【グラニクルオンライン】〜女神に召喚されたプレイヤーがガチクズばかりなので高レベの私が無双します〜

てんてんどんどん

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2章 人間領へ行くことになりました

11.幻夢の館

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 男は死地に向かっていた。

『幻夢の館』

 ここに集められた男達は皆全て容姿端麗の男達だった。
 みな何故か黒髪で身長が高く、似通った容姿ではあったが、彼らは各国から強制的に集められたのだ。
 ある者は婚約者と別れさせられ、ある者は家族と引き離され――酷いものは家族や恋人を殺されたものもいた。

 婚約者が生きている分――自分はまだマシだったのかもしれない。
 男はそう言い聞かせながら女が待つ部屋へと急ぐ。

 何故ここに集められたのか。
 それは――ある女性に奉仕するため。

 赤い髪のプレイヤーと呼ばれる女性。この帝国を納める一人。
 魔導士のマリアベルの逆ハーレムと呼ばれる集団の集まりだったのだ。

 そのなかかから毎夜一人呼ばれては――半数の者は死体となって帰ってくるのだ。

 生き残った者達は、皆こう言う――ただ自分は運がよかったのだと。

 癇癪持ちの彼女は少し気に入らない事があれば、すぐ男を殺してしまう。

 ただ、ただ、男達は彼女の機嫌をとるしか生き残る術はないのだ。
 それでも――その日に何か機嫌が悪くなることがあれば、男の行動など関係なしに殺される。

 本当に運でしかないのだ。
 そして、今日は運が悪い日なのである。
 帝都に会議に行った後の夜の相手はいままで全て殺されている。
 彼女は先ほど帝都の会議から機嫌悪く帰ってきたばかりなのだ。


 ――さようなら。私の愛したサリナ。出来ればまたあなたと会いたかった――

 男は覚悟を決め、マリアベルの待つ扉を開こうとし――そこで、誰かに背後から肩をたたかれた。


 △▲△▲△▲△▲△▲


「貴方が今日の私の相手?」

 甘ったるいようなお香の臭いが漂う、寝室で――女マリアベルは妖艶な下着姿で部屋にはいってきた男に微笑んだ。
 長い黒髪を背後で結び中世的な整った顔の男は

「はい。マリアベル様、今夜は私が貴方にご奉仕させていただきます」

 と、にこやかに微笑む。
 なかなか今夜の男は顔がいい。身長も高く、体つきもすらりとして執事服がよく似合っている。
 何より声が好みなのだ。まるでアニメキャラを思わせる美声に思わずマリアベルはうっとりした。

 ああ、はやくこの男のもがき苦しむ声が聞きたい。

 ――マリアベルは微笑んだ。

「じゃあ、さっさと奉仕して?」

 マリアベルが足を男の前にだすと、男はニコリと微笑んで、
「はい、かしこまりました。マリアベル様」

 言ってマリアベルの足先にキスをしようとするが、マリアベルに全力で蹴られる。

「――!?」

 男が苦痛に顔をゆがめ――マリアベルを見れば、彼女は杖をもちにこやかに笑っていた。

「誰がキスをしていいといった?このゲス豚ごときが」

 言って杖で男を殴る。

 男は苦痛で顔を歪ませるが、その顔がまたたまらない。
 男をひれ伏すこの感覚。マリアベルはぞくぞくと身体が歓喜で染まるのがわかる。

 ああ、今日のこの男はどうやって殺そう。

 現実世界では、マリアベルは、容姿のよくない女性だった。

 小さいときは容姿のせいで男子にいじめられたことすらあった。
 物を隠されたり、目の前でブスと言われたり。

 誰がマリアベルに告白するかで罰ゲームをされたり。

 現実世界では世界の全てが憎くてたまらなかった。

 だから――美しくなれるこのVRMMOはマリアベルにとっては、まるで夢のようなゲームだった。
 少し色気をだせば、男がちやほやと貢いでくれた。
 そして、何故かその夢の世界に女神によって召喚され、国を治めるよう命じられた。
 好きなことを好きなだけできるこの世界はマリアベルにとっては天国だったのだ。

 散々現実世界で自分を虐めてくれた男共を、好きなだけ痛ぶり殺す事ができる。
 その喜びに、マリアベルは歓喜の笑を浮かべた。

 ――が、そこまでだった。

 マリアベルの杖を男が軽く受け止めたのだ。

「なっ!?」

 今までになかった事態にマリアベルが驚きの声をあげる。
 いくら手加減してるからといってもレベル5~10の人間ごときがレベル200のマリアベルの攻撃を受け止められるはずがない。
 黒髪の男は杖をもったままにこりと微笑むと、一瞬で杖を手の中で粉々にしてしまう。

「――んなっ!??」

 マリアベルが、他のプレイヤーから一目置かれる理由となった精霊を呼び出す事のできるグラシクルの杖が一瞬で粉々になったのだ。

「さて、マリアベル様。
 ……どうですか?今のご気分は?」

 男が妖艶な笑みを浮かべ、立ち上がった。

「あ、あんた!?何なのよ!?」
 
 思わず一歩たじろぐマリアベル。
 そう、こんなことあるはずがない。最強の力をもつプレイヤーがNPCごときに負けるはずがない。

「黙れ、このメス豚が」

 男が言うと同時に、放たれた殺気だけで、全身の恐怖で身がすくむ。

「誰が余計な事をしゃべれといった?いまの気分がどうだか聞いていたはずだ」

 言って髪をもちそのまま身体を宙に持ち上げる。毛根が引きちぎられるかのような痛みにマリアベルが泣きながら

「い、痛いっ!!痛いっ!!やめておねがい!!」

 訴えるが、男は気にした風もなく

「まさか聞いてもらえるとでも?
 お前はそうやって泣き叫ぶ男達を何人殺した?」

 と、そのまま床に叩きつけた。
 マリアベルはその衝撃に苦痛を浮かべ――そして理解した。
 この男は強い。自分では敵わないと。

 男が殺気を抑えることなく、マリアベルを見下ろし

「コロネ・ファンバードを覚えているか?」

 聞いてくる。

 その名前をマリアベルは知っていた。彼女達がこちらの世界に来てからはじめて拷問をして殺したNPCだ。
 NPCのくせに自分たちに逆らい、攻撃をしてきた憎さから、漫画やアニメで見た知識のありとあらゆる拷問を試した。
 それなのに、どんな拷問を加えても、決して泣きわめかないその強情さに、彼女の加虐心を煽っていった。
 結果、やりすぎて殺すことになったのだが。

 思えば、マリアベルがこいういった趣味に走ったのも、あの時、男を力でねじ伏せる恍惚とした気分が忘れられないからかもしれない。

「貴方あいつの知り合いなの!?
 殺したのは悪かったわ!!でも女神様に命令されただけよ!
 私がしたかったわけじゃ」

「女神の命令で仕方なくとでも?」

 男が眉根をよせるが、マリアベルはここで引き下がるわけにはいかない。
 ここで女神のせいにできなければ、恐らく殺される。

「そうよ!!腕の紋章を手に入れてくるように言われて仕方なく……」

「笑いながら目をくりぬいておいてよく言えるな?」

 マリアベルの言い訳を、男は一蹴した。
 途端マリアベルの顔が真っ青になる。
 
 この男は、自分たちがあのイベントNPCに何をしたのか知っている。
 だからこそ、こうして復讐に現れたのだ。

「わ、悪かったわ!!お願い許して!!」

 既に彼女には命乞いしか手はない。
 自分たちが酷い事をしたというのは十分知っている。

「……だ、そうだ。どうするコロネ?」

 そう言って、男が振り返ったその先には――かつて女が殺したはずのNPC。
 コロネ・ファンバードが立っているのだった。
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