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Ⅰ 力を喰らう力
1-4.
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バルカへ来て半年。戦闘から一般職にまで食指を伸ばし、相変わらず喰えるものを喰いまくる毎日を送っている。得た力は枚挙にいとまがないほどだが、感覚的にどう活かすかは、常に試して馴染ませなければならない。
そこで、冒険者としての本分、依頼業務を併行してこなしていくわけだが……
───冒険者ギルド『バルカ支部』
「ライフポーション用と毒消し用ハーブ、各50本ずつ。確かに納品承りましたっ。カイルさん、いつも丁寧なお仕事をありがとうございます」
今日も〝隠れ蓑用〟のE級依頼を済ませ、報告する。
ハーブ採取は結構骨が折れる作業で、コツコツとやっている気のいいおじさん冒険者を演じるのも楽じゃない。まあ、ポーションから得た薬師スキルで、様々な薬品作成にも役に立っているから、まさに一石二鳥だ。
精算を待っていると、待合テーブルにいる冒険者たちの噂話が耳に入って来た。
「なあ聞いたか。最近、ゴブリンやコボルトの集落が次々と潰されてるって話」
「あれだろ、魔物同士でやり合ってるっていう」
「物騒だが……とにかく魔物が減るんならありがてえ。街道も最近、安心して通れるって話だしな。誰かさん様々だぜ」
「ははっ、俺らの食い扶持は減るが……平和が一番だな」
俺は他人事のように、その談笑を耳にしていた。功績を誇る気など毛頭ない。今は……次に鍛錬できる場所を探し、どう強化を積むか。そのことだけを考えている。
(ゆるやかな中で、俺だけ飢えた狼のようだな)
ふと笑みが漏れる。
精算金を受け取り、出ようとした時だった。
「た、助けてくれっ……」
突然、扉が勢いよく開き、血に塗れた農夫が転がり込んできた。全身、転がり落ちたかのようにボロボロになりながら、息も絶え絶えに叫んでいる。
「ど、どうしたってんだ、あんた」
「悪食の巨鬼が……オーガがっ、村に……ごほっ」
「な、なんだとっ。本当なのかっ」
一瞬、場の空気が凍りつく。
「馬鹿な、この辺りは安全圏のはずだぞ」
「どこから流れてきやがった……」
男は気を失った。居合わせた僧侶がヒールを当て、職員たちも駆け付ける。あっという間に騒然とし始める場内。俺が知る限り、この支部でかつてない戦慄が走っている。それもそうだろう。
悪食の巨鬼。その歩く先、人はおろか魔獣であろうとも、目についたもの全てを殴り殺し、食らい続けるという。討伐ランクはCだが、C級パーティ1組程度ではどうにもならない相手だ。
(〝厄災〟だな……だが、どうだ。誰かさんと似てるんじゃないのか)
そう考えるなり、胸の奥で何かが蠢く。だが、今はまだ様子を見るべきだ。
ギルドから至急、村へ調査隊を派遣すると言っている。依頼を受けたD級パーティ四人は、バルカ支部を支える中堅どころ。対峙すればとてもかなう相手ではない。あくまで状況確認ということだったのだが……俺にはイヤな予感しかなかった。
翌日昼。来るなりギルドは騒然としていた。
調査の結果は惨憺たるものだった。村は壊滅。パーティは運悪く遭遇してしまい、命からがら戻ったものの───帰って来たのは三人。全員、恐怖と悔し涙に顔を歪めていた。
「突然に現れて……たったの、たったの一撃で、おれたちをっ」
「あいつが庇って……だけど、盾ごと潰された。それで、頭から……食っ、…うううう」
誰もが息をのむ。絶叫しながら泣く者もいる。食われたという戦士は、俺も酒場でよく席を共にした男だった。豪快で、馬鹿話ばかりしていたが……
「緊急事態だっ。領主様に報告してB級冒険者の手配をっ」
「ぐずぐずしていられん。C級でもD級でも、集められるだけ集めろ。あのすぐ近くにも村はあるんだっ」
「おい待て、その導線で行くと、このバルカの町にも……」
場に居る全員が、一気に青ざめた。もはや狂騒寸前。上級パーティが常在している王都ならいざ知らず、田舎町としては早々に避難を進めるべきかもしれない。
俺は指輪を見て、拳を握りしめる。胸に宿る、周囲と真逆の熱い炎。
(俺が行ったところで、果たして───いや。行きたいんだろ、〝俺〟)
突き動かしてくる衝動を押さえ込み、俺は不敵に笑ってギルドを出た。
◆
馬を駆けて数刻。件の村近くの峡谷にて、オーガを早速見つけることが出来た。
不気味な青灰の肌は昼間の岩肌によく映える。そんな目立つこともおかまいなしに、丸太のようなデカい棍棒を振りながら、悠然と歩いている。
「はっ。天敵の居ない野郎は、こうも隙だらけになるのかね」
くちゃくちゃと汚らしく動かす口元を見てみれば……どうも人間の足らしい。腰元には、まるで干し肉をぶら下げるかのごとく、人間の腕や足、頭までがぶら下げられている。
「俺たちは〝おやつ〟ってか」
以前の俺なら、その凄惨さで即座に吐いていただろう。だが今湧き上がるのは、頭を突き抜けるほどの怒りと殺意のみ。
俺は高台からヤツの進行をよく確認する。さて……どう出るか。こいつにコボルトやゴブリン相手の小手先の罠が通じるとは思えない。だが、注意を引くことぐらいは出来る。
「よし、手順は決まった」
俺はヤツより数百メートル先行し、準備を始めた───
◆
準備を整え、俺は岩肌の高所にある窪みから、息を殺してオーガが来るのを待ち構える。
地面を震わせながら、ゆっくりと歩いてくる。
ぎろり、黄色い目でひと睨み。道の真ん中に結わえておいた俺の馬に気付くと、よだれを腕で拭きながら嬉しそうに近づいていく。
「そいつは帰りに必要なんだ。絶対食わせんぞっ」
土魔法【ロックフォーム】で作っておいた岩っころと、ディグバリで岩盤に亀裂を入れ崩落。ガラガラとオーガ目がけて落としていく。埃を掃うように腕で岩を弾ねていくも、こいつはただの目くらまし。
崩落と並んで滑り落ちながら、俺はヤツの頭上へと飛んだ。黄色い眼光が俺を捉えた、その瞬間。
「食らいやがれっ」
俺は手桶いっぱいに満たしておいた、オオドクムカデの毒液を一気にぶちまけた。
「グゴァアッ?」
顔を抑えて悶えながら、デカい棍棒をやたらめったらに振り回す。
「ははっ、俺の備蓄全放出だ。ありがたく味わえっ」
ひるんだ隙に乗じ、奮発した鋼鉄の剣を取り出し【薙ぎ払いⅡ】【連撃Ⅰ】で何度も両足へ斬りつけていく。切り傷から赤黒い血がうっすらと滲みだした。
「さすがに硬いが、ちゃんと通って───っとぉ?」
きっちりと俺に向かって振り下ろされる棍棒。紙一重でかわすも、地面が割れた。当たれば確実にぺちゃんこだ。
怒りに興奮しつつ、片目を抑えながら、確実に毒をぬぐい取っている。
「しっかり触っとけよ。そいつは神経毒だ。お前の動きを徐々に奪うぜっ」
少し動きが鈍ってきている。チャンスだ。足首内側に【振り下ろしⅡ】と【かち割り】を合わせて叩き込む。動脈をぶった切り、初めてダメージらしい血の噴出が起こった。
「手ごたえありっ。これで持久戦に持ち込め───ぐをっ!?」
ゴギッという音とともに、俺の側面に衝撃が。棍棒のスイングが綺麗に決まり、俺は思いっきり跳ね飛ばされ、岩肌へと叩きつけられた。
「うう……げぼっ」
腹からこみ上げてきた血を吐く。頭を強く打ったらしく、目の前が少しダブって見える。そんな中でも俺は「情報窓」を呼び出し、確認を取った。
「ぐくっ……ライフポーション小、100本分の『代替生命』が全部吹き飛んじまってる」
『能喰い』ならではの特性、ライフポーションでダメージを肩代わりする被膜を形成していたんだが……「たったの一撃で」───調査から帰って来たやつらの言葉を、身をもって思い知った。
「だが、まだ生きてるっ。今の一撃で始末できなかったことを、後悔させてやるっ」
俺はなけなしのハイライフポーションを手から振り出し、ぐびぐびと飲んでは、頭にぶっかけた。これでもう予備は無い。だが勝算はゼロじゃない。俺はべっと血の混じった唾を吐き、膝を押して立ち上がった。
鈍い動きで、左脚を引きずるようにこちらへと向かってくるオーガ。どうやらお互い様のようだ。俺は身体を大の字に広げた。
「さあ、打ってこいっ。勝つのは俺だっ!」
怒りで牙を剥き出し、巨大な棍棒を俺めがけて振り下ろす。俺は受けの姿勢で、両手の平に気を込めた。
「『能喰い』よっ! こいつの得物を喰らえっ」
左手の指輪が光り、激しく脈打つ。棍棒は手に触れた瞬間、ぎゅるぎゅるとその形を歪め、俺の手に吸い込まれていった。
振り下ろしが思いっきり空を切り、己の両手を見ながら戸惑うオーガ。俺は奪い取った得物の、巨大すぎる暴力の記憶に激しく高揚を覚えたが、感無量になるには早すぎる。態勢を整えるべく……そして、決着をつけるべく。岩肌を斥候スキル【壁走り】で駆けあがった。
突き出たところで仁王立ちになり、オーガを見下ろす。武装が無くなっただけで、随分と貧相になったものだ。
体術スキル【豪体Ⅰ】を全身に宿し……【かち割り】【振り下ろしⅡ】、そして喰いたてのオーガの棍棒スキル【粉砕剛撃】を全乗せ。最後の一撃は整った。
両拳を振り上げ、突進してくる。俺は岩肌を蹴り上げ飛び降りた。
手から振り出したヤツの巨大棍棒。それを両腕で抱え込むようにして、ヤツの頭めがけて振り下ろした。
「これがっ……お前の死だあ───っ」
バキボキと頭蓋を砕き、顎を圧し潰し、首元へめり込ませていく。そのまま地に落ち、受け身を上手く取れず転がる俺。見上げれば、両肩の間に在った頭が無い。代わりに、間欠泉のように赤黒い血を吹きだしている。
ほどなくして、ぐらりとその巨躯をゆらし……轟音を響かせながら、地へと伏した。
オーガはもう、ピクリとも動かない。死んだ。そして俺は、勝った。
「うおおおお───っ!」
俺は両拳を振り上げ、あらんばかりの咆哮を上げた。底辺職だった男の勝鬨を、峡谷中に響きわたらせるかのように。
◆
───翌日。
『オーガの死骸、峡谷で発見』
ギルドの掲示板に張り出された速報。酒場ではそれを肴に誰もが盛り上がっていた。
「いったい……誰がやったんだ?」
「〝誰〟じゃねえよ。頭が両肩の間にめり込んでたって言うんだぜ」
「ならやっぱり、こないだから噂になってる、魔物同士のやり合いか」
「しかし、オーガだぞ。あんなのを倒す魔物っていやあ……」
「やめろ。とにかく厄災は去った。今はそれでいいじゃねえか」
騒ぐ声を背に、俺はカウンター席で木製ジョッキを傾ける。いつもの若い冒険者が目敏く俺を見つけ、絡んできた。
「お、カイルさん。今日は飲んでるの珍しいじゃん」
「お祝いだ。せっかく危機が去ったんだ。今日ぐらいは節約お休みでいいだろう」
「だよなあ。ほんっとどうなるかって……あれ、もう一杯ビール置いてあるじゃん」
「こいつは弔いだよ、あの戦士のな」
「カイルさん……」
若いのは少し鼻をすすると、俺の肩をたたいて向こうへ行った。ほどなくして、誰彼となくジョッキを持ち合い、弔いの歌を歌い始めた。
「お~いっ。カイルさんもこっち来て、一緒にやろうぜ!」
みんな、いいやつばかりだ。それを救うことが出来たんだ。今日だけは自分を誇っていい。そう思いながら、俺は皆と一緒にジョッキを高く掲げ、飲み干した。
そこで、冒険者としての本分、依頼業務を併行してこなしていくわけだが……
───冒険者ギルド『バルカ支部』
「ライフポーション用と毒消し用ハーブ、各50本ずつ。確かに納品承りましたっ。カイルさん、いつも丁寧なお仕事をありがとうございます」
今日も〝隠れ蓑用〟のE級依頼を済ませ、報告する。
ハーブ採取は結構骨が折れる作業で、コツコツとやっている気のいいおじさん冒険者を演じるのも楽じゃない。まあ、ポーションから得た薬師スキルで、様々な薬品作成にも役に立っているから、まさに一石二鳥だ。
精算を待っていると、待合テーブルにいる冒険者たちの噂話が耳に入って来た。
「なあ聞いたか。最近、ゴブリンやコボルトの集落が次々と潰されてるって話」
「あれだろ、魔物同士でやり合ってるっていう」
「物騒だが……とにかく魔物が減るんならありがてえ。街道も最近、安心して通れるって話だしな。誰かさん様々だぜ」
「ははっ、俺らの食い扶持は減るが……平和が一番だな」
俺は他人事のように、その談笑を耳にしていた。功績を誇る気など毛頭ない。今は……次に鍛錬できる場所を探し、どう強化を積むか。そのことだけを考えている。
(ゆるやかな中で、俺だけ飢えた狼のようだな)
ふと笑みが漏れる。
精算金を受け取り、出ようとした時だった。
「た、助けてくれっ……」
突然、扉が勢いよく開き、血に塗れた農夫が転がり込んできた。全身、転がり落ちたかのようにボロボロになりながら、息も絶え絶えに叫んでいる。
「ど、どうしたってんだ、あんた」
「悪食の巨鬼が……オーガがっ、村に……ごほっ」
「な、なんだとっ。本当なのかっ」
一瞬、場の空気が凍りつく。
「馬鹿な、この辺りは安全圏のはずだぞ」
「どこから流れてきやがった……」
男は気を失った。居合わせた僧侶がヒールを当て、職員たちも駆け付ける。あっという間に騒然とし始める場内。俺が知る限り、この支部でかつてない戦慄が走っている。それもそうだろう。
悪食の巨鬼。その歩く先、人はおろか魔獣であろうとも、目についたもの全てを殴り殺し、食らい続けるという。討伐ランクはCだが、C級パーティ1組程度ではどうにもならない相手だ。
(〝厄災〟だな……だが、どうだ。誰かさんと似てるんじゃないのか)
そう考えるなり、胸の奥で何かが蠢く。だが、今はまだ様子を見るべきだ。
ギルドから至急、村へ調査隊を派遣すると言っている。依頼を受けたD級パーティ四人は、バルカ支部を支える中堅どころ。対峙すればとてもかなう相手ではない。あくまで状況確認ということだったのだが……俺にはイヤな予感しかなかった。
翌日昼。来るなりギルドは騒然としていた。
調査の結果は惨憺たるものだった。村は壊滅。パーティは運悪く遭遇してしまい、命からがら戻ったものの───帰って来たのは三人。全員、恐怖と悔し涙に顔を歪めていた。
「突然に現れて……たったの、たったの一撃で、おれたちをっ」
「あいつが庇って……だけど、盾ごと潰された。それで、頭から……食っ、…うううう」
誰もが息をのむ。絶叫しながら泣く者もいる。食われたという戦士は、俺も酒場でよく席を共にした男だった。豪快で、馬鹿話ばかりしていたが……
「緊急事態だっ。領主様に報告してB級冒険者の手配をっ」
「ぐずぐずしていられん。C級でもD級でも、集められるだけ集めろ。あのすぐ近くにも村はあるんだっ」
「おい待て、その導線で行くと、このバルカの町にも……」
場に居る全員が、一気に青ざめた。もはや狂騒寸前。上級パーティが常在している王都ならいざ知らず、田舎町としては早々に避難を進めるべきかもしれない。
俺は指輪を見て、拳を握りしめる。胸に宿る、周囲と真逆の熱い炎。
(俺が行ったところで、果たして───いや。行きたいんだろ、〝俺〟)
突き動かしてくる衝動を押さえ込み、俺は不敵に笑ってギルドを出た。
◆
馬を駆けて数刻。件の村近くの峡谷にて、オーガを早速見つけることが出来た。
不気味な青灰の肌は昼間の岩肌によく映える。そんな目立つこともおかまいなしに、丸太のようなデカい棍棒を振りながら、悠然と歩いている。
「はっ。天敵の居ない野郎は、こうも隙だらけになるのかね」
くちゃくちゃと汚らしく動かす口元を見てみれば……どうも人間の足らしい。腰元には、まるで干し肉をぶら下げるかのごとく、人間の腕や足、頭までがぶら下げられている。
「俺たちは〝おやつ〟ってか」
以前の俺なら、その凄惨さで即座に吐いていただろう。だが今湧き上がるのは、頭を突き抜けるほどの怒りと殺意のみ。
俺は高台からヤツの進行をよく確認する。さて……どう出るか。こいつにコボルトやゴブリン相手の小手先の罠が通じるとは思えない。だが、注意を引くことぐらいは出来る。
「よし、手順は決まった」
俺はヤツより数百メートル先行し、準備を始めた───
◆
準備を整え、俺は岩肌の高所にある窪みから、息を殺してオーガが来るのを待ち構える。
地面を震わせながら、ゆっくりと歩いてくる。
ぎろり、黄色い目でひと睨み。道の真ん中に結わえておいた俺の馬に気付くと、よだれを腕で拭きながら嬉しそうに近づいていく。
「そいつは帰りに必要なんだ。絶対食わせんぞっ」
土魔法【ロックフォーム】で作っておいた岩っころと、ディグバリで岩盤に亀裂を入れ崩落。ガラガラとオーガ目がけて落としていく。埃を掃うように腕で岩を弾ねていくも、こいつはただの目くらまし。
崩落と並んで滑り落ちながら、俺はヤツの頭上へと飛んだ。黄色い眼光が俺を捉えた、その瞬間。
「食らいやがれっ」
俺は手桶いっぱいに満たしておいた、オオドクムカデの毒液を一気にぶちまけた。
「グゴァアッ?」
顔を抑えて悶えながら、デカい棍棒をやたらめったらに振り回す。
「ははっ、俺の備蓄全放出だ。ありがたく味わえっ」
ひるんだ隙に乗じ、奮発した鋼鉄の剣を取り出し【薙ぎ払いⅡ】【連撃Ⅰ】で何度も両足へ斬りつけていく。切り傷から赤黒い血がうっすらと滲みだした。
「さすがに硬いが、ちゃんと通って───っとぉ?」
きっちりと俺に向かって振り下ろされる棍棒。紙一重でかわすも、地面が割れた。当たれば確実にぺちゃんこだ。
怒りに興奮しつつ、片目を抑えながら、確実に毒をぬぐい取っている。
「しっかり触っとけよ。そいつは神経毒だ。お前の動きを徐々に奪うぜっ」
少し動きが鈍ってきている。チャンスだ。足首内側に【振り下ろしⅡ】と【かち割り】を合わせて叩き込む。動脈をぶった切り、初めてダメージらしい血の噴出が起こった。
「手ごたえありっ。これで持久戦に持ち込め───ぐをっ!?」
ゴギッという音とともに、俺の側面に衝撃が。棍棒のスイングが綺麗に決まり、俺は思いっきり跳ね飛ばされ、岩肌へと叩きつけられた。
「うう……げぼっ」
腹からこみ上げてきた血を吐く。頭を強く打ったらしく、目の前が少しダブって見える。そんな中でも俺は「情報窓」を呼び出し、確認を取った。
「ぐくっ……ライフポーション小、100本分の『代替生命』が全部吹き飛んじまってる」
『能喰い』ならではの特性、ライフポーションでダメージを肩代わりする被膜を形成していたんだが……「たったの一撃で」───調査から帰って来たやつらの言葉を、身をもって思い知った。
「だが、まだ生きてるっ。今の一撃で始末できなかったことを、後悔させてやるっ」
俺はなけなしのハイライフポーションを手から振り出し、ぐびぐびと飲んでは、頭にぶっかけた。これでもう予備は無い。だが勝算はゼロじゃない。俺はべっと血の混じった唾を吐き、膝を押して立ち上がった。
鈍い動きで、左脚を引きずるようにこちらへと向かってくるオーガ。どうやらお互い様のようだ。俺は身体を大の字に広げた。
「さあ、打ってこいっ。勝つのは俺だっ!」
怒りで牙を剥き出し、巨大な棍棒を俺めがけて振り下ろす。俺は受けの姿勢で、両手の平に気を込めた。
「『能喰い』よっ! こいつの得物を喰らえっ」
左手の指輪が光り、激しく脈打つ。棍棒は手に触れた瞬間、ぎゅるぎゅるとその形を歪め、俺の手に吸い込まれていった。
振り下ろしが思いっきり空を切り、己の両手を見ながら戸惑うオーガ。俺は奪い取った得物の、巨大すぎる暴力の記憶に激しく高揚を覚えたが、感無量になるには早すぎる。態勢を整えるべく……そして、決着をつけるべく。岩肌を斥候スキル【壁走り】で駆けあがった。
突き出たところで仁王立ちになり、オーガを見下ろす。武装が無くなっただけで、随分と貧相になったものだ。
体術スキル【豪体Ⅰ】を全身に宿し……【かち割り】【振り下ろしⅡ】、そして喰いたてのオーガの棍棒スキル【粉砕剛撃】を全乗せ。最後の一撃は整った。
両拳を振り上げ、突進してくる。俺は岩肌を蹴り上げ飛び降りた。
手から振り出したヤツの巨大棍棒。それを両腕で抱え込むようにして、ヤツの頭めがけて振り下ろした。
「これがっ……お前の死だあ───っ」
バキボキと頭蓋を砕き、顎を圧し潰し、首元へめり込ませていく。そのまま地に落ち、受け身を上手く取れず転がる俺。見上げれば、両肩の間に在った頭が無い。代わりに、間欠泉のように赤黒い血を吹きだしている。
ほどなくして、ぐらりとその巨躯をゆらし……轟音を響かせながら、地へと伏した。
オーガはもう、ピクリとも動かない。死んだ。そして俺は、勝った。
「うおおおお───っ!」
俺は両拳を振り上げ、あらんばかりの咆哮を上げた。底辺職だった男の勝鬨を、峡谷中に響きわたらせるかのように。
◆
───翌日。
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「いったい……誰がやったんだ?」
「〝誰〟じゃねえよ。頭が両肩の間にめり込んでたって言うんだぜ」
「ならやっぱり、こないだから噂になってる、魔物同士のやり合いか」
「しかし、オーガだぞ。あんなのを倒す魔物っていやあ……」
「やめろ。とにかく厄災は去った。今はそれでいいじゃねえか」
騒ぐ声を背に、俺はカウンター席で木製ジョッキを傾ける。いつもの若い冒険者が目敏く俺を見つけ、絡んできた。
「お、カイルさん。今日は飲んでるの珍しいじゃん」
「お祝いだ。せっかく危機が去ったんだ。今日ぐらいは節約お休みでいいだろう」
「だよなあ。ほんっとどうなるかって……あれ、もう一杯ビール置いてあるじゃん」
「こいつは弔いだよ、あの戦士のな」
「カイルさん……」
若いのは少し鼻をすすると、俺の肩をたたいて向こうへ行った。ほどなくして、誰彼となくジョッキを持ち合い、弔いの歌を歌い始めた。
「お~いっ。カイルさんもこっち来て、一緒にやろうぜ!」
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