侯爵令嬢ウルスラの愉快な復讐劇~開幕です~

蒼黒せい

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終幕~わたしはもう死に戻らない③~

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 早速フェリクスに伺いを立てると、近々ヴィンディクタ家の屋敷を訪れるという返事が来た。どうやら、何か用事があるらしい。

 数日後、知り合いの伯爵夫人が開催したお茶会の帰り道。ウルスラは車中で、フェリクスが一体何の用事で屋敷を訪れているのかを考えていた。

 フェリクスはとうに屋敷を訪れているはずだ。どうもウルスラの父に用事があるらしく、ウルスラがお茶会から帰ってきてから話を聞いてくれるらしい。それなら王宮の政務に関することかもしれない。ただ、それなら王宮ですればいいわけで、わざわざ屋敷でする話ではない気がする。

「何なのかしらね?」
「さぁ…私も分かりません」

 同乗しているユーリスに尋ねるも、彼女もやっぱり分からない。首を横に振り、皆目見当もつかないと言った感じだ。ラルフなら分かるかもしれないが、今は馬車の御者を務めている。ちょっと聞くのは憚られる。

 そうこうしているうちに馬車は屋敷に戻ってきた。玄関をくぐると、ウルスラの帰宅を待っていた侍女が父からの伝言を伝えてきた。

「お父様の執務室へ?」
「はい。戻り次第、来てほしいとのことです」
「分かったわ。今はいらっしゃるの?」
「はい、お待ちしております」

 帰ってきて早々、父の呼び出しに首をかしげる。

 フェリクスを待たせているわけだし、すぐにでもそっちに伺いたかったのだが、さすがに父の呼び出しを後回しにするわけにもいかない。

 さっさと済ませてしまおうと足早に移動し、ウルスラとユーリスは父の執務室の前に着いた。後から少し遅れてラルフも到着する。

 ノックすると、中から父の声が聞こえてくる。ユーリスとラルフを待たせて、ウルスラは中に入った。

「お父様、お待たせしまし…あら?」
「やっ」

 中に入ると、なんとフェリクスもいるではないか。片手をあげ、ウルスラを出迎えてくれた。

 執務机の前に置かれたソファーに、父とフェリクスが対面になるように座っている。フェリクスはいつもの笑顔で、特にかしこまった様子はない。一方、父のほうはなんとも複雑そうな、ちょっと困った様子を見せている。

(一体、これはどういう状況なのかしら?)

 背後で扉を閉めるが、ここからどうしていいかが分からない。すると父が自分の隣を叩いて合図した。こっちに座れということらしい。

 父からの呼び出しが何なのか分からず、その上フェリクスまでいる。混乱したまま、ウルスラは父の隣に腰を下ろした。

 座ったウルスラのことを、フェリクスはニコニコと見つめている。その笑みは本当に嬉しそうで、なんだか見ているこっちが恥ずかしくなりそうなほどだ。

 そんなに見つめられては、いくらウルスラでも恥ずかしくなってしまう。頬が熱くなり、つい横にいる父に顔を向けた。

 そんな娘の様子に、父はやっぱり複雑そうだ。一体どうしてそんな顔をしているのか。そこでようやく父は口を開いた。

「…では改めてお尋ねしますが、フェリクス殿下。本当によろしいのですか?」
「うん、もちろん。間違いないよ」
「?」

 二人の会話の意味が分からない。一体父は今フェリクスに何を確認したのか。というか、父は一体何の用で自分を呼び出したのか。いい加減話してほしいところである。

 何かの確認を終えた父は、ゆっくり息を吐いた。まるで、何かの覚悟を決めるかのように。

 そうして父はウルスラを見た。その顔は、確かに何か覚悟を決めたかのような、真剣な顔だ。そして口を開く。

「ウルスラ。実はフェリクス殿下から、お前に婚約の申し込みが来ている」
「………………………………えっ?」

 たっぷり数秒かけて、ウルスラは間の抜けた声を漏らした。

 全く予想だにしなかった話に、ウルスラの頭は一瞬でパンクしてしまったのだ。情報処理の問題ではない。思いもよらない、いやある意味では望んだ展開だが、そんな都合のいい話があるわけがないと理解を拒んでいる。

(殿下、から……婚約……誰に……?私に?………どう……して?)

 思わずフェリクスを見ると、さっきよりもニコニコしてる気がする。嘘?嘘じゃないのか。でもそんな嘘をつく理由が分からない。じゃあ本当?本当でもわからない。だって、ウルスラにはフェリクスに婚約者に望まれるような覚えがない。

 そこで、数年前の会話が呼び起こされた。フェリクスに好きな女性=面白い女性=ウルスラという話をしたときだ。

(いや、何年か前に面白い女性ってことで好きな女性って言われたことも……いやいやいや、そんなのもうとっくに忘れてるはずだわ!いや、でも、えぇ……)

 ちらちらとフェリクスを見ては目線を外し、また見る。彼の笑顔は何も変わらず、少なくとも冗談でそんなことを言いにきたわけではないことだけは分かった。

 それだけに、彼が本気なのかと思うと、顔が熱くなるのが止められない。



 混乱しっぱなしのウルスラに、父は複雑な気持ちがより一層深まる。

 最初はフェリクスからの婚約の申し出に、ウルスラ同様混乱したものだ。なにせ、父の視点からすればフェリクスとウルスラは数えるほどしか顔を合わせていない…ということになっている。実際は諜報部の拠点で人目を避けて会っていたのだから、その認識が間違っているわけだが。

 とにかく父から見ればそういうわけで、それでどうしてフェリクスがウルスラに婚約を申し込む理由が分からない。もちろんフェリクスがダメというわけではない。第三王子であるフェリクスは王位を継ぐことを放棄しており、婿として迎えるには国内最高峰の物件である。

 一方ウルスラは、ヴィンディクタ家の唯一の一人娘。だからかつてはモートンが婿になるはずだったが、そちらは婚約を解消した。なら次の婿を探すことになるのだが、まさか婿側から来てくれるとは思いもしない。

 しかも、まだ婚約を解消したことは公表していないのだ。それでどうやって知ったのか。それも、やはりフェリクスがどういう人間なのかを考えれば、理解はできる。納得はしないが。

(ウルスラが婚約解消をしたと知った途端に、婚約の申し込み…。これは前からウルスラのことを狙っていたと見るべきか?臣籍降下するに我が家は最も適当ではあると思うが、それにしては早すぎる…!)

 ウルスラだけでなく、父もまたフェリクスの婚約の申し込みの理由が分からず、混乱している。

 それで、とりあえず本人にも聞いてみないととお茶を濁したのに、肝心の娘がこれまたまんざらでもないという様子が、父の複雑さに拍車をかけた。

 てっきり、王族であるフェリクスからの婚約の申し出に慌て、萎縮するかと思ったのだが。全然そんな様子は無いし、頬を赤らめてちらちらフェリクスを見ている。そのウルスラを、フェリクスが愛おしそうに見ているのが同じ男として分かるから、父として複雑な心境だ。

(……まぁ、嫌がっているわけではないのなら、いいか)

 父は思考を切った。

 王族の臣籍降下先となれば、色々と大変なこともある。だが、それが娘の幸せになるのであれば、父として喜んでその責を負うとしよう。

 ただでさえ、モートンの件で父は何の役にも立てず、ウルスラ一人に全て背負わせてしまった。その苦労を思えば、この程度何の問題でもない。

 それに、モートンと婚約していたときの娘は、どこか大人びていて、歳不相応なところがあった。諜報部を欲しがり、それによってさまざまな暗躍をこなし、身にかかる火の粉を自ら振り払った。

 その手際に、父は娘に歳不相応な役割を強いているのではないかと悔いたこともあった。そのせいで、娘はもう少女としての生き方をできなくなったのでないか。

 だが今はどうだ。フェリクスを前に、まるで恋に恋する少女のような、初々しいさまを見せている。それが見られただけでも、この婚約話には価値があったと思い直すことにした。

 ただし、それとこれとは別である。

(これは、後で殿下に、どこで娘と会っていたのかはきっちり問い詰めないといけませんな)

 父は娘に笑顔を向け続ける殿下を、厳しい目で見つめていた。
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