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どうぞ、お好きに
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「ベアトリクス・サリス公爵令嬢!!貴様との婚約を、この場にて破棄する!!」
卒業パーティーの最中、いきなり大声が響き渡った。
華奢で可愛らしいタイプの少女を腕にぶら下げた、この国の王太子殿下である。
ベアトリクスは、溜息を隠して扇を広げ、口許を隠した。
「何ですの?突然」
「貴様は、この可愛らしいアンナを苛めただろう!!証拠も証言も、いくらでもあるのだぞ!!」
「……それが、何か」
「開き直る気か⁉︎そんな卑怯者など、王妃として相応しくない!!」
はあ。
堪えきれず、ベアトリクスは大きく溜息をついてしまった。
「……そうでもして遠ざけませんと、また、自害する人が出ては大変ですもの」
「……は?」
ポカン、とした王太子に、ベアトリクスは一歩、詰め寄った。
「王太子殿下。わたくしが入学するまでの一年間、何人の令嬢が自害したか、ご存知ですの⁉︎6人ですわ、6人!!修道院に駆け込んだ方は、8人!!」
また一歩、ベアトリクスが詰め寄る。王太子は、思わず一歩下がった。
「あなたが令嬢の純潔を奪ったから、それなのに結婚どころか婚約さえしないから!!絶望して自害なさった方が、6人!!それがどういうことか、判っておいでですの⁉︎」
そんな理由で娘を亡くした貴族は、二度と王太子──ひいては王を、許すまい。
実際、王太子を酷く冷めた目で見ている者が、そこかしこにいた。
娘を亡くした両親や、兄弟姉妹が。
「わたくしが入学してから2年、何人の方にお話したかお判りですの⁉︎21人ですわよ⁉︎21人!!」
半分以上の人は、説得で判ってくれた。叶わない夢の為に死にたい人など、そうたくさんはいない。
まあ、根性あるご令嬢も4、5人いたので、丁重にもてなして差し上げたのだが。
「大体、わたくしは公爵令嬢ですわ。本当に邪魔なら、わたくしに対する不敬、ということで、退学でもさせれば済むことでしょう。何でわざわざ苛めなど、面倒なことをしていたと思いますの」
単に、死人を出さない為である。
「君は……そんなに私を愛してくれていたのか」
何だか目をキラキラさせて、王太子が一歩踏み出して来る。
ベアトリクスは、一言で切って捨てた。
「違いますわ」
「何だと⁉︎」
「陛下に頼まれたからですわ。当然でしょう。
……誰が、好き好んで、苛めなどすると思いますの」
ねえ、皆さま。
ベアトリクスが後ろに控える取り巻きに問いかけると、10数人の少女が、きっぱり頷いた。
「その通りですわ」
目をキラキラさせていた王太子は、今度は真っ赤になって足を踏み鳴らし始めた。
「きっ、貴様ら、言うに事欠いて、父上に頼まれただと⁉︎」
「苛めなら、子どものしたこと、と、笑い話で済みますもの。……ですが、そこのアンナさんは、どんなに説得しようと、苛め倒そうと、まっったく応えませんの。それどころか、やり返してこちらに怪我を負わせてきましたのよ」
まあ、それはこちらも悪いので、咎める気はありませんけれども。
「ひ、酷い!!だって、怖かったからぁ」
うるうる、と瞳に涙を溜め、アンナが上目遣いに王太子を見やる。
デレデレと顔を崩した王太子は、アンナの腰を抱き寄せ、ベアトリクスを睨みつけた。
「きっ、貴様らが手を出すからだろう⁉︎」
「手を出す、と言っても。破いた教科書や制服は、ご実家の方に弁償していますし、インクやワインをかけたドレスも同様ですわ。後は嫌味と噂くらいですし。……最も、その方は、噂以上に殿方に手を出してますけれども」
「……は?」
「まず、王太子殿下。そこにいるあなたの側近3人。わたくしのお友達の婚約者2人。後は、つまみ食いで10人くらい?」
「なっ、酷い!!」
「あなたそれしか言えませんの。……王家の影を使って調査していますから、確実ですわよ。さて、初めてはどなたでしょうね」
実は、学園の中の誰か、でさえないのですけれど。
ベアトリクスは、内心でくすりと嘲笑した。
「……は?」
王太子は、自身の側近を振り返った。
3人とも、目を逸らした。
「その方はあなたから離れる気はないみたいですし、自害どころか、自分から積極的に身体を重ねて回るんですもの、あなたとはお似合いですわ」
ベアトリクスは、ここ数年見せなかった、美しい素の微笑みを浮かべた。
「ですから、どうぞ、お好きになさって」
その後。
王太子は廃嫡されて王都から追放され、側近3人も同じ道を辿った。
アンナは、自分は悪くない、と散々喚き立てたが、彼女が手を出していた男たちに引き渡され、行方知れずだという。
卒業パーティーの最中、いきなり大声が響き渡った。
華奢で可愛らしいタイプの少女を腕にぶら下げた、この国の王太子殿下である。
ベアトリクスは、溜息を隠して扇を広げ、口許を隠した。
「何ですの?突然」
「貴様は、この可愛らしいアンナを苛めただろう!!証拠も証言も、いくらでもあるのだぞ!!」
「……それが、何か」
「開き直る気か⁉︎そんな卑怯者など、王妃として相応しくない!!」
はあ。
堪えきれず、ベアトリクスは大きく溜息をついてしまった。
「……そうでもして遠ざけませんと、また、自害する人が出ては大変ですもの」
「……は?」
ポカン、とした王太子に、ベアトリクスは一歩、詰め寄った。
「王太子殿下。わたくしが入学するまでの一年間、何人の令嬢が自害したか、ご存知ですの⁉︎6人ですわ、6人!!修道院に駆け込んだ方は、8人!!」
また一歩、ベアトリクスが詰め寄る。王太子は、思わず一歩下がった。
「あなたが令嬢の純潔を奪ったから、それなのに結婚どころか婚約さえしないから!!絶望して自害なさった方が、6人!!それがどういうことか、判っておいでですの⁉︎」
そんな理由で娘を亡くした貴族は、二度と王太子──ひいては王を、許すまい。
実際、王太子を酷く冷めた目で見ている者が、そこかしこにいた。
娘を亡くした両親や、兄弟姉妹が。
「わたくしが入学してから2年、何人の方にお話したかお判りですの⁉︎21人ですわよ⁉︎21人!!」
半分以上の人は、説得で判ってくれた。叶わない夢の為に死にたい人など、そうたくさんはいない。
まあ、根性あるご令嬢も4、5人いたので、丁重にもてなして差し上げたのだが。
「大体、わたくしは公爵令嬢ですわ。本当に邪魔なら、わたくしに対する不敬、ということで、退学でもさせれば済むことでしょう。何でわざわざ苛めなど、面倒なことをしていたと思いますの」
単に、死人を出さない為である。
「君は……そんなに私を愛してくれていたのか」
何だか目をキラキラさせて、王太子が一歩踏み出して来る。
ベアトリクスは、一言で切って捨てた。
「違いますわ」
「何だと⁉︎」
「陛下に頼まれたからですわ。当然でしょう。
……誰が、好き好んで、苛めなどすると思いますの」
ねえ、皆さま。
ベアトリクスが後ろに控える取り巻きに問いかけると、10数人の少女が、きっぱり頷いた。
「その通りですわ」
目をキラキラさせていた王太子は、今度は真っ赤になって足を踏み鳴らし始めた。
「きっ、貴様ら、言うに事欠いて、父上に頼まれただと⁉︎」
「苛めなら、子どものしたこと、と、笑い話で済みますもの。……ですが、そこのアンナさんは、どんなに説得しようと、苛め倒そうと、まっったく応えませんの。それどころか、やり返してこちらに怪我を負わせてきましたのよ」
まあ、それはこちらも悪いので、咎める気はありませんけれども。
「ひ、酷い!!だって、怖かったからぁ」
うるうる、と瞳に涙を溜め、アンナが上目遣いに王太子を見やる。
デレデレと顔を崩した王太子は、アンナの腰を抱き寄せ、ベアトリクスを睨みつけた。
「きっ、貴様らが手を出すからだろう⁉︎」
「手を出す、と言っても。破いた教科書や制服は、ご実家の方に弁償していますし、インクやワインをかけたドレスも同様ですわ。後は嫌味と噂くらいですし。……最も、その方は、噂以上に殿方に手を出してますけれども」
「……は?」
「まず、王太子殿下。そこにいるあなたの側近3人。わたくしのお友達の婚約者2人。後は、つまみ食いで10人くらい?」
「なっ、酷い!!」
「あなたそれしか言えませんの。……王家の影を使って調査していますから、確実ですわよ。さて、初めてはどなたでしょうね」
実は、学園の中の誰か、でさえないのですけれど。
ベアトリクスは、内心でくすりと嘲笑した。
「……は?」
王太子は、自身の側近を振り返った。
3人とも、目を逸らした。
「その方はあなたから離れる気はないみたいですし、自害どころか、自分から積極的に身体を重ねて回るんですもの、あなたとはお似合いですわ」
ベアトリクスは、ここ数年見せなかった、美しい素の微笑みを浮かべた。
「ですから、どうぞ、お好きになさって」
その後。
王太子は廃嫡されて王都から追放され、側近3人も同じ道を辿った。
アンナは、自分は悪くない、と散々喚き立てたが、彼女が手を出していた男たちに引き渡され、行方知れずだという。
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