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第2話
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もしも、何かあった場合を考慮し、浩太は十二分に距離をとってトラックを停めた。バックで下がり浅香通りに戻ったとしても西顕寺から右折すれば、新砂津橋まですぐだ。どちらにしろ二人には橋を越える為の算段がある。気になるのは暴徒の存在くらいだろう。
どちらにしろ今は目の前にいるトラックへ意識を向ける必要があった。
「真一、もう一度だ。それと、次は無線が壊れているのなら、手を振れと言ってくれ」
怪訝そうに眉間を狭めた真一に、浩太は無線機を促して続けた。
「基地での一件で無線が故障してるかもしれないだろ?」
もしも、これで応答がなければ、浩太は逃走を視野に入れている為、万が一の保険として、浩太は自身の疑念を真一には伝えなかった。味方がいるんだ、などと騒がれては集中力が切れるかもしれない。
「ああ、なるほどな。さすが、浩太だぜ」
頷いた真一は、無線のスイッチを押した。
「繰り返す。生きているなら返事をしてくれ。無線が壊れているなら窓から手を出してくれ」
相手のトラックが止まった。浩太は間違いなく故障している訳ではないと分かると、ギアをバックに入れる。すると、運転席側のドアガラスが落とされ、運転手が右手を振ってくる。杞憂だったかと真一が安堵の息を吐く中、浩太はギアを戻そうとはしていなかった。
不審者でも見るように、トラックを注視している。堪らず真一が訊いた。
「ん?浩太、どうしたよ?」
「……真一、お前、おかしいとは思わないのか?」
訝る浩太は、それ以上は明確にせず、無線を取った。
「お前ら誰だ?そのトラックの持ち主はどうした?」
浩太は、出された腕の服が真っ白だったことを疑問に感じた。共に動かない気味の悪い沈黙が流れる。
黙然とこちらの無線を聞き続けている人物は、恐らく、自衛官ではないと察した浩太は、目線を逸らさず、じっ、と警戒を解かずに眺め続ける。場が膠着状態に陥ってしまう中、突如、うんともすんとも反応を示さなかった無線から声が聞こえた。
「選別の時間だ……君達は善か悪か。君達を待ち受けているのは、生か死か」
意味の分からない質問に、真一は困惑した表情で言った。
「なんだそりゃ……もしかして、あれに乗ってんのは、イカれ野郎か?そうとしか思えないぜ」
「ああ、間違いないだろうな。多分、マズイことになるぞ……」
浩太の胸騒ぎの原因が形を持ったのは、その直後だった。返答に窮した二人が目にしたのは、助手席側から出された腕、それが握っていたのは、よく見慣れた銃だった。そして、最悪な事に、おだやかな雰囲気とは程遠い、暗く深い穴が二人の乗るトラックに狙いを定めていた。
「ひゃーーはははははは!選別開始ィィィィィ!」
無線から流れてきたのは、耳障りな笑い声だった。浩太はすぐさまアクセルを踏み、トラックをバックさせる。瞬間、連続した破裂音が辺りに鳴り響いた。
「おいおいおい!一体全体なんだってんだ!」
「言ってる暇があるなら撃ち返せ!こんな状況に置かれて、連中は頭がブッ飛んでやがるんだ!」
「街中歩き回る奴ら以外にも襲われるなんて、なんの冗談と思いたいぜ、ちくしょう!」
「いいから撃て!バックで浅香通りに出るまで奴らに撃たせるな!これじゃ的と変わらない!」
フロントガラスを突き破り、一発の銃弾がシートに穴を開けたのを見て、真一は尻に火がついたようだ。半ば叫びながら窓から上半身を乗り出し、引き金を限界まで絞ったが、照準が定まらない。
相手は前進するだけだが、こちらはバックで下がっているのに加えて、スピードを出している。浩太にとっても不慣れな操縦だった。
「ちくしょう!当たらないぜ!」
「構わず撃ち続けろ!もうじき抜ける!」
どちらにしろ今は目の前にいるトラックへ意識を向ける必要があった。
「真一、もう一度だ。それと、次は無線が壊れているのなら、手を振れと言ってくれ」
怪訝そうに眉間を狭めた真一に、浩太は無線機を促して続けた。
「基地での一件で無線が故障してるかもしれないだろ?」
もしも、これで応答がなければ、浩太は逃走を視野に入れている為、万が一の保険として、浩太は自身の疑念を真一には伝えなかった。味方がいるんだ、などと騒がれては集中力が切れるかもしれない。
「ああ、なるほどな。さすが、浩太だぜ」
頷いた真一は、無線のスイッチを押した。
「繰り返す。生きているなら返事をしてくれ。無線が壊れているなら窓から手を出してくれ」
相手のトラックが止まった。浩太は間違いなく故障している訳ではないと分かると、ギアをバックに入れる。すると、運転席側のドアガラスが落とされ、運転手が右手を振ってくる。杞憂だったかと真一が安堵の息を吐く中、浩太はギアを戻そうとはしていなかった。
不審者でも見るように、トラックを注視している。堪らず真一が訊いた。
「ん?浩太、どうしたよ?」
「……真一、お前、おかしいとは思わないのか?」
訝る浩太は、それ以上は明確にせず、無線を取った。
「お前ら誰だ?そのトラックの持ち主はどうした?」
浩太は、出された腕の服が真っ白だったことを疑問に感じた。共に動かない気味の悪い沈黙が流れる。
黙然とこちらの無線を聞き続けている人物は、恐らく、自衛官ではないと察した浩太は、目線を逸らさず、じっ、と警戒を解かずに眺め続ける。場が膠着状態に陥ってしまう中、突如、うんともすんとも反応を示さなかった無線から声が聞こえた。
「選別の時間だ……君達は善か悪か。君達を待ち受けているのは、生か死か」
意味の分からない質問に、真一は困惑した表情で言った。
「なんだそりゃ……もしかして、あれに乗ってんのは、イカれ野郎か?そうとしか思えないぜ」
「ああ、間違いないだろうな。多分、マズイことになるぞ……」
浩太の胸騒ぎの原因が形を持ったのは、その直後だった。返答に窮した二人が目にしたのは、助手席側から出された腕、それが握っていたのは、よく見慣れた銃だった。そして、最悪な事に、おだやかな雰囲気とは程遠い、暗く深い穴が二人の乗るトラックに狙いを定めていた。
「ひゃーーはははははは!選別開始ィィィィィ!」
無線から流れてきたのは、耳障りな笑い声だった。浩太はすぐさまアクセルを踏み、トラックをバックさせる。瞬間、連続した破裂音が辺りに鳴り響いた。
「おいおいおい!一体全体なんだってんだ!」
「言ってる暇があるなら撃ち返せ!こんな状況に置かれて、連中は頭がブッ飛んでやがるんだ!」
「街中歩き回る奴ら以外にも襲われるなんて、なんの冗談と思いたいぜ、ちくしょう!」
「いいから撃て!バックで浅香通りに出るまで奴らに撃たせるな!これじゃ的と変わらない!」
フロントガラスを突き破り、一発の銃弾がシートに穴を開けたのを見て、真一は尻に火がついたようだ。半ば叫びながら窓から上半身を乗り出し、引き金を限界まで絞ったが、照準が定まらない。
相手は前進するだけだが、こちらはバックで下がっているのに加えて、スピードを出している。浩太にとっても不慣れな操縦だった。
「ちくしょう!当たらないぜ!」
「構わず撃ち続けろ!もうじき抜ける!」
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