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三つの願い
三つの願い
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二○××年 九月二十九日 月曜日
ある一人の老人がその生涯を閉じようとしていた。
この老人、なんとも間が悪い人生を送ってきた。
会社の取引先との会食ではその間の悪さから、取引を白紙にして大きな赤字を出してしまう。
女性に告白すれば、必ずといっていいほど何かしらの邪魔が入り、結局、生涯独身となってしまった。
そんな老人にも良い思い出が無かったのかといえば嘘になる。
彼の唯一といっていい良い思い出は初恋の恋人との逢引であった。
病院のベッドの上で朦朧とした意識の中、彼はその逢引で訪れた美術館で見た一枚の絵画をもういちど見たいと考えていた。
そんな彼の前に、彼の人生を不敏に思った一匹の悪魔が姿を現し言った。
「いくつかの条件があるが、貴様の願いを三つだけかなえてやろう」
その条件は、願いを増やす事は出来ない。寿命は延ばせない。死後、悪魔に魂をささげる。というものであった。
老人は、人生の最後にもう一度だけ、初恋の人とあのときの絵画を見たいと考えた。
半信半疑のまま老人はまず、若く健康な肉体を願った。
瞬きの合間に老人は、青年の姿になっていた。
驚きつつも、次に彼は、初恋の恋人を彼の前に現してくれるよう願った。
すると、彼の前に一人の女性が現れた。
それは、当時の姿のままの恋人の姿であった。
彼は、恋人の手をとると、
「私と、美術館に行ってはくれませんか?」
とたずねた。
彼女がこくりとうなずくと、彼らは、病室を後にした。
美術館は、隣町にあるため、彼らは電車に乗りこんだ。
電車がガタゴトと進んでいくたび、彼の心は高鳴っていった。今か今かと考えていると、突然電車が停止した。
何事かと、周囲を見回すと、アナウンスが流れ始めた。
どうやら、人身事故が発生したらしい。
さらに悪い事に、復旧の目処がついていないようで、電車が動き始めるのはいつになるか分からないようだ。
青年は己の間の悪さを嘆いた。自分は何故いつも重要なときに間が悪いのだろう。
うなだれていると、悪魔が囁いた。
まだ、最後の願いが残っていると。
彼は、その事に気付くと、どうして最初からこう願わなかったのか自分をおかしく思いながら、願った。
「私達を、美術館に移動させてくれ」
悪魔は、分かったといいつつ不敏そうな目でこちらを見ていた。
次の瞬間、目の前には、思い出の中で訪れた美術館が現れていた。
そして、それを見た瞬間、彼はがっくりと膝をついて項垂れ、こと切れた。
彼らの目の前には、一枚の立札が置いてあった。
『本日休館』
ある一人の老人がその生涯を閉じようとしていた。
この老人、なんとも間が悪い人生を送ってきた。
会社の取引先との会食ではその間の悪さから、取引を白紙にして大きな赤字を出してしまう。
女性に告白すれば、必ずといっていいほど何かしらの邪魔が入り、結局、生涯独身となってしまった。
そんな老人にも良い思い出が無かったのかといえば嘘になる。
彼の唯一といっていい良い思い出は初恋の恋人との逢引であった。
病院のベッドの上で朦朧とした意識の中、彼はその逢引で訪れた美術館で見た一枚の絵画をもういちど見たいと考えていた。
そんな彼の前に、彼の人生を不敏に思った一匹の悪魔が姿を現し言った。
「いくつかの条件があるが、貴様の願いを三つだけかなえてやろう」
その条件は、願いを増やす事は出来ない。寿命は延ばせない。死後、悪魔に魂をささげる。というものであった。
老人は、人生の最後にもう一度だけ、初恋の人とあのときの絵画を見たいと考えた。
半信半疑のまま老人はまず、若く健康な肉体を願った。
瞬きの合間に老人は、青年の姿になっていた。
驚きつつも、次に彼は、初恋の恋人を彼の前に現してくれるよう願った。
すると、彼の前に一人の女性が現れた。
それは、当時の姿のままの恋人の姿であった。
彼は、恋人の手をとると、
「私と、美術館に行ってはくれませんか?」
とたずねた。
彼女がこくりとうなずくと、彼らは、病室を後にした。
美術館は、隣町にあるため、彼らは電車に乗りこんだ。
電車がガタゴトと進んでいくたび、彼の心は高鳴っていった。今か今かと考えていると、突然電車が停止した。
何事かと、周囲を見回すと、アナウンスが流れ始めた。
どうやら、人身事故が発生したらしい。
さらに悪い事に、復旧の目処がついていないようで、電車が動き始めるのはいつになるか分からないようだ。
青年は己の間の悪さを嘆いた。自分は何故いつも重要なときに間が悪いのだろう。
うなだれていると、悪魔が囁いた。
まだ、最後の願いが残っていると。
彼は、その事に気付くと、どうして最初からこう願わなかったのか自分をおかしく思いながら、願った。
「私達を、美術館に移動させてくれ」
悪魔は、分かったといいつつ不敏そうな目でこちらを見ていた。
次の瞬間、目の前には、思い出の中で訪れた美術館が現れていた。
そして、それを見た瞬間、彼はがっくりと膝をついて項垂れ、こと切れた。
彼らの目の前には、一枚の立札が置いてあった。
『本日休館』
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