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前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)
夢見る少女と王子様の欠片1
ベッドの中、まだぬくもりの余韻に浸りたい気持ちと葛藤しつつ、僕は体を起こした。
いつもなら寝汚いだのなんだのとどやされるのが常なのだが。
でも、今日は違った。すこぶる調子がいいのだ。これも不思議なあの夜のおかげだろうか?
「ふわあ……。それにしてもいい日だったなー」
あくびをしながら僕は昨夜のことを思い出した。
炎に燃える短冊が照らし出した光景は、うっとりするほど鮮烈だった。
ひときわ大きな湖が、短冊の熱量により、色とりどりに染まったこと。思い出すだけで、胸がしびれた。
願いに比例するように輝く湖畔には、人々の笑顔の花が幾つも咲いていた。そのなかで僕は、隣でおかしそうに笑う彼に何度だって伝えたいと思った。『この感動を忘れたくなんてない』、と。
「そういえば不知火残り火だっけ? 落ちてきたあの欠片はどこで加工すればいいのかな」
僕が受け取った石ころみたいな塊だが、それは間違いなく、だれがか掛けた願いの結晶だ。
「美しい原石ならその手の工房にいけばいいと思うけど、いくら見た目が石に見えてももとは紙なんだよね……」
というわけで僕は、うなり始めた。
横にいるリュカ様にいつ叱責されるかわからない声量でうんうんとうなっていると、ハっとした。
「そういえばリュカ様が怒ってな……――、あ」
言ったそばから僕の胸に腕がどんとぶつかってきた。じみに痛い。
僕は目に涙をためつつ、衝撃を引き起こした張本人に文句のひとつでも言ってやろうと、その腕をどかして口を開いた。
ところが予想外の光景に口からはべつの感想が漏れた。
「め、珍しいことあるもんだな」
だって、あのリュカ様が寝相悪く横で眠っているのだった。
『素敵なアクセサリーになるといいな』と思った傍ら、サイドテーブルの上に置いた欠片を眺めつつ、時間を潰す。
僕はおとなしくリュカ様が起きるのを待つことにした。
ところが、今日に限って、彼は深くまどろんでいる様子だった。
隣できもちよさそ~に眠るリュカ様に、「どいてください」、は言いづらい。
まして起こすなんて滅相もない!
ただでさえトラウマのせいでまともな睡眠がとれていなかった過去を思うと余計に。
睡眠負債を抱えがちな彼のことを思えばこそ思えばこそ、……――!!
「ええーい、重いっ……!」
いつまでものしかかる腕が邪魔であったため、強引に押し戻した。
「って、ガタイが違うせいでびくともしないんだけど!?」
悲しいかな。貧弱な僕では微動だにしなかった。
こういう時は無反応なリュカ様がうらめしい。ぐうぐうすうすうと寝息をたてる彼が愛しくも憎らしく感じる頃、僕はひらめいてしまった。
(ふっふ、油断している方が悪いんだから……)
昨日の名残で寝ぼけ眼なのは頭もだったかもしれない。
時刻はすっかり午前十一時で、久しぶりの寝坊中。
寝付きはよかったためリュカ様までまだベッドの上。珍しくも、長いおみ足を豪快に広げて、僕の胸元に腕を投げ出すほどの大胆不敵な寝付きっぷり。
胸元のはだけ具合にちょっとときめいてしまう僕だって、たまにはイタズラをし返すのもいいですよね。ね?
そっと寝顔を拝もうと横顔を彼の頭に近づけていく僕。
そんな僕を石ころだけが見ていた。
――――と、僕はその時思った。
「ちょおっとまったあああああ!!」
「はひゃあああん!?」
「ひっ…………、は。何事だ??」
騒音という名のアラームに叩き起こされて目覚めを余儀なくされた、哀れ、僕のご主人様。とかいいつつ、大絶叫かましたのは僕なんだけど、えへへ。
寝起きのリュカ様は心臓を抑えていた。目がしょぼしょぼな感じでぼやく、最悪の目覚めだ、と。
彼は不快さを微塵も隠すことなく僕らをにらみつけ、髪を乱暴にかきあげている。
「どういう用件かは聞いてもいいよなぁ? この俺の睡眠を妨害した、相応の理由ぐらい、用意してあるはず」
(ひょえっ)
過去一邪悪なオーラを醸し出すわが主人。及び腰がキマり過ぎて胸が反った状態で、僕は床を舐めるレベルで後退する。そして、ほうほうの体、脱出をはかる。
「小賢しいわ!! せい!!!!」
「ぴえ~~ん」
舌の根も乾かぬうちに腹部から抱えるようにして投げられる。朝から派手にベッドに押し戻されたせいで、僕の心肺は早くなった。
(あ、ダメかも)
顔が近い、なんて感想を漏らすほど接近するのはさっきまで仁王立ちだったリュカ様だ。
今度は眉をきかせ、睨みをきかせ、僕を追い込んでくる。
「せめてっ、り、理由を! ぐずぐず、えっと、言い訳をきいてください!」
「くどいわ!」
僕の頬を突く彼に懸命に訴えてみるが効果なし。まさに打つ手なしの状況である。
「うあっ」
わずかにかわした拳、ベッドの沈み込みを横目に僕は冷や汗をかいた。
「待ってください! 僕にも言い分が」
と、いいかけてから僕ははたと気づいた。気づいてしまったのだ。
『寝起きにちょおっとしたイ・タ・ズ・ラをサプラ~~イズ☆』なんてどんな態度で説明すればいい?
暴露できない事実が僕を知らず追い詰めていった。ああ、気づかねばよかった。
「で、だ。そこの柱に隠れてる、お前だお前」
「おいたわしやリュカ様……って、はえ!? 私までですかー!?」
「当然」
(あ、そんなニヒルな顔もかっこいい……)
指先を口元にもっていってリュカ様は物陰にいた彼女を連れ出す。
そう、なにも素っ頓狂な声をあげたのは僕だけではなかった。この夏、メイドとして雇われている少女カレン――彼女こそ僕にとって都合の悪い目撃者、なのであった。
「私はそこの不届き者から御身を守ろうとしただけです!」とカレンは義憤にかられて熱心に弁明している。
(うん。嘘ではない。ないのだが……それじゃあ僕が不審者みたいじゃないか!)
だが、リュカ様は聞く耳をもたれないようで、カレンの態度を反抗的ととって、よりヒートアップしていく。
「寝ぼけたこと言ってないで座れ。二人共な」
「「はい……」」
こうして僕らはおとなしくお説教される運びとなった。ちーん。
「ルナは日頃の仕返しを狙ったようだが……フ、甘いな」
(ば、ばれてる!?)
「寝首をかくならこうでもしないと」
「は、はえ……ええっ、それは、その!!」
妙に艶っぽい仕草で自分の首元に僕の左腕を添える彼。リュカ様の色気に戸惑う僕はあわてふためく。目のやり場に困っているとリュカ様の口から白い歯がのぞく。
(ん?)
困惑しているとその口元にパジャマからあらわになった腕が吸い込まれていった。
端的に言うと、リュカ様は僕の腕に噛み付いたのだ!
「いひゃい!?」
「ハハ、泣くなよ。あまがみだっつの、にしても……刺激に対して過敏だな」
僕はヒンヒン泣きながら許しをこう。これはどんな罰だ。このまま僕は連行されてしまうのか!? やだよぉぉぉ、どうかご両親には言わないでえぇぇッ。
「うっううっ、もう許してください……ぼくがわるがったでず……はい」
もともと勝てるはずもない戦だ、僕は白旗をあげて早々に降参した。自首した犯人のように手首を揃えて差し出すと、彼はうろんげな目で僕をみつめてから言った。
「――泣くぐらいなら、ってお前も懲りないやつだよな」
「うう、滅相もございません」
「ま、下剋上以外なら許してやる。そろそろ腹も減ったし、な。お前の肉じゃ足りないし~?」
言うやいなやリュカ様はさっさと寝室をあとにしてしまった。
残された僕は目元をしとどに濡らし叫んだ。
「悪趣味ぃ~~!! ひどい、リュカ様に弄ばれたっ、わっわっ、わ~~ん」
恥も外聞もなく僕は隣で巻き添えを食らっていた少女に泣きつく。カレンは迷惑そうに僕を押しのけようとしていたが、惨めに泣きじゃくる僕を見かねて途中から顔にブランケットをおしつけてきた。洗濯するのはきっと彼女だろうに、やさしい……。
「って、なにこの茶番! 私、巻き込まれ損なんですけど!!」
「お茶が飲みたい……うぐぐ」
「あーもー、仕方ない子ね!? 今用意するから朝食にするわよ、ダイニングに来なさい!」
「あい」
幼子のように返事をするとさっさと部屋をでていくカレン。僕はいそいそと寝間着を脱いで私服へと着替えるのだった。
いつもなら寝汚いだのなんだのとどやされるのが常なのだが。
でも、今日は違った。すこぶる調子がいいのだ。これも不思議なあの夜のおかげだろうか?
「ふわあ……。それにしてもいい日だったなー」
あくびをしながら僕は昨夜のことを思い出した。
炎に燃える短冊が照らし出した光景は、うっとりするほど鮮烈だった。
ひときわ大きな湖が、短冊の熱量により、色とりどりに染まったこと。思い出すだけで、胸がしびれた。
願いに比例するように輝く湖畔には、人々の笑顔の花が幾つも咲いていた。そのなかで僕は、隣でおかしそうに笑う彼に何度だって伝えたいと思った。『この感動を忘れたくなんてない』、と。
「そういえば不知火残り火だっけ? 落ちてきたあの欠片はどこで加工すればいいのかな」
僕が受け取った石ころみたいな塊だが、それは間違いなく、だれがか掛けた願いの結晶だ。
「美しい原石ならその手の工房にいけばいいと思うけど、いくら見た目が石に見えてももとは紙なんだよね……」
というわけで僕は、うなり始めた。
横にいるリュカ様にいつ叱責されるかわからない声量でうんうんとうなっていると、ハっとした。
「そういえばリュカ様が怒ってな……――、あ」
言ったそばから僕の胸に腕がどんとぶつかってきた。じみに痛い。
僕は目に涙をためつつ、衝撃を引き起こした張本人に文句のひとつでも言ってやろうと、その腕をどかして口を開いた。
ところが予想外の光景に口からはべつの感想が漏れた。
「め、珍しいことあるもんだな」
だって、あのリュカ様が寝相悪く横で眠っているのだった。
『素敵なアクセサリーになるといいな』と思った傍ら、サイドテーブルの上に置いた欠片を眺めつつ、時間を潰す。
僕はおとなしくリュカ様が起きるのを待つことにした。
ところが、今日に限って、彼は深くまどろんでいる様子だった。
隣できもちよさそ~に眠るリュカ様に、「どいてください」、は言いづらい。
まして起こすなんて滅相もない!
ただでさえトラウマのせいでまともな睡眠がとれていなかった過去を思うと余計に。
睡眠負債を抱えがちな彼のことを思えばこそ思えばこそ、……――!!
「ええーい、重いっ……!」
いつまでものしかかる腕が邪魔であったため、強引に押し戻した。
「って、ガタイが違うせいでびくともしないんだけど!?」
悲しいかな。貧弱な僕では微動だにしなかった。
こういう時は無反応なリュカ様がうらめしい。ぐうぐうすうすうと寝息をたてる彼が愛しくも憎らしく感じる頃、僕はひらめいてしまった。
(ふっふ、油断している方が悪いんだから……)
昨日の名残で寝ぼけ眼なのは頭もだったかもしれない。
時刻はすっかり午前十一時で、久しぶりの寝坊中。
寝付きはよかったためリュカ様までまだベッドの上。珍しくも、長いおみ足を豪快に広げて、僕の胸元に腕を投げ出すほどの大胆不敵な寝付きっぷり。
胸元のはだけ具合にちょっとときめいてしまう僕だって、たまにはイタズラをし返すのもいいですよね。ね?
そっと寝顔を拝もうと横顔を彼の頭に近づけていく僕。
そんな僕を石ころだけが見ていた。
――――と、僕はその時思った。
「ちょおっとまったあああああ!!」
「はひゃあああん!?」
「ひっ…………、は。何事だ??」
騒音という名のアラームに叩き起こされて目覚めを余儀なくされた、哀れ、僕のご主人様。とかいいつつ、大絶叫かましたのは僕なんだけど、えへへ。
寝起きのリュカ様は心臓を抑えていた。目がしょぼしょぼな感じでぼやく、最悪の目覚めだ、と。
彼は不快さを微塵も隠すことなく僕らをにらみつけ、髪を乱暴にかきあげている。
「どういう用件かは聞いてもいいよなぁ? この俺の睡眠を妨害した、相応の理由ぐらい、用意してあるはず」
(ひょえっ)
過去一邪悪なオーラを醸し出すわが主人。及び腰がキマり過ぎて胸が反った状態で、僕は床を舐めるレベルで後退する。そして、ほうほうの体、脱出をはかる。
「小賢しいわ!! せい!!!!」
「ぴえ~~ん」
舌の根も乾かぬうちに腹部から抱えるようにして投げられる。朝から派手にベッドに押し戻されたせいで、僕の心肺は早くなった。
(あ、ダメかも)
顔が近い、なんて感想を漏らすほど接近するのはさっきまで仁王立ちだったリュカ様だ。
今度は眉をきかせ、睨みをきかせ、僕を追い込んでくる。
「せめてっ、り、理由を! ぐずぐず、えっと、言い訳をきいてください!」
「くどいわ!」
僕の頬を突く彼に懸命に訴えてみるが効果なし。まさに打つ手なしの状況である。
「うあっ」
わずかにかわした拳、ベッドの沈み込みを横目に僕は冷や汗をかいた。
「待ってください! 僕にも言い分が」
と、いいかけてから僕ははたと気づいた。気づいてしまったのだ。
『寝起きにちょおっとしたイ・タ・ズ・ラをサプラ~~イズ☆』なんてどんな態度で説明すればいい?
暴露できない事実が僕を知らず追い詰めていった。ああ、気づかねばよかった。
「で、だ。そこの柱に隠れてる、お前だお前」
「おいたわしやリュカ様……って、はえ!? 私までですかー!?」
「当然」
(あ、そんなニヒルな顔もかっこいい……)
指先を口元にもっていってリュカ様は物陰にいた彼女を連れ出す。
そう、なにも素っ頓狂な声をあげたのは僕だけではなかった。この夏、メイドとして雇われている少女カレン――彼女こそ僕にとって都合の悪い目撃者、なのであった。
「私はそこの不届き者から御身を守ろうとしただけです!」とカレンは義憤にかられて熱心に弁明している。
(うん。嘘ではない。ないのだが……それじゃあ僕が不審者みたいじゃないか!)
だが、リュカ様は聞く耳をもたれないようで、カレンの態度を反抗的ととって、よりヒートアップしていく。
「寝ぼけたこと言ってないで座れ。二人共な」
「「はい……」」
こうして僕らはおとなしくお説教される運びとなった。ちーん。
「ルナは日頃の仕返しを狙ったようだが……フ、甘いな」
(ば、ばれてる!?)
「寝首をかくならこうでもしないと」
「は、はえ……ええっ、それは、その!!」
妙に艶っぽい仕草で自分の首元に僕の左腕を添える彼。リュカ様の色気に戸惑う僕はあわてふためく。目のやり場に困っているとリュカ様の口から白い歯がのぞく。
(ん?)
困惑しているとその口元にパジャマからあらわになった腕が吸い込まれていった。
端的に言うと、リュカ様は僕の腕に噛み付いたのだ!
「いひゃい!?」
「ハハ、泣くなよ。あまがみだっつの、にしても……刺激に対して過敏だな」
僕はヒンヒン泣きながら許しをこう。これはどんな罰だ。このまま僕は連行されてしまうのか!? やだよぉぉぉ、どうかご両親には言わないでえぇぇッ。
「うっううっ、もう許してください……ぼくがわるがったでず……はい」
もともと勝てるはずもない戦だ、僕は白旗をあげて早々に降参した。自首した犯人のように手首を揃えて差し出すと、彼はうろんげな目で僕をみつめてから言った。
「――泣くぐらいなら、ってお前も懲りないやつだよな」
「うう、滅相もございません」
「ま、下剋上以外なら許してやる。そろそろ腹も減ったし、な。お前の肉じゃ足りないし~?」
言うやいなやリュカ様はさっさと寝室をあとにしてしまった。
残された僕は目元をしとどに濡らし叫んだ。
「悪趣味ぃ~~!! ひどい、リュカ様に弄ばれたっ、わっわっ、わ~~ん」
恥も外聞もなく僕は隣で巻き添えを食らっていた少女に泣きつく。カレンは迷惑そうに僕を押しのけようとしていたが、惨めに泣きじゃくる僕を見かねて途中から顔にブランケットをおしつけてきた。洗濯するのはきっと彼女だろうに、やさしい……。
「って、なにこの茶番! 私、巻き込まれ損なんですけど!!」
「お茶が飲みたい……うぐぐ」
「あーもー、仕方ない子ね!? 今用意するから朝食にするわよ、ダイニングに来なさい!」
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