世界終わろう委員会

初瀬四季[ハツセシキ]

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世界終わろう委員会

病院にて

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「点滴って凄いですよね」

 年齢に反して腕の良い若いナースが、設置していった点滴のチューブを見ながら呟く。

「血管に直接栄養入れるとか正気の沙汰じゃないですよ」

「いま、その点滴を受けてる人の台詞とは思えないわね」

 現在進行形で体に穴が開いているかと思うと、どこか薄寒い気分になってくる。
 強制的に脇腹に穴を開けられた直後でもあるので尚更怖い。

「だって、これヤバくないですか? 腕に異物刺さってるんですよ? しかもそれで元気になるんですよ? RPGの魔法剣っぽいですよね」

「貴方の頭にはそれしかないのかしら?」

 何故か、ため息をつかれてしまう。

「そういえば、ゲームといえば僕のスマホどうなったんですかね?」

「スマホ?」

 病院で目を覚ました時。既に僕の格好は病院着になっていた。
 その為、水城に破壊された僕のスマホの安否はまだわかっていなかった。

「はぁ。・・・・・・僕のログインボーナス。ーーというか、データ復元できるのかなぁ」

「これを機に、ゲーム卒業したらいいんじゃないかしら。どうせ、時間の無駄じゃない」

 尾張さんがゲーマーに言ってはいけないことを呟く。

「尾張さん。ーー今、全世界のゲーマーを敵にまわしましたよ?」

「でも、事実じゃない」

 どうやら、今回の戦端を開いたのは尾張さんのようだ。

「やれやれ、これだからパンピーは」

「パンピーってあなた何歳よ?」

 尾張さんが何か言っているが、今の僕には、ゲームの素晴らしさを教授する責務がある。

「一口にゲームといっても、家庭用ゲーム、パソコンゲーム、スマホゲーム、カードゲーム、ボードゲーム等様々です。これらのゲームはもちろんただ楽しいって事もありますが、しかし、これらの最も素晴らしい点は別にあります」

「なによ?」

 尾張さんが、ため息をつきながら、相槌をうつ。

「尾張さんに1番足りないものですよ。心当たりがあるでしょう?」

「私に足りないものなんて、あったかしら? まったく覚えがないわね」

 尾張さんがふざけたことを言いはじめたので、現実に引き戻すことにする。

「初めて出会った人とでも、コミュニケーションを円滑に行うことができるんですよ!」

「それは嘘ね。流石にわかるわ」

 何故か嘘と決めつけられた。

「嘘じゃないです! インターネットでは全く知らない相手でも、ゲームという共通の話題を持つことによって、オフ会まで発展することだってあるんですから!」

「オフ会ってなに?」

 尾張さんが首をかしげながら質問してくる。

「インターネットで仲良くなった人と現実で実際に会うことです。実際あったら、男性キャラクターを使用してる男性だと思ってた人が女性だったとかもよくあるそうです」

「紀美丹君もしたことあるの? オフ会」

 もちろんない。未成年だし。

「それは、今はどうでもいいことです。そんなことより! 尾張さんのようなコミュニケーション能力に難がある人こそゲームという最強のコミュニケーションツールを使用するべきだと思います!」

「誰がコミュ障よ! 私はちょっと他人の気持ちに鈍感なだけで普通よ!」

 普通ってなんだっけ。

「まぁ、まずは、やってみましょう! ここにちょうどトランプがあるので」

「なんであるのよ?」

 母親が暇つぶしにと何故かトランプを置いていった。一人でトランプをやらせようとしてたのだろうか。
 どうせなら携帯ゲームを置いていって欲しかった。

「最初はそうですね。ーーババ抜きでもしましょうか。ルール知ってます?」

「知ってるわよ流石に。でも、2人でババ抜きって結局、最後にババと、一揃いの役の三枚を取り合うことになるから、途中の作業の部分は省きましょう。時間の無駄だし」

「そういうところですよ⁉︎」

 どうやら、尾張さんは根本的にゲームを使ったコミュニケーションに向いていないかもしれない。

「だってこれ、絶対揃うじゃない?」

「まぁ、そうですけど」

 結局、ババ抜きを五回やったが、全敗した。
 おかしい。ババ抜きは運ゲーの筈なのに。

「紀美丹君ババ抜き苦手なの?」

 全勝した尾張さんは負けた僕を弄るのが楽しいようで、先程から煽ってくる。
 ババ抜きが苦手ってどういうことだ。

 まぁ、今回はゲームの有用性が証明できたので、とりあえずよしとしよう。

「紀美丹君、もしかしてゲームもあまり得意じゃないのかしら?」

 よかろうならば戦争だ。


 

 
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