かの嘘吐き騎士は愛を知らない

月岡夜宵

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桜に似た花見

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 目の前には桜吹雪。風に散らされて舞う花びら達の美しさに目を奪われる俺。
 今日は「花祭り」。春を祝い、花を見て楽しむ行事だ。
 それに合わせて俺は大々的なお披露目が成されることになった。
 神子の正装を纏う。白地に青や金の刺繍が入った薄い衣は、過度に煌びやかではないが、ふんわりとした生地をいくつも使っていて贅沢な印象を与える。

 エレファという、桜色の花。地面から生える背丈の低いその花は、芝桜がもっと桜に近づいたような感じの花だ。

 所かしこで宴会が催されて、街の外側は賑わいを見せる。中には騎士団も参加している。今日はいたる所が無礼講。
 本来なら、ライも休みだが、俺が花祭りに参加するので、専任騎士として出席している。……見知らぬ人から酒や食べ物をおすそわけされて嫌そうにしているが。

「おら、シズク。やるよ」
「えー、あ、お酒だ。俺、飲んでいいの?」
「いいんじゃねーか。それともお前、お子ちゃまなの??」
「俺は成人済みだ! 酒くらい飲める!!」

 杯を片手に一気飲みしたら、周囲がどっと沸く。潔い飲みっぷりをみせたら、遠くの神殿長が頭を抱えているのが見えたが、気にしない。

 だって、今日は無礼講。神子様だって、ちょっとくらいハメを外したっていいでしょう? 神様。

 風が吹いた。美しいエレファが舞う。珍しく無邪気な横顔をするライにドキっとした。ああ、ライはこんな顔もするのかって。
 一度肌を重ねたせいで、たまに妙な気分になることがある。俺は明らかにライを意識している。

 だって相手は――

「シズク、この後、暇か?」
「うん?」
「今日――一緒に寝るか?」
「え」

 どきっと高鳴る心臓。なにかを期待した自分を忘れようと頭を振ると、

「なあんて。嘘だよ」

 ケタケタと笑うライ。相変わらず、彼は嘘吐きだ。その嘘に振り回されそうになる自分が、不思議でならない。


 花見の宴会で、結局好意の人々のお酌を断れず、飲まされたせいでダウンしてしまった。うう、気持ち悪い。これ、明日も酷い二日酔いが来るんだろうなぁ。

「そういえば……ライは一杯も飲んでないような……」

 ジト目で本人を睨めば、

「ああ、俺酒はからっきしダメだから」

 なあんて言葉が返って来る。だからかよ! いやそうな顔をしてたのは! お前、俺に押し付けたのかよ!!

「非番じゃない騎士様だから、とかじゃないんだな!?」
「ああ。俺、飲むと甘え上戸になるの」
「え……意外なんだけど」
「嘘に決まってるだろ」
「この、クソ騎士!」
「神子様が糞とか言うなよ。盛り下がるだろ」
「既に誰も居ない遊歩道だけどな!」

 なんだかんだライに介抱されている。
 大きな背中だな……。
 おぶってくれる背中に額を押し付けた。

「固くて寝心地が悪い……」

 俺も可愛げのない嘘を吐いた。

「うるせぇ、黙ってろ。舌噛むぞ」

 ライは前を見据えたまま、ゆっくりと歩く。まるで俺に負荷をかけまいとするみたいに。

「なんか……今日優しいね」
「んなわけあるか」
「そうかな」
「そうだ」

 断言するライ。それがおかしくて俺はひとしきり笑った。

「変なのはお互い様?」
「……いきなり話が飛んでねえか?」


 そんな春の日だった。
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