能喰い《よぐい》~底辺鑑定士、世界中のアイテムを喰らい尽くす

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Ⅰ 力を喰らう力

1-6. side:レイオン①

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 カイルを解雇して数ヶ月。レイオン=ジラーズ率いるパーティ『たけき赤獅子』は、今やその名に似合わず沈んでいた。
 
 酒場の片隅。かつては戦果の自慢と笑い声でにぎわっていた卓も、今は妙な静けさに包まれている。ジョッキを傾けるたび、焦りと苛立ちいらだにじむ。沈黙を破るように誰かが笑っても、それはすぐに濁って消える。
 
 勢いを停滞させていた大きな理由に、正式な四人目のパーティメンバーが補充されていないことがあった。
 ギルドのD級依頼は四名から受理可能であることが多い。その都度募集をしてきたものの、レイオンの選り好みと苛烈かれつな性格があらわになることで、まとまることがなく今日まで来ていた。

 レイオンの剣士としての腕は確かだ。しかしその才はただせぬ傲岸不遜ごうがんふそんと、イエスマンの仲間たちに慰められながら、腐らせるだけの時を過ごしていた。
  
「クソがぁっ! ギルドの受付ごときが、オレに上からものを言いやがってっ」
 
 レイオンは酒場の椅子を蹴飛ばし、テーブルに置かれたジョッキをひっくり返した。ビールが木の床に広がり、湿った匂いが辺りに漂う。
 魔法師ビルチは、周囲を気にしながらもレイオンをひたすらなだめる。
 
「ほんっとあいつ、しつこかったわよね。レイオンがちゃんと説明したのにさあ」
 
 ある討伐依頼の失敗。自分のせいでは無かったと得意の外面と口八丁で取り繕いはした。しかし短期間に連続したせいもあり、評価点のことをねちねちと言われたのが原因だった。
 
 僧侶グマサナも、大げさにうなずいで同意を示す。
 
「そもそも、あの村が魔物の目撃情報を誤ったことが問題である。我々は相応に対処したはずである」
「そうだっ。あいつらは何もわかっちゃいない」

 レイオンは口端からダラダラとこぼしながらビールを煽ると、ジョッキをテーブルに叩きつけた。
 
「C級昇格ごときにグズグズしてられんっ。見てろよ、必ずデカいネタで当ててやるっ───」
 


 現状脱却のチャンスは、意外にも早く訪れた。

 レイヴェンから少し離れた森でオークの集落が形成しつつあることが発覚。C級が多忙を極めていたため、冒険者ギルドの音頭でD級パーティー6組による掃討作戦が展開。『猛き赤獅子』も〝一応の実力〟を考慮され、頭数に招集された。

 作戦会議を終え……レイオンたちがギルドを去ろうとしたところに声がかかる。

「待ってくれ、レイオンっ。同じチームで懇親こんしんの場を開きたいんだが、どうだろう」
 
 王都騎士団に所属していたという『青灰のふくろう』リーダーのボッシ。D級古参で、その誠実さはギルドにも定評がある。
 しかし、その出自らしい生真面目さはレイオンには合わず。会議中に何度も質問を繰り返すさまに、辟易へきえきしきっていた。

「せっかくのお誘いだけど、オレたちは武具の調整に行かなきゃならないから。無事作戦が終わったら、打ち上げで盛り上がろうぜ」
「そうか……残念だな。では作戦当日、あらためてよろしく頼む」

 爽やかな笑顔で握手をかわすも、レイオンは内心、苛立ちが止まらなかった。

(クソ真面目が。ギルドも、オレと最も相性が悪い奴と組ませやがって。まあ当日、オレの邪魔だけはするなよ。せっかく評点を上げるチャンスだ。オークごとき、狩りまくって殺しまくってやるっ)
 

  
 ───掃討作戦当日。
 行軍する冒険者たちの鈍色の胸当てが、森の朝霞あさがすみに溶け込んでいく。
 
 集落の壁が未完成なのを狙い、パーティ6組を2組ずつに分け、三方から挟撃きょうげきする。『猛き赤獅子』と『青灰の梟』は左方にて、「正面組」の狩人が合図の火矢を放つのを待つ。
 
 レイオンは、いつもなら魔物を斬る時の高揚感を想い、不敵な笑みを浮かべているところだが……相変わらずのボッシの確認と、騎士団あがりの命令口調にほとほと嫌気がさし、眉をひそめるばかりだった。

「大丈夫かレイオン。緊張しているようだが」

 そんな様子を気に掛けるボッシに、お前が気に入らないからだと反射的に答えそうになる。しかしこの2チームの司令塔はボッシ。レイオンはそれを押さえ込むほどに顔が引きつるのを感じた。
 
「問題ない。オレは斬りこみが得意だから、安定感のある騎士〝様〟に後方を見てもらえると安心できる」
「無論だ、任せてくれ。誰も死者を出さんことが、おれの誇りだ」
(こいつ……嫌味も通じないのか)

 言外の苛立ちに気付かれることもなく、数秒が数刻に感じる時間。
 抜刀し、杖を構え。それぞれに木々の間から覗く空を、息を殺して見上げる。そこへ……火矢が放物線を切った。

「かっ飛べぇっ」

 三方一斉に動き出す。木々を蹴って走る足。矢が空を裂き、魔術が光るにつれ、豚頭オーク咆哮ほうこうが重なっていく。

「一匹ッ、二匹ィィッ。はっ! もっとがっついてこい、ブタどもがぁっ」

 レイオンたち前衛が切り込み、後方のポッシたちが取りこぼしを狩る。計画通りに善戦していたが……どこからかオークの増援を確認。混戦から状況が押し迫り始めた。

「くおぁっ」

 オークの放った矢を肩に受けてひるむレイオン。すかさずビルチのファイアボールが飛び、グマサナのヒールが入る。連携で乗り切ったものの、流石に数で圧され始めた。
 
「レイオン、一旦下がれっ」

 ボッシは状況を正確に判断し、鋭く声を響かせる。しかしレイオンは傷を負わされたことで怒りに火が点き、剣を振り上げさらに集落の奥へと進む。その狭間で、ビルチとグマサナほか、後衛たちは狼狽ろうばいした。

「むう、仕方がないっ。レイオンの加勢に回るぞっ」

 不安げなボッシとは裏腹に、レイオンの勢いが反対側のパーティとの合流を生み、攻勢へと転じ直した。引き気味のオークたちを追う流れに全員が入る途中、ボッシはレイオンに詰め寄った。

「レイオン、命令を無視するなっ。独断で仲間を危険にさらしてどうするっ」
「……ごっちゃごちゃ、うるさいんだよっ。結果として圧しただろうがっ」

 激しい怒りに満ちた顔。いつもにこやかにしていたその豹変ぶりに驚いたものの、ボッシはあくまで冷静に返した。

「これはお前の依頼討伐じゃない。ギルド主導の集団作戦で規律に従うもの。そして司令塔はおれだ。それを無視するのなら、評点審議にかけざるを得ない。もっと優秀だと思っていたが……残念だ」

 ボッシが冷たく言い放ち、背中を向けた時だった。

「───っ! ぐ……ぐごぉぉっ」

 己の胸から突き出てくる、血塗れた剣先。血が伝い、地の枯れ葉にぽたりと落ちるのに合わせ……ボッシは膝を突き、倒れこんだ。その背後から、剣の主であるレイオンの凍り付いた顔が覗く。
 
「オレにケチをつけるやつは皆殺しだ。お前はオークと死んでろ」
 
 レイオンは周囲に誰も居ないことを素早く確認すると、ボッシの遺体を近くのオークの死体そばまで蹴り転がす。そして落ちていた得物を、ボッシの刺し傷へ深々と突き刺した。

 まるで荷運びのように始末をつけると、今度は自分の左太腿ふとももを深く斬りつけた。

「ぐぐぅっ……へ、へ、痛いじゃないかよ……」

 顔に苦悶と笑いが交互に浮かぶのを調ととのえつつ、流れる血を押えてよたよたと歩く。
 彼方では、戦況はほぼ冒険者側が制圧に入っている。機を見計らい、レイオンは叫んだ。

「誰かっ、誰か来てくれっ。ボッシが、ボッシがぁ───」
 
 悲痛を装った声に気づいた冒険者たちが駆け寄る。わざとらしく倒れ、介添えを受けるレイオン。うつむくその顔は、笑いで歪んでいた。
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