ブルー・リグレット

梓月 霜

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1.再会

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 その再会は、予期したものでも望んだものでもなかった。
「あ……、芳澤か? 久しぶり。悪いな、いきなり押しかけて」
 覚えのある声。覚えのある面立ち。
 数年ぶりに見た彼の姿に僕が感じたのは戸惑いと疑念で、ついで生じたのはほんの少しの懐かしさとあまり喜ばしくない予感だった。
 振り返ることもないだろうと思っていた過去。忘れるほどの大した思い出もない学生時代。
 今の自分からは切り離されていた過去の残像がふいに目の前で形を成す。元より繋がってなどいないと思っていた糸が細い線を作る。
 人生には何が起こるかわからないことを、僕はよく知っていた。
 

 大学を卒業してから少したった頃、学生時代の知人との付き合いなんてほとんど絶っていた僕の前に現れたのは藤宮という、高校の二年と三年の時に同じクラスだった男だった。
 彼は俗にいう陽キャに分類される人物で運動神経がよく、その明るさと整った容姿で女子からはかなりモテて、飾らない気さくな人柄で男子とは幅広く仲が良かった。いわゆるクラスの人気者というやつだ。同じ学年の奴ならば誰もがその顔と名前を知っている、そんな存在。
 成績については大して良くなかったみたいだが、高校自体は進学校と呼ばれる部類に入っていたので一般的に見れば別に頭が悪かったわけではないだろう。
 対して、僕はと言えばクラスで目立つことのない、陰キャとかオタクとかいったレッテルを貼られるような学生だった。同じように人付き合いが苦手で奥手な奴と多少話すものの、これといって友達と呼べるほど仲のいい相手もおらず、休み時間は自分の席に座って本を読んでいるのが常だった。
 いじめられることなどはなかったが、クラスにいてもいなくてもどうでもいいような希薄な存在。毎日が楽しいわけでもなければ逃げ出したいほど苦痛なわけでもない。
 そんな面白味のない人生を送る僕を大きく変えたのは高校を卒業してからのことだった。
 
 大学一年のときに両親が事故で死んだ。本当に突然のことだった。相手側は企業でかつ完全なる過失であったので賠償金はかなりの額になり、加えて二人の生命保険金も入って来たので僕は家族を失った代わりに一生働かなくていいくらいの金を手にした。不幸中の幸い。或いは不幸という名の幸運。
 それをきっかけに僕の人生は一変した。
 計らずも手にした多額の金を元手に投資や起業をした結果、一生働かなくていいくらいからそこそこ豪遊できるくらいまでにランクアップしたのだった。
 それまではごく普通どころか貧乏寄りだった家庭に育ち、リア充から程遠い地味な大学生でしかなかったのに。まったく運命とは数奇なものだ。
 僕のうちは貧しかった。小さい時は木造のアパート住まいで、子供部屋が必要だからと引っ越した先も駅からぎりぎり徒歩圏といえるくらい離れた大して広くもない中古の団地だった。
 父親は安月給のサラリーマンで、母親は近くのスーパーでパート。日々の暮らしに困窮するほど貧乏ではなかったが、日々の暮らしで手一杯なくらいには貧しかった。

 僕が勉強をしたのは他にすることがなかったからだ。ゲームやおもちゃなどはほとんど買ってもらえず、自由に使えるタブレットもパソコンもなかった。友達と外で遊びまわるほど活発でもなかったから、図書館で借りた本を読んだり宿題に勤しんだりが日常になった。
 だが、他の皆が遊んでいる時間を勉強に充てていてもクラスで一番にはなれなかった。塾に行かせてもらえず独学で勉強していたところで生まれつきの天才や秀才ではない僕は公立のそこそこ頭のいい学校程度にしか入れなかった。
 国立大学を狙えるほどの学力はなく、有名私立大学に入れるほどの財力もなく、奨学金を頼りにバカにされない程度の大学を出てその辺の当たり障りのないサラリーマンになるという平凡な人生を歩むはずだった。
 そんな未来を疑ってもいなかった。
 人生とは本当に思いがけないことが起こるものだ、とつくづく感じながら僕は来訪者を見下ろす。
 ああ、本当に。
『彼』がこんな理由で僕のもとを訪れるなんて。
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