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9◇転機◇
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目覚めると暗闇の中だった。手探りで深い闇の中を確かめると、どうやら狭い箱の中に体が収まっているようだった。手足を使って動くと、重い蓋が被せられているらしいことが分かった。俺は力をいれて少しずつその蓋を横にずらしていった。
そうしてようやく箱の上面が開いたところで、外に出た。さっきよりは薄い暗闇に目を凝らす。すると、見えてきたのは見覚えの無い、装飾だらけの室内。天井から吊り下がるランプや、天使や聖母の描かれたステンドグラス、横並びの数の多い椅子に、間の通路、真正面には祭壇があり、十字架が飾られていた。ということはつまり、ここは教会?
そして俺が居たのは――。
「棺の中……!?」
「開かないっ……やっぱ無理か」
教会の扉の前で朝を待つ。冬の夜の中、寒さで凍えそうになる。身震いしながら、少しでも暖をとろうと体を丸める。
気づいたらうたた寝していたのか、ステンドグラスから入る光に目を細めた。吐く息は白く、頭が締め付けられるような痛みを訴える。
それから時間が経過すると、やっと教会の扉を開ける音がした。座り込んでいた床から立ちあがり、扉の前へ。
開いた扉には神父と少なからぬ人々の姿が。そこには、不思議そうな顔をする彼が居た。
「エルメス……!!」
駆け出す。体が妙に軽い。それに不思議だ。エルメスの顔がこんなにも近くに見える。
エルメスの体に体当たりして、彼を捕まえる。逞しい腕にすがり付けば、安心感があった。ああ、幸せだ。エルメスに触れられるなんて。あれ? そういえば俺、眠る前にエルメスに……告白…………を……、!? って、俺はなにやってんだ!?
慌ててエルメスから手を引っ込める。ついでに居心地悪い思いになった。
その時、訝しげなエルメスの視線とかち合う。
「あの……どちら様ですか? 失礼ですが僕は見覚えがないんですが……」
はぁ!? なに言ってんだ、こいつは!
俺は苦笑いして、エルメスの肩を叩く。
「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ、お前。俺達は知り合いだろうが」
「あの、冗談の類いではないのですが。生憎貴方のような目立つ外見の方を忘れるとは思えません。なにかの間違いでは?」
生真面目な様子のエルメスに、ショックを受ける俺。彼は嘘を付けないタイプだし、冗談の類いもあまり言わない。そんなエルメスが本当の事だと言うように、俺を知らない奴扱いする。
これは、アレか? 知らない人として遠ざけたいのか? あの告白を無かったことにしたいのか? もしかして、もう俺との関係も白紙にされてる?
呆然とする俺に、意外な声が届いてきた。
「ルンガ様! 心配していたのですよ。国にお戻りになられたのですね!」
それはメイドの一人だった。確かに、彼女は俺をルンガとして認識している。だから俺は別に知らない人じゃないはずだ。
さらに声は続いた。
「まぁ、ルンガ! あなた元に戻ったのね。良かったわ……エルメスから、あなたが亡くなったって聞かされていたから心配したのよ。ルンガが親不孝な子じゃなくて良かったわ」
「母様、……」
俺を抱き締める母。彼女は喪服姿だった。トークハットを被り、顔の前はベールで覆われていたが、それを取り払って俺に抱きつき涙を流す。
遠ざけられていた距離を思って、この胸も感傷に浸る。
ただ不思議な話があった。俺が亡くなったってどういうことだ? しかもエルメスに聞いたって?
だが、俺が疑問を口にする前に、横から遮られた。
「元に戻った? おばさま、なんですか? その話は」
エルメスだった。彼は不思議そうな顔をして俺達を眺めている。
「ああ、そうね。貴方には言ってなかったわね。実はルンガは、魔女に呪われたせいで、老人になっていたの」
「へ!? え、あの……魔女? 呪い?」
母の話を聞いていたエルメスだったが、目を白黒させている。
「それってなにかのおとぎ話ですか?」
エルメスの指摘は最もだった。魔女が出てくる時点で、話に信憑性はない。だからそこへ哀れなものでも見るみたいな目でメイドが耳打ちした。
「違うのですよ。ルンガお坊っちゃまがいなくなった日に、あちらの老人のルンガ様が同じ出で立ちで現れて、自分がルンガだとアピールしたそうです。それをどうやら奥様方は信じてしまって……つまり、今まで私達がお世話していた方は」
エルメスが衝撃を受けた顔をする。
『ルンガお坊っちゃまの偽物だったのです』
何の話をしているんだ? 俺が、偽物だったって? 俺ならここにいる。ここにいるじゃないか!
「違う、エルメス! 俺は俺だ。俺はずっとルンガだ!!」
「ルンガ様が……偽物? う、嘘だ! だってルンガ様は、あんなにもしっかりしていて……、アンタじゃない! 僕が知ってるルンガ様は――目の前で亡くなったはずだ!」
そう言い切るやいなや、棺に向かって駆け出す。しかし、棺の中は空。それを見ると崩れ掛けるエルメスだが、急に俺に向けて怒り狂った顔を見せに来た。
「お前……墓泥棒なのか? はたまた悪戯のつもりか? あの人を、僕のルンガ様をどこへやった!!」
「落ち着けっ、俺がそのルンガだ」
「嘘つけ! ルンガ様はお前みたいに小綺麗な顔はしてない! それでも、僕には美しかった! まやかしみたいなお前の面と一緒なわけないだろ!?」
「まやかしって……そんな言い方ないだろ!」
「じゃあなんだって言うんだ! 僕の、僕のルンガ様を返せ! 返せよぉっ!!」
血反吐が出そうな声で叫んだエルメス。その時、俺は意外なものを見た。激昂するエルメスの瞳。そこに映るのは……
そこにあったのは元の俺の顔だった。
そうしてようやく箱の上面が開いたところで、外に出た。さっきよりは薄い暗闇に目を凝らす。すると、見えてきたのは見覚えの無い、装飾だらけの室内。天井から吊り下がるランプや、天使や聖母の描かれたステンドグラス、横並びの数の多い椅子に、間の通路、真正面には祭壇があり、十字架が飾られていた。ということはつまり、ここは教会?
そして俺が居たのは――。
「棺の中……!?」
「開かないっ……やっぱ無理か」
教会の扉の前で朝を待つ。冬の夜の中、寒さで凍えそうになる。身震いしながら、少しでも暖をとろうと体を丸める。
気づいたらうたた寝していたのか、ステンドグラスから入る光に目を細めた。吐く息は白く、頭が締め付けられるような痛みを訴える。
それから時間が経過すると、やっと教会の扉を開ける音がした。座り込んでいた床から立ちあがり、扉の前へ。
開いた扉には神父と少なからぬ人々の姿が。そこには、不思議そうな顔をする彼が居た。
「エルメス……!!」
駆け出す。体が妙に軽い。それに不思議だ。エルメスの顔がこんなにも近くに見える。
エルメスの体に体当たりして、彼を捕まえる。逞しい腕にすがり付けば、安心感があった。ああ、幸せだ。エルメスに触れられるなんて。あれ? そういえば俺、眠る前にエルメスに……告白…………を……、!? って、俺はなにやってんだ!?
慌ててエルメスから手を引っ込める。ついでに居心地悪い思いになった。
その時、訝しげなエルメスの視線とかち合う。
「あの……どちら様ですか? 失礼ですが僕は見覚えがないんですが……」
はぁ!? なに言ってんだ、こいつは!
俺は苦笑いして、エルメスの肩を叩く。
「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ、お前。俺達は知り合いだろうが」
「あの、冗談の類いではないのですが。生憎貴方のような目立つ外見の方を忘れるとは思えません。なにかの間違いでは?」
生真面目な様子のエルメスに、ショックを受ける俺。彼は嘘を付けないタイプだし、冗談の類いもあまり言わない。そんなエルメスが本当の事だと言うように、俺を知らない奴扱いする。
これは、アレか? 知らない人として遠ざけたいのか? あの告白を無かったことにしたいのか? もしかして、もう俺との関係も白紙にされてる?
呆然とする俺に、意外な声が届いてきた。
「ルンガ様! 心配していたのですよ。国にお戻りになられたのですね!」
それはメイドの一人だった。確かに、彼女は俺をルンガとして認識している。だから俺は別に知らない人じゃないはずだ。
さらに声は続いた。
「まぁ、ルンガ! あなた元に戻ったのね。良かったわ……エルメスから、あなたが亡くなったって聞かされていたから心配したのよ。ルンガが親不孝な子じゃなくて良かったわ」
「母様、……」
俺を抱き締める母。彼女は喪服姿だった。トークハットを被り、顔の前はベールで覆われていたが、それを取り払って俺に抱きつき涙を流す。
遠ざけられていた距離を思って、この胸も感傷に浸る。
ただ不思議な話があった。俺が亡くなったってどういうことだ? しかもエルメスに聞いたって?
だが、俺が疑問を口にする前に、横から遮られた。
「元に戻った? おばさま、なんですか? その話は」
エルメスだった。彼は不思議そうな顔をして俺達を眺めている。
「ああ、そうね。貴方には言ってなかったわね。実はルンガは、魔女に呪われたせいで、老人になっていたの」
「へ!? え、あの……魔女? 呪い?」
母の話を聞いていたエルメスだったが、目を白黒させている。
「それってなにかのおとぎ話ですか?」
エルメスの指摘は最もだった。魔女が出てくる時点で、話に信憑性はない。だからそこへ哀れなものでも見るみたいな目でメイドが耳打ちした。
「違うのですよ。ルンガお坊っちゃまがいなくなった日に、あちらの老人のルンガ様が同じ出で立ちで現れて、自分がルンガだとアピールしたそうです。それをどうやら奥様方は信じてしまって……つまり、今まで私達がお世話していた方は」
エルメスが衝撃を受けた顔をする。
『ルンガお坊っちゃまの偽物だったのです』
何の話をしているんだ? 俺が、偽物だったって? 俺ならここにいる。ここにいるじゃないか!
「違う、エルメス! 俺は俺だ。俺はずっとルンガだ!!」
「ルンガ様が……偽物? う、嘘だ! だってルンガ様は、あんなにもしっかりしていて……、アンタじゃない! 僕が知ってるルンガ様は――目の前で亡くなったはずだ!」
そう言い切るやいなや、棺に向かって駆け出す。しかし、棺の中は空。それを見ると崩れ掛けるエルメスだが、急に俺に向けて怒り狂った顔を見せに来た。
「お前……墓泥棒なのか? はたまた悪戯のつもりか? あの人を、僕のルンガ様をどこへやった!!」
「落ち着けっ、俺がそのルンガだ」
「嘘つけ! ルンガ様はお前みたいに小綺麗な顔はしてない! それでも、僕には美しかった! まやかしみたいなお前の面と一緒なわけないだろ!?」
「まやかしって……そんな言い方ないだろ!」
「じゃあなんだって言うんだ! 僕の、僕のルンガ様を返せ! 返せよぉっ!!」
血反吐が出そうな声で叫んだエルメス。その時、俺は意外なものを見た。激昂するエルメスの瞳。そこに映るのは……
そこにあったのは元の俺の顔だった。
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