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10◇すれ違う感情◇
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「嘘……俺、戻ってる? なんで!?」
俺は自分の顔を触ったり、手足を眺めたりしながら驚いていた。その様子を母は涙を溢して微笑んで、メイドは不思議そうに、エルメスに至っては今更なんだという冷めた目で俺の行動を見ていた。
戻っている!
豊かで艶やかな黒髪に、宝石のように真っ赤な瞳、小さな鼻に、緩く弧を描く唇。どれをとっても自慢だった顔のパーツ。俺を俺とする部品である。
俺は母のように涙こそ流さなかったが喜んだ。どうやって戻ったのかしらないが、どこからどう見ても昔の俺である。
それは歓喜の瞬間だった。
ああ、若いっていい! こんなにも自由に動けるのか。自立したなに不自由無い体。それがどれだけ幸せなことか、俺は知らされた。鼻歌でも歌えそうな気分でいると、それに水を差す言葉が降りかかる。
「白々しい演技ですね。どうして貴方が老人だったルンガ様と話を合わせるのか分かりかねますが、僕は信じませんからね」
冷え冷えとした瞳で、俺を見るエルメス。そのぞっとする瞳に俺は悲しくなる。エルメスは信じてくれないのか。
「嘘なんかじゃない。ただ、俺は呪われてたから……だから、」
「だからなんだって言うんですか? しょうがないとでも? だいたい、貴方がルンガ様だっていうならなんなんですか?」
「それは――!」
言えなかった。俺があのルンガならエルメスは受け入れてくれる、そう妄信的に思った。だが現実はそうではない。彼は、俺の出来事を信じてくれない。それがこんなにも切ない気分にさせるなんて俺は思ってもみなかった。
でも、だからこそ、彼にだけは信じて欲しいと思えた。俺を最後まで放り出さなかったエルメス。証拠さえあれば彼だって俺を――俺をあのルンガだと認めてくれるはずだと、前向きに考えた。
そういえばエルメスが俺を受け入れてくれたきっかけは確か――あの傷だ。だったら、もう一度、あの傷に触れたら? そしたら俺を俺として認識してくれるんじゃないか?
多分、俺はどこかで舞い上がっていたのだろう。良案だとそれを思い込んで、相手の気持ちも考えもせず、俺はそれを決行した。
「エルメス……あのさ、」
「なんですか。大体、名前で呼ばれる筋合いは――ッ!?」
近距離で俺はエルメスの頬に触れ――ようとした。瞬間、俺の体は後方へ弾き飛ばされた。強い衝撃に咽ると、怒りに燃えた目とかち合う。俺の周囲はたちまち騒ぎ立てるが、そんな音は掻き消え、背筋を凍らせる音だけが俺の世界に広がった。
「偽者のくせに、――ルンガ様の真似をするな!」
それが、まさか彼をこんな風に激昂させることになるなんて、俺は激しく後悔していた。
俺は自分の顔を触ったり、手足を眺めたりしながら驚いていた。その様子を母は涙を溢して微笑んで、メイドは不思議そうに、エルメスに至っては今更なんだという冷めた目で俺の行動を見ていた。
戻っている!
豊かで艶やかな黒髪に、宝石のように真っ赤な瞳、小さな鼻に、緩く弧を描く唇。どれをとっても自慢だった顔のパーツ。俺を俺とする部品である。
俺は母のように涙こそ流さなかったが喜んだ。どうやって戻ったのかしらないが、どこからどう見ても昔の俺である。
それは歓喜の瞬間だった。
ああ、若いっていい! こんなにも自由に動けるのか。自立したなに不自由無い体。それがどれだけ幸せなことか、俺は知らされた。鼻歌でも歌えそうな気分でいると、それに水を差す言葉が降りかかる。
「白々しい演技ですね。どうして貴方が老人だったルンガ様と話を合わせるのか分かりかねますが、僕は信じませんからね」
冷え冷えとした瞳で、俺を見るエルメス。そのぞっとする瞳に俺は悲しくなる。エルメスは信じてくれないのか。
「嘘なんかじゃない。ただ、俺は呪われてたから……だから、」
「だからなんだって言うんですか? しょうがないとでも? だいたい、貴方がルンガ様だっていうならなんなんですか?」
「それは――!」
言えなかった。俺があのルンガならエルメスは受け入れてくれる、そう妄信的に思った。だが現実はそうではない。彼は、俺の出来事を信じてくれない。それがこんなにも切ない気分にさせるなんて俺は思ってもみなかった。
でも、だからこそ、彼にだけは信じて欲しいと思えた。俺を最後まで放り出さなかったエルメス。証拠さえあれば彼だって俺を――俺をあのルンガだと認めてくれるはずだと、前向きに考えた。
そういえばエルメスが俺を受け入れてくれたきっかけは確か――あの傷だ。だったら、もう一度、あの傷に触れたら? そしたら俺を俺として認識してくれるんじゃないか?
多分、俺はどこかで舞い上がっていたのだろう。良案だとそれを思い込んで、相手の気持ちも考えもせず、俺はそれを決行した。
「エルメス……あのさ、」
「なんですか。大体、名前で呼ばれる筋合いは――ッ!?」
近距離で俺はエルメスの頬に触れ――ようとした。瞬間、俺の体は後方へ弾き飛ばされた。強い衝撃に咽ると、怒りに燃えた目とかち合う。俺の周囲はたちまち騒ぎ立てるが、そんな音は掻き消え、背筋を凍らせる音だけが俺の世界に広がった。
「偽者のくせに、――ルンガ様の真似をするな!」
それが、まさか彼をこんな風に激昂させることになるなんて、俺は激しく後悔していた。
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