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クラウン兄妹
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ヘルティア・クラウン卿、仏頂面の三十歳くらいの男だが、神経質そうにホテルの一室をうろうろしていた。このホテルではスイートルームに該当する部屋だが、ヘルティアの動きはせわしない。
「お兄様、落ち着かれては?」
「これが落ち着いていられる状況か!イリ―ナ!」
ヘルティアは実の妹のイリ―ナに対して、強い言葉を放つ。対して、イリ―ナは椅子に腰かけ、ゆっくりとした動作で紅茶を口に運んでいた。
「『ホノリウス教皇の魔道書』が姫尾博物館より紛失しただと!一体、どうなっているのだ、イリ―ナ!」
ホノリウス教皇の魔道書・・・・・・17世紀以降に流通した魔道書で世界のありとあらゆる魔術が記されているとされる。これを書いたローマ教会の教皇・ホノリウス三世の名をとってホノリウス教皇の魔道書と称されている。
姫尾グループは『ホノリウス教皇の魔道書』の原書を購入し、所持していた。その原書を今回は自らが所有する姫尾博物館の特別展示会で公開するというのだ。だが、その原書が土壇場で紛失したようなのである。
「くそっ、女王陛下、ローマ教皇、い、いや世界中の笑い者だぞ!わざわざ東洋の島国にまでやってきて姫尾の持っている魔道書がどこかに消えただと・・・・・・!イリ―ナ!この羞恥(しゅうち)など、十代のお前にはわかるまい!ああ、女王陛下と姫殿下に何とお詫びすればいいのやら・・・・・・」
「クラウン卿、イリ―ナ殿に当たられても仕方ありますまい。館長たる私も管理責任はあります」
痩せた老人が口を開く。博物館館長・ロード・アルフォンス。今回の日本特別展示会の名目上の主催者であり、『ホノリウス教皇の魔道書』の紛失もアルフォンスが知らせてきたのだ。
「逆境ではありますが、逆にチャンスでもある」
「な、何を言っているのだ。イリ―ナよ」
動揺する兄に対して、意味深な言葉を発する妹。
「姫尾怜奈の罠の可能性があります。この件をアルフォンス館長は姫尾から聞かれたのでは?」
「ええ、左様です」
「我々が『ホノリウス教皇の魔道書』を奪おうとしていることに先方が気づき、その対策の為に『ホノリウス教皇の魔道書』を紛失したと嘘をついた可能性があります。我々が混乱している隙に私とお兄様を討つ・・・・・・そういう計画だとしたら」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
愕然とするヘルティアに妹は構わず、続ける。
「アルフォンス館長がこちら側だと気づいていたのでしょう。やりますね、怜奈。イギリスに留学していた頃と変らずに、陰険で醜悪(しゅうあく)」
イリ―ナは目を細める。
「フフフ・・・・・・でかしたぞ、イリ―ナ。そうか。そうだったな。というと、姫尾ビルか。下僕たちを向かわせよう。そこに『ホノリウス教皇の魔道書』が・・・・・・」
「違います」
「なっ、ど、どこだッ。常道(じょうどう)でいけば、姫尾の本拠たるあのビルであろうに」
「『ホノリウス教皇の魔道書』という世界中の魔術師の欲しがる逸品(いっぴん)。それは・・・・・・」
イリ―ナは自分のスマホを操作すると、兄に見せる。
「姫尾怜奈の幼馴染である高森楓の高森神社の境内(けいだい)でしょう」
「な、なぜそんなことが言い切れる?高森は確かにこの国では重宝される一族と聞く。だが、姫尾といえば、有力な財閥の一つだ。友人など、いくらでもあるだろうに」
ヘルティアは疑問を口にする。姫尾の父は政界のフィクサーとして知られ、その娘・姫尾怜奈は富裕層の子女との交友が深い。その中の一人、高森楓と断定する根拠がわからないのだ。
「吾妻光一(あづまこういち)」
「は?」
ヘルティアが間抜けな声を出した
「姫尾怜奈の思い人にして、高森神社の居候。私が怜奈なら、彼に『ホノリウス教皇の魔道書』を預けます」
「お兄様、落ち着かれては?」
「これが落ち着いていられる状況か!イリ―ナ!」
ヘルティアは実の妹のイリ―ナに対して、強い言葉を放つ。対して、イリ―ナは椅子に腰かけ、ゆっくりとした動作で紅茶を口に運んでいた。
「『ホノリウス教皇の魔道書』が姫尾博物館より紛失しただと!一体、どうなっているのだ、イリ―ナ!」
ホノリウス教皇の魔道書・・・・・・17世紀以降に流通した魔道書で世界のありとあらゆる魔術が記されているとされる。これを書いたローマ教会の教皇・ホノリウス三世の名をとってホノリウス教皇の魔道書と称されている。
姫尾グループは『ホノリウス教皇の魔道書』の原書を購入し、所持していた。その原書を今回は自らが所有する姫尾博物館の特別展示会で公開するというのだ。だが、その原書が土壇場で紛失したようなのである。
「くそっ、女王陛下、ローマ教皇、い、いや世界中の笑い者だぞ!わざわざ東洋の島国にまでやってきて姫尾の持っている魔道書がどこかに消えただと・・・・・・!イリ―ナ!この羞恥(しゅうち)など、十代のお前にはわかるまい!ああ、女王陛下と姫殿下に何とお詫びすればいいのやら・・・・・・」
「クラウン卿、イリ―ナ殿に当たられても仕方ありますまい。館長たる私も管理責任はあります」
痩せた老人が口を開く。博物館館長・ロード・アルフォンス。今回の日本特別展示会の名目上の主催者であり、『ホノリウス教皇の魔道書』の紛失もアルフォンスが知らせてきたのだ。
「逆境ではありますが、逆にチャンスでもある」
「な、何を言っているのだ。イリ―ナよ」
動揺する兄に対して、意味深な言葉を発する妹。
「姫尾怜奈の罠の可能性があります。この件をアルフォンス館長は姫尾から聞かれたのでは?」
「ええ、左様です」
「我々が『ホノリウス教皇の魔道書』を奪おうとしていることに先方が気づき、その対策の為に『ホノリウス教皇の魔道書』を紛失したと嘘をついた可能性があります。我々が混乱している隙に私とお兄様を討つ・・・・・・そういう計画だとしたら」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
愕然とするヘルティアに妹は構わず、続ける。
「アルフォンス館長がこちら側だと気づいていたのでしょう。やりますね、怜奈。イギリスに留学していた頃と変らずに、陰険で醜悪(しゅうあく)」
イリ―ナは目を細める。
「フフフ・・・・・・でかしたぞ、イリ―ナ。そうか。そうだったな。というと、姫尾ビルか。下僕たちを向かわせよう。そこに『ホノリウス教皇の魔道書』が・・・・・・」
「違います」
「なっ、ど、どこだッ。常道(じょうどう)でいけば、姫尾の本拠たるあのビルであろうに」
「『ホノリウス教皇の魔道書』という世界中の魔術師の欲しがる逸品(いっぴん)。それは・・・・・・」
イリ―ナは自分のスマホを操作すると、兄に見せる。
「姫尾怜奈の幼馴染である高森楓の高森神社の境内(けいだい)でしょう」
「な、なぜそんなことが言い切れる?高森は確かにこの国では重宝される一族と聞く。だが、姫尾といえば、有力な財閥の一つだ。友人など、いくらでもあるだろうに」
ヘルティアは疑問を口にする。姫尾の父は政界のフィクサーとして知られ、その娘・姫尾怜奈は富裕層の子女との交友が深い。その中の一人、高森楓と断定する根拠がわからないのだ。
「吾妻光一(あづまこういち)」
「は?」
ヘルティアが間抜けな声を出した
「姫尾怜奈の思い人にして、高森神社の居候。私が怜奈なら、彼に『ホノリウス教皇の魔道書』を預けます」
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