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12◇夢◇
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俺は気がつくと鬱蒼とした森に迷い込んでいた。いつからここに居たのか、それは分からない。自分の意志とは無関係に俺は立ち尽くしていた。
恐怖と緊張。その二つを伴って俺は歩き出した。かさかさと木の葉が揺れる音に混じって、不気味な風の音がする。
歩き続けると、森から開けた場所に出た。そこには廃墟然とした館がぽつんと存在した。俺は促されるように、その扉に手をかけた。そこでようやく頭が冴えるが、既に体は俺の意志とは関係なく動き出していた。
「いっひっひ、無礼な奴だね。ノックもなしに【魔女の館】を訪ねるなんて」
俺の行動を咎めたのは、あろうことか魔女だった。さすがの俺も警戒する。
「そんな風に威圧するのはおよしよ。アタシとアンタの仲だろう?」
「別にいいだろうが。俺はお前と仲良しになったつもりはないからな」
「仲良しだって? ひっひ、笑かすんじゃないよ。まったく」
魔女はというと、大がまを沸騰させて何かを煮詰めている様子だった。グロいものでなければいいと俺は密かに願った。
「【魔女の館】を訪ねるなら、土産を一つ。さぁ、アンタの土産はなんだい?」
「そんな決まり知るかよ」
「いいや、知らなくてもここに来れたアンタはなにかを持ってるはずだ。とっとと出しな」
「……」
話を聞く気が無さそうだな。
ん? 話といえば……。
「そういえば、なんで俺は元に戻ってたんだ? いつ魔女の呪いが解けたんだ?」
「ほー、それが土産かい」
「土産?」
「贈り物にしてはちゃちだが、ま、いいだろう」
「なんでそれが土産になるんだよ。意味分かんねーよ」
「言うだろ? 土産話って」
「……」
「なんだい。最近の若いもんはつまんないねぇ! もっと顕著な反応をよこしなさいな。ま、それはいい。それよりとっとと話しなよ」
魔女に催促されたので、俺は件の事を口にした。
「ほぉ。目覚めたら若返っていた、ねぇ。うんうん、成る程、成る程。そういうこともあろうねぇ」
「なんだよ。もったいぶらず話せ」
「アンタはね、確実に死にかけていた。だから意識を失ったんだよ。でも変だねぇ。死にかけた相手を嫌うような事を言うなんて、アンタの相手は変った奴なのかい?」
「変った奴なんかじゃな……、くもない、か?」
エルメスが変ってない、とは言い切れない。老人の世話をせっせと焼き、ときに笑顔まで浮かべていたし。
「って、別に変ってるか、どうかはどうでもいいだろう!?」
危うく話しに流されるところだった。
「俺は……あいつに嫌われたのか? だから戻ったと?」
「だからそう言ってるんだよ」
キラワレタ?
俺はエルメスに?
さっきまで散々怒っていたというのに、その一言の衝撃たるや計り知れない。心臓を直に刺されるような、心地悪さ。一瞬で呼気すら止まる程だった。俺は言葉を失った。
「今更ショックを受けているなんてねぇ、ひひ、これだから人間の観察は止められない」
悪趣味な魔女め。だが、それどころではなかった。
俺は――エルメスに嫌われたのか。
じゃあ最後の告白の返事は……。
考えるまでも無い、と頭を振った。老人と若者の恋なんて成就するわけもないのに、と。
だから、振られるのは当然のことで。
そこまで考えてはっとした。
エルメス。それならあいつは何故、老人を探していたんだ? あんなに必死になって。
「気付かないのかい?」
「煩い、魔女!」
「黙れと言われれども喋るのが魔女さ」
魔女の軽口を叩く様に苛立つ。そのせいで、考えに集中できない。
なんでエルメスは、俺を探していた?
未練でもあったか? それとも職が無くなるのが困るから? でも死んだ、とあいつは言っていたし……。確実に別れを経験してなお、求める理由は?
いや、違う。
未練があったのは俺の方だ。もしやエルメスはそのせいで? あいつはそのことを引きずっているんじゃないか?
俺が最後に託した想いを、彼が受け取っていたならば。
俺が一方的に押し付けた感情。それを知っているからこそ、あいつは負い目を感じた?
馬鹿馬鹿しい推測だった。でもそれを笑って否定出来ない自分が居た。
――告白などするべきではなかった。
「答えは出たかい?」
魔女のくせに、人の心を見透かしたような事を言う。正直に話すのも癪に障って、俺はそっぽを向いて答えた。
「さぁね」
「人間は素直じゃないねぇ。ま、いいさ。さぁ、もうすぐ目覚めだよ。準備はいいかい?」
「は? 目覚めって? ――ッ!?」
魔女に問い返した直後、館の窓から目を焼くような、強烈な光が差し込む。俺は目を開けていられず、慌てて閉じた。だが、その光は脳に残って――、痛みを覚えるような錯覚をし、気付いたら俺は、ベッドに沈んでいた。
「…………夢?」
夢にしてはやけに感覚が現実的だった。だが魔女との会話というのがまるっきり現実を無視していた。そのわりに、内容を笑って流せない。
俺の出した答えと、エルメスの今。それがどうにも気になって、いても立ってもいられなくなり、俺はメイド達の制止を振り切って外へ飛び出した。全てを、確かめる為に。
恐怖と緊張。その二つを伴って俺は歩き出した。かさかさと木の葉が揺れる音に混じって、不気味な風の音がする。
歩き続けると、森から開けた場所に出た。そこには廃墟然とした館がぽつんと存在した。俺は促されるように、その扉に手をかけた。そこでようやく頭が冴えるが、既に体は俺の意志とは関係なく動き出していた。
「いっひっひ、無礼な奴だね。ノックもなしに【魔女の館】を訪ねるなんて」
俺の行動を咎めたのは、あろうことか魔女だった。さすがの俺も警戒する。
「そんな風に威圧するのはおよしよ。アタシとアンタの仲だろう?」
「別にいいだろうが。俺はお前と仲良しになったつもりはないからな」
「仲良しだって? ひっひ、笑かすんじゃないよ。まったく」
魔女はというと、大がまを沸騰させて何かを煮詰めている様子だった。グロいものでなければいいと俺は密かに願った。
「【魔女の館】を訪ねるなら、土産を一つ。さぁ、アンタの土産はなんだい?」
「そんな決まり知るかよ」
「いいや、知らなくてもここに来れたアンタはなにかを持ってるはずだ。とっとと出しな」
「……」
話を聞く気が無さそうだな。
ん? 話といえば……。
「そういえば、なんで俺は元に戻ってたんだ? いつ魔女の呪いが解けたんだ?」
「ほー、それが土産かい」
「土産?」
「贈り物にしてはちゃちだが、ま、いいだろう」
「なんでそれが土産になるんだよ。意味分かんねーよ」
「言うだろ? 土産話って」
「……」
「なんだい。最近の若いもんはつまんないねぇ! もっと顕著な反応をよこしなさいな。ま、それはいい。それよりとっとと話しなよ」
魔女に催促されたので、俺は件の事を口にした。
「ほぉ。目覚めたら若返っていた、ねぇ。うんうん、成る程、成る程。そういうこともあろうねぇ」
「なんだよ。もったいぶらず話せ」
「アンタはね、確実に死にかけていた。だから意識を失ったんだよ。でも変だねぇ。死にかけた相手を嫌うような事を言うなんて、アンタの相手は変った奴なのかい?」
「変った奴なんかじゃな……、くもない、か?」
エルメスが変ってない、とは言い切れない。老人の世話をせっせと焼き、ときに笑顔まで浮かべていたし。
「って、別に変ってるか、どうかはどうでもいいだろう!?」
危うく話しに流されるところだった。
「俺は……あいつに嫌われたのか? だから戻ったと?」
「だからそう言ってるんだよ」
キラワレタ?
俺はエルメスに?
さっきまで散々怒っていたというのに、その一言の衝撃たるや計り知れない。心臓を直に刺されるような、心地悪さ。一瞬で呼気すら止まる程だった。俺は言葉を失った。
「今更ショックを受けているなんてねぇ、ひひ、これだから人間の観察は止められない」
悪趣味な魔女め。だが、それどころではなかった。
俺は――エルメスに嫌われたのか。
じゃあ最後の告白の返事は……。
考えるまでも無い、と頭を振った。老人と若者の恋なんて成就するわけもないのに、と。
だから、振られるのは当然のことで。
そこまで考えてはっとした。
エルメス。それならあいつは何故、老人を探していたんだ? あんなに必死になって。
「気付かないのかい?」
「煩い、魔女!」
「黙れと言われれども喋るのが魔女さ」
魔女の軽口を叩く様に苛立つ。そのせいで、考えに集中できない。
なんでエルメスは、俺を探していた?
未練でもあったか? それとも職が無くなるのが困るから? でも死んだ、とあいつは言っていたし……。確実に別れを経験してなお、求める理由は?
いや、違う。
未練があったのは俺の方だ。もしやエルメスはそのせいで? あいつはそのことを引きずっているんじゃないか?
俺が最後に託した想いを、彼が受け取っていたならば。
俺が一方的に押し付けた感情。それを知っているからこそ、あいつは負い目を感じた?
馬鹿馬鹿しい推測だった。でもそれを笑って否定出来ない自分が居た。
――告白などするべきではなかった。
「答えは出たかい?」
魔女のくせに、人の心を見透かしたような事を言う。正直に話すのも癪に障って、俺はそっぽを向いて答えた。
「さぁね」
「人間は素直じゃないねぇ。ま、いいさ。さぁ、もうすぐ目覚めだよ。準備はいいかい?」
「は? 目覚めって? ――ッ!?」
魔女に問い返した直後、館の窓から目を焼くような、強烈な光が差し込む。俺は目を開けていられず、慌てて閉じた。だが、その光は脳に残って――、痛みを覚えるような錯覚をし、気付いたら俺は、ベッドに沈んでいた。
「…………夢?」
夢にしてはやけに感覚が現実的だった。だが魔女との会話というのがまるっきり現実を無視していた。そのわりに、内容を笑って流せない。
俺の出した答えと、エルメスの今。それがどうにも気になって、いても立ってもいられなくなり、俺はメイド達の制止を振り切って外へ飛び出した。全てを、確かめる為に。
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