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狼心狗肺の報

81. 見覚えのある男

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ようやくベルドレッド南辺境伯の軍がアルマナ周辺へとやってきた。その数はおよそ一五〇。率いているのはモパッサだ。ソフィアはと言うと残りの二五〇を率いてモルツ村の方へと向かっていた。

この二人はベルドレッド南辺境伯が分けた隊をさらに二つに分けたのだ。片方はゲルブムを救出するためのモパッサ隊とミゲル伯爵の領地拡大を防ぐソフィア隊の二つにである。

そして、その片翼を務めるモパッサ隊がアルマナに到着したのだが、そこは既に真っ黒な廃墟と化していた。生きている人間は誰もおらず、辺りには風の音だけが響いていた。

「周辺を探索しなさい。まだ生きている者が居るやもしれません」

長い前髪を掻き分けながら兵たちに指示を出す。もちろん、自身も探索に加わる。モパッサはレガンデッドの屋敷やアルマナ城を中心に探索を試みたが、何も残っていなかった。

そう、何も残っていなかったのである。これはモパッサに不信感を抱かせるのに十分な材料であり、主犯がただの賊ではなく背後に居る誰かを確定づけることとなった。

それから兵を終結させる。どこも収穫が無しということであった。気になる報告と言えばアルマナの北側五キロほどの地点に砦を築いているという報告だろう。モパッサはこれもアシュティア家の仕業だろうと目星をつけていた。

「そうだな。挨拶くらいはしておくか」

モパッサは手勢を連れて建設中の砦へと歩みを進める。それを発見したのか砦の方から慌ただしく動く音と声が響いてきた。苦笑しながらもゆっくりと近づいていくモパッサ。

「こちらに敵意はない。私はベルドレッド南辺境伯配下のモパッサである。責任者はいずこか?」

そう尋ねると二人の男が建設中の砦から出てきた。そして、出てきた二人は見覚えのある男であった。ゆっくりとモパッサの元へと歩み寄るバルタザークとダリルフェルド。

「ほう、お前たちがこの砦を作っていたのか。なかなかどうして。機を見るに敏だな」

モパッサは髪を掻き上げながら感心する。それに応えたのはバルタザークであった。

「そりゃな。奪えるうちに奪っておかないと。後で後悔はしたくないもんでね」
「それは良い心掛けだ。それよりも、ここで何があったか知らないか?」

バルタザークはダリルフェルドに視線を送る。しかし、視線を送られたとてダリルフェルドは詳しい事情を何も把握しておらず、ただ首を横に振ることしかできなかった。

「そうか。何かわかったらすぐにこちらに知らせてくれ」
「わかった。ちなみに此間の戦はどうなったんだ?」
「そんなもの、我が方の大勝だ。こちらはドッダードルグとダドリックを討ち取っている。今も我が主が追撃中だ」

モパッサは上機嫌で戦果をバルタザークに告げる。もし、この話が事実なのであれば、この辺りもキナ臭くなってくるはずだ。

「そうか。今、そっちにジョルトを送った。良くしてやってくれ」
「其の方もセルジュ卿に伝えておけ。約束を果たす時が来た、とな」

それだけを言い残してモパッサたちは去って行った。おそらくソフィアと合流するつもりだろう。

「今の話が本当だったら不味いな」
「ああ、東辺境伯が失権すると南辺境伯に寝返るものが出てくるかもしれんしな」

二人は目を合わせて頷くと急ぎ作業へと戻ることとなった。
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