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第1章「遺跡を臨む地」
第6話「一度に攻めて攻め破り」
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「俺のプロミネンスは、こいつらのとは違うぞ」
因縁のプロミネンスを持つ剣士だ。抜き放たれたプロミネンスは、成る程、その名の通り深い紅色の刀身は美しさを備えている。真っ直ぐに伸びた刀身を支える柄も鍔も、太陽を思わせる意匠が施され、格が違うというのも頷ける。
「Hレアだ。死出の誉れにするがいい!」
プロミネンスの格は、非時よりも2段階も上だ。
「確かに、強くて凄くていい剣だ」
それに対し、ファンは言う。
「だけど、技術は追い付いてるか!?」
明らかな挑発だ。
挑発への返事を、剣士は言葉ではなく武力で行う。
「灼熱砲!」
プロミネンスに宿るスキルの発動だ。刀身に炎を纏わせ、斬撃そのものを巨大な刃として弾き出す。ノーマルは勿論、レアでもできない大技だ。
――八つ裂きにして、消し炭にしてやる!
大上段に振り上げた精剣の魔力に自らの膂力を足し、必殺の一撃として繰り出す。
――精剣の格は戦力の絶対的な差だ!
ファンの持つノーマルとは何もかもが違うのだという剣士は、必殺のスキルがファンを粉砕する事しか想像していない。精剣を振るう者同士の戦いは、如何に大規模で、強力なスキルを発動させるかが勝負の分かれ目だといった。
それに対してファンは非時を脇に構えるのみ。灼熱砲のような攻撃的なスキルを発揮させる気配はない。
爆発と爆炎が迸るが、それが炸裂した地点には果たして――?
「そうか」
剣士が呟くようにいった。
「お前の精剣のスキルは、広範囲への麻痺効果か」
崩れ落ちる剣士は、精剣スキルを回避した上で自分の打ち下ろしに勝る速度を持つ理由を口にした。
「違う」
しかしファンは冷たい目のまま、鼻先で笑い飛ばす。
「神に会う機会があったら、次はレアな剣じゃなくて、自分の取説くれって言ってこい」
剣士を斬ったのは、非時のスキルではない。
ファンが身に着けた剣技だ。
精剣の持つスキルによって敵を弱体化させる、自身を強化する、強大な火力を発揮させる――ファンは、それら全てと無縁の世界に住んでいる。
「受けて、押さえて、攻撃して、みたいな三拍子で動いてたんじゃ、いつまで経っても当たらない」
回避も防御も攻撃と共に存在させる術を、ファンは身に着けている。
精剣が現れて以降、急速に衰えた技術の賜であるが、知らぬ者から見れば有り得ないズルなのだろう。
「御流儀……」
その名前くらいはフミも知っていた。精剣が戦場の主役となる以前、ドュフテフルスの貴族や騎士が身に着けたと言う膨大な技術群、知識群である。剣技に限らず、兵法や軍学、作法、医療、祭祀までも網羅したもの。
「お目汚しでした」
ファンは慇懃無礼に一礼し、剣を構える。
フミに精剣がない事は見て取れた。手にしているメダルで格の高い精剣を顕現させるつもりだったが、その企みは投げたコインを全てファンに奪われた今、潰えてしまっている。
「――」
どんな言葉をかけるべきかと口を開きかけるファンであったが、それを制するようにフミは手を叩く。
「素晴らしい」
拍手だ。
その意味は、皮肉も含まれているが賞賛もある。
「確か、ファン。君は子爵の甥でしたね」
世襲であるから、その地位、財産は一子相伝となる。子爵家に繋がるとはいえ、ファンの身分は平民だ。
「遠い遠い傍流、部屋住みの身でしょう」
身を立てる必要があるから剣士になったはずだと顎をしゃくる先には、今、ファンに斬られた剣士のプロミネンスがある。
「それは持ち主がいなくなってしまった。ノーマルなど捨てて、手に取りなさい。そして私に仕えるといいですよ」
フミは、さも当然のように言う。確かにフミのいう通り、ファンは爵位を継ぐ位置にはいない。継承順位は二桁だ。ファンが身を立てる方法は、父親がそうであったように、自身が叙任されるしかない。
それを認め、騎士として登用しようというのがフミの言葉だった。
その上、非時より二段階も上の格にあるプロミネンスを与えられるという事は、フミの近衛兵を纏める立場に就けるという事である。
悪い話であろうはずがなく、またフミはファンが二つ返事で受けると本気で思っている。
「御流儀など、精剣が戦場の主役となる以前の遺物。棒を振るにはいいけれど、スキルを持つ精剣の間合いは見た目では計れない。故に衰退していくしかない技術。身を立てるために必要なのは、そんなカビ臭い遺物ではなく、格が高く、有効なスキルを持っている精剣だけ」
フミの評価は、そうなのだ。
ファンは棒を振り回すのが上手いだけ――。
それでも精剣を持つ剣士を平らげた事を評価し、騎士に任じようというのだから感謝しろという態度を見せる。
「近衛兵? はははッ」
ファンは態とらしく笑い、
「断る」
「バカな。そんなノーマルで、この先に何かあるというのですか? 馬鹿馬鹿しい。あるはずがない。レア度の高い精剣は――」
鼻白むフミを、今度はファンが遮る番だった。
「もう持ってる」
ノーマルの精剣を――非時を示す。
「俺が扱う剣は、エルに宿ってる非時だけだ。非時を扱うために磨いた腕だ」
ファンの目にあるのは非時であり、プロミネンスではない。格は下から2番目のアンコモン。大したスキルもなく、最下位と一緒くたにされてノーマルと呼ばれているが、
「誰も見つけられなかった俺の長所を見つけてくれた。それを好ましいと認めてくれた人がいた。その人に宿ってる剣だ。俺にとっては伝説級だ」
格に頼ったり、スキルに依存したりしないように磨いた腕は、全てエルに宿ったのが非時だったからだ。
「人より剣を大事にしてる奴にくれてやるのは、これだけだ」
最後に放ったファンの斬撃は、フミにはコマ落としにすら見えなかったはず。
因縁のプロミネンスを持つ剣士だ。抜き放たれたプロミネンスは、成る程、その名の通り深い紅色の刀身は美しさを備えている。真っ直ぐに伸びた刀身を支える柄も鍔も、太陽を思わせる意匠が施され、格が違うというのも頷ける。
「Hレアだ。死出の誉れにするがいい!」
プロミネンスの格は、非時よりも2段階も上だ。
「確かに、強くて凄くていい剣だ」
それに対し、ファンは言う。
「だけど、技術は追い付いてるか!?」
明らかな挑発だ。
挑発への返事を、剣士は言葉ではなく武力で行う。
「灼熱砲!」
プロミネンスに宿るスキルの発動だ。刀身に炎を纏わせ、斬撃そのものを巨大な刃として弾き出す。ノーマルは勿論、レアでもできない大技だ。
――八つ裂きにして、消し炭にしてやる!
大上段に振り上げた精剣の魔力に自らの膂力を足し、必殺の一撃として繰り出す。
――精剣の格は戦力の絶対的な差だ!
ファンの持つノーマルとは何もかもが違うのだという剣士は、必殺のスキルがファンを粉砕する事しか想像していない。精剣を振るう者同士の戦いは、如何に大規模で、強力なスキルを発動させるかが勝負の分かれ目だといった。
それに対してファンは非時を脇に構えるのみ。灼熱砲のような攻撃的なスキルを発揮させる気配はない。
爆発と爆炎が迸るが、それが炸裂した地点には果たして――?
「そうか」
剣士が呟くようにいった。
「お前の精剣のスキルは、広範囲への麻痺効果か」
崩れ落ちる剣士は、精剣スキルを回避した上で自分の打ち下ろしに勝る速度を持つ理由を口にした。
「違う」
しかしファンは冷たい目のまま、鼻先で笑い飛ばす。
「神に会う機会があったら、次はレアな剣じゃなくて、自分の取説くれって言ってこい」
剣士を斬ったのは、非時のスキルではない。
ファンが身に着けた剣技だ。
精剣の持つスキルによって敵を弱体化させる、自身を強化する、強大な火力を発揮させる――ファンは、それら全てと無縁の世界に住んでいる。
「受けて、押さえて、攻撃して、みたいな三拍子で動いてたんじゃ、いつまで経っても当たらない」
回避も防御も攻撃と共に存在させる術を、ファンは身に着けている。
精剣が現れて以降、急速に衰えた技術の賜であるが、知らぬ者から見れば有り得ないズルなのだろう。
「御流儀……」
その名前くらいはフミも知っていた。精剣が戦場の主役となる以前、ドュフテフルスの貴族や騎士が身に着けたと言う膨大な技術群、知識群である。剣技に限らず、兵法や軍学、作法、医療、祭祀までも網羅したもの。
「お目汚しでした」
ファンは慇懃無礼に一礼し、剣を構える。
フミに精剣がない事は見て取れた。手にしているメダルで格の高い精剣を顕現させるつもりだったが、その企みは投げたコインを全てファンに奪われた今、潰えてしまっている。
「――」
どんな言葉をかけるべきかと口を開きかけるファンであったが、それを制するようにフミは手を叩く。
「素晴らしい」
拍手だ。
その意味は、皮肉も含まれているが賞賛もある。
「確か、ファン。君は子爵の甥でしたね」
世襲であるから、その地位、財産は一子相伝となる。子爵家に繋がるとはいえ、ファンの身分は平民だ。
「遠い遠い傍流、部屋住みの身でしょう」
身を立てる必要があるから剣士になったはずだと顎をしゃくる先には、今、ファンに斬られた剣士のプロミネンスがある。
「それは持ち主がいなくなってしまった。ノーマルなど捨てて、手に取りなさい。そして私に仕えるといいですよ」
フミは、さも当然のように言う。確かにフミのいう通り、ファンは爵位を継ぐ位置にはいない。継承順位は二桁だ。ファンが身を立てる方法は、父親がそうであったように、自身が叙任されるしかない。
それを認め、騎士として登用しようというのがフミの言葉だった。
その上、非時より二段階も上の格にあるプロミネンスを与えられるという事は、フミの近衛兵を纏める立場に就けるという事である。
悪い話であろうはずがなく、またフミはファンが二つ返事で受けると本気で思っている。
「御流儀など、精剣が戦場の主役となる以前の遺物。棒を振るにはいいけれど、スキルを持つ精剣の間合いは見た目では計れない。故に衰退していくしかない技術。身を立てるために必要なのは、そんなカビ臭い遺物ではなく、格が高く、有効なスキルを持っている精剣だけ」
フミの評価は、そうなのだ。
ファンは棒を振り回すのが上手いだけ――。
それでも精剣を持つ剣士を平らげた事を評価し、騎士に任じようというのだから感謝しろという態度を見せる。
「近衛兵? はははッ」
ファンは態とらしく笑い、
「断る」
「バカな。そんなノーマルで、この先に何かあるというのですか? 馬鹿馬鹿しい。あるはずがない。レア度の高い精剣は――」
鼻白むフミを、今度はファンが遮る番だった。
「もう持ってる」
ノーマルの精剣を――非時を示す。
「俺が扱う剣は、エルに宿ってる非時だけだ。非時を扱うために磨いた腕だ」
ファンの目にあるのは非時であり、プロミネンスではない。格は下から2番目のアンコモン。大したスキルもなく、最下位と一緒くたにされてノーマルと呼ばれているが、
「誰も見つけられなかった俺の長所を見つけてくれた。それを好ましいと認めてくれた人がいた。その人に宿ってる剣だ。俺にとっては伝説級だ」
格に頼ったり、スキルに依存したりしないように磨いた腕は、全てエルに宿ったのが非時だったからだ。
「人より剣を大事にしてる奴にくれてやるのは、これだけだ」
最後に放ったファンの斬撃は、フミにはコマ落としにすら見えなかったはず。
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