4 / 9
本気だ、って伝えたくて。
しおりを挟む
踊り場での話しをその日の夜にサキに話すと、サキは怒った。
しかし、その怒りは感情的なものでは全くなく、冷静な怒りだった。
内容は、家元――吉川浩介くんというらしい――の行動に対してだった。
だがそれも2、3言だけで、あとはフォローの方が長かった気がする。
普段であれば、よほどのことが無い限り怒りを表に出すような人ではないらしい。
だからこそ、サキは私の話に心底驚いていた。
悪くもないサキに謝られるのは心苦しかった。
元を辿れば、私の身勝手な考えが原因だったのだから。
☆
だから私は、翌日、吉川くんを昨日と同じ屋上へと続く踊り場に呼び出した。
今回はサキにお願いせず自分で。
サキは吉川くんを呼び出すと言ったことに驚いていたし、心配して同行しようかと言ってくれたけど、断った。
だって人任せにしたら、私が真剣に考えていないと思われる。
案の定、吉川くんはバツの悪そうな顔をしていたし、ここへ来るのも少し渋った。
本当ならもう会わないくらいが良かったのかもしれない。
でもダメ元で、もう一度、話してみるしかなかった。
「あの、昨日はゴメン!」
「昨日は、申し訳なかった!!」
ほぼ同時に、互いに頭を下げた。
「えっ? なんで……?」
謝るべきは私なのに、なぜ吉川くんまで頭を下げるのか分からなかった。
「昨日のこと、家に帰って思い返したら、俺、スゲー嫌な奴になってた。腹が立ったのは確かだけど、それなら笑って受け流すくらいできたのに、それができなかった」
頭をポリポリと搔きながら、視線を下に向けて申し訳なさそうに話す吉川くん。
昨日と様子が違いすぎて、謝られた私の方が逆に申し訳ない気持ちになってしまう。
「違う! あれは私が勝手なことを言ったせいで! あの、だから今回は『私は真剣なんだ!』ってのを認めて貰いたくて――」
「これ!」と、吉川くんに封筒を差し出した。吉川くんはこの封筒を見て、いぶかしげな表情になる。
「ここに1万円入ってる。1回、5000円だったよね? 吉川くんの言う通り、途中でダメになるかもしれないから、まずは2回、習いたいの」
伝えたいことを言葉にするだけなのに、それが難しい。
初っぱなから失敗して、情けないことに挫折することも込み込みで月謝も2回分しか払えない。
昨日、真剣に考えた結果がこれだけど、考え直してみたら私、今めっちゃ馬鹿なことをしているのかもしれない。
「また怒らせてしまうだろうか」と怖くて吉川くんの顔が見られない。でも、相手の顔を見ないのは失礼だ。
そんな考えをグルグル頭を巡らせながら、チラリと伺うように吉川くんの顔を見た。
しかし、吉川くんの表情は予想に反して困ったような顔になっていた。
「いや、ごめん。昨日、あんなことを言った奴に習うの……?」
何か気を悪くした様子はなく、吉川くんから逆に問われてしまった。
「あっ、あれは私が馬鹿だっただけで、吉川くんは悪くないし……。それに、昨日の怒っていたあの話しは、真剣にやっているからこそ出てきたものだから。そんな、すごく真剣にやっている人に教えてもらえたら、上手くなるのも早いかなぁーって……」
馬鹿だ。私は底抜けの馬鹿だった。
途中で馬鹿なことを言っていることに気づいて、最後は尻すぼみになってしまった。
こんなことでは、また吉川くんを怒らせてしまう。
今度こそ、「申し訳ない」と言った吉川くんを激怒させた、と思い顔を見るのも怖かった。
でもそれも少しのことだった。
「上手い人に習っても、本人のやる気が無けりゃ下手のままだぞ」
「あっ、アハハハ……。そうだよね! 私、なに言ってんだろ」
「まぁでも、俺で良かったら教えるよ」
あれだけ失礼な言葉を連発していたというのに、吉川くんからの返事は予想に反するものだった。
時が止まる。そう錯覚してしまうような、静寂に包まれた時が過ぎる。
「えっ? いいの?」
「そっちが良かったらね」
断られると思っていた手前、なぜだか素直に喜べず、恐る恐る聞き返して見るも返答は変わらなかった。
「ならば」と、吉川くんの気が変わる前に月謝の1万円が入った封筒を渡そうとすると、丁寧に断られてしまった。
「金の話しをすれば2度と話しかけてこないと思ったからだし、次の日にはちゃんとお金を用意してきた上で、もう1度、習いたいって言ったのはあんたが初めてだし」
「だから、タダで見てやるよ」と、吉川くんは笑顔で言った。
そこには、昨日の憤怒や何かを我慢するような表情は無かった。
これが本当の吉川くんなんだろう。サキが昨日の様子を聞いて驚くわけだ。
だからこそ、昨日のことが気になったが、それはもう少し仲よくなってからの方が良いのかもしれない。
しかし、その怒りは感情的なものでは全くなく、冷静な怒りだった。
内容は、家元――吉川浩介くんというらしい――の行動に対してだった。
だがそれも2、3言だけで、あとはフォローの方が長かった気がする。
普段であれば、よほどのことが無い限り怒りを表に出すような人ではないらしい。
だからこそ、サキは私の話に心底驚いていた。
悪くもないサキに謝られるのは心苦しかった。
元を辿れば、私の身勝手な考えが原因だったのだから。
☆
だから私は、翌日、吉川くんを昨日と同じ屋上へと続く踊り場に呼び出した。
今回はサキにお願いせず自分で。
サキは吉川くんを呼び出すと言ったことに驚いていたし、心配して同行しようかと言ってくれたけど、断った。
だって人任せにしたら、私が真剣に考えていないと思われる。
案の定、吉川くんはバツの悪そうな顔をしていたし、ここへ来るのも少し渋った。
本当ならもう会わないくらいが良かったのかもしれない。
でもダメ元で、もう一度、話してみるしかなかった。
「あの、昨日はゴメン!」
「昨日は、申し訳なかった!!」
ほぼ同時に、互いに頭を下げた。
「えっ? なんで……?」
謝るべきは私なのに、なぜ吉川くんまで頭を下げるのか分からなかった。
「昨日のこと、家に帰って思い返したら、俺、スゲー嫌な奴になってた。腹が立ったのは確かだけど、それなら笑って受け流すくらいできたのに、それができなかった」
頭をポリポリと搔きながら、視線を下に向けて申し訳なさそうに話す吉川くん。
昨日と様子が違いすぎて、謝られた私の方が逆に申し訳ない気持ちになってしまう。
「違う! あれは私が勝手なことを言ったせいで! あの、だから今回は『私は真剣なんだ!』ってのを認めて貰いたくて――」
「これ!」と、吉川くんに封筒を差し出した。吉川くんはこの封筒を見て、いぶかしげな表情になる。
「ここに1万円入ってる。1回、5000円だったよね? 吉川くんの言う通り、途中でダメになるかもしれないから、まずは2回、習いたいの」
伝えたいことを言葉にするだけなのに、それが難しい。
初っぱなから失敗して、情けないことに挫折することも込み込みで月謝も2回分しか払えない。
昨日、真剣に考えた結果がこれだけど、考え直してみたら私、今めっちゃ馬鹿なことをしているのかもしれない。
「また怒らせてしまうだろうか」と怖くて吉川くんの顔が見られない。でも、相手の顔を見ないのは失礼だ。
そんな考えをグルグル頭を巡らせながら、チラリと伺うように吉川くんの顔を見た。
しかし、吉川くんの表情は予想に反して困ったような顔になっていた。
「いや、ごめん。昨日、あんなことを言った奴に習うの……?」
何か気を悪くした様子はなく、吉川くんから逆に問われてしまった。
「あっ、あれは私が馬鹿だっただけで、吉川くんは悪くないし……。それに、昨日の怒っていたあの話しは、真剣にやっているからこそ出てきたものだから。そんな、すごく真剣にやっている人に教えてもらえたら、上手くなるのも早いかなぁーって……」
馬鹿だ。私は底抜けの馬鹿だった。
途中で馬鹿なことを言っていることに気づいて、最後は尻すぼみになってしまった。
こんなことでは、また吉川くんを怒らせてしまう。
今度こそ、「申し訳ない」と言った吉川くんを激怒させた、と思い顔を見るのも怖かった。
でもそれも少しのことだった。
「上手い人に習っても、本人のやる気が無けりゃ下手のままだぞ」
「あっ、アハハハ……。そうだよね! 私、なに言ってんだろ」
「まぁでも、俺で良かったら教えるよ」
あれだけ失礼な言葉を連発していたというのに、吉川くんからの返事は予想に反するものだった。
時が止まる。そう錯覚してしまうような、静寂に包まれた時が過ぎる。
「えっ? いいの?」
「そっちが良かったらね」
断られると思っていた手前、なぜだか素直に喜べず、恐る恐る聞き返して見るも返答は変わらなかった。
「ならば」と、吉川くんの気が変わる前に月謝の1万円が入った封筒を渡そうとすると、丁寧に断られてしまった。
「金の話しをすれば2度と話しかけてこないと思ったからだし、次の日にはちゃんとお金を用意してきた上で、もう1度、習いたいって言ったのはあんたが初めてだし」
「だから、タダで見てやるよ」と、吉川くんは笑顔で言った。
そこには、昨日の憤怒や何かを我慢するような表情は無かった。
これが本当の吉川くんなんだろう。サキが昨日の様子を聞いて驚くわけだ。
だからこそ、昨日のことが気になったが、それはもう少し仲よくなってからの方が良いのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる