9 / 9
エピローグ
しおりを挟む
文化祭は盛況の内に終わり、三味線も――いや、長浜ロック三味線もまた例に漏れず大盛況だった。
あの時の演奏を撮影していた生徒が居たらしく、個人情報もなんのその、動画投稿サイトにアップしたことで一気に話題となった。
SNSではハッシュタグが作られ、それがトップに来るほどの勢いだった。
それに、地元の新聞にも取材されて一躍、時の人となれた。
「期待の新星 長浜の三味線文化を若者に伝える『長浜ロック三味線』」
そう銘を打たれて、いつの間にか私は三味線初心者ではなく『三味線のプロ』として紹介されたのは笑ってしまった。
「まぁ、世の中そんなもんだよ」と笑う吉川くんも、やけに印象に残った。
文化祭が終わってからは、吉川くんの家に三味線を習いに行くこともなくなった。
元々、忙しい合間をぬって三味線を教えてくれていたので、これは仕方がないことだ。
今はお祖母ちゃんの部屋で、在りし日の姿を模すように私が三味線を弾いている。
母もその姿を見て「あの景品が、まさかこんなことになるなんて」と笑った。
でも、楽しいからいいのだ。
「…………ん?」
今日も三味線を弾こうと調弦していると、スマホが鳴った。
相手は吉川くんだった。
「もしもし」
『もしもし。今、電話大丈夫?』
「大丈夫だよ」
電話の向こうから三味線の音が聞こえる。
どこかで練習を見ているのだろうか?
『今、文化ホールに居るんだけど、そこで県の人と話す機会があって』
「うん」
『今度、テレビで長浜の魅力を紹介するコーナーがあって、そこで長浜ロック三味線を出したいって言われたんだ。だから、まず早乙女さんに話を通しとこうと思って』
「私に……?」
なぜ、私に話を通すのだろうか?
考案したのは吉川くんだし、メインの演奏も吉川くん。私は伴奏を頑張っただけだ。
『早乙女さんは自覚がないし、そもそも取材とかも全く受けないから知らないと思うけど』
そりゃそうだ。
私に三味線のことを聞かれてもなにも答えられないし、これといった芯になる話もない。
あるのは、たまたま景品がはつね糸が当たったという始まりだけ。
『全然、表に出てこないから、早乙女さんは実は有名な三味線演奏家の隠し子じゃないのか、って話で盛り上がってるんだ』
「えぇっ!? なに、そのおかしな話!?」
とんでもない尾ひれに驚くと、吉川くんは心底おかしそうに笑った。
『まぁ、そんなことはあり得ないから、ただの笑い話なんだけど』
「こっちは笑えないよ」
こちらは驚きに心臓をバクバクさせているのに、電話の向こうは楽しそうに笑うだけだった。
『早乙女さんには迷惑な話かもしれないけど、長浜ロック三味線って僕と早乙女さんのワンセットで見られているみたいで、先方もできたら早乙女さんに出演してもらえないかって』
「えぇっ!? いや、困るよ。テレビでしょ? まだ初心者だもん。絶対に失敗するって!」
文化祭は勢いで成功したようなもんだし、そもそも細かく見れば粗はあるわ失敗はあるわだった。
それがテレビともなれば、その姿が多くの人に晒される。
『じゃぁ、失敗しないように練習をいっぱいしよう』
「いっぱい、って……。頑張ってるけど、そう簡単には前に進まないよ」
『大丈夫。早乙女さんさえ良ければ、僕も全力で協力するから』
どこかで聞いたことがあるやりとりだった。
もうここまで来たら、あとの流れは一緒だろう。
行き着く先はどうなるか分からないけど、きっと文化祭みたいな楽しい終わりになってくれると信じて。
すぅ、と小さく深呼吸。
「わかった。今回もよろしくね!」
たぶん、私の顔はにやけてた。
あの時の演奏を撮影していた生徒が居たらしく、個人情報もなんのその、動画投稿サイトにアップしたことで一気に話題となった。
SNSではハッシュタグが作られ、それがトップに来るほどの勢いだった。
それに、地元の新聞にも取材されて一躍、時の人となれた。
「期待の新星 長浜の三味線文化を若者に伝える『長浜ロック三味線』」
そう銘を打たれて、いつの間にか私は三味線初心者ではなく『三味線のプロ』として紹介されたのは笑ってしまった。
「まぁ、世の中そんなもんだよ」と笑う吉川くんも、やけに印象に残った。
文化祭が終わってからは、吉川くんの家に三味線を習いに行くこともなくなった。
元々、忙しい合間をぬって三味線を教えてくれていたので、これは仕方がないことだ。
今はお祖母ちゃんの部屋で、在りし日の姿を模すように私が三味線を弾いている。
母もその姿を見て「あの景品が、まさかこんなことになるなんて」と笑った。
でも、楽しいからいいのだ。
「…………ん?」
今日も三味線を弾こうと調弦していると、スマホが鳴った。
相手は吉川くんだった。
「もしもし」
『もしもし。今、電話大丈夫?』
「大丈夫だよ」
電話の向こうから三味線の音が聞こえる。
どこかで練習を見ているのだろうか?
『今、文化ホールに居るんだけど、そこで県の人と話す機会があって』
「うん」
『今度、テレビで長浜の魅力を紹介するコーナーがあって、そこで長浜ロック三味線を出したいって言われたんだ。だから、まず早乙女さんに話を通しとこうと思って』
「私に……?」
なぜ、私に話を通すのだろうか?
考案したのは吉川くんだし、メインの演奏も吉川くん。私は伴奏を頑張っただけだ。
『早乙女さんは自覚がないし、そもそも取材とかも全く受けないから知らないと思うけど』
そりゃそうだ。
私に三味線のことを聞かれてもなにも答えられないし、これといった芯になる話もない。
あるのは、たまたま景品がはつね糸が当たったという始まりだけ。
『全然、表に出てこないから、早乙女さんは実は有名な三味線演奏家の隠し子じゃないのか、って話で盛り上がってるんだ』
「えぇっ!? なに、そのおかしな話!?」
とんでもない尾ひれに驚くと、吉川くんは心底おかしそうに笑った。
『まぁ、そんなことはあり得ないから、ただの笑い話なんだけど』
「こっちは笑えないよ」
こちらは驚きに心臓をバクバクさせているのに、電話の向こうは楽しそうに笑うだけだった。
『早乙女さんには迷惑な話かもしれないけど、長浜ロック三味線って僕と早乙女さんのワンセットで見られているみたいで、先方もできたら早乙女さんに出演してもらえないかって』
「えぇっ!? いや、困るよ。テレビでしょ? まだ初心者だもん。絶対に失敗するって!」
文化祭は勢いで成功したようなもんだし、そもそも細かく見れば粗はあるわ失敗はあるわだった。
それがテレビともなれば、その姿が多くの人に晒される。
『じゃぁ、失敗しないように練習をいっぱいしよう』
「いっぱい、って……。頑張ってるけど、そう簡単には前に進まないよ」
『大丈夫。早乙女さんさえ良ければ、僕も全力で協力するから』
どこかで聞いたことがあるやりとりだった。
もうここまで来たら、あとの流れは一緒だろう。
行き着く先はどうなるか分からないけど、きっと文化祭みたいな楽しい終わりになってくれると信じて。
すぅ、と小さく深呼吸。
「わかった。今回もよろしくね!」
たぶん、私の顔はにやけてた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる