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最悪な一日・前編

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「…カイウスは怪我していない?大丈夫?」

「あぁ、でもライムに手当てされるなら怪我も悪くない」

「だ、ダメだよ!!」

「冗談だ」

カイウスに頭を撫でられて、ホッと胸を撫で下ろした。

俺はカイウスと一緒に汗を流そうとシャワー室に向かった。
そんな俺達をジッと見る影があった。

「アイツがライムさんを弱くしているんだ…アイツが…」と呟く声は誰にも聞かれる事はなかった。

カイウスと別れて、教室に戻ると皆が俺を見ていた。
陰口を言うわけではなくて、ただ見られて居心地が悪かった。

「ライム・ローベルト、来い」

「えっ…あの…」

「早くしろ、手を煩わせるな」

教師に言われて、強く腕を掴まれて教室から連れ出された。
カイウスと待ち合わせしているのは昼休みだ、まさかこんな早く呼ばれるとは思っていなかった。

次の授業はいいのかと思っていたら、生徒指導室に押し込まれた。

今日は怒られる事はしていないのに、何の用なんだ?

鞭を持ち、だんだん近付いて来る教師に座った状態で後ずさる。
狭くない生徒指導室だと、すぐに壁に背中がくっ付いた。

「俺、何もしてない…」

「何を言っている、授業中に危険な行為をしたと大勢の生徒達から聞いたが?」

「……危険?」

「カイ様の武器を奪い、カイ様に危害を加えようとしたようだな……普段なら死刑だが、生徒の罪は私が直々に裁いてやろう」

そう言った教師は鞭を伸ばして、俺の首に鞭が巻きついた。
鞭を掴むが、喉に食い込んで息が出来なくなる。

カイウスの武器を奪ったのは俺ではないが、喉が塞がれて声が出ない。
眉を寄せる、そんなに時間はもたない。

教師の気持ち悪い笑みが見える、俺をいたぶって楽しいという顔だ。

ギリギリと音が聞こえて来て、だんだん意識が遠のく。

「こういう奴は口で言っても意味がない」

首の苦しみがなくなり、思いっきり息を吸い込んでむせた。
涙目になりながら目の前を見つめる。

「…あ、う…」

「大丈夫?ライム、すぐにコイツを始末するから待っててね」

目の前にいたのは暴走したカイウスだった。
カイウスは教師の首を掴んで、持ち上げていた。

今度は教師の方が恐怖の顔をして顔を歪ませて苦しそうだ。
教師の首回りに真っ黒な輪っかが現れた。

「すぐに殺すのはもったいないな、じわじわ切り刻むのもいいな」

後ろからカイウスの顔は分からないが、楽しそうな声だ。
教師は足をばたつかせていて、逃げようとしていた。

俺はカイウスの腕を掴むと、カイウスは俺の方を見た。

こんなところで人なんて殺したら、カイウスだって誰かにバレるかもしれない。
首を横に振ると、カイウスの手から力が抜けて教師が床に落とされた。

「ライムは優しいなぁ」と、カイウスが柔らかい表情を見せる。
俺の頬に優しく触れられて、俺も手を重ねた。

大きな物音が聞こえて、そちらを見ると既に教師が近くにあった椅子を持ち振り上げているところだった。

「死ねぇ!!化けもっ」

カイウスは俺が見る前に頭を撫でる手とは逆の腕を上げていて、すぐに振り下ろした。
椅子が床に叩きつけられる音が部屋中に響いた。

カイウスは「正当防衛だから、いいよね」と俺に向かって言っていた。

分かってたんだ、解放したらああいうタイプは反撃してくると…

俺は何も言えず、カイウスを見つめるとカイウスの顔が近付いたと思ったら動きを止めた。

死体を見るのが怖くてずっとカイウスの顔を見ていたから首を傾げた。

「カイウス?」

「ライム…これ…」

カイウスの指が首筋に触れて、そんなわけないのに首を絞められたばかりだから肩がビクッと震えた。
カイウスは目を見開いたまま、後ろを振り返った。

カイウスの表情が引っかかり、服を掴む。
でもカイウスは止まる事なく、血を流して倒れている死体の前で足を止めた。

「俺のライムに傷を付けた、もっと痛めつけてやれば良かった」とブツブツ呟いている。
死体には首がなくて、まだなにかしようとカイウスは手をかざしていた。

もういい、これ以上カイウスの手を汚したくない!
カイウスの腕にしがみつくと、やっとカイウスは俺を見た。

「…ライム、危ない…背中の傷だけでも殺したりないのに、またライムに傷をつけた」

「俺はもう大丈夫だから、カイウス!!」

カイウスに触れるだけじゃ、治らなくなった暴走…俺の愛で正気に戻したい。

カイウスの手を掴むと、手のひらに軽く口付けた。
唇を離して、カイウスを見上げると元の姿に戻っていた。

カイウスに抱きつくと、優しく包み込んでくれた。

このまま死体を放置したら俺のせいになるからとカイウスは部下の騎士を学校に呼んだ。
あの教師は自分のお気に入りの生徒を呼び出しては力で支配して、最悪殺人も繰り返していたらしい。

カイウスはその事を理由に教師を呼び出すつもりだったと教えてくれた。
もしあのままだったら、俺も殺されていたのかもしれない。






カイウスは騎士団の仕事に行ってしまい俺だけ教室に戻った。

クラスメイト達は俺の事より、騎士団が学校にやってきた事が気になっていた。

授業はいつも通り行われ放課後になり、彼が諦めるとは思っていなくてまたなにか言ってくるかと思ったが教室に戻ってきた彼は何も言わなかった。
アレで諦めてくれたならいいが、何だか違和感を覚えた。

そのままカバンを持って、学校を出た。

今日はきっと厄日なのだろう…まだ今日は続いていた。
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