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お役所でひと騒動(1)
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その後、旅路は何事もなく過ごすことができた。
ただ、終始ガルディとシモンの仲は悪かった。
グラッドシュタットの街へ入るとエルンの目の色が変わった。赤い三角屋根の大きな建物が軒を連ね、石畳みの道には露店がはるか彼方まで並んでいる。
たくさんの馬車が行きかい、見たことのないほどの人々が蠢いている。
「ここがグラッドシュタットなんだ。こんなたくさんの人、見るの初めてだ。ハチの巣みたい」
「悪い人間もたくさんいるから気をつけるんだ。お前は人がいいから騙されやすい」
「気をつけるよ。ガルディさん。それじゃあ」
ガルディとは、そこで別れることにした。
「ああ、元気でな。楽しかったぞ」
ガルディは簡単に手を振って背中を見せて歩き出した。
「そっか、シモンさんもいたんだ。何もお世話になってないけど、さよなら」
「エルンはエルガー商会へ行くんだろ、ついて行ってやるよ」
「別にいいよ。人に聞けばいいだけでしょ。一人で行けますから」
「遠慮するなって……こっちだ」とエルンの襟首を引っ張って歩き始めた。
しかし、途中まで来て「どっちだったけ。こっちか?」とシモンは迷い始めた。
小一時間も歩いて通行人に道を尋ね始めた。
だったら一人で行っても同じだったとエルンは思った。
途中、役所が目に入った。そこへ立ち寄る用事があったはずだ。
——そうだ、思い出した——
「ちょっと、役所へ寄ってくるよ」
「そうだな、役所で聞けば確実だな」とシモンは的外れ。
エルンは役所の案内係で保安局の場所を聞く。
「二階の階段を上がってすぐです」と言われてそこへ向かった。
「どうするんだよ、そんなところへ行って」
エルンは革のバッグから紙切れを出した。
「これを持って行けば報奨金がもらえるはずなんです」
「何だいそりゃ」
「泥棒一家を捕まえたんです」
「お前、そんなこともやってたのか。やっぱり只者じゃねえな」
エルンは何だか照れ臭かった。
階段を上がる途中で聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの声、狼女じゃねえか。こんなところで何やってるんだ?」
シモンが首を傾げた。
階段を上がるとガルディの後姿が見えた。
保安局の窓口担当は中年の女だ。その女となにやら言い争っている。
エルンにはピンときた。ベアツァーカーの耳を持って賞金をもらいに来たんだと。
「だから俺がベアツァーカーを倒したんだって。ここに証拠があるだろ。左耳だ。本当は三頭倒したんだが、二頭は頭をふっ飛ばしちまったから無えんだ。なぜ信じねえんだ」
ガルディの尻尾がピンと立ち、毛が逆立っている。相当な立腹らしい。
「三頭?」 フンと女は鼻を鳴らした。「あの怪物を……、失礼ですがあなたがひとりで退治したとは思えないんですよ。不正はいけません」
「一人じゃねえよ仲間がいたんだよ。だけどこの街へ入って別れたんだ」
「役所では、ベアツァーカー一頭相手に十人以上の討伐隊を編成することが規則になっているほど危険魔獣です」
「てめーな、いい加減にしろ。じゃあ、これはどうしたというんだ」
「拾ったか、盗んだか……ということも考えられますからね」
保安局の担当者は顔色も変えずに淡々と言う。
エルンはガルディの横へ歩み寄るとガルディの顔を見上げた。目と目が合った。
「こいつだよ、こいつがベアツァーカーの頭をふっ飛ばしたんだ」
「帰りなさい、警備隊を呼びますよ」
エルンは報奨金の受領の紙を受付に提出した。
担当者はさらに鋭い目をエルンに向けた。
「あなたもですか?」
「何がですか?」
「あなたが、マッケンゼン一家を捕まえたと?」
「はい、そこに書いてある通りです」
エルンは澄ました顔で言う。
中年の女性担当者は机の下に置いてあったベルを手にすると力一杯鳴らした。
カラン、カラン、カラン……
役所中に聞こえるほどの音が鳴り響いた。
ただ、終始ガルディとシモンの仲は悪かった。
グラッドシュタットの街へ入るとエルンの目の色が変わった。赤い三角屋根の大きな建物が軒を連ね、石畳みの道には露店がはるか彼方まで並んでいる。
たくさんの馬車が行きかい、見たことのないほどの人々が蠢いている。
「ここがグラッドシュタットなんだ。こんなたくさんの人、見るの初めてだ。ハチの巣みたい」
「悪い人間もたくさんいるから気をつけるんだ。お前は人がいいから騙されやすい」
「気をつけるよ。ガルディさん。それじゃあ」
ガルディとは、そこで別れることにした。
「ああ、元気でな。楽しかったぞ」
ガルディは簡単に手を振って背中を見せて歩き出した。
「そっか、シモンさんもいたんだ。何もお世話になってないけど、さよなら」
「エルンはエルガー商会へ行くんだろ、ついて行ってやるよ」
「別にいいよ。人に聞けばいいだけでしょ。一人で行けますから」
「遠慮するなって……こっちだ」とエルンの襟首を引っ張って歩き始めた。
しかし、途中まで来て「どっちだったけ。こっちか?」とシモンは迷い始めた。
小一時間も歩いて通行人に道を尋ね始めた。
だったら一人で行っても同じだったとエルンは思った。
途中、役所が目に入った。そこへ立ち寄る用事があったはずだ。
——そうだ、思い出した——
「ちょっと、役所へ寄ってくるよ」
「そうだな、役所で聞けば確実だな」とシモンは的外れ。
エルンは役所の案内係で保安局の場所を聞く。
「二階の階段を上がってすぐです」と言われてそこへ向かった。
「どうするんだよ、そんなところへ行って」
エルンは革のバッグから紙切れを出した。
「これを持って行けば報奨金がもらえるはずなんです」
「何だいそりゃ」
「泥棒一家を捕まえたんです」
「お前、そんなこともやってたのか。やっぱり只者じゃねえな」
エルンは何だか照れ臭かった。
階段を上がる途中で聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの声、狼女じゃねえか。こんなところで何やってるんだ?」
シモンが首を傾げた。
階段を上がるとガルディの後姿が見えた。
保安局の窓口担当は中年の女だ。その女となにやら言い争っている。
エルンにはピンときた。ベアツァーカーの耳を持って賞金をもらいに来たんだと。
「だから俺がベアツァーカーを倒したんだって。ここに証拠があるだろ。左耳だ。本当は三頭倒したんだが、二頭は頭をふっ飛ばしちまったから無えんだ。なぜ信じねえんだ」
ガルディの尻尾がピンと立ち、毛が逆立っている。相当な立腹らしい。
「三頭?」 フンと女は鼻を鳴らした。「あの怪物を……、失礼ですがあなたがひとりで退治したとは思えないんですよ。不正はいけません」
「一人じゃねえよ仲間がいたんだよ。だけどこの街へ入って別れたんだ」
「役所では、ベアツァーカー一頭相手に十人以上の討伐隊を編成することが規則になっているほど危険魔獣です」
「てめーな、いい加減にしろ。じゃあ、これはどうしたというんだ」
「拾ったか、盗んだか……ということも考えられますからね」
保安局の担当者は顔色も変えずに淡々と言う。
エルンはガルディの横へ歩み寄るとガルディの顔を見上げた。目と目が合った。
「こいつだよ、こいつがベアツァーカーの頭をふっ飛ばしたんだ」
「帰りなさい、警備隊を呼びますよ」
エルンは報奨金の受領の紙を受付に提出した。
担当者はさらに鋭い目をエルンに向けた。
「あなたもですか?」
「何がですか?」
「あなたが、マッケンゼン一家を捕まえたと?」
「はい、そこに書いてある通りです」
エルンは澄ました顔で言う。
中年の女性担当者は机の下に置いてあったベルを手にすると力一杯鳴らした。
カラン、カラン、カラン……
役所中に聞こえるほどの音が鳴り響いた。
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