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プロローグ 姫尾玲奈の指令
しおりを挟む高層ビル・姫尾ビル十三階会議室。姫尾怜奈は無表情で会議室に集まる面々を睥睨(へいげい)していた。長く流れるような黒髪と芯の強そうな瞳が彼女より年上の若者たちを見据えている。
「おいおい、お嬢様。そんなに睨むなよ」
ソファーにだらしなく、腰かける茶髪の優男が唇を歪めて、言う。
「睨(にら)んでなど、いません。バトルマニアである皆様に負けまい、と思っておりまして」
それに対して、少女は毅然(きぜん)として言い返していた。
「天下の秘宝である『ホノリウス教皇の魔道書』を取り戻す、これが私の願いです」
「そのために俺らと契約してくれたんだろ?」
「ええ、そうです。ホノリウス教会は魔道書の原書がクラウン卿の元に渡るのを避けたい、と思っています」
「それが写真のコイツってわけだな?」
茶髪の男が右手の中指で机の上の顔写真を叩く。そこには二十代半ばの陰気そうな若者が写っている。
「ええ、わざわざスコットランドから来日したあげく、今はホテル住まいの様ですが、昨日、監視の目を逃れて、姿を消しました」
茶髪の男以外の面々からどよめきが起きる。
「くっくっく、姫尾の力を持ってしても、あのボンボンは止められねえよ。なんたって、ここまで来て、あんたの親父の持つ魔道書を奪おうとしてるんだろ」
「ええ・・・・・・、皆さま、この写真をご覧ください」
怜奈の背後の大画面にクラウンと思しき男と十代後半の少女が写る。どこか儚(はかな)げな赤髪の美しい少女。
茶髪の男が嬉しそうに口笛を鳴らした。
「いるじゃん、かわいこちゃんが」
「彼女は卿の妹・イリ―ナ・クラウンです。クラウン卿の戦力と言えます。実力は未知数ですが」
「俺もこの業界長いけど、聞いたことないねえ。イリ―ナ。イリ―ナねえ」
「雑魚よ。そうに決まってるわ」
金髪の美女が嘲(あざけ)るようにそう言った。
「カルファ、そう言うなって。っていつの間にいやがるんだ!?」
男が驚いて見せる。金髪の美女ことカルファ・アルエンティナは目を細めた。
「何って、あなたの帰りが遅いから、迎えに来たわけだけど」
カルファの指し示す方角にはエレベーターがあった。使用人と思しき若い男が頭を下げる。
「失礼ですが、奥様ですか?」
怜奈が突然現れた金髪の美女に対して、問う。
「いえ、違うわよ。こんなチャラいのと付き合ってると思われるのは心外よ」
女が軽口を叩くように言うと、茶髪の男がにやりと笑った。
「こいつは俺の商売敵(がたき)だよ。わけあって、今は組んでるんだがな」
「・・・・・・そうですか・・・・・・イリ―ナを小物と侮ってはいけません。彼女は何か秘めた力を持っている・・・・・・そう感じます」
「そいつは根拠でもあるのか?」
「いえ、女の勘です」
「くははははは・・・・・・そいつはいい!あんた気に入ったぜ。これからよろしくな、嬢ちゃん!」
男が馬鹿笑いすると、怜奈に握手を求めてくる。怜奈無表情で握手に応じた。
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