3 / 117
暗闇のゴブリン(2)
しおりを挟む
集まって見ていた人たちがざわついた。
ゼファイル村長が近寄ると横たわるそれを観察する。
「間違いなく人だ。ゲオルク、とんでもないことをしてくれたもんだ」
死んでいるのか?
殺しちまったのか?
野次馬の中から声がする。
「まだ、生きてる。誰かシュナイダー先生を叩き起こしてこい。早く行け」
ゼファイル村長の声と同時に誰かが走った。
「先生が来るのを待つより、ここから診療所へ運んだ方がいい」と誰かが言う。
診察台に寝かせられた子供は、顔は真っ黒に変色し元の顔がわからないほどに腫れ上がっていた。鼻と口、頬と顎は切れ、今も血がしたたり落ちている。
包帯を巻こうにもすぐに血を吸って真っ赤になった。
「誰がこんなひどいことをしたんじゃ? 肋骨も何本か折れているぞ」
老齢の白髪医師シュナイダーはこれ見よがしに顔をしかめた。
シュナイダーは九十歳を超えても村々へ往診に行く矍鑠とした医師である。
「ゲオルクですわ。力任せに叩いたとか」
付き添ってきたゼファイル村長がゲオルクを睨んだ。
「ゴブリンだと思って……暗かったし、酒も飲んでたし、博打でも負けてたし……ああ、何とかしてやってくれ先生。先生にはヒーリングの力もあるんだってな。その力でなんとか助けてやってくれ。お願いだ」
「ヒーリングにも出来ることと出来ないことがある。さてさてどうかな……若い頃なら何とかなったかもしれんが……まあ、できる限りのことはやってみるつもりじゃが」
「わしからも頼みます」とゼファイル村長も頭を下げた。
「見たところ、八歳か九歳ってところかな。……今夜が峠かな」
シュナイダー先生は老齢にも拘わらず、徹夜で看病した。最後の力を振り絞るように。
山の稜線が陰影を浮かび上がらせたころ、シュナイダー先生は力尽きた。
「先生、休んでください。それ以上やると先生にもしものことが……」
エルフの看護婦がシュナイダーを気遣う。
「できる限りのことをしたつもりじゃ。後は天と君に任せるのみじゃ。わしゃ寝る」
シュナイダーは長椅子に横たわるとたちまち深い寝息を立て始めた。
そのころには一旦帰っていた役人が診療所へとやってきて包帯だらけの子供を見ながら看護婦に聞いた。
「全身真っ黒だね。泥と埃と垢でできた鎧を纏っているようだ。男の子のようだな。この子のことを知っている者はいたかね?」
「まだ、他の人とは接触はしていませんので確認はできてませんが、今のところわからないようです。でも、私、ひとつ心当たりがあるんです」
「何かね」
「身元ということではないんですが、二年ほど前のことです。この森の北の端辺りで馬車が襲撃されて二人の方が亡くなった事件を覚えてますか」
「覚えているよ。山賊かグロイエルに襲われたんじゃないかって言われた、あの事件だね」
「そのとき、馬車の中に子供用の衣類が残されてたそうですが、子供さんのご遺体は発見されてなかったと思います」
「確かに、そんなことがあったね。その時、逃げ延びた子供かもしれないってことだね」
看護婦はうなずいた。
「だったら、尚のことわからないな。その時、殺された二人も誰だかわからなかったんだから。性別もわからないほど真っ黒に焼かれてたからな。それどころかなぜ襲われたのかもわからなかった。金品も取られていなかったのだから」
「もし、その時、逃げ出して生き延びた子供だとしたら、二年もの間一人で森の中で生き延びたってことになりますね」
「そうであればすごい生命力だね。人を襲う獣もいれば魔物、妖魔、毒虫もいる。病気にもなったかもしれない。私なんか三日と生きられそうにない」
「たった一人で、生き延びたのに、こんなことって、かわいそうすぎます」
看護婦は目を潤ませた。
「ここは君に頼むよ。私はゲオルクを取り調べなければならない。悪い人物じゃないことは知っているが、ちょっと懲らしめてやらなければならないのでな」
「どうするんですか?」
「ちょっと私に考えがあってね」
そう言うと役人は診療所を出ていった。
ゼファイル村長が近寄ると横たわるそれを観察する。
「間違いなく人だ。ゲオルク、とんでもないことをしてくれたもんだ」
死んでいるのか?
殺しちまったのか?
野次馬の中から声がする。
「まだ、生きてる。誰かシュナイダー先生を叩き起こしてこい。早く行け」
ゼファイル村長の声と同時に誰かが走った。
「先生が来るのを待つより、ここから診療所へ運んだ方がいい」と誰かが言う。
診察台に寝かせられた子供は、顔は真っ黒に変色し元の顔がわからないほどに腫れ上がっていた。鼻と口、頬と顎は切れ、今も血がしたたり落ちている。
包帯を巻こうにもすぐに血を吸って真っ赤になった。
「誰がこんなひどいことをしたんじゃ? 肋骨も何本か折れているぞ」
老齢の白髪医師シュナイダーはこれ見よがしに顔をしかめた。
シュナイダーは九十歳を超えても村々へ往診に行く矍鑠とした医師である。
「ゲオルクですわ。力任せに叩いたとか」
付き添ってきたゼファイル村長がゲオルクを睨んだ。
「ゴブリンだと思って……暗かったし、酒も飲んでたし、博打でも負けてたし……ああ、何とかしてやってくれ先生。先生にはヒーリングの力もあるんだってな。その力でなんとか助けてやってくれ。お願いだ」
「ヒーリングにも出来ることと出来ないことがある。さてさてどうかな……若い頃なら何とかなったかもしれんが……まあ、できる限りのことはやってみるつもりじゃが」
「わしからも頼みます」とゼファイル村長も頭を下げた。
「見たところ、八歳か九歳ってところかな。……今夜が峠かな」
シュナイダー先生は老齢にも拘わらず、徹夜で看病した。最後の力を振り絞るように。
山の稜線が陰影を浮かび上がらせたころ、シュナイダー先生は力尽きた。
「先生、休んでください。それ以上やると先生にもしものことが……」
エルフの看護婦がシュナイダーを気遣う。
「できる限りのことをしたつもりじゃ。後は天と君に任せるのみじゃ。わしゃ寝る」
シュナイダーは長椅子に横たわるとたちまち深い寝息を立て始めた。
そのころには一旦帰っていた役人が診療所へとやってきて包帯だらけの子供を見ながら看護婦に聞いた。
「全身真っ黒だね。泥と埃と垢でできた鎧を纏っているようだ。男の子のようだな。この子のことを知っている者はいたかね?」
「まだ、他の人とは接触はしていませんので確認はできてませんが、今のところわからないようです。でも、私、ひとつ心当たりがあるんです」
「何かね」
「身元ということではないんですが、二年ほど前のことです。この森の北の端辺りで馬車が襲撃されて二人の方が亡くなった事件を覚えてますか」
「覚えているよ。山賊かグロイエルに襲われたんじゃないかって言われた、あの事件だね」
「そのとき、馬車の中に子供用の衣類が残されてたそうですが、子供さんのご遺体は発見されてなかったと思います」
「確かに、そんなことがあったね。その時、逃げ延びた子供かもしれないってことだね」
看護婦はうなずいた。
「だったら、尚のことわからないな。その時、殺された二人も誰だかわからなかったんだから。性別もわからないほど真っ黒に焼かれてたからな。それどころかなぜ襲われたのかもわからなかった。金品も取られていなかったのだから」
「もし、その時、逃げ出して生き延びた子供だとしたら、二年もの間一人で森の中で生き延びたってことになりますね」
「そうであればすごい生命力だね。人を襲う獣もいれば魔物、妖魔、毒虫もいる。病気にもなったかもしれない。私なんか三日と生きられそうにない」
「たった一人で、生き延びたのに、こんなことって、かわいそうすぎます」
看護婦は目を潤ませた。
「ここは君に頼むよ。私はゲオルクを取り調べなければならない。悪い人物じゃないことは知っているが、ちょっと懲らしめてやらなければならないのでな」
「どうするんですか?」
「ちょっと私に考えがあってね」
そう言うと役人は診療所を出ていった。
53
あなたにおすすめの小説
なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる