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偏屈なお客様にお届け
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学校の正門のところまで来たエルンは、守衛所で居眠りする守衛を起こし「リンダ商会です。ハインツ先生のお部屋はどちらでしょうか」と聞く。
すると眠そうな守衛がよだれを拭きながら「……ああ~お前、初めての顔だな。正面の校舎を入って階段を上がって左側だ」というのでそのまま校内に向かう。
エルンの後姿を見送ると守衛はまた居眠りを始める。
あれで給料がもらえるのならいいなと思いながらエルンは校舎へと向かう。
歴史を窺わせる古い校舎だ。真上に時計台があり、その下に大きな鐘がぶら下がっている。
そんは様子を見上げながらエルンはエントランスを入る。
二階へ上がり、ハインツと書かれたプレートを探す。
それはすぐに見つけることができた。
重厚そうなマホガニーのドアをノックすると中から低音の聞き覚えのある返事。
「誰かね?」
「リンダ商会です。ご注文の書籍五冊お届けに参りました」
「入れ」
ドアを開けると、薄暗い部屋の中で机に向かって本を読んでいるあの人がいた。
「そのテーブルに置いてくれ」
エルンはちらちらとハインツを睨みながらリュックを下ろすと、中から書籍を取り出し前のテーブルへ置く。
「置いたら、さっさと帰ってくれ。忙しいんだ」
「ですが、確認してもらわないと」とエルンは半ば自棄気味に言う。
「確認か……」
ハインツは面倒くさそうに立ち上がった。
誰に対しても常に上からものを言うタイプだろうと推測できる。
書棚に並ぶ本を見ると歴史の本が多いことから魔法史の先生らしいこともわかった。
ハインツは一冊一冊手に取るとエルンを見返した。
「間違いないようだな」
「それではこれに受け取りのサインをお願いします」
エルンは受領確認書を差し出した。
ハインツは机から羽ペンを取るとサインしようとするが、ふとその手を止めた。
「ところで、この魔導書は偽物ではないだろうね」
いまさら聞くのもおかしな話だ。代金を払って、ここまで届けさせておいて、偽物なら返品する気なのだろうか?
おそらくやり取りの中でエルンの態度が癪に障ったのだろう。
「これらの書籍は偽物ではありませんが、本物でもありません」
「何だと? 本物ではないのであれば偽物ではないのかね?」
ハインツの目つきが変わった。
「この本は本物でも偽物でもないと言ってるんです」
「君は私をからかっているのかね」
「先生は僕を試していますね」
ハインツは眉間に皺を寄せてエルンを睨みつけた。
「この本は写しです。これは後世に作られた写し本です。先生はこれが本物だと思って購入されたんですか?」
ハインツは固く口を噤んだまま答えなかった。
「本物だったら、先生の給料じゃ到底買えませんよ」
「君は何と失礼なことを言うのかね」
「本物だったら国定文化財です。現在は王立図書館の厳重所蔵庫に一冊ずつあるだけです。そんなこと、先生ならご存じでしょ」
ハインツはエルンの顔をじっと見降ろしていたが突如、力が抜けたようにニヤッと笑った。
「……そうだな。試してすまなかった。たった十歳で魔導具店の店番をやっていけるか試したくてな。君はなかなか知識がありそうだ。今後とも頼むよ」
「あ、ありがとうございます」
エルンはもやもやしながらも部屋を出ようとした。
「君はダスピルクエットの魔書を知っているかね?」
「ダスピルクエットの魔書……ああ、原書は無理ですが、写しなら探すのは難しくないと思います。ですが、内容は大したことありません。あの本の内容は『バール・ボワットの魔法前夜』を参考に、いろんな本からの寄せ集めにすぎませんから、そちらの方を先に読まれた方がいいかもしれません」
「君はあの本を読んだのかね。古代ベルゼ語で書かれているはずだが」
「いいえ、古代ベルゼ語ではありません。古代ゴルチ語です。古代ゴルチ語なら何とか読めますから」
エルンは時々思うことだが、接していない魔導書の知識が溢れてきたり、見たことのない言語が読めたりする。ひょっとするとこれも神様から与えられた特別なスキルなのだろうかと。
ハインツはエルンの顔をじっと見降ろしていた。
「……そうか。よくわかった。考えておく」
エルンは部屋を出てからまずいことを言ってしまったかと思った。
先生のプライドを傷つけてしまったかと。
でも、エルンは学校っていいなと思った。いろんな声が聞こえてくる。楽しそうな声、先生の怒鳴り声、そして大勢で魔法の呪文を詠唱する声。
「ヴァッサーシュトス アウス マイネン ヘンデン!」
「ああ、これは水を出す魔法か……面白そうだな」
水を出す魔法は習得していない。エルンはちょっと覗いてみようと思った。
廊下側の窓を少し開けて覗くと講堂のような教室で三十人ほどの生徒が授業を受けている。
生徒の年はばらばらのようだ。十代の後半から二十代の半ばくらいだろうか。生徒でありながら髭を蓄えた者もいる。獣族やエルフの姿も見られた。ずんぐりしたドワーフもいるようだ。貴族ばかりじゃないんだ。
先生が手本を見せると、一人一人前へ出て試している。
ほとんどの生徒がうまくできない。数人はできたが、ほとんどはおもちゃの如雨露のようにちょろちょろと水が出る程度だった。中には何も出ない人も。これは空気中の水分を凝縮する魔法だから魔力量に比例する。だから如実に力量がわかるわけだ。
エルンは思わず笑ってしまった。
「そこにいるのは誰だね!」
老齢な魔女のような先生が怒鳴った。
「見つかっちゃった」
エルンは慌てて廊下を走った。
幸い追いかけてはこなかったが、迂闊だった。だけど、あんな程度のものかとちょっとがっかりした。きっと、初心者のクラスなのだろうと思うことにして帰途へ着いた。
帰りがけ、学校っていいなと改めて思った。たくさんの人たちと一緒に勉強がしたい。色々な知識を身に付けたい。みんなと一緒に遊びたい。みんなと一緒にご飯を食べたい。
そんな妄想が次々と浮かんだ。
すると眠そうな守衛がよだれを拭きながら「……ああ~お前、初めての顔だな。正面の校舎を入って階段を上がって左側だ」というのでそのまま校内に向かう。
エルンの後姿を見送ると守衛はまた居眠りを始める。
あれで給料がもらえるのならいいなと思いながらエルンは校舎へと向かう。
歴史を窺わせる古い校舎だ。真上に時計台があり、その下に大きな鐘がぶら下がっている。
そんは様子を見上げながらエルンはエントランスを入る。
二階へ上がり、ハインツと書かれたプレートを探す。
それはすぐに見つけることができた。
重厚そうなマホガニーのドアをノックすると中から低音の聞き覚えのある返事。
「誰かね?」
「リンダ商会です。ご注文の書籍五冊お届けに参りました」
「入れ」
ドアを開けると、薄暗い部屋の中で机に向かって本を読んでいるあの人がいた。
「そのテーブルに置いてくれ」
エルンはちらちらとハインツを睨みながらリュックを下ろすと、中から書籍を取り出し前のテーブルへ置く。
「置いたら、さっさと帰ってくれ。忙しいんだ」
「ですが、確認してもらわないと」とエルンは半ば自棄気味に言う。
「確認か……」
ハインツは面倒くさそうに立ち上がった。
誰に対しても常に上からものを言うタイプだろうと推測できる。
書棚に並ぶ本を見ると歴史の本が多いことから魔法史の先生らしいこともわかった。
ハインツは一冊一冊手に取るとエルンを見返した。
「間違いないようだな」
「それではこれに受け取りのサインをお願いします」
エルンは受領確認書を差し出した。
ハインツは机から羽ペンを取るとサインしようとするが、ふとその手を止めた。
「ところで、この魔導書は偽物ではないだろうね」
いまさら聞くのもおかしな話だ。代金を払って、ここまで届けさせておいて、偽物なら返品する気なのだろうか?
おそらくやり取りの中でエルンの態度が癪に障ったのだろう。
「これらの書籍は偽物ではありませんが、本物でもありません」
「何だと? 本物ではないのであれば偽物ではないのかね?」
ハインツの目つきが変わった。
「この本は本物でも偽物でもないと言ってるんです」
「君は私をからかっているのかね」
「先生は僕を試していますね」
ハインツは眉間に皺を寄せてエルンを睨みつけた。
「この本は写しです。これは後世に作られた写し本です。先生はこれが本物だと思って購入されたんですか?」
ハインツは固く口を噤んだまま答えなかった。
「本物だったら、先生の給料じゃ到底買えませんよ」
「君は何と失礼なことを言うのかね」
「本物だったら国定文化財です。現在は王立図書館の厳重所蔵庫に一冊ずつあるだけです。そんなこと、先生ならご存じでしょ」
ハインツはエルンの顔をじっと見降ろしていたが突如、力が抜けたようにニヤッと笑った。
「……そうだな。試してすまなかった。たった十歳で魔導具店の店番をやっていけるか試したくてな。君はなかなか知識がありそうだ。今後とも頼むよ」
「あ、ありがとうございます」
エルンはもやもやしながらも部屋を出ようとした。
「君はダスピルクエットの魔書を知っているかね?」
「ダスピルクエットの魔書……ああ、原書は無理ですが、写しなら探すのは難しくないと思います。ですが、内容は大したことありません。あの本の内容は『バール・ボワットの魔法前夜』を参考に、いろんな本からの寄せ集めにすぎませんから、そちらの方を先に読まれた方がいいかもしれません」
「君はあの本を読んだのかね。古代ベルゼ語で書かれているはずだが」
「いいえ、古代ベルゼ語ではありません。古代ゴルチ語です。古代ゴルチ語なら何とか読めますから」
エルンは時々思うことだが、接していない魔導書の知識が溢れてきたり、見たことのない言語が読めたりする。ひょっとするとこれも神様から与えられた特別なスキルなのだろうかと。
ハインツはエルンの顔をじっと見降ろしていた。
「……そうか。よくわかった。考えておく」
エルンは部屋を出てからまずいことを言ってしまったかと思った。
先生のプライドを傷つけてしまったかと。
でも、エルンは学校っていいなと思った。いろんな声が聞こえてくる。楽しそうな声、先生の怒鳴り声、そして大勢で魔法の呪文を詠唱する声。
「ヴァッサーシュトス アウス マイネン ヘンデン!」
「ああ、これは水を出す魔法か……面白そうだな」
水を出す魔法は習得していない。エルンはちょっと覗いてみようと思った。
廊下側の窓を少し開けて覗くと講堂のような教室で三十人ほどの生徒が授業を受けている。
生徒の年はばらばらのようだ。十代の後半から二十代の半ばくらいだろうか。生徒でありながら髭を蓄えた者もいる。獣族やエルフの姿も見られた。ずんぐりしたドワーフもいるようだ。貴族ばかりじゃないんだ。
先生が手本を見せると、一人一人前へ出て試している。
ほとんどの生徒がうまくできない。数人はできたが、ほとんどはおもちゃの如雨露のようにちょろちょろと水が出る程度だった。中には何も出ない人も。これは空気中の水分を凝縮する魔法だから魔力量に比例する。だから如実に力量がわかるわけだ。
エルンは思わず笑ってしまった。
「そこにいるのは誰だね!」
老齢な魔女のような先生が怒鳴った。
「見つかっちゃった」
エルンは慌てて廊下を走った。
幸い追いかけてはこなかったが、迂闊だった。だけど、あんな程度のものかとちょっとがっかりした。きっと、初心者のクラスなのだろうと思うことにして帰途へ着いた。
帰りがけ、学校っていいなと改めて思った。たくさんの人たちと一緒に勉強がしたい。色々な知識を身に付けたい。みんなと一緒に遊びたい。みんなと一緒にご飯を食べたい。
そんな妄想が次々と浮かんだ。
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