世界終わろう委員会

初瀬四季[ハツセシキ]

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世界終わろう委員会

ちょっとお願いがあるのよ 

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「ねぇ、紀美丹君」

 しばらくして、尾張さんがスマホから顔を上げる。

「なんですか?」

「お願いがあるのだけれど」

 上目遣いでこちらを見つめる彼女の表情に、不覚にも動揺しつつ、

「はい喜んで!」

 と、居酒屋みたいな返事をしてしまう。
 僕の無駄に前のめりな返事に若干引きつつも、尾張さんは話を続ける。

「その、言いづらい事なのだけれど・・・・・・」

 彼女が話し始めようとした時、教室の外から話し声が聞こえてくる。
 その声に気圧されたのか彼女は、

「その、此処じゃなんだから場所、移動しましょうか」

 と、僕の腕を引っ張っていく。

 今はもう使われていない旧部室棟。元文芸部の部室であったその部屋は、人通りも殆どなく、密談するにはもってこいの場所だった。

「よくこんな場所知ってましたね」

「入学式の日に学校の中を一通り見ておいたのよ」

 何の気なしにそんな返事をする尾張さん。

「なんでそんなことしてるんですか?」

「未知なものを未知なままにしておくのが苦手なのよ」

 尾張さんのそんな返事を聞き流しながら、積まれた椅子の中から、手近なものを二つ出して、向かい合わせに並べる、

「どうぞ」

「あら、ありがとう」

 椅子を少し離して座ると、ジッとこちらを見る視線に気付く。

「あの、なんですか?」

「別に」

 そういうと彼女は椅子には座らず、こちらに近づいてくる。

「あの、近くないですか?」

「そうかしら?」

 シラっとした表情でいう尾張さん。
 その行動の意味が分からずドギマギしながら、早く帰りたい一心で会話を進める。

「それで、お願いってなんですか?」

「えぇ」

 彼女は、すこし間を取ると、

「私に、教えて欲しいのよ」

 と言った。

 教えてほしい?
 この人に教えられる事が僕にあるのだろうか。僕に教えられることなんてーーーーーーーーーー。
 放課後の空き教室に二人の男女。手足が触れそうなほどに近づく距離。そこから導き出される結論は。

「人の感情を」

「えぇ、わかりました。僕も男です。据え膳食わぬは男の恥とも言いますし。お教えしましょう。それでは、ってえ? なんて?」

 思わず聞き返していた。

「だから、人の感情。心の機微を教えてほしいのよ」

「何をロボットみたいなこと言ってるんですか?」

 尾張さんは冷たい目をしながら僕を見下ろす。

「あなたこそ、一体何を想像していたのかしら。警察呼ぶわよ?」

「いえ、なんでもないです。勘弁してください」

 しかし、人の感情を教えてって何を言ってるんだろう。

「あの、尾張さんは、アンドロイドか何かなんですか?」

「貴方は一体何を言ってるの?」

 シラっとした目で見られる。

「だって、そう考えれば色々納得できたり、できなかったりするじゃないですか」

「どっちよ」

 ジトッとした目になった。

「すいません」

 尾張さんは一度ため息を吐くと、

「私って、人に比べて優秀じゃない」

「自慢ですか?」

 僕の素直な感想は一蹴される。

「黙って聞きなさい」

「はい」

 尾張さんは遠くを見つめながら続ける。

「やろうと思えば大抵のことは出来るから、出来ないって事が今までなかったのよ」

 尾張さんの人間関係がうまくいかない原因は、こういうことを人前で言っちゃうところにもあると思うなぁ。

「はあ、羨ましい人生だったんですね」

 僕の適当な返事に尾張さんは、

「そうでもないわ」

 と否定で返す。

「?」

「なんでも出来るからこそ、出来ない人に嫉妬されたり、嫌がらせされたりそんなことは日常茶飯事だったもの」

 そう呟く尾張さんは昔の苦々しい体験を思い出しているようだった。

「なるほど」

「もう、うんざりなのよ」

 それはそうだろう。
 出来ないことは出来ないのだから仕方ない。
 しかし、それと同じように出来てしまうことは出来てしまうのだ。
 波風を立てないように、それをわざと出来ないようなふりをすることは、この人の性格上出来なかったのだろう。

「だから、教えてほしいのよ。出来ない人の気持ちを」

 尾張さんの真剣な眼差しを受けて、これだけは言わなければと、僕も真剣な顔で返す。

「あの、暗に僕を出来ない人代表みたいに言うのやめてもらって良いですか?」

「あら、そんなつもりはなかったけれど」

 悪びれずにいう尾張さんに毒気を抜かれる。

「そうですか」

「でもあなた、授業中によく寝てるし、テストの順位もたしか半分より下くらいよね?」

 抜かれたはずの毒を追加で吐かれる。

「それは、理系が足を引っ張ってるだけで、文系だけならそれなりに高得点とってますよ!」

「それにいつも、ゲームするフリしながら、他人の顔色伺ってその辺にいるんだか、いないんだか分からないってポジションを獲得してるじゃない」

 バレてた。

「そんなあなただから、適任なのよ」

「・・・・・・」

 なんか納得いかない。不満そうな僕に、尾張さんは続ける。

「・・・・・・それに、さっきのアドバイスは的を射ていたと思うもの」

 そういう彼女の表情は、逆光に照らされてよく見えない。
 ただ、その声からはどこか寂寥感が漂っていた。

「だからね、あなたに手伝ってほしいのよ。私がもっと人とうまく関われるように」

 実際のところ、それが本音なのだろう。
 一人でなんでも出来るからって、孤高でいたい訳ではないのだ。
 結局彼女は、ただ不器用なだけで、誰かと仲良くしたいという気持ちに偽りはないのだ。

「わかりました。僕でよかったら」

 頭を軽くかきながら、そう言うと、彼女はニッコリと笑ったように感じた。

「良かったわ。もし断られていたら、私、あなたの世界を終わらせようと思っていたから」

 真っ暗な教室が急に寒くなったように感じた。

「ハハッ御冗談を」

 渇いた笑いが口から溢れる。

「まず、叫び声をあげます」

 尾張さんが淡々とした口調で喋りだす。

「いきなりどうしたんですか?」

 冷や汗が吹き出す。

「次に警察を呼びます」

 逆光で尾張さんの顔には暗い影が落ちている。

「尾張さん?」

「使われていない部室棟といっても、警備員さんは巡回するのよね」

 尾張さんは僕の呼びかけには答えず、独り言のように喋り続ける。

「尾張さーん?」

「叫び声を聞いた警備員さんはこの現状を見ます」

 尾張さんが、自らの服に手をかける。

「ちょっと! なんで服を着崩し始めてるんですか?」

 尾張さんの行動から目が離せない。ら

「警察が駆けつけます」

「ちょっと!? やるっていってるじゃないですか!」

 顔を掌で覆いながら、指の隙間から覗く。

「密室で押し倒される優等生と、授業中寝てる不良」

「誰が不良ですか!」

 僕への評価があんまりだった。

「あとは、いう必要もないわね」

 背中を嫌な汗が流れた。

「よろしくね? 紀美丹君?」

「・・・・・・はい」

 そういうところだと思う。

「何か言ったかしら?」

「いえ、何も」

 結論を早まったかもしれない。





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