神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空

文字の大きさ
4 / 44

暗闇のゴブリン(3)

しおりを挟む
 人を殺しちまったんだと。
 八歳か九歳の子供だとよ。
 毎日、酒飲んで博打ですっちまってるのに一口くらい食わしてやりゃあいいのに、ほんとうにケチだね。
 小さな子供を百回も、あの拳で殴ったんだとよ。ハンマーのような拳だよ。
 あの子、なんでも二年くらい森をさまよってようやく民家にたどり着いたんだとよ。こんなところで殺されるなんてかわいそうすぎるよ。
 ゲオルク、悪魔だね。
 ゲオルク、グロイエルだね。
 ゲオルク、妖魔だね。
 人でなしゲオルク。
 ゲオルクの頭の中では人々の叱責が響き、際限なくこだました。
 ゼファイル村長の家は診療所の目と鼻の先にあった。周囲の家と比べると少し大きな建物であるが、決して豪奢ではなかった。敷地には離れがあり、そこは村の集会場であったり、事件の際の捜査本部であったり、取り調べ所となることもある。
「ゲオルクはいるかね」
 役人は離れに入るなり大きな声で叫んだ。
 若い者が数人、椅子に座るゲオルクを取り囲んでいた。この期に及んで逃げるような男でないことはわかっているが形式上、逮捕という形を取っていた。
 糸の切れた操り人形のようにうなだれるゲオルクに役人は言った。
「だいたいの事情は聞いている。そこでいくつか確かめたいことがある。ゲオルク」
「……あの子の容態はどうですか?」
 ゲオルクは顔を上げて役人の顔を見た。
「予断を許さない状態だそうだ。シュナイダー先生が明け方までヒーリングを施してくれたが、その先生も倒れた。たくさんの人に迷惑をかけるな」
「申し訳ねえです。……そうですか。それで、確かめたいこととは?」
「事件の詳細についてだ。お前は、あの子供を殴ってるとき、人とは思わなかったのか?」
「へえ、暗かったもんですから……」
「しかし、夜目は効くだろ。夜道を歩いて来たんだから」
「へえ、それが……酔ってたもんですから」
「酒には強いだろ。毎日飲んでるんだからな」
「へえ、……博打で、負けてついカッとなっちまったようです」
「毎日、負けてるだろ」
「へえ、……おっしゃる通りです。面目ねえです」
「ゲオルク、お前、人と知ってて殺そうとしたな」   
「とんでもねえ。俺でも人を殺せば罪に問われることぐらい知ってます」
「殺してどこかに埋めれば事件は表沙汰にはならん。森に捨てれば獣が食って始末してくれる。そう思ったんじゃないのか。だが、殴っている途中で妻のイルゼに見つかってやむなくそこでやめた」
「違う。とんでもねえ。信じてくだせえ」
「まあ、どちらにしても証拠がないからな。しかし、あんな幼い子供にあれだけのケガをさせてはただではすまんぞ」
「お言葉を返すようですが、お役人様。あのガキは勝手に人の家に入って食い物を漁っていたんですぜ。そっちの方が悪くねえですか」
「その点は情状酌量はある」
「そうでしょ。そうでしょ」 
 ゲオルクが役人の目を見てわずかな正当性を主張した。
「もし、ゲオルクがあの子供を殺してしまっていたら、おそらく強制労働三十年くらいだったが、いまのところ、まだ死んでない。情状酌量を加味し、運よく助かれば強制労働十五年くらいで済みそうだ」
「強制労働十五年?」
「しっかり罪を償うことだな。まだ確定ではないが」
 ゲオルクは呆然となり、うなだれた。
「とりあえず、今日は帰っていい。逃げるんじゃないぞ。逃げれば指名手配犯となる。捕まれば死罪だ。わかったな」
 ゲオルクは言葉なくうなずくだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。 果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか? ………………… 7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。 ………………… 主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...