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初恋 エルヴァート 上
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婚約が決まったのは、私が12歳の時だった。王族としては、遅いくらいだ。大抵の王族や高位貴族は、10歳のお披露目までに婚約者を決め、そこで発表もするものだから。
「ルルティアのアナスタシア王女、ですか……」
まあ、当然と言えば当然の相手だ。今まで決まらなかったのが不思議なくらいに。
「近々顔合わせをするゆえ、そのつもりでな」
「は、かしこまりました」
▼△▼△
アナスタシア王女を初めて見た時、相手も大して私に興味がないな、と感じた。
これでも私は、それなりに女性にモテる顔立ちだと思うのだけどね。
「初めまして、アナスタシア王女。ランディアの王太子、エルヴァート・ランディアです」
「ようこそおいでくださいました。初めまして、王太子殿下。わたくしはルルティアの第1王女、アナスタシア・ルルティアと申します」
私の方がルルティアに来たことに、特に意味はない。単に、まだ7歳の女の子を呼びつけるのはどうか、と思っただけだ。
父上は、最後まで反対していたが。
アナスタシア王女は、綺麗な子だった。
赤味がかった艶々の金髪に、少し吊り上がり気味の大きな緑色の瞳。
その瞳が真っ直ぐ私を射抜き、どうにも落ち着かない気分にさせられる。
ただ、その瞳に好奇心が全く浮かんでいないのだ。
では、お2人で歓談を……と言われて庭に出る。
エスコートしながら案内されるままに歩いていくと、ガゼボに着いた。
「弟と、その婚約者ですわ」
そこにいたのは、王女より1つ下だという弟のレオナード王太子と、その婚約者であるフロリアーナ・ティアール嬢だった。
ティアール嬢、ね。と、いうことは、オルグ帝国の血筋か。……扱いの難しい子だなぁ。
ティアール嬢は、何と言うか……儚げな、天使みたいな子だった。もちろん、見た目が。
淡いふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳。ピンクの唇。
話してみれば、守られてよしとする子じゃない、なんてすぐに判るけれど。
それに、レオナード王子は。……こんなに判りやすくていいのかな、仮にも一国の王太子だろう?確かにまだ6歳だけれど……ティアール嬢はちゃんとしているのに。
姉であるアナスタシア王女の腕にべったり抱きついて、私を思いっきり睨みつけているのだが。
容姿は姉上に似ているな、赤味がかった金髪と、緑色の瞳はルルティア王家の特徴か。
「お前なんか、姉上に相応しくないんだからな!お前が婚約者なんて、ボクは絶対に認めない!姉上に政略結婚なんかさせるもんか!!」
「王太子殿下!!」
慌てて声をかけたのは、ティアール嬢だった。しかし、何で婚約者との席の間がこんなに空いているんだ。
袖を引こうとしたのだろうが、手が届いてないぞ。
「うるさい!お前なんか……!」
ティアール嬢にも悪態を吐こうとしたところで、アナスタシア王女が止めた。物理で。
バシッといい音をさせて、閉じた扇でレオナード王子の頭をはたくと、ニッコリと微笑んだ。
「フロリー、ご挨拶は済んだから、お退がりなさいな」
「はい、アニーさま。……では、失礼いたします」
滑るように椅子から降り、見事なカーテシーをする。……この子も6歳だった筈?
「なっ、ふざけるなぁ……!!」
レオナード王子は、後ろの護衛が拘そ……抱き上げて連れて行った。
最後まで何か喚いていた。……他人事ながら、大丈夫か?あの王太子で。
「……お見苦しいところをお見せいたしました」
「いや、まだ6歳であられるのだから、素直でよろしいでしょう。……お姉さまがお好きなのですね?レオナード王子は」
「申し訳ございません……」
おや、動かなかった微笑が崩れて赤くなってる。……皮肉を言ったつもりはなかったのだけど。
「では、我々は仲良くしましょうか。弟御に認めて貰えるように」
「それはもちろんですわ」
顔を上げてニッコリと微笑んだ表情は、とても可愛い。やっぱり私に興味はないみたいだけれど。
まあ、政略結婚なんてこんなものだろう。
私も人のことは言えないしね。
▼△▼△
婚約者が決まってから3年後。アナスタシア王女が10歳を迎えたので、まずランディアでお披露目をすることになった。
お披露目、と言っても、大したことをする訳ではない。大人たちの夜会の始めに、挨拶とダンスをするだけだ。
挨拶は子どもの中で一番身分が高い子──今回はもちろん、アナスタシア王女──と決まっていて、今まで無事に育ったことに、感謝を捧げる。
厄介なのは、ダンスかな。何せ、無事に育ったことのお披露目だから、10歳として出来る限りの難しいステップを見せなければならない。
これが結構、大変なのだ。
「アナスタシア王女、用意はいいかな?」
「はい、エルヴァートさま」
「行くよ」
10歳になって、アナスタシア王女は随分と大人びた。今はもう、可愛らしい、なんて言えないな。美しい、と言わなければ。
まあ相変わらず、お互いにそういう興味はないけれど、国を守るためのパートナーにでもなれたら、それでいいと思う。
初めて履いただろうハイヒールで、見事なステップを踏むアナスタシア王女に感心しながらダンスを終え、王女は退がる。まだ夜会に参加出来ないからだ。
そして、その足で自国まで帰らなければならない。今度は、ルルティアでお披露目をするからだ。
「では、送れないけれど気をつけて。……アナスタシア王女?」
エスコートしていた手が、熱いような気がする。
踊ったからか?
「失礼いたしますわ、エルヴァートさま」
カーテシーをすると、王女は急いでその場を立ち去った。
「ルルティアのアナスタシア王女、ですか……」
まあ、当然と言えば当然の相手だ。今まで決まらなかったのが不思議なくらいに。
「近々顔合わせをするゆえ、そのつもりでな」
「は、かしこまりました」
▼△▼△
アナスタシア王女を初めて見た時、相手も大して私に興味がないな、と感じた。
これでも私は、それなりに女性にモテる顔立ちだと思うのだけどね。
「初めまして、アナスタシア王女。ランディアの王太子、エルヴァート・ランディアです」
「ようこそおいでくださいました。初めまして、王太子殿下。わたくしはルルティアの第1王女、アナスタシア・ルルティアと申します」
私の方がルルティアに来たことに、特に意味はない。単に、まだ7歳の女の子を呼びつけるのはどうか、と思っただけだ。
父上は、最後まで反対していたが。
アナスタシア王女は、綺麗な子だった。
赤味がかった艶々の金髪に、少し吊り上がり気味の大きな緑色の瞳。
その瞳が真っ直ぐ私を射抜き、どうにも落ち着かない気分にさせられる。
ただ、その瞳に好奇心が全く浮かんでいないのだ。
では、お2人で歓談を……と言われて庭に出る。
エスコートしながら案内されるままに歩いていくと、ガゼボに着いた。
「弟と、その婚約者ですわ」
そこにいたのは、王女より1つ下だという弟のレオナード王太子と、その婚約者であるフロリアーナ・ティアール嬢だった。
ティアール嬢、ね。と、いうことは、オルグ帝国の血筋か。……扱いの難しい子だなぁ。
ティアール嬢は、何と言うか……儚げな、天使みたいな子だった。もちろん、見た目が。
淡いふわふわの金髪に、透けるような水色の瞳。ピンクの唇。
話してみれば、守られてよしとする子じゃない、なんてすぐに判るけれど。
それに、レオナード王子は。……こんなに判りやすくていいのかな、仮にも一国の王太子だろう?確かにまだ6歳だけれど……ティアール嬢はちゃんとしているのに。
姉であるアナスタシア王女の腕にべったり抱きついて、私を思いっきり睨みつけているのだが。
容姿は姉上に似ているな、赤味がかった金髪と、緑色の瞳はルルティア王家の特徴か。
「お前なんか、姉上に相応しくないんだからな!お前が婚約者なんて、ボクは絶対に認めない!姉上に政略結婚なんかさせるもんか!!」
「王太子殿下!!」
慌てて声をかけたのは、ティアール嬢だった。しかし、何で婚約者との席の間がこんなに空いているんだ。
袖を引こうとしたのだろうが、手が届いてないぞ。
「うるさい!お前なんか……!」
ティアール嬢にも悪態を吐こうとしたところで、アナスタシア王女が止めた。物理で。
バシッといい音をさせて、閉じた扇でレオナード王子の頭をはたくと、ニッコリと微笑んだ。
「フロリー、ご挨拶は済んだから、お退がりなさいな」
「はい、アニーさま。……では、失礼いたします」
滑るように椅子から降り、見事なカーテシーをする。……この子も6歳だった筈?
「なっ、ふざけるなぁ……!!」
レオナード王子は、後ろの護衛が拘そ……抱き上げて連れて行った。
最後まで何か喚いていた。……他人事ながら、大丈夫か?あの王太子で。
「……お見苦しいところをお見せいたしました」
「いや、まだ6歳であられるのだから、素直でよろしいでしょう。……お姉さまがお好きなのですね?レオナード王子は」
「申し訳ございません……」
おや、動かなかった微笑が崩れて赤くなってる。……皮肉を言ったつもりはなかったのだけど。
「では、我々は仲良くしましょうか。弟御に認めて貰えるように」
「それはもちろんですわ」
顔を上げてニッコリと微笑んだ表情は、とても可愛い。やっぱり私に興味はないみたいだけれど。
まあ、政略結婚なんてこんなものだろう。
私も人のことは言えないしね。
▼△▼△
婚約者が決まってから3年後。アナスタシア王女が10歳を迎えたので、まずランディアでお披露目をすることになった。
お披露目、と言っても、大したことをする訳ではない。大人たちの夜会の始めに、挨拶とダンスをするだけだ。
挨拶は子どもの中で一番身分が高い子──今回はもちろん、アナスタシア王女──と決まっていて、今まで無事に育ったことに、感謝を捧げる。
厄介なのは、ダンスかな。何せ、無事に育ったことのお披露目だから、10歳として出来る限りの難しいステップを見せなければならない。
これが結構、大変なのだ。
「アナスタシア王女、用意はいいかな?」
「はい、エルヴァートさま」
「行くよ」
10歳になって、アナスタシア王女は随分と大人びた。今はもう、可愛らしい、なんて言えないな。美しい、と言わなければ。
まあ相変わらず、お互いにそういう興味はないけれど、国を守るためのパートナーにでもなれたら、それでいいと思う。
初めて履いただろうハイヒールで、見事なステップを踏むアナスタシア王女に感心しながらダンスを終え、王女は退がる。まだ夜会に参加出来ないからだ。
そして、その足で自国まで帰らなければならない。今度は、ルルティアでお披露目をするからだ。
「では、送れないけれど気をつけて。……アナスタシア王女?」
エスコートしていた手が、熱いような気がする。
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