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エルガー商会へ
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役所で、ついでにエルガー商会の場所を聞いてようやくたどり着くことができた。レンガ造りの大きな建物だ。
「ここでいいよ。時間がかかると思うから。それじゃあね」
「おもしろかったぜ、お前と別れるのが惜しいぜ」とガルディが笑う。「じゃあな」
「エルン、何か困ったことがあったら、ベイツ商会を訪ねろ。そこで俺の名前を出せばわかるから」とシモン。
「何にも役に立ってくれなかったじゃない」
「だからよ、役に立ちてえんだ。お前は将来きっと大物になる。間違いねえよ。とにかく、困ったことがあったら訪ねろ」
「気が向いたらそうするよ。たぶんないと思うけど」
エルンは手を振って二人と別れた。
そしてエルガー商会のドアを押す。
正面の受付には獣族のきれいな女性が座っていて、笑顔で迎えてくれた。
エルンは歩み寄るとゼファイル村長からの推薦状を取り出した。
「社長のエルガーさんにお会いしたいのですが」
「坊や一人? 予約は取ってるの?」
「予約は取ってませんが、推薦状があります。エルガーさんにお渡しください」とエルンは手渡した。
「少々、お待ちくださいね」と丁寧に言い、席を立つと背後の部屋へと入って行った。
しばらくして戻ってくると、「四階の社長室でお会いしたいとのことです」と言われたのでエルンは階段を上がって社長室へと向かった。
エルンはこの建物に入った瞬間から、何かとてつもない複雑な魔力を感じていた。寒気がするような奇妙な感覚に苛まされていた。
——なんだろう、この感覚……——
階段を上がって四階へ上がると、社長室を探した。一つ一つドアに貼られたプレートを見ていくと、一番奥の突き当りが社長室だった。
ドアの前で身なりを整えて大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
ドアをノックする。
「入れ」と低い声が応答した。
「失礼します。初めまして、エルンスト・ラインハルトです」
社長らしき恰幅のいい中年男が窓を背に大きな机に肘をつきながらエルンを見つめていた。禿げた頭に口ひげを蓄え、片眼鏡を掛けたいかにも社長という風体の人物だった。
「お前がエルンか。話はゼファイルから聞いてるが……」
エルガー社長は眉根を寄せてエルンを凝視した。
「ここは慈善事業をしているところではないんだがな。営利を目的とした会社だ。お前のようなガキに遊びに来られても困るんだが」
「遊びに来たつもりはありません」
エルンは歓迎されてないことをはっきりと感じ取った。しかし、ここで飛び出すことはできない。他に行く当てもないのだから。
「少々、魔法が使えるからと言っていい気になるな。ここでは魔法は必要ない。仕事ができないとわかったら叩き出すからな。わかったか、エルン」
「……わかりました」
快く迎え入れてくれるとばかり思っていたエルンにとってはショックが大きかった。ここでやっていけるか不安が膨らんだ。どんな仕事かわからぬまま、とりあえず、仕事は決まったことになるのだが。
社長室を出て一階まで降りると先ほどの受付の女性が待っていてくれた。
「アパートを用意してますので案内するわ。私、メリディア。メリちゃんって呼んで。あなたはエルンね」
「あまり歓迎されてないようです。僕……」
「そんなことないと思うわよ。エルガー社長は厳しい人ですから……頑張ればきっと認めてくれるわ」
メリディアは不安そうなエルンを気遣ってか、にっこりと笑った。
しかし、エルンにはあまり励みにはならなかった。
エルガー商会を出てツーブロック先へ行ったところの狭い路地を入ったところに二階建ての古いアパートがあった。そこの二階の端がエルンの住まいとなる部屋だ。
「狭いけどね、近くに市場もあるし、生活するには不便はないはずよ。ここがあなたの新たな生活の第一歩となるところ。めげちゃだめよ。と言っても十歳なのよね、大丈夫かしら」
縦横三メートル四方の狭い空間にマットもないベッドとサイドテーブルが置いてあるだけ。サイドテーブルにはランプが一つ。ランプはオイルも空のようだ。
「明日は、まず生活するに必要な物を買い揃えてね。明後日から出勤よ。八時までに今日の受付に来くるのよ。いいわね。そこから私が案内するから」
「はい」
エルンは何だか悲しくなって涙が出そうになった。新たな生活が始まるというのに……。
メリディアはその目をじっと見ていた。
「私は戻るけど、何か質問はある?」
「僕はどんな仕事をするのかわかりますか」
「それは、……明後日、来ればわかるわ。それじゃ。そうそう当面の生活費はあるわね」
エルンがうなずくのを確かめるとメリディアはドアを閉めて足早に戻っていった。
一人残されたエルンは森で一人になった時のような寂しく悲しい孤独感に苛まれていた。
堪らず窓を開けた。隣の建物の壁が見えるだけだった。
エルンは、とりあえず買い出しに出ることにした。
その日、夕暮れになるまで生活に必要な物を買い揃え、大きな荷物を抱えて部屋に戻ったときにはすでに夕暮れとなっていた。
そして次の日も、買い出し。マット、布団、食料……何度も市場とアパートの往復をし、へとへとになってその日も終わった。
「ここでいいよ。時間がかかると思うから。それじゃあね」
「おもしろかったぜ、お前と別れるのが惜しいぜ」とガルディが笑う。「じゃあな」
「エルン、何か困ったことがあったら、ベイツ商会を訪ねろ。そこで俺の名前を出せばわかるから」とシモン。
「何にも役に立ってくれなかったじゃない」
「だからよ、役に立ちてえんだ。お前は将来きっと大物になる。間違いねえよ。とにかく、困ったことがあったら訪ねろ」
「気が向いたらそうするよ。たぶんないと思うけど」
エルンは手を振って二人と別れた。
そしてエルガー商会のドアを押す。
正面の受付には獣族のきれいな女性が座っていて、笑顔で迎えてくれた。
エルンは歩み寄るとゼファイル村長からの推薦状を取り出した。
「社長のエルガーさんにお会いしたいのですが」
「坊や一人? 予約は取ってるの?」
「予約は取ってませんが、推薦状があります。エルガーさんにお渡しください」とエルンは手渡した。
「少々、お待ちくださいね」と丁寧に言い、席を立つと背後の部屋へと入って行った。
しばらくして戻ってくると、「四階の社長室でお会いしたいとのことです」と言われたのでエルンは階段を上がって社長室へと向かった。
エルンはこの建物に入った瞬間から、何かとてつもない複雑な魔力を感じていた。寒気がするような奇妙な感覚に苛まされていた。
——なんだろう、この感覚……——
階段を上がって四階へ上がると、社長室を探した。一つ一つドアに貼られたプレートを見ていくと、一番奥の突き当りが社長室だった。
ドアの前で身なりを整えて大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
ドアをノックする。
「入れ」と低い声が応答した。
「失礼します。初めまして、エルンスト・ラインハルトです」
社長らしき恰幅のいい中年男が窓を背に大きな机に肘をつきながらエルンを見つめていた。禿げた頭に口ひげを蓄え、片眼鏡を掛けたいかにも社長という風体の人物だった。
「お前がエルンか。話はゼファイルから聞いてるが……」
エルガー社長は眉根を寄せてエルンを凝視した。
「ここは慈善事業をしているところではないんだがな。営利を目的とした会社だ。お前のようなガキに遊びに来られても困るんだが」
「遊びに来たつもりはありません」
エルンは歓迎されてないことをはっきりと感じ取った。しかし、ここで飛び出すことはできない。他に行く当てもないのだから。
「少々、魔法が使えるからと言っていい気になるな。ここでは魔法は必要ない。仕事ができないとわかったら叩き出すからな。わかったか、エルン」
「……わかりました」
快く迎え入れてくれるとばかり思っていたエルンにとってはショックが大きかった。ここでやっていけるか不安が膨らんだ。どんな仕事かわからぬまま、とりあえず、仕事は決まったことになるのだが。
社長室を出て一階まで降りると先ほどの受付の女性が待っていてくれた。
「アパートを用意してますので案内するわ。私、メリディア。メリちゃんって呼んで。あなたはエルンね」
「あまり歓迎されてないようです。僕……」
「そんなことないと思うわよ。エルガー社長は厳しい人ですから……頑張ればきっと認めてくれるわ」
メリディアは不安そうなエルンを気遣ってか、にっこりと笑った。
しかし、エルンにはあまり励みにはならなかった。
エルガー商会を出てツーブロック先へ行ったところの狭い路地を入ったところに二階建ての古いアパートがあった。そこの二階の端がエルンの住まいとなる部屋だ。
「狭いけどね、近くに市場もあるし、生活するには不便はないはずよ。ここがあなたの新たな生活の第一歩となるところ。めげちゃだめよ。と言っても十歳なのよね、大丈夫かしら」
縦横三メートル四方の狭い空間にマットもないベッドとサイドテーブルが置いてあるだけ。サイドテーブルにはランプが一つ。ランプはオイルも空のようだ。
「明日は、まず生活するに必要な物を買い揃えてね。明後日から出勤よ。八時までに今日の受付に来くるのよ。いいわね。そこから私が案内するから」
「はい」
エルンは何だか悲しくなって涙が出そうになった。新たな生活が始まるというのに……。
メリディアはその目をじっと見ていた。
「私は戻るけど、何か質問はある?」
「僕はどんな仕事をするのかわかりますか」
「それは、……明後日、来ればわかるわ。それじゃ。そうそう当面の生活費はあるわね」
エルンがうなずくのを確かめるとメリディアはドアを閉めて足早に戻っていった。
一人残されたエルンは森で一人になった時のような寂しく悲しい孤独感に苛まれていた。
堪らず窓を開けた。隣の建物の壁が見えるだけだった。
エルンは、とりあえず買い出しに出ることにした。
その日、夕暮れになるまで生活に必要な物を買い揃え、大きな荷物を抱えて部屋に戻ったときにはすでに夕暮れとなっていた。
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