1 / 14
1.再会
しおりを挟む
その再会は、予期したものでも望んだものでもなかった。
「あ……、芳澤か? 久しぶり。悪いな、いきなり押しかけて」
覚えのある声。覚えのある面立ち。
数年ぶりに見た彼の姿に僕が感じたのは戸惑いと疑念で、ついで生じたのはほんの少しの懐かしさとあまり喜ばしくない予感だった。
振り返ることもないだろうと思っていた過去。忘れるほどの大した思い出もない学生時代。
今の自分からは切り離されていた過去の残像がふいに目の前で形を成す。元より繋がってなどいないと思っていた糸が細い線を作る。
人生には何が起こるかわからないことを、僕はよく知っていた。
大学を卒業してから少したった頃、学生時代の知人との付き合いなんてほとんど絶っていた僕の前に現れたのは藤宮という、高校の二年と三年の時に同じクラスだった男だった。
彼は俗にいう陽キャに分類される人物で運動神経がよく、その明るさと整った容姿で女子からはかなりモテて、飾らない気さくな人柄で男子とは幅広く仲が良かった。いわゆるクラスの人気者というやつだ。同じ学年の奴ならば誰もがその顔と名前を知っている、そんな存在。
成績については大して良くなかったみたいだが、高校自体は進学校と呼ばれる部類に入っていたので一般的に見れば別に頭が悪かったわけではないだろう。
対して、僕はと言えばクラスで目立つことのない、陰キャとかオタクとかいったレッテルを貼られるような学生だった。同じように人付き合いが苦手で奥手な奴と多少話すものの、これといって友達と呼べるほど仲のいい相手もおらず、休み時間は自分の席に座って本を読んでいるのが常だった。
いじめられることなどはなかったが、クラスにいてもいなくてもどうでもいいような希薄な存在。毎日が楽しいわけでもなければ逃げ出したいほど苦痛なわけでもない。
そんな面白味のない人生を送る僕を大きく変えたのは高校を卒業してからのことだった。
大学一年のときに両親が事故で死んだ。本当に突然のことだった。相手側は企業でかつ完全なる過失であったので賠償金はかなりの額になり、加えて二人の生命保険金も入って来たので僕は家族を失った代わりに一生働かなくていいくらいの金を手にした。不幸中の幸い。或いは不幸という名の幸運。
それをきっかけに僕の人生は一変した。
計らずも手にした多額の金を元手に投資や起業をした結果、一生働かなくていいくらいからそこそこ豪遊できるくらいまでにランクアップしたのだった。
それまではごく普通どころか貧乏寄りだった家庭に育ち、リア充から程遠い地味な大学生でしかなかったのに。まったく運命とは数奇なものだ。
僕のうちは貧しかった。小さい時は木造のアパート住まいで、子供部屋が必要だからと引っ越した先も駅からぎりぎり徒歩圏といえるくらい離れた大して広くもない中古の団地だった。
父親は安月給のサラリーマンで、母親は近くのスーパーでパート。日々の暮らしに困窮するほど貧乏ではなかったが、日々の暮らしで手一杯なくらいには貧しかった。
僕が勉強をしたのは他にすることがなかったからだ。ゲームやおもちゃなどはほとんど買ってもらえず、自由に使えるタブレットもパソコンもなかった。友達と外で遊びまわるほど活発でもなかったから、図書館で借りた本を読んだり宿題に勤しんだりが日常になった。
だが、他の皆が遊んでいる時間を勉強に充てていてもクラスで一番にはなれなかった。塾に行かせてもらえず独学で勉強していたところで生まれつきの天才や秀才ではない僕は公立のそこそこ頭のいい学校程度にしか入れなかった。
国立大学を狙えるほどの学力はなく、有名私立大学に入れるほどの財力もなく、奨学金を頼りにバカにされない程度の大学を出てその辺の当たり障りのないサラリーマンになるという平凡な人生を歩むはずだった。
そんな未来を疑ってもいなかった。
人生とは本当に思いがけないことが起こるものだ、とつくづく感じながら僕は来訪者を見下ろす。
ああ、本当に。
『彼』がこんな理由で僕のもとを訪れるなんて。
「あ……、芳澤か? 久しぶり。悪いな、いきなり押しかけて」
覚えのある声。覚えのある面立ち。
数年ぶりに見た彼の姿に僕が感じたのは戸惑いと疑念で、ついで生じたのはほんの少しの懐かしさとあまり喜ばしくない予感だった。
振り返ることもないだろうと思っていた過去。忘れるほどの大した思い出もない学生時代。
今の自分からは切り離されていた過去の残像がふいに目の前で形を成す。元より繋がってなどいないと思っていた糸が細い線を作る。
人生には何が起こるかわからないことを、僕はよく知っていた。
大学を卒業してから少したった頃、学生時代の知人との付き合いなんてほとんど絶っていた僕の前に現れたのは藤宮という、高校の二年と三年の時に同じクラスだった男だった。
彼は俗にいう陽キャに分類される人物で運動神経がよく、その明るさと整った容姿で女子からはかなりモテて、飾らない気さくな人柄で男子とは幅広く仲が良かった。いわゆるクラスの人気者というやつだ。同じ学年の奴ならば誰もがその顔と名前を知っている、そんな存在。
成績については大して良くなかったみたいだが、高校自体は進学校と呼ばれる部類に入っていたので一般的に見れば別に頭が悪かったわけではないだろう。
対して、僕はと言えばクラスで目立つことのない、陰キャとかオタクとかいったレッテルを貼られるような学生だった。同じように人付き合いが苦手で奥手な奴と多少話すものの、これといって友達と呼べるほど仲のいい相手もおらず、休み時間は自分の席に座って本を読んでいるのが常だった。
いじめられることなどはなかったが、クラスにいてもいなくてもどうでもいいような希薄な存在。毎日が楽しいわけでもなければ逃げ出したいほど苦痛なわけでもない。
そんな面白味のない人生を送る僕を大きく変えたのは高校を卒業してからのことだった。
大学一年のときに両親が事故で死んだ。本当に突然のことだった。相手側は企業でかつ完全なる過失であったので賠償金はかなりの額になり、加えて二人の生命保険金も入って来たので僕は家族を失った代わりに一生働かなくていいくらいの金を手にした。不幸中の幸い。或いは不幸という名の幸運。
それをきっかけに僕の人生は一変した。
計らずも手にした多額の金を元手に投資や起業をした結果、一生働かなくていいくらいからそこそこ豪遊できるくらいまでにランクアップしたのだった。
それまではごく普通どころか貧乏寄りだった家庭に育ち、リア充から程遠い地味な大学生でしかなかったのに。まったく運命とは数奇なものだ。
僕のうちは貧しかった。小さい時は木造のアパート住まいで、子供部屋が必要だからと引っ越した先も駅からぎりぎり徒歩圏といえるくらい離れた大して広くもない中古の団地だった。
父親は安月給のサラリーマンで、母親は近くのスーパーでパート。日々の暮らしに困窮するほど貧乏ではなかったが、日々の暮らしで手一杯なくらいには貧しかった。
僕が勉強をしたのは他にすることがなかったからだ。ゲームやおもちゃなどはほとんど買ってもらえず、自由に使えるタブレットもパソコンもなかった。友達と外で遊びまわるほど活発でもなかったから、図書館で借りた本を読んだり宿題に勤しんだりが日常になった。
だが、他の皆が遊んでいる時間を勉強に充てていてもクラスで一番にはなれなかった。塾に行かせてもらえず独学で勉強していたところで生まれつきの天才や秀才ではない僕は公立のそこそこ頭のいい学校程度にしか入れなかった。
国立大学を狙えるほどの学力はなく、有名私立大学に入れるほどの財力もなく、奨学金を頼りにバカにされない程度の大学を出てその辺の当たり障りのないサラリーマンになるという平凡な人生を歩むはずだった。
そんな未来を疑ってもいなかった。
人生とは本当に思いがけないことが起こるものだ、とつくづく感じながら僕は来訪者を見下ろす。
ああ、本当に。
『彼』がこんな理由で僕のもとを訪れるなんて。
0
あなたにおすすめの小説
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる