Fragment〜ショートショート集〜

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
18 / 20
痴漢冤罪

痴漢冤罪

しおりを挟む
「この人痴漢です‼︎」

 甲高いファルセットの叫び声が電車内に響く。

 男は呆然とした顔でセーラー服の人物を見る。
 そして、ゆっくりと両手を真上にあげると、

「・・・・・・鑑識を・・・・・・呼んでくれ」

 苦渋に満ちた表情で呟いた。

「黙れ変態!」

「おいおい痴漢なんて最低だな!」

「女の敵‼︎」

 口々にそう呟く傘を持ったおじさん。通学鞄を持つ男子高校生。パンチパーマのおじさん。

 彼らの責めに、男は自らの無実を主張する。

「俺はなにもしてない! 無実だ! 俺の手を鑑識で調べてもらえれば、その服の繊維が付いていない事が分かるはずだ‼︎」

「嘘です! この人私のお尻になにか硬いものを押し付けてきました‼︎」

 痴漢被害者は涙ながらにそう叫ぶ。

「待ってくれ! 俺は硬いものなど持っていない!」

「馬鹿か? 硬いものって言ったら、あれしかないだろう?」

 傘を持ったおじさんがそう怒鳴る。

「それこそありえない!」

「何故そう言い切れる? 素直に認めろこの変態が!」

 男は悲痛そうな顔をするとボソリと言う。

「俺の息子は数年前から、もう役割を果たせない」

 電車内に衝撃が走る。

 男は、不能だった。そして、硬いものなど持っていない。つまり、これは冤罪⁉︎

 痴漢被害者に視線が集まる。

「嘘じゃないもん‼︎ 本当に私のお尻に硬いものが当たったんだもん‼︎」

 痴漢被害者は、涙ながらにそう訴える。その涙は本物に思えた。

「では、答えは一つ。犯人は別にいる!」

 男のその言葉に再び電車内に衝撃が走る。

「わ、私じゃないぞ!」

 傘を持ったおじさんの声に、鞄を持つ男子高校生が続く。

「俺だって違う!」

 パンチパーマのおじさんが吠える。

「きっとあんたや!」

 パンチパーマのおじさんが指さしたのは傘を持ったおじさんだった。

「その子は、硬いものが当たったって言ってたわ! でも、その子の後ろのお兄さんはなにも持ってない。つまり、犯人は長い棒でその子の尻を触ったんや! そして、そんなものを持ってるのは、あんたしかいないわ!」

「ふ、ふざけるな! 何故私がそんな事をしなければならないのだ! 傘で尻を撫でてなんの意味がある⁉︎ それを言うなら、そこの坊主だって学生鞄の角で触れてたかもしれんだろうが!」

 その声に男子高校生が反論する。

「ちょっと待てよ! 俺なわけないだろ! 俺とその子のこの距離を見ろよ! 届くわけねぇだろ!」

「そんなこと知るか! 痴漢の言うことなんて当てになるか! この変態が! さっきから鼻息あたって気持ち悪いと思ってたんだ!」

 男子高校生におじさんが怒りをあらわにする。

「鼻息って、生きてるんだから仕方ねぇだろ! 息すんなって言うのかよ! つーか犯罪者みたいな顔してるって言えば、そっちのパンチパーマのおっさんだって怪しいだろうが!」

「私は女や‼︎ 失礼な奴やな‼︎」

 電車内に三度目の衝撃が走る。

「嘘つくな! どう見てもおっさんじゃねぇか!」

「なんやと? なら、見ろやこの綺麗なイナバウアーを昔フィギュアやってた美少女にしか出来ん技やで」

 そう言うと、パンチパーマのおじさん。もとい、おばさんは見事なイナバウアーを決めてみせる。

「今時、男子でもそれくらい出来るわ! そんなん証拠になるか!」

 彼らの争いを見た、痴漢被害者は混乱し、オロオロしながら叫ぶ。

「やめて! 私のために争わないで!」

「うっさいわボケ!」

 パンチパーマのおばさんが痴漢被害者の胸を押す。

 その勢いに負け、痴漢被害者は床に倒れる。そして、その衝撃でウィッグが外れる。

 それを見たその場の全員が思ったことを、パンチパーマのおばさんが代弁する。

「なんやわれ、男やないかい」

「悪いかよ! 私はこの格好が好きなのよ!」

 混沌。圧倒的混沌である。

「あの、もう帰っていいですか?」

 男は争う人々を見ながらそう呟く。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...