レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚

文字の大きさ
26 / 29
第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編

最下層攻略戦~ダンジョンコアと、命の尊厳と~

しおりを挟む
 すべての装備を整えたのち、レムリアは最下層へと駆け抜ける。

 つい先ほどまで、第八層は巨大樹の浸食により階層全体が植物の蔓に覆われていた。
 それを転送された装備で粉砕したものの、すでにダンジョンコアは最下層より上へと寝食を開始。高い層への蔦による浸食を可能にしていた。
 幸いなことに階層を飛ばしての上層部への浸食は不可能なため、今しばらくは第八層から上まで浸食の手は伸びることはない。
 それゆえに、今のこのタイミングを逃してはダンジョンの制圧は不可能であるとレムリアも理解している。
 まっすぐに階段を駆け下り、最下層のダンジョンコアの填めこまれた巨大樹の前に立つと、前回と同じように樹木の枝の上にエルフたちの姿が出現した。
 
「また来たのか。もう何もかも手遅れだ、ダンジョンコアは最終段階まで成長を終えている。あとは、このまま精霊樹の力によってダンジョン全域を侵食し、さらに地上へと音を広げていくだけ……もう、あきらめろろ」
「この地は、この国は亡ぶ。そして我々は精霊樹と共に、この地に安息の地を作り出すだけ……それを邪魔するというのなら、貴様にはここで死んでもらう」

――シュルルルルッ
 地面から壁から天井から。
 次々と植物の蔓や根、枝が伸びてレムリアを襲う。
 だが、それらを手にした両手剣で切り薙いでいくと、レムリアは右腕を前方に突き出し、巨大なガントレットを装着する。

「まだ抵抗するのか!!」
「当然。転送依頼……4番倉庫から浄化の鉄槌ディスインテグレーターを。内部カードリッジは八号対植物用麻痺術式カートリッジと、3号広範囲拡散術式を」
『了解っと!!』

――シュンッ
 耳元のデバイスからエリオンの声が聞こえてくると、いきなりレムリアの右腕前方に巨大な鉄槌が転送される。
 その柄を両手で握り振り上げると、レムリアは一言。

「眠れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 絶叫と同時に、鉄槌を床に向かって振り下ろす。
 その途中、鉄槌の軌跡の前に次々と魔法陣が浮かび上がり鉄槌の先、鎚の部分に吸収されていく。
 それと同時に鉄槌全体が緑色に輝くと、レムリアは全力で床をぶん殴った。

――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 爆音と同時に、鉄槌の命中か所を中心に魔法陣が広がっていく。
 それはやがて、この階層全体に広がっていくと緑色の光を放つ。

「な、なんだ……この光は」
「暖かい……心が現れていく……」

 緑色の魔法陣の光。
 これに包まれたエルフたちは魂が癒され、暖かい力によって眠りについていく。

「対植物用麻痺カートリッジは、世界樹の葉および雫と眠りの精霊の加護により作られた貴重な弾丸。無理に生きるものはすべて、安らかな眠りにつく。たとえそれが、ダンジョンコアによって支配されているエルフであろうとも……その魂は、森の民、豊かな自然を守る防人だから……」

――ドン
 浄化の鉄槌ディスインテグレーターを床に投げ捨てると、さらにアイテムボックスからスクロールを引っ張り出す。
 この場に倒れているすべてのエルフの数に等しいスクロールを広げると、レムリアは両手をパン、と叩いて祝詞を唱える。

「安らかなるかな、魂たちや。我、白き翼の盟約に基づき、汝らの魂を新たな現世へと誘わん……円環転送!」

 そして再度、利用手を叩き合わせると、アイテムボックスから疑似ダンジョンコアが出現する。
 それまで巨大樹のダンジョンコアにつながっていたエルフたちの魂の鎖が、ゆっくりと開放されて疑似ダンジョンコアへと繋がり始める。
 本来ならば、この時点でダンジョンコアからの反撃があってもおかしくはないのだが、先ほどの浄化の鉄槌ディスインテグレーターによる一撃により、巨大樹自体が眠りについてしまっている。
 どれだけダンジョンコアが抗おうとも、その本体である巨大樹が動かない以上、妨害することもできない。
 そしてすべての魂の鎖が巨大樹から解放され、疑似ダンジョンコアへと繋がったとき。
 レムリアはもう一度、鉄槌を拾い上げる。

「エリオン。追加のカードリッジの転送。カードリッジナンバー2番達磨落とし!!」

――ガシュュュュュュュゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 鉄槌の柄の部分が開き、空になった弾倉が外に射出される。
 そしてレムリアが左手を前に突き出すと、エリオンから転送された新しいカードリッジが目の前に出現する。
 それを握りしめたのち柄に収めてリロードすると、鉄槌を握りしめてぐるぐると回転を始める。

「達磨式斥力開放術式展開……」

 そう叫びつつ、レムリアは巨大樹のダンジョンコアを睨みつける。

――ブゥン
 先ほどとは違い、こんどは巨大樹に填めこまれているダンジョンコアが魔法陣に包まれる。
 そして鉄槌の加速度はさらに高まり、レムリアは駒のようにぐるぐると高速回転をしつつ巨大樹に近寄っていく。
 相手の動きが止まっいるからこそ使える大技、ゆえに今しかチャンスはない。

「秘儀、エイティフォー・エイティシックス!!」

 そう叫ぶと同時にジャンプ、勢いよく鉄槌を魔法陣に向かって叩き込むと。

――カッコォォォォォン
 小気味よい音と同時に、巨大樹に嵌められていたダンジョンコアが吹き飛ばされ、壁に向かって飛んでいき激突。
 さらにレムリアはハンマーを捨てて左右の手を床に落ちている疑似ダンジョンコアに向かって伸ばすと、手から伸びたく銀色の鎖でからめとり、まっすぐに巨大樹に向かって引っ張っていく。
 そしてぽっかりと空洞になった巨大樹の幹に疑似ダンジョンコアを埋め込元、最後に柏手を一つ打つ。

――パーン!
「マナライン接続。疑似ダンジョンコアはダンジョンコアとなる。それを司るのは、この場の24人のエルフたち、そして蘇った精霊樹……」

 そう呟くと、今まで意識を失っていたエルフたちが目を覚ます。
 そして自分たちの体に触れ、今の状態がどうなつているのかを確認すると、床に着地して吹き飛んだダンジョンコアに近寄っていくレムリアを見る。

「あ、あんた……一体何をしたのだ」
「さっきまでの忌々しい感情が消えている……絶望も、悲しみも、怒りも……」

 巨大樹の填められていたダンジョンコアからは、生きとし生けるものを恨む憎しみ、怨嗟が噴き出していた。
 それによってエルフたちの心も闇に堕ち、自分たちのこと以外は何も考えられなくなっていたのだが。
 今は、心の中にまとわりついていた忌々しい憎しみもなにもかも、ゆっくりと晴れていったのである。

「ん……大したことはしていない。ダンジョンコアから切り離し、新しいコアにつないだだけ。もう、貴方たちの命はあのコアだったものに吸いつくされていたけれど、疑似ダンジョンコアにつなぎなおして命を永らえさせた。詳しい理屈なんて私には分からないけれど、この疑似ダンジョンコアが破壊されるまでは、貴方たちは生きて居られる……」

 そう呟いてから、ダンジョンコアをアイテムボックスに収める。

「私たちは、これからどうすればいいのだ……」
「貴方たちは、このダンジョンのコアでありマスター。だから、マナラインから生み出される瘴気を適度に開放して魔物を作り出し、ダンジョンを徘徊されるかより複雑な構造に作り替えればいい。あと、冒険者や貴族とった連中は利己的だから、貴方たちはずっと地下まで階層を広げて逃げて」

 そう告げられて、エルフたちは全員が目を閉じる。
 今自分たちの体がどうなっているのか、そしてレムリアの言葉が正しいのかどうかを確認するために。
 やがて一人のエルフが目を開くと、レムリアに頭を下げた。

「……今の我々の状態、すべてを理解した。いや、正確にはダンジョンコアが教えてくれた。我々は、このあとはこの地でダンジョンを管理していればいいのだな?」
「そう。この生まれ変わった精霊樹がダンジョンコア。あなたたちは、これを護らなくてはならない……本当なら、貴方たちをダンジョンコアから切り離して地上に帰してあげればいいんだけれど……トワイライトの術式によって、貴方たちの体はもう死んでいるから。魂も転生輪廻の枠にとらわれないように、ダンジョンコアが吸収した。だから、それはあきらめて」

 表情を変えずに説明する。
 その言葉で納得しているかどうかなんて、レムリアには理解できない。
 けれどエルフたちはお互いに顔を見合わせると、レムリアに頭を下げた。

「ありがとうございます……」
「これは仕事だから気にしないで。報酬はしっかりと関係者に支払ってもらうし、疑似ダンジョンコアについては、10年以内にはどこかの魔術師協会が研究開発して持ってくると思う。その時は交換してもらって……」

 そう告げてから、レムリアは一つ上の階層に向かって走り出す。
 そしてレムリアの姿が最下層から消えた時、第八層と繋がっていた階段は全て消滅し、最下層は閉鎖空間へと姿を変えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...