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「米代港にて」
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突き抜けるような七月の青い空。
肌を焼く熱い陽射し。
薄青く霞む山々。
眩いほどの緑と、耳に残る蝉の声。
秋田県北部にある米代市、人口五万人の小さな町である。
日本中に数多くの深い爪痕を残した一年前の「浸食」だが、その影響を殆ど受けずに済んだ町もあった。米代市も、そうした運の良い町の一つである。
尤も、無傷というのは語弊があるかもしれない。米代市でも「浸食」による傷跡は見られたが、その傷が町に影響らしい影響を与えなかったということである。
そもそも、秋田県北部は青森県との県境に跨がる白神山地に隣接した地域であり、山がちで人口が少なく、点在する町も小規模である。
「浸食」により、町の周囲では山々が大きく形を変え、奇妙な動物が田畑を荒らし始めていたが、住民の命に関わるような災害は一件も起こらなかった。却って「来訪者」の出現によって人口が増え、住民の平均年齢が若返ったとの報告があったほどである。
つまり、住民たち曰く「浸食」が空振りするほどの田舎なのだそうである。
そんな米代市には大きな港があった。
一〇万トン級の船舶が停泊可能な岸壁を備え、火力発電所とリサイクルポートが併設され、税関設備も整った立派な国際港である。米代市は古くから港を中心に発展してきた町だが、過疎化が進む五万人規模の小さな町には分不相応に思えるほどの大規模公共施設だった。
「浸食」前は入港する船も少なく、市民の釣り堀と化していたこの港が、「浸食」後、俄に脚光を浴び始めていた。
そもそも日本国内の大規模な港湾は太平洋側に多かったが、これは「浸食」前の世界が太平洋側に開かれていたからである。ところが、日本が新世界に於ける資源外交で最も重要な国の一つとするクシェル王国は日本海を挟んでアジア大陸に存在していた。主な海上交通手段を風帆船とするクシェルが太平洋側の港湾を利用するのは不便ということで、日本海側の港を解放することになったのは自然な流れであった。
そして、日本列島の北に位置して、首都東京から遠からず近からず、「浸食」による被害規模が小さく、現状で直に使用に耐え得る施設を持つ重要港湾を探したところ、米代港に白羽の矢が立ったのである。
そんなわけで、今、米代港ではクシェル王国の窓口になるよう様々な環境整備が進められていた。来るべき国交樹立後に活用されるべき出入国管理施設が設けられ、日本政府の各種出先機関が市内各所で建設工事を始め、それに伴う商業施設の計画も進んでいた。
俄な新世界景気が、米代市とその近隣に起きていたのである。
右手には、大きな川が眩しく輝いている。
左手には五〇〇〇トン級岸壁と、一面にアスファルトが敷かれた荷揚げ場が見える。
左右双方から放たれる夏の厳しい照り返しに挟まれた小高い堤防の上、米代港の北側を通過し、日本海に迫り出す長大な防波堤へと続く一本の道があった。
片側一車線の狭い堤防道路なのに、一日中引っ切り無しにダンプカーが行き来している。
現在、米代港は様々な用途の新規施設が建設中なので、そのための資材を運搬する土建屋のダンプカーなのだろう。今も、港内の其処彼処では金属の打ち合わさる音が響き、土砂の掻き回される音、重機のエンジン音が轟いている。
実に活気に満ちた音の風景である。
「浸食」から一年が経った今でも、日本国内では被害から立ち直れず、疲弊し暗く落ち込んだ町が多いというのに、米代市だけは「浸食」のおかげで町が潤うという逆転現象を起こしていた。市民の中には「浸食」様々などと語る現金な者がいたほどである。
「まあ、そういうことがあっても良いんじゃね? 」
ダンプカーの排ガスと舞い上がる埃を浴びながら、堤防道路の端に停めた軽トラックの荷台に寝転がった男が呟いた。
この男、建設工事の関係者では無い。
作業着を着ていないし、軽トラックはレンタカーナンバーである。
直射日光を避けるため深く被った白い夏用パーカーのフードから覗く顔を見る限りでは、年齢三〇歳前後。ジーンズを履いた足を狭い軽トラックの荷台で折り曲げているので分かり辛いが、身長は一八〇センチ以上もあるに違いない。
男の様子は、フリーターか無職の暇人が昼寝か日光浴を楽しんでいるように見えるが、それにしては何故こんな騒々しい道端を選んで車を停めているのかが分からない。
「はぁ、だりぃ。このままじゃ身体が溶けちまうぜ。」
辛そうにぼやくところを見ると、自分の意思でこの場にレンタカーを停めているわけでは無さそうである。
「あんの渋江のクソジジィめ! ろくに事情の説明もしないで、黙って待機してろって、いったい何のためなんだよ! 」
男の独り言の中に、渋江という名前が出てきた。
それが内閣情報官渋江正満のことであるならば、この男、尋常な職業の人間ではない。
そう言えば、男は寝転がっていながらも顔の半分は荷台の縁よりも上に出し、その視線は横向きにして左手の五〇〇〇トン級岸壁をさり気なく見下ろしていた。
今、岸壁には一隻の帆船が停泊していた。
中世のガレオン船に似た形状で、全長は約三〇メートル、排水量は二〇〇トンぐらいだろうか。四本の帆柱があるが、現在は帆を全て畳んでいる。甲板に人影は見えないが、開けっ放しの船窓から時々顔を出す者があり、無人では無いことが分かる。
船尾に鳥をアレンジした意匠の旗を掲げているが、それはクシェル王家の紋章。つまり、この帆船はクシェル王室の御用船なのである。
おそらく護衛のつもりだろうが、御用船には海上保安庁の巡視船が同行しており、今は同じ岸壁に並んで停泊している。装飾過多で色彩も派手派手しい帆船と、白一色で統一されたシンプルな巡視船の対比が奇妙なコントラストを醸し出していた。
「あーあ、たまんねぇなぁ! 」
どうやら、男はクシェル船の監視中であるらしい。
クシェル船が入港したのは午前一一時頃。現在は午後二時を少し回ったところ。
男は入港の三〇分前から待機していたので、彼此三時間半以上も炎天下に晒された軽トラックで過ごしていることになる。
「少しは曇れってのよ、ばぁーか! 」
男は憎々しげに頭上の太陽を仰ぎ、腹の上に抱えていたミネラルウォーターのペットボトルのキャップを外して口をつけた。
二リットル用のボトルに三分の一ほど残っていた生暖かいミネラルウォーターを、音を立てながら一気に喉の奥に流し込んでいたら、
突然、「ウァン! 」と、軽トラックの間近で甲高いサイレンの音が鳴った。
『ナンバー〇〇〇〇のピクシス。至急車両を移動させて下さい! 』
車載スピーカーから流れる警告、パトカーである。
『ここは駐停車禁止! 工事車両通行の迷惑でーす! 』
おそらく、ダンプカーの運転手あたりから通報があったのだろう。
「はぁ、何だよこりゃ。」
男は、荷台の上で身を起こし、ぐったりした顔で軽トラックの真後ろに付けているミニパトの運転席を睨みながら、ボサボサになっていた長めの茶髪を手櫛で押さえた。
『何、やってる? 早く移動しなさい。』
何度警告しても男が荷台の上で胡座をかいたまま降りようとしないので、ミニパトの運転席から警察官が降りてきた。手には交通違反切符を挟んだバインダーを抱えている。
「君、ダメだよ。直に指示に従わないんなら見逃すわけにはいかないぞ。」
警官は軽トラックの荷台の横に立ち、男に運転免許証を出せと指示した。
「はいよ。」
男はジーンズの尻のポケッットから黒い二つ折りのパスケースを取り出して、それを開いて警察官の目の前に突き付けた。
「はぁ? 」
警察官は、人をなめたような男の態度と、目の前に突き出されたものが運転免許証では無かったことに腹を立て、怒鳴り付けようとしたのだが、
「ちゃんと読んでや。」
いかにも怠そうな言い方だが、男は全く動じておらず、パスケースを戻そうともしないので、警察官は苛々しながらも透明なアクリルシート越しに見えるカードの表記に目をやった。
「ん? 車猛虎(くるまたけとら) 内閣官房・・・調査室・・・カウンターインテリジェンス・・・って、えっ! 」
目の前にある身分証らしきカードの記載内容が徒者では無いということは、田舎の警察署の交通課に勤務する警察官であっても直に分かった。そんな身分の人間がクシェル船の入港に伴って港に現れたということについても漠然となら事情を察することができる。
呆然とする警察官の前で、車猛虎は開いていたパスケースを面倒臭そうに閉じた。
「はい、そこまで。後はビシッと全部忘れてちょうーだい。もう、行って良いっすよ。」
そう言ってパスケースを尻のポケットに戻すと、再び荷台に寝転がった。
「ちょ、ちょっと・・・ 」
警察官は、このまま立ち去って良いものかどうか逡巡していたが、その後に猛虎が一切反応しなくなってしまったので、不承不承ミニパトに戻っていった。
「あーあ、怠さマックスだよ。」
猛虎は、遠離っていくミニパトのエンジン音を聞きながら苛々を募らせていた。
ところで、車猛虎という男。
締まりのない態度と乱暴な口の聞き方、カジュアル過ぎる格好、それらからは到底結びつかないのだが、内閣情報調査室カウンターインテリジェンス・センターの別働隊に当たる某シンクタンクに所属している。ちなみに正社員ではない。非常勤の契約社員ということになっていた。
出身及び経歴は不明、おそらく身分証にあった車猛虎という名も本名ではないだろう。身体の線が隠れるような衣服を身に付けているが、その下には鍛え抜かれた屈強な肉体があり、おそらく何らかの軍務経験者と思われる。
そんな猛虎が所属しているシンクタンク、決して単なる研究機関ではない。対外防諜活動全般に携わるカウンターインテリジェンス機関とされているが、主にサボタージュや謀略から人間、物資、施設、設備などを守るのが専門の実働組織といったところである。
クシェル船の入港に際して猛虎は米代市に派遣されていたが、その指令は内閣情報官の渋江から直接受けていた。これは明らかに異例な仕事である。
本来二人の間には段階を踏んだ組織や部署、複数の管理職が存在するはずなのだが、どういう分けか今回はそれら全てを素っ飛ばしてしまっていた。
渋江の意図は未だ分からない。
現状では、
『別命あるまでクシェル船の監視を継続すること』
としか言われていないので、猛虎は大人しく従っているだけだった。
「クソジジィめ、暇過ぎるっつってんだよ! 」
それにしても、この愚痴の零し方、やはりインテリジェンスとは懸け離れたイメージの男である。少なくとも、監視や張り込みという静的な任務には向いていないのかもしれない。おそらく、根っからの肉体派なのだろう。
猛虎の忍耐力は、そろそろ限界に達していた。
「水分も無くなっちまったし、この炎天下じゃ、日干しになっちまうぞ。」
監視に使えと充てがわれた軽トラックにはエアコンも付いていないので車内はオーブン状態である。それで一時間ほど前から已む無く荷台に避難しているわけだが、ここも直射日光のおかげでフライパンのようである。
「もうダメ。限界! 」
猛虎は荷台を飛び降りて、陽射し避けるために軽トラックの日陰に隠れた。
(でも、これじゃ船が見えねぇよな。)
直射日光を遮れば幾分過ごしやすいが、それではこの場にいる意味が無い。
クシェル船を監視しようと思ったら、どうしても日向に出るしかなかった。
結局、仕事を全うするためには熱さに耐えるしか無いらしい。
「あーあ、アイス食いたい。」
荷台の縁に肩肘を突いてぼんやりと荷揚げ場を眺めていると、赤と黄色のパラソルを差したジェラートアイスの屋台が見える。
最前から気になっていたのだが、屋台の位置がクシェル船の殆ど真ん前だったので、監視任務に付いている者がノコノコと出掛けて行くわけにもいかず我慢していた。
(もう良いや。フード被ってりゃ顔は見えないし、アイス買うぐらい平気だろう。)
猛虎はジェラートの誘惑に負けてしまった。
一応、荷揚げ場に降りる前に軽トラックのダッシュボードからサングラスを取り出して掛け、フードの深さを確認するぐらいのことはしておいた。
(だって、このままじゃ任務中に熱射病で死ぬぞ。)
荷揚げ場に設置されている街頭温度計を見たら、現在の気温は摂氏三四度とある。
猛虎は熱射病にならないための緊急処置であると自分に言い聞かせながら、堤防道路から荷揚げ場に下る細い階段を駆け降りていった。
ジェラートの屋台はクシェル船から五〇メートルも離れていない岸壁の端にある。
その場まで歩いてきて分かったが、海保の巡視船が邪魔になるのでクシェル船からは屋台が隠れて見えなかった。
(なんだよ。気にすること無かったじゃん。)
猛虎は、パラソルの下で客待ちをしていたジェラート屋のお婆さんに、
「一つ、下さい。」
と、言って一〇〇〇円札を渡した。
「はーい、ありがとうございまーす。」
お婆さんはのんびりした愛想を言って猛虎に釣り銭を渡すと、ジェラートアイスが詰まった樽の蓋を開けて、手にしたコーンにパラソルと同じ赤と黄色をしたジェラートを手際良く盛り付けた。
「はい、どーぞ。」
差し出されたコーンを受け取ったら微かな冷気が手に下りてきて、食べる前に少しだけ涼しげな気持ちになった。
「暑いから、早く食べてねぇ。」
お婆さんに言われるまでもなく、ジェラートは既に表面が溶けて滴り始めていた。
猛虎は軽トラックまで持ち帰ることをせず、
「んじゃ、いただきます。」
と、言って歩きながら口を付けようとした時、
「ん? 」
誰かの視線が自分に向けられているのに気付いた。
(俺とお婆さん以外に誰かいたっけ? )
そう思って後ろを振り返った猛虎の目の前に一人の少女がいた。
おそらく、歳は一五ぐらい。陽射しを反射して美しく輝く金色の長い髪、純白の肌、透き通るような青い瞳、まるで人形のように綺麗に整った顔立ちをした少女である。
(外人さん? )
もちろん、日本人ではない。
小柄で華奢な身体を見慣れない民族衣装で包んでいる。何とこの炎天下にも拘らず、詰め襟で長袖の白いブラウス、ノルウェーのブーナッドに似た黒のロングスカート姿。
それなのに、汗の一雫も?惜いていない。
「な、何? 」
少女の視線は真っ直ぐに猛虎へ向けられている。
少し怖いぐらいに真剣な眼差しだったが、
「・・・アイスかよ? 」
見つめていたのは猛虎の顔ではなく手にしたジェラートだった。
「えっと・・・ 」
猛虎は困った。ジェラートを口に運べなくなってしまったのだ。
どう見ても少女は明らかにジェラートを欲しており、その視線は強烈過ぎて殆ど凝視されていると言って良いほどである。
(どうしようか? )
少女は一人、周囲に大人はいない。ジェラートを食べたいが、お金の持ち合わせが無いのかもしれない。
(この状況で俺が構わずアイスを食っちゃうのってアリ? )
自分が金を出して買ったアイスを食べるのに何の遠慮も必要ないと思うのだが、それをやってしまったら大人げないような気がした。
猛虎は一つ溜め息を吐いてから、少女に向かって未だ口を付けていなかったジェラートを差し出した。
「食べる? 」
少女は二、三歩前へ進んで猛虎の手からジェラートを受け取った。
たぶん、お礼を言っていたようだが、聞いたことも無い外国語だった。
少女は形の良い小さな唇から舌を遠慮がちに覗かせて、ジェラートの天辺を一口舐めたが、その途端に目を丸くした。
そして、呻き声のような「オウ! 」とか「エウ! 」とか、耳慣れない感嘆を何度も漏らしながら、二口、三口と速度を上げて食べ進んでいった。
何やら、たかが屋台のジェラートに甚く感動してしまっているようである。
(アイス、食ったこと無いのか? )
と、猛虎が首を傾げているうちに少女は夢中でジェラートを平らげてしまった。コーンもバリバリと音を立てて跡形も無く食べ尽くしてしまった。
「はは・・・凄いな。」
猛虎は苦笑しながら、自分の分のジェラートを買い直そうと屋台に戻ったのだが、
「あれ? 」
猛虎の後を少女が付いてきていた。
「もう一つですか? 」
と、お婆さんに聞かれたが、
「ええっと・・・ 」
少女を振り返ると、未だジェラートが食べ足りなさそうな顔をしている。
(まあ、いっか。)
子供相手にケチなことをしても格好悪いと思って、猛虎はジェラートを二つ買って、その一つを少女に渡した。
少女は、またもや意味不明な外国語でお礼を言ったが、
「これで最後だぞ。これ以上食べたらお腹壊すからな。」
と、猛虎が注意をしたら頷いていた。
言葉の意味は分からなくとも雰囲気は伝わったのかもしれない。
「それじゃ、バイバイ。」
猛虎はジェラートに夢中の少女に手を振り、軽トラックに向かって歩き出した。
(それにしても、何処から現れたんだ、あの娘? )
始めにジェラートを買っていた時、周囲には誰もいなかったと思う。
今日の荷揚げ場は非情に見通しが良い。
クシェル船と巡視船しか入港していないので、上げ下ろしされる貨物は無く、数機の細い街灯以外には一切の障害物は無い。
(こんな場所で、俺に気付かれないように忍び寄るなんて普通は無理だぞ? )
五感の鋭さに関して猛虎は常人を遥かに上回る。そういう訓練を受けてきているのだから、素人の、ましてや子供の接近に気付かないはずがない。
(暑さで呆けてしまっていたか? )
確かに気持ちは弛んでいたが、猛虎の場合、それと五感は切り離して機能させられるはずで、例え寝ていたとしても足音や振動、空気の動きぐらいは感じ取れるほど鋭敏な感覚を備えている。
(あの娘、たぶんクシェル人だろ? )
聞いたことも無い言葉、見たことの無い民族衣装。そもそも、あの場にいる外国人など帆船で訪れたクシェル人以外には考えられない。
(もしかして、クシェル人ってのは俺のレーダーに引っ掛からないような生理機能でも持ってるのか? 猫みたいに自分の気配を消せるのか? )
もし、そうだとしたなら新世界に於ける猛虎の仕事は非情にやり辛くなる。
防諜活動に伴う実働に隠密性は必須であり、時には敵の本拠に忍び込んだり、味方の本拠に忍び込んだ敵を察知して始末しなければならない。
その際に気取られないのは初歩の初歩である。
以前の世界を相手にするなら猛虎の能力には何の問題も無いのだが、新世界の連中を相手にしたら通用しないなどということは決して許されない。
(新世界用に五感を鍛え直さなければならないかもな・・・ )
その時、猛虎はふと嫌な予感がして背後を振り返った。
ジェラートを舐めながら、未だ三〇秒ぐらいしか歩いていなかった。
だから、ジェラート屋台の傍には未だ少女がいなければならない。
それなのに、
「いっ、いねぇ! 」
少女の姿は荷揚げ場の何処にも見当たらなかった。
おそらく船内に戻ったのだと思うが、屋台から五〇メートルほども離れたクシェル船まで、少女がアスファルトを駆ける足音など全く聞こえなかった。
肌を焼く熱い陽射し。
薄青く霞む山々。
眩いほどの緑と、耳に残る蝉の声。
秋田県北部にある米代市、人口五万人の小さな町である。
日本中に数多くの深い爪痕を残した一年前の「浸食」だが、その影響を殆ど受けずに済んだ町もあった。米代市も、そうした運の良い町の一つである。
尤も、無傷というのは語弊があるかもしれない。米代市でも「浸食」による傷跡は見られたが、その傷が町に影響らしい影響を与えなかったということである。
そもそも、秋田県北部は青森県との県境に跨がる白神山地に隣接した地域であり、山がちで人口が少なく、点在する町も小規模である。
「浸食」により、町の周囲では山々が大きく形を変え、奇妙な動物が田畑を荒らし始めていたが、住民の命に関わるような災害は一件も起こらなかった。却って「来訪者」の出現によって人口が増え、住民の平均年齢が若返ったとの報告があったほどである。
つまり、住民たち曰く「浸食」が空振りするほどの田舎なのだそうである。
そんな米代市には大きな港があった。
一〇万トン級の船舶が停泊可能な岸壁を備え、火力発電所とリサイクルポートが併設され、税関設備も整った立派な国際港である。米代市は古くから港を中心に発展してきた町だが、過疎化が進む五万人規模の小さな町には分不相応に思えるほどの大規模公共施設だった。
「浸食」前は入港する船も少なく、市民の釣り堀と化していたこの港が、「浸食」後、俄に脚光を浴び始めていた。
そもそも日本国内の大規模な港湾は太平洋側に多かったが、これは「浸食」前の世界が太平洋側に開かれていたからである。ところが、日本が新世界に於ける資源外交で最も重要な国の一つとするクシェル王国は日本海を挟んでアジア大陸に存在していた。主な海上交通手段を風帆船とするクシェルが太平洋側の港湾を利用するのは不便ということで、日本海側の港を解放することになったのは自然な流れであった。
そして、日本列島の北に位置して、首都東京から遠からず近からず、「浸食」による被害規模が小さく、現状で直に使用に耐え得る施設を持つ重要港湾を探したところ、米代港に白羽の矢が立ったのである。
そんなわけで、今、米代港ではクシェル王国の窓口になるよう様々な環境整備が進められていた。来るべき国交樹立後に活用されるべき出入国管理施設が設けられ、日本政府の各種出先機関が市内各所で建設工事を始め、それに伴う商業施設の計画も進んでいた。
俄な新世界景気が、米代市とその近隣に起きていたのである。
右手には、大きな川が眩しく輝いている。
左手には五〇〇〇トン級岸壁と、一面にアスファルトが敷かれた荷揚げ場が見える。
左右双方から放たれる夏の厳しい照り返しに挟まれた小高い堤防の上、米代港の北側を通過し、日本海に迫り出す長大な防波堤へと続く一本の道があった。
片側一車線の狭い堤防道路なのに、一日中引っ切り無しにダンプカーが行き来している。
現在、米代港は様々な用途の新規施設が建設中なので、そのための資材を運搬する土建屋のダンプカーなのだろう。今も、港内の其処彼処では金属の打ち合わさる音が響き、土砂の掻き回される音、重機のエンジン音が轟いている。
実に活気に満ちた音の風景である。
「浸食」から一年が経った今でも、日本国内では被害から立ち直れず、疲弊し暗く落ち込んだ町が多いというのに、米代市だけは「浸食」のおかげで町が潤うという逆転現象を起こしていた。市民の中には「浸食」様々などと語る現金な者がいたほどである。
「まあ、そういうことがあっても良いんじゃね? 」
ダンプカーの排ガスと舞い上がる埃を浴びながら、堤防道路の端に停めた軽トラックの荷台に寝転がった男が呟いた。
この男、建設工事の関係者では無い。
作業着を着ていないし、軽トラックはレンタカーナンバーである。
直射日光を避けるため深く被った白い夏用パーカーのフードから覗く顔を見る限りでは、年齢三〇歳前後。ジーンズを履いた足を狭い軽トラックの荷台で折り曲げているので分かり辛いが、身長は一八〇センチ以上もあるに違いない。
男の様子は、フリーターか無職の暇人が昼寝か日光浴を楽しんでいるように見えるが、それにしては何故こんな騒々しい道端を選んで車を停めているのかが分からない。
「はぁ、だりぃ。このままじゃ身体が溶けちまうぜ。」
辛そうにぼやくところを見ると、自分の意思でこの場にレンタカーを停めているわけでは無さそうである。
「あんの渋江のクソジジィめ! ろくに事情の説明もしないで、黙って待機してろって、いったい何のためなんだよ! 」
男の独り言の中に、渋江という名前が出てきた。
それが内閣情報官渋江正満のことであるならば、この男、尋常な職業の人間ではない。
そう言えば、男は寝転がっていながらも顔の半分は荷台の縁よりも上に出し、その視線は横向きにして左手の五〇〇〇トン級岸壁をさり気なく見下ろしていた。
今、岸壁には一隻の帆船が停泊していた。
中世のガレオン船に似た形状で、全長は約三〇メートル、排水量は二〇〇トンぐらいだろうか。四本の帆柱があるが、現在は帆を全て畳んでいる。甲板に人影は見えないが、開けっ放しの船窓から時々顔を出す者があり、無人では無いことが分かる。
船尾に鳥をアレンジした意匠の旗を掲げているが、それはクシェル王家の紋章。つまり、この帆船はクシェル王室の御用船なのである。
おそらく護衛のつもりだろうが、御用船には海上保安庁の巡視船が同行しており、今は同じ岸壁に並んで停泊している。装飾過多で色彩も派手派手しい帆船と、白一色で統一されたシンプルな巡視船の対比が奇妙なコントラストを醸し出していた。
「あーあ、たまんねぇなぁ! 」
どうやら、男はクシェル船の監視中であるらしい。
クシェル船が入港したのは午前一一時頃。現在は午後二時を少し回ったところ。
男は入港の三〇分前から待機していたので、彼此三時間半以上も炎天下に晒された軽トラックで過ごしていることになる。
「少しは曇れってのよ、ばぁーか! 」
男は憎々しげに頭上の太陽を仰ぎ、腹の上に抱えていたミネラルウォーターのペットボトルのキャップを外して口をつけた。
二リットル用のボトルに三分の一ほど残っていた生暖かいミネラルウォーターを、音を立てながら一気に喉の奥に流し込んでいたら、
突然、「ウァン! 」と、軽トラックの間近で甲高いサイレンの音が鳴った。
『ナンバー〇〇〇〇のピクシス。至急車両を移動させて下さい! 』
車載スピーカーから流れる警告、パトカーである。
『ここは駐停車禁止! 工事車両通行の迷惑でーす! 』
おそらく、ダンプカーの運転手あたりから通報があったのだろう。
「はぁ、何だよこりゃ。」
男は、荷台の上で身を起こし、ぐったりした顔で軽トラックの真後ろに付けているミニパトの運転席を睨みながら、ボサボサになっていた長めの茶髪を手櫛で押さえた。
『何、やってる? 早く移動しなさい。』
何度警告しても男が荷台の上で胡座をかいたまま降りようとしないので、ミニパトの運転席から警察官が降りてきた。手には交通違反切符を挟んだバインダーを抱えている。
「君、ダメだよ。直に指示に従わないんなら見逃すわけにはいかないぞ。」
警官は軽トラックの荷台の横に立ち、男に運転免許証を出せと指示した。
「はいよ。」
男はジーンズの尻のポケッットから黒い二つ折りのパスケースを取り出して、それを開いて警察官の目の前に突き付けた。
「はぁ? 」
警察官は、人をなめたような男の態度と、目の前に突き出されたものが運転免許証では無かったことに腹を立て、怒鳴り付けようとしたのだが、
「ちゃんと読んでや。」
いかにも怠そうな言い方だが、男は全く動じておらず、パスケースを戻そうともしないので、警察官は苛々しながらも透明なアクリルシート越しに見えるカードの表記に目をやった。
「ん? 車猛虎(くるまたけとら) 内閣官房・・・調査室・・・カウンターインテリジェンス・・・って、えっ! 」
目の前にある身分証らしきカードの記載内容が徒者では無いということは、田舎の警察署の交通課に勤務する警察官であっても直に分かった。そんな身分の人間がクシェル船の入港に伴って港に現れたということについても漠然となら事情を察することができる。
呆然とする警察官の前で、車猛虎は開いていたパスケースを面倒臭そうに閉じた。
「はい、そこまで。後はビシッと全部忘れてちょうーだい。もう、行って良いっすよ。」
そう言ってパスケースを尻のポケットに戻すと、再び荷台に寝転がった。
「ちょ、ちょっと・・・ 」
警察官は、このまま立ち去って良いものかどうか逡巡していたが、その後に猛虎が一切反応しなくなってしまったので、不承不承ミニパトに戻っていった。
「あーあ、怠さマックスだよ。」
猛虎は、遠離っていくミニパトのエンジン音を聞きながら苛々を募らせていた。
ところで、車猛虎という男。
締まりのない態度と乱暴な口の聞き方、カジュアル過ぎる格好、それらからは到底結びつかないのだが、内閣情報調査室カウンターインテリジェンス・センターの別働隊に当たる某シンクタンクに所属している。ちなみに正社員ではない。非常勤の契約社員ということになっていた。
出身及び経歴は不明、おそらく身分証にあった車猛虎という名も本名ではないだろう。身体の線が隠れるような衣服を身に付けているが、その下には鍛え抜かれた屈強な肉体があり、おそらく何らかの軍務経験者と思われる。
そんな猛虎が所属しているシンクタンク、決して単なる研究機関ではない。対外防諜活動全般に携わるカウンターインテリジェンス機関とされているが、主にサボタージュや謀略から人間、物資、施設、設備などを守るのが専門の実働組織といったところである。
クシェル船の入港に際して猛虎は米代市に派遣されていたが、その指令は内閣情報官の渋江から直接受けていた。これは明らかに異例な仕事である。
本来二人の間には段階を踏んだ組織や部署、複数の管理職が存在するはずなのだが、どういう分けか今回はそれら全てを素っ飛ばしてしまっていた。
渋江の意図は未だ分からない。
現状では、
『別命あるまでクシェル船の監視を継続すること』
としか言われていないので、猛虎は大人しく従っているだけだった。
「クソジジィめ、暇過ぎるっつってんだよ! 」
それにしても、この愚痴の零し方、やはりインテリジェンスとは懸け離れたイメージの男である。少なくとも、監視や張り込みという静的な任務には向いていないのかもしれない。おそらく、根っからの肉体派なのだろう。
猛虎の忍耐力は、そろそろ限界に達していた。
「水分も無くなっちまったし、この炎天下じゃ、日干しになっちまうぞ。」
監視に使えと充てがわれた軽トラックにはエアコンも付いていないので車内はオーブン状態である。それで一時間ほど前から已む無く荷台に避難しているわけだが、ここも直射日光のおかげでフライパンのようである。
「もうダメ。限界! 」
猛虎は荷台を飛び降りて、陽射し避けるために軽トラックの日陰に隠れた。
(でも、これじゃ船が見えねぇよな。)
直射日光を遮れば幾分過ごしやすいが、それではこの場にいる意味が無い。
クシェル船を監視しようと思ったら、どうしても日向に出るしかなかった。
結局、仕事を全うするためには熱さに耐えるしか無いらしい。
「あーあ、アイス食いたい。」
荷台の縁に肩肘を突いてぼんやりと荷揚げ場を眺めていると、赤と黄色のパラソルを差したジェラートアイスの屋台が見える。
最前から気になっていたのだが、屋台の位置がクシェル船の殆ど真ん前だったので、監視任務に付いている者がノコノコと出掛けて行くわけにもいかず我慢していた。
(もう良いや。フード被ってりゃ顔は見えないし、アイス買うぐらい平気だろう。)
猛虎はジェラートの誘惑に負けてしまった。
一応、荷揚げ場に降りる前に軽トラックのダッシュボードからサングラスを取り出して掛け、フードの深さを確認するぐらいのことはしておいた。
(だって、このままじゃ任務中に熱射病で死ぬぞ。)
荷揚げ場に設置されている街頭温度計を見たら、現在の気温は摂氏三四度とある。
猛虎は熱射病にならないための緊急処置であると自分に言い聞かせながら、堤防道路から荷揚げ場に下る細い階段を駆け降りていった。
ジェラートの屋台はクシェル船から五〇メートルも離れていない岸壁の端にある。
その場まで歩いてきて分かったが、海保の巡視船が邪魔になるのでクシェル船からは屋台が隠れて見えなかった。
(なんだよ。気にすること無かったじゃん。)
猛虎は、パラソルの下で客待ちをしていたジェラート屋のお婆さんに、
「一つ、下さい。」
と、言って一〇〇〇円札を渡した。
「はーい、ありがとうございまーす。」
お婆さんはのんびりした愛想を言って猛虎に釣り銭を渡すと、ジェラートアイスが詰まった樽の蓋を開けて、手にしたコーンにパラソルと同じ赤と黄色をしたジェラートを手際良く盛り付けた。
「はい、どーぞ。」
差し出されたコーンを受け取ったら微かな冷気が手に下りてきて、食べる前に少しだけ涼しげな気持ちになった。
「暑いから、早く食べてねぇ。」
お婆さんに言われるまでもなく、ジェラートは既に表面が溶けて滴り始めていた。
猛虎は軽トラックまで持ち帰ることをせず、
「んじゃ、いただきます。」
と、言って歩きながら口を付けようとした時、
「ん? 」
誰かの視線が自分に向けられているのに気付いた。
(俺とお婆さん以外に誰かいたっけ? )
そう思って後ろを振り返った猛虎の目の前に一人の少女がいた。
おそらく、歳は一五ぐらい。陽射しを反射して美しく輝く金色の長い髪、純白の肌、透き通るような青い瞳、まるで人形のように綺麗に整った顔立ちをした少女である。
(外人さん? )
もちろん、日本人ではない。
小柄で華奢な身体を見慣れない民族衣装で包んでいる。何とこの炎天下にも拘らず、詰め襟で長袖の白いブラウス、ノルウェーのブーナッドに似た黒のロングスカート姿。
それなのに、汗の一雫も?惜いていない。
「な、何? 」
少女の視線は真っ直ぐに猛虎へ向けられている。
少し怖いぐらいに真剣な眼差しだったが、
「・・・アイスかよ? 」
見つめていたのは猛虎の顔ではなく手にしたジェラートだった。
「えっと・・・ 」
猛虎は困った。ジェラートを口に運べなくなってしまったのだ。
どう見ても少女は明らかにジェラートを欲しており、その視線は強烈過ぎて殆ど凝視されていると言って良いほどである。
(どうしようか? )
少女は一人、周囲に大人はいない。ジェラートを食べたいが、お金の持ち合わせが無いのかもしれない。
(この状況で俺が構わずアイスを食っちゃうのってアリ? )
自分が金を出して買ったアイスを食べるのに何の遠慮も必要ないと思うのだが、それをやってしまったら大人げないような気がした。
猛虎は一つ溜め息を吐いてから、少女に向かって未だ口を付けていなかったジェラートを差し出した。
「食べる? 」
少女は二、三歩前へ進んで猛虎の手からジェラートを受け取った。
たぶん、お礼を言っていたようだが、聞いたことも無い外国語だった。
少女は形の良い小さな唇から舌を遠慮がちに覗かせて、ジェラートの天辺を一口舐めたが、その途端に目を丸くした。
そして、呻き声のような「オウ! 」とか「エウ! 」とか、耳慣れない感嘆を何度も漏らしながら、二口、三口と速度を上げて食べ進んでいった。
何やら、たかが屋台のジェラートに甚く感動してしまっているようである。
(アイス、食ったこと無いのか? )
と、猛虎が首を傾げているうちに少女は夢中でジェラートを平らげてしまった。コーンもバリバリと音を立てて跡形も無く食べ尽くしてしまった。
「はは・・・凄いな。」
猛虎は苦笑しながら、自分の分のジェラートを買い直そうと屋台に戻ったのだが、
「あれ? 」
猛虎の後を少女が付いてきていた。
「もう一つですか? 」
と、お婆さんに聞かれたが、
「ええっと・・・ 」
少女を振り返ると、未だジェラートが食べ足りなさそうな顔をしている。
(まあ、いっか。)
子供相手にケチなことをしても格好悪いと思って、猛虎はジェラートを二つ買って、その一つを少女に渡した。
少女は、またもや意味不明な外国語でお礼を言ったが、
「これで最後だぞ。これ以上食べたらお腹壊すからな。」
と、猛虎が注意をしたら頷いていた。
言葉の意味は分からなくとも雰囲気は伝わったのかもしれない。
「それじゃ、バイバイ。」
猛虎はジェラートに夢中の少女に手を振り、軽トラックに向かって歩き出した。
(それにしても、何処から現れたんだ、あの娘? )
始めにジェラートを買っていた時、周囲には誰もいなかったと思う。
今日の荷揚げ場は非情に見通しが良い。
クシェル船と巡視船しか入港していないので、上げ下ろしされる貨物は無く、数機の細い街灯以外には一切の障害物は無い。
(こんな場所で、俺に気付かれないように忍び寄るなんて普通は無理だぞ? )
五感の鋭さに関して猛虎は常人を遥かに上回る。そういう訓練を受けてきているのだから、素人の、ましてや子供の接近に気付かないはずがない。
(暑さで呆けてしまっていたか? )
確かに気持ちは弛んでいたが、猛虎の場合、それと五感は切り離して機能させられるはずで、例え寝ていたとしても足音や振動、空気の動きぐらいは感じ取れるほど鋭敏な感覚を備えている。
(あの娘、たぶんクシェル人だろ? )
聞いたことも無い言葉、見たことの無い民族衣装。そもそも、あの場にいる外国人など帆船で訪れたクシェル人以外には考えられない。
(もしかして、クシェル人ってのは俺のレーダーに引っ掛からないような生理機能でも持ってるのか? 猫みたいに自分の気配を消せるのか? )
もし、そうだとしたなら新世界に於ける猛虎の仕事は非情にやり辛くなる。
防諜活動に伴う実働に隠密性は必須であり、時には敵の本拠に忍び込んだり、味方の本拠に忍び込んだ敵を察知して始末しなければならない。
その際に気取られないのは初歩の初歩である。
以前の世界を相手にするなら猛虎の能力には何の問題も無いのだが、新世界の連中を相手にしたら通用しないなどということは決して許されない。
(新世界用に五感を鍛え直さなければならないかもな・・・ )
その時、猛虎はふと嫌な予感がして背後を振り返った。
ジェラートを舐めながら、未だ三〇秒ぐらいしか歩いていなかった。
だから、ジェラート屋台の傍には未だ少女がいなければならない。
それなのに、
「いっ、いねぇ! 」
少女の姿は荷揚げ場の何処にも見当たらなかった。
おそらく船内に戻ったのだと思うが、屋台から五〇メートルほども離れたクシェル船まで、少女がアスファルトを駆ける足音など全く聞こえなかった。
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