9 / 16
9◇転機◇
しおりを挟む
目覚めると暗闇の中だった。手探りで深い闇の中を確かめると、どうやら狭い箱の中に体が収まっているようだった。手足を使って動くと、重い蓋が被せられているらしいことが分かった。俺は力をいれて少しずつその蓋を横にずらしていった。
そうしてようやく箱の上面が開いたところで、外に出た。さっきよりは薄い暗闇に目を凝らす。すると、見えてきたのは見覚えの無い、装飾だらけの室内。天井から吊り下がるランプや、天使や聖母の描かれたステンドグラス、横並びの数の多い椅子に、間の通路、真正面には祭壇があり、十字架が飾られていた。ということはつまり、ここは教会?
そして俺が居たのは――。
「棺の中……!?」
「開かないっ……やっぱ無理か」
教会の扉の前で朝を待つ。冬の夜の中、寒さで凍えそうになる。身震いしながら、少しでも暖をとろうと体を丸める。
気づいたらうたた寝していたのか、ステンドグラスから入る光に目を細めた。吐く息は白く、頭が締め付けられるような痛みを訴える。
それから時間が経過すると、やっと教会の扉を開ける音がした。座り込んでいた床から立ちあがり、扉の前へ。
開いた扉には神父と少なからぬ人々の姿が。そこには、不思議そうな顔をする彼が居た。
「エルメス……!!」
駆け出す。体が妙に軽い。それに不思議だ。エルメスの顔がこんなにも近くに見える。
エルメスの体に体当たりして、彼を捕まえる。逞しい腕にすがり付けば、安心感があった。ああ、幸せだ。エルメスに触れられるなんて。あれ? そういえば俺、眠る前にエルメスに……告白…………を……、!? って、俺はなにやってんだ!?
慌ててエルメスから手を引っ込める。ついでに居心地悪い思いになった。
その時、訝しげなエルメスの視線とかち合う。
「あの……どちら様ですか? 失礼ですが僕は見覚えがないんですが……」
はぁ!? なに言ってんだ、こいつは!
俺は苦笑いして、エルメスの肩を叩く。
「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ、お前。俺達は知り合いだろうが」
「あの、冗談の類いではないのですが。生憎貴方のような目立つ外見の方を忘れるとは思えません。なにかの間違いでは?」
生真面目な様子のエルメスに、ショックを受ける俺。彼は嘘を付けないタイプだし、冗談の類いもあまり言わない。そんなエルメスが本当の事だと言うように、俺を知らない奴扱いする。
これは、アレか? 知らない人として遠ざけたいのか? あの告白を無かったことにしたいのか? もしかして、もう俺との関係も白紙にされてる?
呆然とする俺に、意外な声が届いてきた。
「ルンガ様! 心配していたのですよ。国にお戻りになられたのですね!」
それはメイドの一人だった。確かに、彼女は俺をルンガとして認識している。だから俺は別に知らない人じゃないはずだ。
さらに声は続いた。
「まぁ、ルンガ! あなた元に戻ったのね。良かったわ……エルメスから、あなたが亡くなったって聞かされていたから心配したのよ。ルンガが親不孝な子じゃなくて良かったわ」
「母様、……」
俺を抱き締める母。彼女は喪服姿だった。トークハットを被り、顔の前はベールで覆われていたが、それを取り払って俺に抱きつき涙を流す。
遠ざけられていた距離を思って、この胸も感傷に浸る。
ただ不思議な話があった。俺が亡くなったってどういうことだ? しかもエルメスに聞いたって?
だが、俺が疑問を口にする前に、横から遮られた。
「元に戻った? おばさま、なんですか? その話は」
エルメスだった。彼は不思議そうな顔をして俺達を眺めている。
「ああ、そうね。貴方には言ってなかったわね。実はルンガは、魔女に呪われたせいで、老人になっていたの」
「へ!? え、あの……魔女? 呪い?」
母の話を聞いていたエルメスだったが、目を白黒させている。
「それってなにかのおとぎ話ですか?」
エルメスの指摘は最もだった。魔女が出てくる時点で、話に信憑性はない。だからそこへ哀れなものでも見るみたいな目でメイドが耳打ちした。
「違うのですよ。ルンガお坊っちゃまがいなくなった日に、あちらの老人のルンガ様が同じ出で立ちで現れて、自分がルンガだとアピールしたそうです。それをどうやら奥様方は信じてしまって……つまり、今まで私達がお世話していた方は」
エルメスが衝撃を受けた顔をする。
『ルンガお坊っちゃまの偽物だったのです』
何の話をしているんだ? 俺が、偽物だったって? 俺ならここにいる。ここにいるじゃないか!
「違う、エルメス! 俺は俺だ。俺はずっとルンガだ!!」
「ルンガ様が……偽物? う、嘘だ! だってルンガ様は、あんなにもしっかりしていて……、アンタじゃない! 僕が知ってるルンガ様は――目の前で亡くなったはずだ!」
そう言い切るやいなや、棺に向かって駆け出す。しかし、棺の中は空。それを見ると崩れ掛けるエルメスだが、急に俺に向けて怒り狂った顔を見せに来た。
「お前……墓泥棒なのか? はたまた悪戯のつもりか? あの人を、僕のルンガ様をどこへやった!!」
「落ち着けっ、俺がそのルンガだ」
「嘘つけ! ルンガ様はお前みたいに小綺麗な顔はしてない! それでも、僕には美しかった! まやかしみたいなお前の面と一緒なわけないだろ!?」
「まやかしって……そんな言い方ないだろ!」
「じゃあなんだって言うんだ! 僕の、僕のルンガ様を返せ! 返せよぉっ!!」
血反吐が出そうな声で叫んだエルメス。その時、俺は意外なものを見た。激昂するエルメスの瞳。そこに映るのは……
そこにあったのは元の俺の顔だった。
そうしてようやく箱の上面が開いたところで、外に出た。さっきよりは薄い暗闇に目を凝らす。すると、見えてきたのは見覚えの無い、装飾だらけの室内。天井から吊り下がるランプや、天使や聖母の描かれたステンドグラス、横並びの数の多い椅子に、間の通路、真正面には祭壇があり、十字架が飾られていた。ということはつまり、ここは教会?
そして俺が居たのは――。
「棺の中……!?」
「開かないっ……やっぱ無理か」
教会の扉の前で朝を待つ。冬の夜の中、寒さで凍えそうになる。身震いしながら、少しでも暖をとろうと体を丸める。
気づいたらうたた寝していたのか、ステンドグラスから入る光に目を細めた。吐く息は白く、頭が締め付けられるような痛みを訴える。
それから時間が経過すると、やっと教会の扉を開ける音がした。座り込んでいた床から立ちあがり、扉の前へ。
開いた扉には神父と少なからぬ人々の姿が。そこには、不思議そうな顔をする彼が居た。
「エルメス……!!」
駆け出す。体が妙に軽い。それに不思議だ。エルメスの顔がこんなにも近くに見える。
エルメスの体に体当たりして、彼を捕まえる。逞しい腕にすがり付けば、安心感があった。ああ、幸せだ。エルメスに触れられるなんて。あれ? そういえば俺、眠る前にエルメスに……告白…………を……、!? って、俺はなにやってんだ!?
慌ててエルメスから手を引っ込める。ついでに居心地悪い思いになった。
その時、訝しげなエルメスの視線とかち合う。
「あの……どちら様ですか? 失礼ですが僕は見覚えがないんですが……」
はぁ!? なに言ってんだ、こいつは!
俺は苦笑いして、エルメスの肩を叩く。
「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ、お前。俺達は知り合いだろうが」
「あの、冗談の類いではないのですが。生憎貴方のような目立つ外見の方を忘れるとは思えません。なにかの間違いでは?」
生真面目な様子のエルメスに、ショックを受ける俺。彼は嘘を付けないタイプだし、冗談の類いもあまり言わない。そんなエルメスが本当の事だと言うように、俺を知らない奴扱いする。
これは、アレか? 知らない人として遠ざけたいのか? あの告白を無かったことにしたいのか? もしかして、もう俺との関係も白紙にされてる?
呆然とする俺に、意外な声が届いてきた。
「ルンガ様! 心配していたのですよ。国にお戻りになられたのですね!」
それはメイドの一人だった。確かに、彼女は俺をルンガとして認識している。だから俺は別に知らない人じゃないはずだ。
さらに声は続いた。
「まぁ、ルンガ! あなた元に戻ったのね。良かったわ……エルメスから、あなたが亡くなったって聞かされていたから心配したのよ。ルンガが親不孝な子じゃなくて良かったわ」
「母様、……」
俺を抱き締める母。彼女は喪服姿だった。トークハットを被り、顔の前はベールで覆われていたが、それを取り払って俺に抱きつき涙を流す。
遠ざけられていた距離を思って、この胸も感傷に浸る。
ただ不思議な話があった。俺が亡くなったってどういうことだ? しかもエルメスに聞いたって?
だが、俺が疑問を口にする前に、横から遮られた。
「元に戻った? おばさま、なんですか? その話は」
エルメスだった。彼は不思議そうな顔をして俺達を眺めている。
「ああ、そうね。貴方には言ってなかったわね。実はルンガは、魔女に呪われたせいで、老人になっていたの」
「へ!? え、あの……魔女? 呪い?」
母の話を聞いていたエルメスだったが、目を白黒させている。
「それってなにかのおとぎ話ですか?」
エルメスの指摘は最もだった。魔女が出てくる時点で、話に信憑性はない。だからそこへ哀れなものでも見るみたいな目でメイドが耳打ちした。
「違うのですよ。ルンガお坊っちゃまがいなくなった日に、あちらの老人のルンガ様が同じ出で立ちで現れて、自分がルンガだとアピールしたそうです。それをどうやら奥様方は信じてしまって……つまり、今まで私達がお世話していた方は」
エルメスが衝撃を受けた顔をする。
『ルンガお坊っちゃまの偽物だったのです』
何の話をしているんだ? 俺が、偽物だったって? 俺ならここにいる。ここにいるじゃないか!
「違う、エルメス! 俺は俺だ。俺はずっとルンガだ!!」
「ルンガ様が……偽物? う、嘘だ! だってルンガ様は、あんなにもしっかりしていて……、アンタじゃない! 僕が知ってるルンガ様は――目の前で亡くなったはずだ!」
そう言い切るやいなや、棺に向かって駆け出す。しかし、棺の中は空。それを見ると崩れ掛けるエルメスだが、急に俺に向けて怒り狂った顔を見せに来た。
「お前……墓泥棒なのか? はたまた悪戯のつもりか? あの人を、僕のルンガ様をどこへやった!!」
「落ち着けっ、俺がそのルンガだ」
「嘘つけ! ルンガ様はお前みたいに小綺麗な顔はしてない! それでも、僕には美しかった! まやかしみたいなお前の面と一緒なわけないだろ!?」
「まやかしって……そんな言い方ないだろ!」
「じゃあなんだって言うんだ! 僕の、僕のルンガ様を返せ! 返せよぉっ!!」
血反吐が出そうな声で叫んだエルメス。その時、俺は意外なものを見た。激昂するエルメスの瞳。そこに映るのは……
そこにあったのは元の俺の顔だった。
3
あなたにおすすめの小説
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
混血の子は純血貴族に愛される
銀花月
BL
ヴァンパイアと人間の混血であるエイリアは、ある日死んだ父の夢を見る。
父から「忘れないで」と言われた言葉を覚えていなかったエイリアだったが、それは幼馴染みも知らない自分に関する秘密だった。
その夢が発端のように…エイリアから漂う香りが、元祖の血を狂わせていく―――
※改稿予定
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる