Fragment〜ショートショート集〜

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
5 / 20
三つの願い

三つの願い

しおりを挟む
 二○××年 九月二十九日 月曜日

 ある一人の老人がその生涯を閉じようとしていた。

 この老人、なんとも間が悪い人生を送ってきた。
 会社の取引先との会食ではその間の悪さから、取引を白紙にして大きな赤字を出してしまう。
 女性に告白すれば、必ずといっていいほど何かしらの邪魔が入り、結局、生涯独身となってしまった。

 そんな老人にも良い思い出が無かったのかといえば嘘になる。

 彼の唯一といっていい良い思い出は初恋の恋人との逢引であった。
 病院のベッドの上で朦朧とした意識の中、彼はその逢引で訪れた美術館で見た一枚の絵画をもういちど見たいと考えていた。

 そんな彼の前に、彼の人生を不敏に思った一匹の悪魔が姿を現し言った。

「いくつかの条件があるが、貴様の願いを三つだけかなえてやろう」

 その条件は、願いを増やす事は出来ない。寿命は延ばせない。死後、悪魔に魂をささげる。というものであった。

 老人は、人生の最後にもう一度だけ、初恋の人とあのときの絵画を見たいと考えた。
 半信半疑のまま老人はまず、若く健康な肉体を願った。
 瞬きの合間に老人は、青年の姿になっていた。

 驚きつつも、次に彼は、初恋の恋人を彼の前に現してくれるよう願った。 
 すると、彼の前に一人の女性が現れた。
 それは、当時の姿のままの恋人の姿であった。

 彼は、恋人の手をとると、

「私と、美術館に行ってはくれませんか?」

 とたずねた。
 彼女がこくりとうなずくと、彼らは、病室を後にした。

 美術館は、隣町にあるため、彼らは電車に乗りこんだ。
 電車がガタゴトと進んでいくたび、彼の心は高鳴っていった。今か今かと考えていると、突然電車が停止した。

 何事かと、周囲を見回すと、アナウンスが流れ始めた。

 どうやら、人身事故が発生したらしい。
 さらに悪い事に、復旧の目処がついていないようで、電車が動き始めるのはいつになるか分からないようだ。

 青年は己の間の悪さを嘆いた。自分は何故いつも重要なときに間が悪いのだろう。
 うなだれていると、悪魔が囁いた。

 まだ、最後の願いが残っていると。

 彼は、その事に気付くと、どうして最初からこう願わなかったのか自分をおかしく思いながら、願った。

「私達を、美術館に移動させてくれ」

 悪魔は、分かったといいつつ不敏そうな目でこちらを見ていた。

 次の瞬間、目の前には、思い出の中で訪れた美術館が現れていた。
 そして、それを見た瞬間、彼はがっくりと膝をついて項垂れ、こと切れた。

 彼らの目の前には、一枚の立札が置いてあった。

『本日休館』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...