能喰い《よぐい》~底辺鑑定士、世界中のアイテムを喰らい尽くす

試運転中

文字の大きさ
11 / 12
Ⅰ 力を喰らう力

1-11.

しおりを挟む
 宿に戻る。
 エルヴィはまだまだ温泉スパで生き返った気分でも味わっているだろう。こっちはお待ちかね、〝餌付け〟の時間だ。
 
 早速、買い物の成果を部屋の床に並べる。さすが交易中継点。レイヴェンやバルカと違って特殊ユニークアイテムが揃う。武具を買ってスキルの上昇も狙いたかったがお預け。タールマクで金を稼ぐまでの辛抱だ。
 
 しかし子供が玩具を前にするわくわく感ではなく、空腹感を満たす感じに近いのは相変わらず。まあ……人の道理も世の摂理も曲げ続けている力だ。まだ〝選べている〟のは救いだが。

「情報窓」で確認しなおせるとはいえ、喰う前に常に「何を喰うか」を自覚するのは大事だ。数多のスキルをここぞと言う時に使うのは己。誰かが都度教えてくれるわけじゃない。

 カッパドで救助の礼にもらった『鉱灯』もそうだ。魔素の流れを読めるなど……日常的でないものほど、この事前承認の作業は必要になる。

 さあて。指輪の奴がさっきからビクビクと脈打つわ、光を放つわで焦らしも限界。

「ほらよ、一個ずつ、よく味わって喰えっ───」
 
・砥石 ・縫い針 ・羊革の手袋 
・錆びた銀のさじ ・彫刻刀

 
 ───生活アイテム程度、のんびり喰えると思ったが、甘かった。
 
 砥石は金属、縫い針は革。それぞれが持つ【劣化減少】は武具の損耗を減らし、耐久性を上げる。引いては俺自身の強化値の減少を食い止められることへ繋がる。

 手袋は【把持はじ強化】。武器のグリップ力の向上だ。戦闘中、うっかり手を滑らせたと舌を出して笑うわけにはいかない。地味に考慮しておかなければならないもの。

 銀の匙は【毒性判定】。装飾が丁寧なところからお察しだったが……滑り込んできた断片記憶から、どこかの王国貴族の毒見用だったらしい。最後まで事なきを得たようで、幸運を感じる。

 そして……今日の目玉、彫刻刀。おどろおどろしい見た目にかまわず喰ったその瞬間。鉄をぎりぎりと刻むような耳鳴りとともに、眼前が真っ赤に染まる。
 
 かつての持ち主は付与術師。永続の術式を追い求め、己の血を媒介に武具へ刻印を試みたらしい。理性の果てで生まれたその技は特殊ユニークスキル【銘刻付与】として俺に喰われた。これを使えば、俺の手持ちを失うことなく、エルヴィへの分与にスキルを刻み込むことができる。

「ふっ。タイミングとしては、出来過ぎな気もするがな」

 彼女の〝お嬢様武術〟が鍛錬されるのを何年も待っている暇はない。何より彼女自身が強くなりたいと切望しているのなら、迷うことなく刻み込んでいくべきだろう。
 


 ノックする音が響き、目が覚めた。窓から赤味を帯びた光が差し込んでいる。いつものことだが『能喰い』をいろいろ試しているうちに疲れ、寝落ちしていたらしい。
 
 部屋扉を開けるとエルヴィが立っていた。旅の垢を落とし切り、綺麗に仕上げ終えている。軽めのドレスからふわっと石鹸のにおいが漂った。
 
「お休み中でしたか。何度かノックしてしまい、申し訳ございません」
「構わんさ。すっかり命の洗濯は出来たようだな」
「はいっ! おかげさまで」
「俺の供を願い出た時より元気じゃないか」
「ぃいえっ、そんなことは」
「わかりやすいやつめ。ちょうどいい、飯に行くぞ」

 宿に併設されている酒場へと入る。開け放しの入り口からすでに漏れ出す喧騒と酒の臭気。よいの口はまだだというのにほぼ満席。軽装の者が多く、どうも温泉スパと飲みが一緒になっている利用客が多いようだ。

 カウンターで俺は酒を、エルヴィには並ぶ大皿料理から適当に煮豆や肉を取らせて席へ。

「……っ、ああ~、ウマい。他人が用意してくれる酒や飯は最高だ」
「カイル殿が作る麦粥は好きですよ」
「塩加減も知らんお前に作らせる訳にはいかんからな。それより、プレゼントだ」

 ベストの内ポケットから、何の変哲もない鉄の指輪を取り出して渡した。エルヴィは手のひらに置いたまま、見たことが無いような複雑な顔をした。

「これは、その、どういう意味のものですかっ」
「ふはははっ。真面目過ぎだぞ」
 
 俺は普通に笑いが漏れた。
 
「間違っても左手薬指に付けるものじゃない。そいつに身体強化を幾つかと槍スキルを二つ付与してある」

 サイズが少し大きかったか。エルヴィは少し小首を傾げながら、選んだ右手親指にそっとはめる。その途端、血相を変えて俺を見た。

「───っ! 【連突】と【崩槍】スキルが、頭の中にっ。まさかこれは『神遺物』……?」
「声がデカい。それに俺は神じゃない。つまり俺が作った。この間の付与の延長みたいなものだ」

 エルヴィは俺が何を言っているか理解できないという顔をしている。

「でも、アイテムにスキルを与えることは、魔法師も、錬金術士でも不可能なはず」
「シンプルに行こう。強くなるスキルを手に入れた、それだけだ。何より、早く俺にふさわしい奴になってもらわないと」
「───っ。は、はい。もちろんそうです。ふさわしくなりますっ」
「死なれたら迷惑なんでな」
「……」

 妙に肩を落として、指輪をまじまじと見ながらジョッキをつかむ。そのまま口へと運ぶも、傾ける場所がズレてこぼしている。
 スキルのことがそんなに衝撃的だったのか。これは絶対他言無用のネタになったな。
 
 少し飲み食いを進め、落ち着きを取り戻したところで、エルヴィがおずおずと訊いてきた。

「カイル様の〝それ〟は……されている理由があるのですか」

 俺の左手指輪をちらと見て言う。俺は左手をぶらりと掲げて見せながら、ビールをあおった。
 
「別に約束している女がいるわけじゃない。もっとややこしい奴との、契約エンゲージの証さ。お前の言葉を借りるなら、邪神ってところだな」
「嘘を言っているように聞こえません」
「なら結構。強くなりたいのなら、目の前の事実だけを飲みこめ。深掘りをするのは失敗からやり直すときだけでいい」

 神妙な顔を続けるエルヴィを尻目に、席を立つ。
 カウンター越しにビールを頼む間、ふと、近くのテーブルから聞こえてきた話に耳が傾いた。

「……その、新しく見つかったタールマクの遺跡、何とも不思議な話だな」
「おお。朝だけ湖に入り口が現れるなんて、見るだけならおもしれえが、入るとなるとなあ」
「けどよ、冒険者たちは盛り上がってるんじゃないのか。新しいとこは『早い者勝ち』だし」
「それが、あんまり進んでないらしいぜ。入口が現れるのは朝の僅かな時間。当然、出るまで丸一日かかる。時間調整がやりにくい上に……〝強え〟らしい」
「魔物がか」
「ああ。もう結構っちまってるって。だからみんな言うんだ。『供物くもつを得るために、地獄の扉が開いた』なんてな」
「うへえ、怖いねえ」

 気が付くと、酒場の主人がビールを持ったまま俺を睨んでいた。あまりに興味深い話なんで、ついつい聞き入ってしまった。詫びを入れつつ金を払い、席へと戻る。
 エルヴィはエルヴィで、心ここにあらずな調子で、親指の指輪をぼんやりと見ている。

「明日、早めに発つぞ」
「はい。どうかしたのですか」
「タールマクのことを話している奴らがいた。何でも、新しい遺跡が見つかったらしい」
「それは……辺境でのよい目的ができましたね」
「ああ。しかも難易度は高いときた。さっさと行って、腕試しといきたいところだ」
 
 不敵な笑みなど、さっきからずっと出しっぱなしだ。俺は皿の上の肉を下品に頬張り、ビールで一気に流し込んだ。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。 広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。 ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。 彼の名はレッド=カーマイン。 最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。

処理中です...