【新選組】異世界転移×『最短の突き』で双月世界を駆け上がる

紳士わん。

文字の大きさ
4 / 7
第1章 蒼月の街で、新たな誓い

第4話 初任務、双月の狭間で

しおりを挟む
夕方。赤橋〈あかばし〉に人が集まっていた。

橋の手前に白い線が走る。線灯《せんとう》――塔と塔をつなぐ光の結界だ。

欄干には伝言札がいくつも結ばれて、風に揺れる。金具が当たって「コト」と鳴った。

「線は越えるな。ここまでだ」

ファルコが小さく言う。

「はい」

橋の上では、赤い帯の一団が動いていた。緋《ひ》の教練士だ。

「始めるぞ!」

合図。木の人形が二体、転がされる。そこへ――一人の影が滑り込んだ。

「……霞《かすみ》?」

薄い衣。半歩ずらして、もう半歩。残像が二重三重に見える。

手首がふっと抜け、足が床をすべる。喉の一点に、木刀の先がすっと止まった。

(速い。あの"ずらし"だ)

ざわめきが大きくなる。太鼓の音も混じる。

言の加護《ことのかご》が少しザラついた。言葉の意味が遅れて届く。

ファルコが手符《てふ》を切る――掌を二度押さえ、指を二本で"橋"。

(分かる。落ち着け/橋へ、だ)

霞は面を上げない。けれど、一度だけ、こちら側を見た。

目だけで、「線は跨《また》ぐな」と言っている気がした。

---

――その頃、霞。

(来てる。廉)

胸の半月札・右(赤縁)が、ほんのり温かい。

緋の流れは、人を守る回し方。市場を止めない。逃がす道を作る。

(私は"曲"を学ぶ。流れを切らずに守るために。……それに、この教練士の"間"――どこかで見た)

一分も揺れないあの人の間合い。記憶がチクリと痛む。

(今は会えない。会えば迷う。だから、ここでやる)

霞は木刀を納めると、教練士に礼をした。

「次は実戦隊で」

「了解」

(緋に残る。でも、目は逸らさない。左の札(青縁)の行方も、こっちで探す)

---

橋のたもとで、黒い影が泡のようにふくらんだ。

「喰い影だ!」

悲鳴。人が押し合う。太鼓が増える。言葉が崩れる。

『……※○△……逃……!』

(聞こえるのに、意味が滑る!)

「線、開け! 格子を組む!」

ファルコが叫び、蒼《そう》の隊員が白い棒を打ち込む。

線灯の格子が走る。格子の中は、ざわめきがすっと静かになった。

(耳が軽い。呼吸だけがはっきり残る)

「廉、右の角を頼む!」

「はい!」

俺は格子の角に立つ。

喰い影が、薄い布のように滑ってくる。牙だけが本物の速さ。

正眼。半歩詰める。狙いは喉の一点。

最短――突き。

刃先に細い青が走った。影が破れて、霧が石に散る。

(通る。蒼の線が、刀を通る)

二体目。小さく踏み替え、腰の動きで本物を見切る。

突き。

三体目は格子に触れて動きが鈍る。そこを見逃さず、一息で突き抜いた。

最後の一体が現れた。

「廉、任せる!」

ファルコが合図。俺は深く息を吐く。

最短の礼。迷いは、進む足で払え。

踏み込み、突き。

静かになった。

「よし、収束」

蒼の隊員が格子を畳む。

周りから「助かった」の声。胸に手を当てて礼をする人もいた。

「月満ち引きと共に」

俺も礼を返す。

「見事でした、望月殿」

アランが近づいた。

「線灯の上での呼吸。狙点の取り方。最短を心得ておられる」

「ありがとうございます」

彼は、一歩だけ近づいて声を落とす。

「望月殿、『青き誓約』の正式書をお持ちしました。もう一度説明しますが、期間は十日。塔の巡回、線灯の補修、記録庫での導素路《どうそろ》の図読みを学んでいただきます。衣食・寝所・研ぎ油はこちらで手配いたします。――ただし、緋の管轄に入られる際は、事前に私へ一声ください。橋渡し役は私が務めます。」

「承知しました」

俺は橋の向こうを見た。

霞は、顔を上げない。けれど、赤い紐が一度だけ揺れた。

(……分かってる。今は行くな、だろ)

胸の奥で、小さく「コト」と何かが鳴った気がした。羽織の「誠」が日向みたいにわずかに温かい。

(俺は――蒼に入る。力がいる。地図がいる。読み書きも早く覚える。あの人の"間"の正体にも、近づける)

「アランさん。誓約、受けさせていただきます。ただし――」

「彼女の件ですね。橋渡しは私が」

「お願いします」

アランは一礼した。

「月満ちて」

「引きと共に」と返す。胸の中で、言葉がきちんと噛み合った。

---

赤橋の上。

霞は隊から外れて、欄干に小さな印を刻んだ。半月の左(青縁)をかたどった、薄い傷。

(見つけて。けど、今は来ないで)

風が札を揺らし、金具がまた「コト」と鳴った。

ふと、屋根の上に白い袖が見えた気がした。

「……?」

目を凝らす。もういない。

胸の中で、古い記憶がきしむ。

(戻れない、が誰かの足を狂わせる。なら――私は進む)

霞は、赤い帯をきゅっと締め直した。

(流れを止めない"曲"。それが、今の私の誠だ)

---

夜。

俺は仮宿の机で、セリナにもらった練習帳を開いた。

「ア、イ、ウ……」

読み書きは、最短じゃない。けど、確実だ。

(最短は、一歩の重ね方だって、沖田さんが教えてくれた)

窓の外。蒼が少し薄れ、緋が濃くなる。

二つの月が、街をゆっくり染め替えていく。

(待ってろ、霞。線と曲で、いつか同じ場所へ)

――つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...