最果てからきた魔女

北路 洋

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「街の灯」

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 午後九時の米代市、土木業や建設業に従事する人々で賑わう飲食店街。
 猛虎は疲れ切った顔で肩を落とし、酔っぱらいの行き来する歩道を一人でトボトボと歩いていた。
 (結局、俺は炎天下で何してたのよ? )
 クシェル船監視の終了及び現地にて別命あるまで待機するようにとの指令を伝える暗号メールが渋江内閣情報官から届いたのは午後五時。
 それまでにクシェル船には報告すべき状況は何も起こらず、猛虎は六時間以上も軽トラックの前後左右で陽射しを避けながら、無為な時間を過ごしていただけだった。
 その空しい苦労の様子は、陽に焼けて所々赤くなってしまった顔に現れている。
 (俺が引き上げるのと同時に、クシェル船に接触してた奴らがいたな。)
 猛虎が軽トラックのエンジンを掛けて発進しようとした時、黒塗りのベンツが荷揚げ場に下りていくのが見えた。
 バックミラーで様子を伺っていたら、ベンツはクシェル船の傍で停まり、グレーのスーツを着た二人の男が現れた。それと同時にクシェル船から降りてきた豪華な装束を身に付けた身分の高そうな男と立ち話をしていた。
 (ベンツの連中、ありゃ間違いなく同業者だったぜ。)
 おそらく、内調の関係者と思われる。
 正面切ってクシェル船と接触できるからには、ベンツの連中は政府の意を受けた官僚に違いない。猛虎のような裏方ではないだろう。
 (結局、あいつらがやってくるまでの間、万が一、クシェル船の周囲で不審な動きがあった時に備えて、俺に監視役兼護衛役をさせてたって分けか? )
 それならそれで構わないが、そんな分かりやすい任務に何故組織や上司の頭を越した直接の指令が必要だったのか? さらには、監視役が終了した後も帰還ではなく現地待機を命ぜられているのは何故なのか?
 (わかんねぇ、あのジジィだけは何考えてるのかさっぱりだ! )
 無表情なくせに目だけは鋭く、常に相手を威圧するように身構えて、仕事に必要な最小限の言葉しか口にしない、そんな渋江の顔を思い出して猛虎は舌打ちした。
 (何か俺、気に入られてるような気もするんだけど? )
 直に指令を受け取ったのは始めてだが、他の案件で渋江が猛虎を指名してきたという話は何度も聞いていた。永田町の内閣府庁舎を訪れる際に度々呼び止められて仕事の話を聞かれたり、擦れ違い様に挨拶程度の声を掛けられるようなこともあった。
 だが、そうした渋江の行為に感情は一切無く、その抑揚の無い声と冷厳な視線は日頃図太さを売りにしている猛虎が緊張のあまり手に冷や汗をかいたほどである。
 (それでも、俺ほど声を掛けられる下っ端もいないらしいな。)
 それは奇妙なことだと、猛虎の周辺は囁いていた。
 渋江は特定の人材に思い入れたり、執着することの無い人間だと言われている。その職務上、部下を命令一つで死地に送ることも有り得るので、情を掛けないようにしているのだと見ている者が多い。だから、渋江が仕事と直接関係の無い場で、長々と会話をしている相手は佐竹総理大臣と官房長官ぐらいしか見たことが無いと誰もが証言している。
 ところが、部下を組織全体の中の駒として扱うように心掛け、自ら進んで挨拶することも珍しい渋江が、何故か猛虎だけは個人として認識しているらしい。
 (まあ、有り難いっちゃあ、有り難いんだが、それで給料が上がるわけでも無いんじゃ全然意味が無いだろ。)
 渋江が何を考えているのかは分からないが、猛虎はあまり接したくない相手だと思っている。ハッキリ言って苦手なのである。
 (それでも、与えられた仕事はキチンとしますよ。あんな枯れた氷柱みたいなジジィでも上役ですからねぇ。炎天下で日向ぼっこをしろと言われたら、その通りにさせて頂きますよ。)
 携わる業務が特殊であるとはいえ、猛虎もサラリーマンであるからには上役と仕事の選り好みはできないのは承知している。嫌な仕事でも二つ返事で引き受けて、その憂さは酒を飲んで適当な女をナンパして晴らすしか無いのである。
 そんな分けで、猛虎は昼間の憂さを晴らすべく、多数の飲食店が立ち並ぶ米代市で一番の繁華街とか言う場所を歩いている。
 (まずは腹が減ったから飯。その後は秋田美人とやらを探しに行くとするか。)
 気の進まない出張だったが、秋田は飯と酒が美味くて美人が多いという評判に期待し、今夜は不正な領収書を切りまくって遊び呆けてやるつもりでいた。
 美人はともかく、街を見渡した限り飯と酒には困らなさそうである。
 地元の郷土料理を主体にした店以外にも、全国の知名度のある名物を売り物にした店を多数見掛ける。都市部でしか見掛けない大手のレストランや居酒屋チェーンも看板を出している。とても、人口五万人の町とは思えない繁華街の様子である。
 (この先のクシェル王国との交流を期待しての先物買いだな。)
 この町に集まって来る者たちは、江戸時代にオランダ交易の国内唯一の窓口になった長崎と同じ状況になることを期待しているのだろう。
 (ここの連中にとっちゃ、「浸食」ってのは災いじゃなくて、振って湧いた町起こしのチャンスなんだろう。)
 それは良いことだと思っている。
 何も日本中が悲嘆にくれて、落ち込んでいる必要は無い。元気がある町が出て来なければ新世界で日本が国力を取り戻して順調に生きて行くことはできない。今後、米代市のように何らかの恩恵を受けて、活気を取り戻す町が増えなければならない。
 (さあって、何を食うかな。)
 猛虎は元気のよい客引きの声や通りに流れるCMソングを聞き流しているうちに、昼間の疲れが癒されたような気分になってきて多少足取りも軽快になっていた。
 通りすがりに幾つかの居酒屋を覗き、店頭に出された今日のオススメメニューを斜め読みしながら、数丁ほど歩いていたが、
 「ん? 」
 歩道のガードレールを背凭れにして、膝を抱えて踞っている小さな人影があった。
 街のネオンを反射して輝く金色の長い髪、街灯に背を向けているにも拘らず輪郭をクッキリと浮かび上がらせるほどに真っ白な肌、そして、白いブラウスにブーナッド風の黒いロングスカート・・・
 (ジェラートの子だ。)
 そう簡単に忘れようが無い、奇妙な出会いをした少女が其処にいた。
 歩道を行き過ぎる人々は、少女が明らかに外国人であることと、その見慣れない出で立ちに警戒しているのか、皆が見て見ぬ振りをしながら通り過ぎている。
 (なんで、こんな時間に、こんなところにいるんだよ? )
 少女は一人である。それは始めて荷揚げ場で会った時もそうだったが、今の様子は行き場を失って途方に暮れた家出娘のようである。
 (わけありか? )
 猛虎は声を掛けるべきかどうか迷った。見ず知らずの少女だが、ジェラートを奢ってやったぐらいの縁は生じてしまっていた。人として、多少の情を感じざるを得ない。
 だが、少女がクシェル王国の御用船に乗ってやって来た者なら、夜の繁華街のド真ん中で、たった一人で座り込んでいる姿は異常である。
 内調が接触しているならば、あの御用船は何らかの政治的使命を帯びて来航しているはずで、自由に下船して町を出歩ける乗船者はいないはずである。この少女も何らかの役割を持つか、役割を持つ者の娘だったりするかもしれない。こんな場所で、家出娘の雰囲気を漂わせながら座っていて良い者ではないと思う。
 (ただの家出娘なら、声を掛けるべきなんだが・・・ )
 少女の背後にトラブルの陰が見える。
 そこにクシェル王国が絡んでいるならば、仮にも政府機関の仕事に携わる自分が軽率に関わって良いトラブルではないかもしれない。
 だが、事態は瞬時にして退っ引きならない方向に走ってしまった。
 猛虎の視線を感じた少女が顔を上げ、そこに見知った姿を見付けた途端、
 「×××××! 」
 何やらわけの分からない言葉を発して立ち上がり、真っ直ぐに駆け寄ってきた。
 そして、少女に声を掛けるべきか否かについて決めかねていた猛虎に有無も言わさず抱き付いてきた。
 「ええぇーっ! 」
 少女は猛虎の胴にしっかりと腕を回し、小さな手を背中でしっかりと繋ぎ合わせ、その顔を胸に強く押し付けてきた。まるで異国の地で生き別れになった身内と再会でもしてしまったような、もう絶対に離さないと言わんばかりの強い意思が込められたキツい抱擁だった。
 「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょーっと! 」
 猛虎はピンチに陥っていた。
 人通りの多い夜の繁華街で、三〇前後のオジさんが外国人の金髪美少女に力一杯抱き付かれているのである。少女が一人きりで座っている時は目を背けていた人々が、自分が関わり合いになる可能性が無くなった途端、一斉に好奇の眼差しを向けてきた。しかも、二人の傍を通り過ぎる者たちが歩む速度を緩めるので、あっという間に周囲には人の渋滞が起こってしまっていた。中にはスマートフォンを取り出して二人を撮影しようとするものまで現れた。
 (やっ、ヤバい! )
 政府機関で、しかも国家的な機密情報に携わる機会を持つ者が、街中で外国人の女性と抱き合っている姿を撮影されるなど大失態である。その写真がSNSにでもアップロードされたなら始末書では済まない。下手すれば懲戒免職である。
 「ちょっと君! 離れて! 道の真ん中でこんなことしちゃマズいって! 」
 慌てて少女を引き離そうとするのだが、意外に力が強くて言うことを聞いてくれない。
 (しまった、言葉わかんねぇんだよな! )
 言葉で言い聞かせることが出来ないならば、取り敢えずは少女を連れて人混みから逃げ出すしか無い。
 つい今し方まで、少女の背後にクシェル王国絡みのトラブルが見えるなどと危惧していたのに、いつの間にか目先のトラブル解決を優先するしかなくなっていた。
 (えーい、もうどーとでもなれっ! )
 猛虎は少女の腰に手を回すと、その小柄で華奢な身体を強引に抱き上げた。
 少女の身体は思いの外軽かったので、そのまま親が子供を身体の前で抱っこするような形で抱き抱えると、
 「ちょっと、すいませーん! ちょっと、通してくださーい! 」
 などと叫びながら人混みを掻き分け、手近で一番人通りが少なく、ネオンの少ない路地に駆け込んだ。そのまま、何度か路地を曲がりながら一気に一分ほど走ったら、漸く辺りに人気の無い場所に辿り着くことが出来た。
 「じっ、神社か? 」
 目の前に鎮守八幡の幟とコンクリート製の鳥居があった。
 「ちょ、ちょっと、ひ、一休みしよう。」
 軽いとはいえ少女一人を抱えて町を走り抜けたわけで、猛虎は肩と背中で激しく息をしていた。それに、陽が暮れたとはいえ気温は未だ三〇度前後を保っており、そんな中での全力疾走で汗だくになってしまった。
 「×××××? 」
 「あっ、ああ、ごめん! 」
 夢中で抱えたままになっていた少女を、その場に下ろしてやると何を言っているのか分からないが心配そうな顔をして猛虎の背を摩ってくれた。
 「だ、大丈夫、大丈夫だから、少し座って行こう。」
 猛虎は少女を連れて神社の鳥居を潜ると、社殿までの短い参道の途中にあったベンチに身を投げ出すようにして腰を下ろした。すると、少女は透かさず右隣に座ってきて、ピッタリと小さな身体を密着させながら猛虎の右腕を自分の両腕でガッチリと抱え込みロックしてしまった。
 逃げられるとでも思っているのだろうか?
 「に、逃げたりしないから。」
 少女の事情はさっぱり分からないし、トラブル臭はプンプンするが、一度関わってしまった以上、何となく逃げるわけにはいかなくなってしまったような気がする。
 少女がクシェル人であるなら、これは単なる人助けとか、未成年の保護とか、そういう道義的な問題ではなくなってしまうわけで、渋江なり上司なり内調関係者に相談しなければならないことかもしれないと思った。
 (にしても、妙な感じ・・・ )
 昼間にジェラートを二個奢ってやっただけなのに、少女は出会ったばかりの猛虎が自分にとっての絶対的な味方であると思い込んでしまっているようである。見ず知らずとはいえ、金髪の美少女に頼り切られるというのは決して悪い気持ちはしないが、
 (まずはコミュニケーションが大切だよな。)
 言葉が通じないならばと、猛虎は精一杯の優しさを込めた笑顔で少女を安心させてやろうとした。つまり、少女を置き去りにして逃げたりはしないこと、もちろん自分は敵意も害意も無い安全で信頼できる男であるということなど、身振り手振りを交えて伝えたつもりだった。
 すると、
 「×××××、シ・ナ・イ? 」
 「え? 」
 少女の言葉に日本語が混じっていたような気がした。
 「ワ・タ・シ、オ・イ・テ、ニ・ゲ・タ・リ、シ・ナ・イ? 」
 一字一字を噛み締めるように発音しているが、それは間違いなく日本語だった。
 「え、日本語分かるのか? 」
 驚いて聞き返したら、ポカンとされてしまった。
 今のは猛虎の話し方が早過ぎたようだった。
 「あ、えっと、に・ほ・ん・ご・わ・か・る・の? 」
 今度はゆっくり言い直したら、少女は右手の人差し指を立て、中指を第一関節に引っ掛ける仕草をして見せた。
 (これは少しだけって意味だよな。)
 クシェル人に関する予備知識など全く持っていない猛虎だが、単純で小さな仕草は自然に伝わってくるものである。
 「に・げ・な・い、あ・ん・し・ん・し・て。」
 猛虎はゆっくりと応えて、もう一度ニッコリと笑った。
 「×××××。」
 少女の言葉は、元通りの意味不明に戻っていたが、これはたぶん「良かった」とでも感想を述べたのだのだろう。
 (さて、これからどーすっかな? )
 短い会話と満面の笑みで少女を安心させることはできたと思うが、右腕のロックは一段とキツくなったような気がする。
 (何だろ? これってクシェル人の親愛表現だったりするのか? )
 無理矢理振り解いて警戒されるようなことがあったらマズいと思う。だが、この後で何処へ向かうにしても少女に密着されたままでは人目を引き過ぎて非情に辛い。
 (そっと、穏やかに引き離さなきゃなぁ。)
 そう思いながら右腕に神経を集中した時、
 (ん、柔い? )
 右肘に当たる感触が子供らしくないことに気付いた。
 それは明らかに大人の女性の胸の感触である。気が付けば猛虎の右腕は少女の二の腕が絡み付いているだけではなく、柔らかな胸の膨らみにも覆われてしまっていた。それどころか、手首の先は張りのある太腿の弾力に挟まれて固定されている。
 思い掛けず、猛虎は少女に女を感じさせられてしまっていた。
 クシェル人など始めて見たし、異世界の人々に我々の世界の性別が適用されるのかも知らなかった。だから、今の今まで、その外見から目の前にいるクシェル人が少女だと思い込んでいたが、少年である可能性も無かったわけではない。
 だが、そんなに難しく予想外の展開を考える必要は全然無かったらしい。
 少女は明らかに女性であり、その胸は意外なほどの大きさがあった。そして、太腿に挟まれている手が余計なモノの存在をハッキリと否定していた。
 (・・・間違いなく女でした。)
 それにしても、少女が着ているのは全体的にモッタリとした民族衣装だが生地は薄くできているらしく、彼女の柔らかな感触が殆どダイレクトに伝わって来ていた。しかも、クシェル人の女性にはブラジャーという下着を身に付ける習慣は存在しないのだろう。
 この少女は間違いなくノーブラだった。
 (こ、これは予想外の至福っ! )
 小柄で華奢に見える姿と、綺麗に整っているが幼く見える顔立ちに油断してしまっていた。美味しそうに屋台のジェラートを舐めていた無邪気な姿にも惑わせられていた。
 (やっぱり、外人さんパワーなのか? )
 欧米人女性がそうであるように、クシェル人女性は日本人女性よりも遥かに発育が良いのかもしれない。子供だからと侮ってはならないということだ。
 (くっ! 辛いぜ! )
 暫くは右腕を少女に預けたままにしておきたいが、この場の状況を解決して町の中を移動するには自由にしてやらなければならない。
 (しょーがねぇなぁ。)
 未練を断ち切るために浅く深呼吸したら、今度は少女のサラサラとした美しい金髪から心地良い匂いが漂ってきた。髪にお香のようなものを炊き込めているらしいが、高級なシャンプーやコンディショナーなどよりも自然で上品な香りがする。
 (この子、クシェルじゃ高い身分なんじゃないか? )
 中世日本でも女性が髪に香を炊き込めたりしていたというが、それは身分の高い女性に限られる贅沢な身嗜みである。決して一般庶民の嗜みではない。
 噂によるとクシェルは中世的ヨーロッパ的な王国であるらしい。身分制度は厳しく、貧富の差は激しいという。そんな国で髪に香を炊き込める余裕のある女性なら、身分が高く裕福な家の女性に決まっている。
 (クシェル王族か? 政府関係者の娘か? いずれにしても、随分でかそうなトラブルの予感がするぞ! )
 このトラブルがホンモノだとしたなら、猛虎にとっては勝手に転がってきたトラブルである。望んだわけでもなければ、仕事で見付けたトラブルでもない。だから、敢えて関わらず、放っておいても構わないトラブルなはずなのに、何故か心が沸き立つような興奮を覚えていた。
 (面白い! 炎天下で日向ぼっこしているより遥かにマシだ! )
 些細なトラブルなら面倒を避けたくなってしまうが、大きなトラブルなら進んで首を突っ込んで当事者になりたがる。猛虎は、そんな厄介な性格をしていた。
 思い掛けず手に入れたこの少女、面白いスタンドプレーの駒になるかもしれない。
 (たまにはサラリーマンから外れたことをしてみたって良いんじゃね? 渋江のジジィが何て言うか知らんけど、暫く様子見ってのはアリかもねぇ。)
 吉と出るか凶と出るかは分からないが、もしかしたら渋江に喜ばれるようなネタかもしれないので、みすみす手放してから後悔したくはない。
 猛虎は僅かに口角を上げ、少女に気付かれないよう心中で不適に高笑いした。
 ところが、
 せっかくの高揚感が、いきなり聞こえてきた緊張感のない音によって萎びてしまった。
 ぐうぅぅぅぅぅぅ
 ぎゅぅぅぅぅぅぅ
 呆れるほどに長閑だが、切羽詰まった気持ちだけは伝わってくる鈍い音。
 (・・・俺か? )
 思わず自分の腹に左手を当ててしまったが、どうやら猛虎の音ではないようだった。
 猛虎でないと言うことは、
 「あ、君、お腹、減ってんの? 」
 言葉は分からなくとも、腹の音を聞かれた後に投げ掛けられた質問の意味など、考えるまでも無かったのだろう。
 少女は黙って首を縦に振った。
 首を縦に振ることが、クシェルでも肯定の意味だということは少女の恥ずかしそうな顔を見ていれば直に分かる。
 そうした単純なコミュニケーションは互いの直感だけで十分に伝わるものである。
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