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終幕~わたしはもう死に戻らない②~
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「すー…はー……詳しく、状況を説明してちょうだい」
「はい」
思わぬ報告に動揺しかけた心を、ウルスラは深呼吸で静めた。そしてすぐに状況確認へと動く。
ラルフの報告によるとこうだ。
昨晩のモートン監視役はラルフだった。
モートンはとある酒場で飲んだくれていたという。そこにフードを被った男が来店し、モートンが飲んでいた席に座った。しばし話をしていたような二人は、一緒に店を出るとそのままどこかに進んでいく。
そしてある建物に二人で入っていったのだが、その建物が問題だった。
「二人が入った建物は、裏ギルドが入っている建物です。おそらく、接触したのは裏ギルドの者だと思われます」
裏ギルド。また聞くとは思わなかったその言葉に、ウルスラは顔を険しくさせた。忌まわしき、両親を殺害するために依頼された組織。
依頼こそ失敗させたが、もう二度と関わることは無いと思っていただけに、唐突なその名を聞かされることは決していい気分ではなかった。
「………続けて」
「はっ。さすがに建物の内部への侵入は難しいと判断し、外で待機していたのですが、それからさきほどまで待っても、モートンが出てくることはありませんでした。それゆえ、建物内にとどまっているのか、それとも裏ギルドの手引きで既に脱出しているのか、判断できず、おめおめ戻ってまいりました。……申し訳ございません」
報告を終えたラルフは深々と頭を下げた。
さっきまで監視していたということは、連続で10数時間以上ということだ。それでは疲れが出て、身だしなみに乱れが出るのは仕方ないだろう。
しかし問題はモートンだ。まさか裏ギルドと関わることになるとは。だが、モートンにはもう裏ギルドを使う余裕は無いはずだ。ラトロ家からはモートンは勘当すると書状で受け取っているし、所詮騎士でしかないモートンに裏ギルドに依頼するような金銭を用意できるとは思えない。
そこでふと気になることがあった。
(待って……裏ギルドから接触してきたのよね?そうなると、話しが変わるかもしれないわ)
裏ギルドが、何の意図があってモートンに関わってきたのか、それは分からない。ただ、ウルスラにとては良くないことであろうということだけは、断言できる。
「報告ありがとう。ラルフ、今日はもう休みなさい。間違っても、これからすぐ挽回しようなどと考えないように。しっかり休んで、次に備えなさい。これは命令よ」
「はっ」
恭しく頭を下げたラルフは、少しだけふらつくような足取りで部屋を出ていった。疲れもあるだろうが、それ以上に見失った不甲斐なさを責めているかもしれない。
だからこそ、ウルスラはラルフを休ませた。今のままでは、裏ギルドの入っている建物に忍び込みかねない。命令という形をとってでも休ませ、今は落ち着かせることが大事である。
ラルフが部屋を出ていったあと、ウルスラはため息をついた。ため息の理由はもちろんラルフではなく、裏ギルドだ。
「裏ギルド……、厄介ね」
「はっ。一体どんな思惑をもっているかはわかりませんが、碌なことではないことだけは間違いありません」
ウルスラのつぶやきにオーティスも険しい顔でうなずいた。
フェリクスに鍛え上げられた4つ子をもってしても、てこずるとされる裏ギルド。前回の関わりではフェリクスが間に入ってくれたおかげで事なきを得たが、今度はどうなるか。
またフェリクスに頼む?
いや、その手はもうできるだけ使いたくは無かった。
(これ以上、殿下に迷惑をかけるわけにはいかないわ。できれば、私たちだけで何とか対処を…)
前回の件も結局謝礼などをうやむやにされている。それなりに危険なはずなのに、それがウルスラの話一つが対価で済むというのは、ウルスラには分からないし、いくら当人が了承していても不服だ。
だからこそ、事実上何の対価も無く動いてくれるフェリクスには頼みたくない。
どう対処すべきか。考え込むウルスラに、ユーリスは申し訳なさそうに手を上げる。
「あの、お嬢様」
「ん?ああ、どうしたのユーリス」
「その、『裏ギルド』とは何でしょうか?」
「…………ああ、そうだったわね」
裏ギルドの件は今から2年以上前のことだ。当然ユーリスが知るはずもない。
(…本当は聞かせないほうがいいんでしょうけど、モートンが関わっている以上、彼女も知らないままではいられないでしょうね。それに、聞かせられなかったら、蚊帳の外みたいでいじけちゃうかもしれないわ。最悪、無関係なままではいられないかもしれない。なら、教えておくのが賢明ね)
ウルスラは裏ギルドについて説明した。
裏ギルドは諜報・暗殺・汚れ仕事と何でもござれの文字通りの裏の存在であること。
きっかけは、今はいない執事長の息子とモートンが両親暗殺依頼を頼んだ組織であるということ。
その時にはフェリクスが証拠となる依頼書を譲り受け、暗殺も阻止したこと。
一通り説明を聞いたユーリスは、その美しい顔に怒りの表情を浮かべていた。
「なんてことを…!やっぱりモートンと関わらなくなって良かったです!そんな人たちとまでつながっていたなんて……最低ですね」
ユーリスの怒りの原因は、モートンが関わっていたことにあるようだ。やはり、そのような組織と関わり、使おうとしたことを許せないらしい。まともな感性の持ち主であればそう思うところだろう。
「そうね。その組織が、今更モートンに接触してどうするつもりなのか。それが分からないのが問題だわ」
「そうですね。フェリクス殿下は裏ギルドに詳しいのですか?」
「詳しいというか…裏ギルドと交渉したのが殿下なのよ。だから、誰よりも詳しいと思うわ」
「でしたら、殿下にお聞きになってみては?殿下でしたら、何か意見が頂けると思いますよ」
「…それは、そう……なんだけど……」
ウルスラの歯切れの悪い返事に、ユーリスもオーティスも首を傾げた。
普段ならサッと決断して動き出すはずのウルスラが、今日に限って鈍い。目を伏せ、両手は握り締めてなんだか落ち着きが無いのだ。それを不思議に思ったオーティスが訊ねた。
「どうなさいました、お嬢様?殿下にお聞きになるのに、何か不都合が?」
「いや、その………迷惑じゃないかって……」
思わぬウルスラの答えに、ユーリスはまた首を傾げ、オーティスは呆れるように息を吐いた。
ユーリスはウルスラとフェリクスがどんな関係なのかを知らない。そもそも、二人に面識があることすら聞いていない。なので、そんな反応になるのは当然だ。
一方、関係を知るオーティスからすれば、今更こんなことを聞いて迷惑になるはずがないだろうと、声を大にして言いたい。むしろ嬉々として、関わってこようとするだろう。
少なくとも、復讐に燃えていた頃のウルスラなら、フェリクスの大好きな人の闇を見れるチャンスだとばかりに売り込んだはずだ。
それが今や、すっかり及び腰になってしまっている。オーティスは、ウルスラの中ではもう復讐が終わったものになっており、人の闇云々は無いのだと考えているということを、改めて認識した。
「お嬢様。殿下なら、きっと話してくださらなかったことにいじけてしまうかもしれませんよ。『何でこんな楽しそうなことに混ぜてくれなかったの!?』と。是非とも仲間に入れてあげてくださいませ」
「……オーティス、あなた、意外に声真似がうまいいわね」
「ありがとうございます」
意外な特技に驚きつつ、ウルスラはオーティスの言葉を考えた。
そうだ。フェリクスならこんな話が出ているのなら、きっと面白がり、介入してこようとするだろう。彼は人の闇を眺めるのが好きで、それを特等席で見るのが一番の楽しみにしている。
フェリクスを好きだと自覚したウルスラは、彼を喜ばせることよりも、彼に迷惑をかけ、嫌われることを恐れるようになってしまった。そのせいで、ウルスラの行動には一貫性が無く、言い訳を探しては彼の介入を避けようととする。
しかしそれこそが、フェリクスの最も嫌がることでしかない。
もし、モートンと裏ギルドが組んだとすれば、ウルスラの命の危機は飛躍的に上昇する。それだけで済めばまだマシだが、そうとは限らない。前回達成できなかった依頼を、この際に果たしてしまおうとするかもしれない。
つまり、今度こそ両親と執事長が暗殺されるかもしれないのだ。
もうモートンとウルスラの間だけの問題ではないかもしれない。もうウルスラには守りたい存在がいる。むしろ増えた。なら、そのためにはつまらない自分の意地など張っていられない。
(…そうよ、相手がなりふりかまっていられないなら、こっちも同じことよ。もう、モートンに殺されてなんかやるもんですか!絶対に生き抜いてやるんだから!)
誓いを新たにし、ウルスラは頬を叩いた。気合を入れるために。
力が弱くてペチッと小さい音しかしなかったことに、オーティスは平静を装いながら笑いをこらえていた。
「はい」
思わぬ報告に動揺しかけた心を、ウルスラは深呼吸で静めた。そしてすぐに状況確認へと動く。
ラルフの報告によるとこうだ。
昨晩のモートン監視役はラルフだった。
モートンはとある酒場で飲んだくれていたという。そこにフードを被った男が来店し、モートンが飲んでいた席に座った。しばし話をしていたような二人は、一緒に店を出るとそのままどこかに進んでいく。
そしてある建物に二人で入っていったのだが、その建物が問題だった。
「二人が入った建物は、裏ギルドが入っている建物です。おそらく、接触したのは裏ギルドの者だと思われます」
裏ギルド。また聞くとは思わなかったその言葉に、ウルスラは顔を険しくさせた。忌まわしき、両親を殺害するために依頼された組織。
依頼こそ失敗させたが、もう二度と関わることは無いと思っていただけに、唐突なその名を聞かされることは決していい気分ではなかった。
「………続けて」
「はっ。さすがに建物の内部への侵入は難しいと判断し、外で待機していたのですが、それからさきほどまで待っても、モートンが出てくることはありませんでした。それゆえ、建物内にとどまっているのか、それとも裏ギルドの手引きで既に脱出しているのか、判断できず、おめおめ戻ってまいりました。……申し訳ございません」
報告を終えたラルフは深々と頭を下げた。
さっきまで監視していたということは、連続で10数時間以上ということだ。それでは疲れが出て、身だしなみに乱れが出るのは仕方ないだろう。
しかし問題はモートンだ。まさか裏ギルドと関わることになるとは。だが、モートンにはもう裏ギルドを使う余裕は無いはずだ。ラトロ家からはモートンは勘当すると書状で受け取っているし、所詮騎士でしかないモートンに裏ギルドに依頼するような金銭を用意できるとは思えない。
そこでふと気になることがあった。
(待って……裏ギルドから接触してきたのよね?そうなると、話しが変わるかもしれないわ)
裏ギルドが、何の意図があってモートンに関わってきたのか、それは分からない。ただ、ウルスラにとては良くないことであろうということだけは、断言できる。
「報告ありがとう。ラルフ、今日はもう休みなさい。間違っても、これからすぐ挽回しようなどと考えないように。しっかり休んで、次に備えなさい。これは命令よ」
「はっ」
恭しく頭を下げたラルフは、少しだけふらつくような足取りで部屋を出ていった。疲れもあるだろうが、それ以上に見失った不甲斐なさを責めているかもしれない。
だからこそ、ウルスラはラルフを休ませた。今のままでは、裏ギルドの入っている建物に忍び込みかねない。命令という形をとってでも休ませ、今は落ち着かせることが大事である。
ラルフが部屋を出ていったあと、ウルスラはため息をついた。ため息の理由はもちろんラルフではなく、裏ギルドだ。
「裏ギルド……、厄介ね」
「はっ。一体どんな思惑をもっているかはわかりませんが、碌なことではないことだけは間違いありません」
ウルスラのつぶやきにオーティスも険しい顔でうなずいた。
フェリクスに鍛え上げられた4つ子をもってしても、てこずるとされる裏ギルド。前回の関わりではフェリクスが間に入ってくれたおかげで事なきを得たが、今度はどうなるか。
またフェリクスに頼む?
いや、その手はもうできるだけ使いたくは無かった。
(これ以上、殿下に迷惑をかけるわけにはいかないわ。できれば、私たちだけで何とか対処を…)
前回の件も結局謝礼などをうやむやにされている。それなりに危険なはずなのに、それがウルスラの話一つが対価で済むというのは、ウルスラには分からないし、いくら当人が了承していても不服だ。
だからこそ、事実上何の対価も無く動いてくれるフェリクスには頼みたくない。
どう対処すべきか。考え込むウルスラに、ユーリスは申し訳なさそうに手を上げる。
「あの、お嬢様」
「ん?ああ、どうしたのユーリス」
「その、『裏ギルド』とは何でしょうか?」
「…………ああ、そうだったわね」
裏ギルドの件は今から2年以上前のことだ。当然ユーリスが知るはずもない。
(…本当は聞かせないほうがいいんでしょうけど、モートンが関わっている以上、彼女も知らないままではいられないでしょうね。それに、聞かせられなかったら、蚊帳の外みたいでいじけちゃうかもしれないわ。最悪、無関係なままではいられないかもしれない。なら、教えておくのが賢明ね)
ウルスラは裏ギルドについて説明した。
裏ギルドは諜報・暗殺・汚れ仕事と何でもござれの文字通りの裏の存在であること。
きっかけは、今はいない執事長の息子とモートンが両親暗殺依頼を頼んだ組織であるということ。
その時にはフェリクスが証拠となる依頼書を譲り受け、暗殺も阻止したこと。
一通り説明を聞いたユーリスは、その美しい顔に怒りの表情を浮かべていた。
「なんてことを…!やっぱりモートンと関わらなくなって良かったです!そんな人たちとまでつながっていたなんて……最低ですね」
ユーリスの怒りの原因は、モートンが関わっていたことにあるようだ。やはり、そのような組織と関わり、使おうとしたことを許せないらしい。まともな感性の持ち主であればそう思うところだろう。
「そうね。その組織が、今更モートンに接触してどうするつもりなのか。それが分からないのが問題だわ」
「そうですね。フェリクス殿下は裏ギルドに詳しいのですか?」
「詳しいというか…裏ギルドと交渉したのが殿下なのよ。だから、誰よりも詳しいと思うわ」
「でしたら、殿下にお聞きになってみては?殿下でしたら、何か意見が頂けると思いますよ」
「…それは、そう……なんだけど……」
ウルスラの歯切れの悪い返事に、ユーリスもオーティスも首を傾げた。
普段ならサッと決断して動き出すはずのウルスラが、今日に限って鈍い。目を伏せ、両手は握り締めてなんだか落ち着きが無いのだ。それを不思議に思ったオーティスが訊ねた。
「どうなさいました、お嬢様?殿下にお聞きになるのに、何か不都合が?」
「いや、その………迷惑じゃないかって……」
思わぬウルスラの答えに、ユーリスはまた首を傾げ、オーティスは呆れるように息を吐いた。
ユーリスはウルスラとフェリクスがどんな関係なのかを知らない。そもそも、二人に面識があることすら聞いていない。なので、そんな反応になるのは当然だ。
一方、関係を知るオーティスからすれば、今更こんなことを聞いて迷惑になるはずがないだろうと、声を大にして言いたい。むしろ嬉々として、関わってこようとするだろう。
少なくとも、復讐に燃えていた頃のウルスラなら、フェリクスの大好きな人の闇を見れるチャンスだとばかりに売り込んだはずだ。
それが今や、すっかり及び腰になってしまっている。オーティスは、ウルスラの中ではもう復讐が終わったものになっており、人の闇云々は無いのだと考えているということを、改めて認識した。
「お嬢様。殿下なら、きっと話してくださらなかったことにいじけてしまうかもしれませんよ。『何でこんな楽しそうなことに混ぜてくれなかったの!?』と。是非とも仲間に入れてあげてくださいませ」
「……オーティス、あなた、意外に声真似がうまいいわね」
「ありがとうございます」
意外な特技に驚きつつ、ウルスラはオーティスの言葉を考えた。
そうだ。フェリクスならこんな話が出ているのなら、きっと面白がり、介入してこようとするだろう。彼は人の闇を眺めるのが好きで、それを特等席で見るのが一番の楽しみにしている。
フェリクスを好きだと自覚したウルスラは、彼を喜ばせることよりも、彼に迷惑をかけ、嫌われることを恐れるようになってしまった。そのせいで、ウルスラの行動には一貫性が無く、言い訳を探しては彼の介入を避けようととする。
しかしそれこそが、フェリクスの最も嫌がることでしかない。
もし、モートンと裏ギルドが組んだとすれば、ウルスラの命の危機は飛躍的に上昇する。それだけで済めばまだマシだが、そうとは限らない。前回達成できなかった依頼を、この際に果たしてしまおうとするかもしれない。
つまり、今度こそ両親と執事長が暗殺されるかもしれないのだ。
もうモートンとウルスラの間だけの問題ではないかもしれない。もうウルスラには守りたい存在がいる。むしろ増えた。なら、そのためにはつまらない自分の意地など張っていられない。
(…そうよ、相手がなりふりかまっていられないなら、こっちも同じことよ。もう、モートンに殺されてなんかやるもんですか!絶対に生き抜いてやるんだから!)
誓いを新たにし、ウルスラは頬を叩いた。気合を入れるために。
力が弱くてペチッと小さい音しかしなかったことに、オーティスは平静を装いながら笑いをこらえていた。
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