹は一瞬怒鳴りそうになってから慌てて口を押さえて堪えた。
総理大臣が内閣情報官を相手に執務室で怒鳴るなど、秘書官たちに聞かれてしまってはみっとも良いことではないので必死に声を殺した。
「冗談じゃない! 」
これから友好関係を築かなければならない国から亡命者を受け入れるなど、あって良い話ではない。その亡命が戦略的なものであれば尚更、両国関係には致命的な傷を生じさせてしまう。
「クシェルは、我が国のエネルギー問題を解決し生命線になる大事な国だぞ! いったい君は何を考えている! 」
佐竹の声は小さいが、暴挙に走ろうとする腹心に対する憤りが込められていた。
渋江は、そんな佐竹に全く動じることなく、
「まあまあ、落ち着いて下さい。」
と、顔色一つ変えずに声を掛けた。
「これはですね、向こうの王様の意向ですから、日本にとっちゃ外交的にも損は無い話なんですよ。」
渋江は外交に障害が出ないような仕掛けがあるのだと言う。
「王様の意向だと? 」
佐竹は直に話せと言ったが、その声は未だ震えており、話の内容如何では再び怒声を発するつもりのようである。
そんな佐竹の様子を見て、渋江は苦笑しながら亡命の種明かしをした。
「ロシアとの戦争でレヴィナ・フェルトスは一躍国民的な英雄になりました。何せ若いですし、クシェルの基準でも彼女は美人の類いらしくて、老若男女問わず全国民の人気者だそうです。ところが、そんな彼女の人気を妬む輩が為政者の中には沢山いまして、クシェルの政府内では厄介者扱いされているんですよ。彼女の人気が嫉妬の対象になってしまったんですね。そんな分けで、今じゃ刺客に命を狙われるような破目に陥っているらしいんです。どんなに協力な魔女でも、寝てる時を狙って刺されたり、毒を飲まされたらお終いらしいですから現状は大ピンチですね。」
酷い話でしょうと言って渋江は佐竹の同意を求めたが、自らにはレヴィナ・フェルトスの境遇を哀れむ雰囲気は全く見られなかった。
「確かに中世の時代劇にあるような腐った話だが、そんな状況にある彼女を助けようなんて話はお断りだぞ。」
佐竹はタブレットの画像をチラリと横目で見てから少々辛そうな顔をしていたが、直に総理大臣としての正論を口にした。
「外交は慈善事業じゃ無いんだからな。」
渋江は、仰るとおりですと言って態とらしく畏まってみせた。
「続きがあるんだろ? さっさと話せよ。」
佐竹は舌打ちした。
どんなに佐竹が声を荒げてみせても、全く動じずに受け流している渋江には腹案があるに違いない。
「それじゃ続けさせてもらいますが、レヴィナ・フェルトスは魔女として軍人としては優秀ですが、政治的には全く何の力も持たない弱者です。出自が王国では庶民に分類される身分らしいですから、政府内に影響力は皆無だということです。但し、彼女は王様にはたいへん気に入られていまして、王様は彼女の置かれている立場を非常に心配しているらしいです。まあ、王様のお気に入りってのも嫉妬の原因の一つらしいですから、あまり喜べる話じゃないようですけど、その王様から王宮内に出入りを許されているうちの部下に相談があったんです。」
話を聞いていた佐竹がポンと膝を打った。
「それは、もしかしてアレか? 」
渋江がニヤリと笑った。
「レヴィナ・フェルトスの身柄を、日本政府に預かって貰えるよう交渉して欲しいとのことです。国内の為政者には追放という扱いで告知するそうです。国民は残念がるでしょうけど、彼女が窮地に置かれていることは周知の事実らしいので、王様の処置は受け入れられるだろうとのことでした。」
佐竹は一通りの話を聞いて満足げに頷いたが、
「もしかして、そう仕向けたのは君たちか? まさかレヴィナ・フェルトスの立場が危うくなるような工作もしたのか? 」
渋江は、佐竹に向けられた疑いの眼差しを逸らしながら、
「さあ、それはどうでしょう。」
と、木で鼻を括ったような態度で言った。
(・・・さすが情報官だな。)
佐竹は渋江の諜報活動に於ける手腕を高く評価しているし、有能な指揮官だと思っているが、それは常に活動対象を非情に見ていられるという、冷たい素質によるものだとも理解している。
おそらく、渋江の手に掛かれば中世の王国政治など掌で転がせるほどに簡単な相手であるに違いない。政治的な立場を持たない小娘を陥れることなど雑作も無いだろう。
(使えるが、恐ろしい男だ。)
佐竹は追求するのを止めた。
渋江は相手が知己であっても、総理大臣であっても、自らが指揮した諜報活動の内容を明かすような男ではなかった。
それに渋江の諜報活動によって日本が有利になるのならば、そこに文句は必要無い。
「ところで、王様に返事はしたのか? 」
外交に支障がないならば、レヴィナ・フェルトスを引き受けることに異論は無い。
「その決断は総理に頂かなければなりません。一応、表面上は渋っておきました。そしたら持参金を付けてくれるらしいです。」
「持参金? 」
「シベリアの王室直轄領の地下資源開発権ですよ。クシェルの三分の一を占める直轄領で産出される金銀と鉄鉱石以外の資源は全て日本政府の自由にして良いそうです。」
「そりゃ凄い! 」
佐竹は、抱えていたタブレットを渋江に向かって差し出すと、
「全て任せる。」
と、言った。
渋江は立ち上がってタブレットを受け取ると、スイッチを切って鞄に戻した。
「魔女と持参金か。美味い話だが他に何か話しておく事は無いのか? 」
渋江は腕組みしながら数秒ほど考えていた。
「今のところはありません。但し、レヴィナ・フェルトスは命を狙われているわけですから、我が国への移動は極めて慎重に行わなければなりません。そのためには人手が必要でしょう。」
「ヘリを飛ばして連れて来るだけじゃダメなのか? 」
「国外に出るまでは、我が国が直接手を振れるのはマズいでしょう。クシェル国内では陰ながら身辺を護衛して、彼女が国外に出たところで速やかに確保するというのが正しい手順ですね。」
佐竹は、それに必要な段取りは全て渋江に任せることにした。
「外務省と防衛省、それと公安、海上保安庁には事前に協力を要請しておかなければなりません。これの段取りをお願いできますか? 」
佐竹は、良いだろうと言って頷いた。
「ところで、レヴィナ・フェルトスの日本国に於ける身分と立場はどうするつもりで考えている? 」
「そもそも彼女は軍人ですから、いずれは防衛省で働いていただきたいところですが、クシェルの意向もあるでしょうし、暫くは保留にしといたほうが無難でしょう。」
亡命者をいきなり政府機関で働かせるというのは、クシェルに対して遠慮が無さ過ぎるということらしいが、
「ま、そんなに長い間の気遣いをする必要は無いでしょう。」
渋江の頭の中には、亡命者を受け入れた後の政治工作も既にプランが出来上がっているのだろう。
「いずれにしても、レヴィナ・フェルトスの身柄を確保し、それを手駒として有効に活用する事が、新世界に於ける日本の立場を優位にするのだということだけは保証します。おそらく、魔法使いの価値は、その存在に慣れてしまった「異世界」の連中よりも我々の方が正しく認識していますし、扱い方に関しては我々のほうが何倍も上手だと思います。まあ任せておいて下さい。首相が日本の舵取りをしやすいよう私たちがお膳立てをしますよ。所詮、奴らの政治なんて我々の世界に比べれば児戯に等しいですから大した苦労もないでしょう。」
言い終わると同時に渋江は不適な笑みを浮かべながらソファを立ち上がって、佐竹に向かって一礼すると執務室を出て行った。
「手駒として有効に活用か・・・ 」
渋江が去った後、佐竹はレヴィナ・フェルトスの顔をもう一度思い出していた。
「魔女か。」
その単語には、どうしても違和感を拭えないものを感じる。
だが、その存在を実感できないまでも、佐竹は事実として認めようとは思っている。
魔女と言う存在が日本にとって有効な手駒になると言う渋江の論も承知した。
だが、レヴィナ・フェルトスの姿には、故郷で居場所を失った可哀想な少女というイメージの方がしっくり来る。そんな少女が、これから日本の外交政治に駆り出され、道具として使われ翻弄される事になるかもしれないのである。
そこには悲惨さを感じざるを得ない。
「俺は、あの男ほど冷淡に割り切れないな。」
佐竹は、今し方執務室を出て行った、切れ者とされる男の後ろ姿を思い出しながら溜め息を吐いた。
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