型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
101 / 282
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第179話・バレンタインデー、キッズ? 私は子供じゃありませんよ。

しおりを挟む
 バザールの店舗に集まった人々は、急遽開いた串焼き屋でどうにかことなきを得まして。
 
 クリムゾンさんに近所の肉屋まで走ってもらったり、柚月さんは私の手持ちの調味料を合わせてオリジナルのタレを作ったりと大奮闘。
 私もノワールさんと一緒に串焼きを焼きつつ、接客を行ったりと大忙し。
 そんなこんなで夕方六つの鐘が鳴る頃には商品は全て売り切りました。
 そしてキヌガッサ王国でのバザールはこれでおしまいであること、私たちはロシマカープ王国へ向かうこともお伝えして、無事にバザールでの楽しい日々は幕を閉じました。

──そして
「ふぅ……本当に凄いわね、この馬車は。ねぇ、もしも追加注文ができるのなら、私も発注したいのだけど、どうなのかしら?」

 キヌガッサ王国を後にして、私たちを乗せた馬車は街道をそれで大雪原を疾走しています。
 それはもう、雪を吹き飛ばすこともなく足跡も残さず、ひたすらにエセリアルモードでの最短コースを駆け抜けています。
 ボリマクールさんと、あとは彼の護衛であるガッシュさんという女性騎士も同乗していますが、しっかりと口止めはしてありますよ。

「残念ですが、これは入手不可能です。クリスティナさまもこれを手に入れるために、どれだけ苦労をしたことか……」 
「うむ。それにな、これを悪用する輩が出ないとも限らんからな。それこそ、この状態で王城まで駆け上がり、玉座に座っている国王を後ろから惨殺とかやる気になれば不可能じゃないからな」
「……クリムっちは、物騒なことを言わないし。それよりもお昼ご飯の時間だから、テーブルの上を片付けるし」

 お昼は私と柚月さんの二人で用意しました。
 【型録通販のシャーリィ】で、『日本全国、グルメお取り寄せ』なるページの商品を購入し、簡単な調理方法を柚月さんにレクチャーしてもらいました。
 それと、あと一つ……。
 これは柚月さんからのアドバイスで、ちょっと珍しいものを朝一番で届けて貰ったのですよ。

「これは……」
「産地直送のローストビーフをふんだんに使ったサンドイッチです。おかわりもありますから、ごゆっくりとどうぞ」

──ゴクッ
 ボリマクールさんは私が出す商品に慣れてしまっているので、このようなとんでもない料理を前にしてもあまり驚きません。
 けれど、護衛のガナッシュさんは目を丸くしています。
 サンドイッチは何処にでもありますけれど、ここまで贅沢に作るものではありませんからね。

「それじゃあ、頂きましょうか」
「お待ちください。まず、このガナッシュが毒味を」
「毒味って、クリスティナさんはそんなことはしないわよ?」
「いえいえ、これも務めですので」

 止めるボリマクールさんを制しつつ、ガナッシュさんが小さくカットしたサンドイッチを口の中へ。
 ゆっくりと肉の旨み、柔らかいパン、そして新鮮な野菜を堪能しつつ……。

「こ、これは……一口では確認できませんわ。これは私が毒味として全て」
「そんなことを言って、あなたが食べたいだけじゃない?」

 冷静に突っ込むボリマクールさんと、真っ赤な顔で無言のまま頷くガナッシュさん。

「は、はい……とっても、美味しいです」
「まあまあ、少し多めに作ってありますから、余った分はお土産用に取っておきますよ。私のアイテムボックスは時間停止処理もできますから」
「あら、それは便利ね。私のなんて、収納拡張の加護も付いているけれど、時間緩和しかないから助かるわね」
「その二つがあるだけでも凄いですよ。では、到着まではまだ時間がありますので、ゆっくりしてくださいね。お暇ならクリムゾンさんが色々とお相手してくれますので」

 ええ、馬車の後ろの箱には、さまざまなゲームが入っています。
 クリムゾンさんは一通りのルールを覚えていますので、楽しいひと時を過ごせますよ。
 だって、エセリアルモードで走っていれば、魔物や盗賊にも感知されませんので安全なのですから。

………
……


「さて、それじゃあ時間も足りないから、作業を続けるし」
「はい、お願いします!!」

 食後の時間は、柚月さんの料理教室です。
 といっても、【型録通販のシャーリィ】で購入した、『手作りチョコレートキッド』というものを使ってバレンタインチョコレートを作るだけなのですけどね。
 いえ、これは柚月さんとノワールさんの提案でして、普段からお世話になっているペルソナさんやクラウンさん、あとはジョーカーさんと遠くで頑張っているブランシュさんへお渡しするためのものなのです。
 ええ、感謝の気持ちを込めて作っているのですよ。

「……うん、溶けたらこっちの肩に流し込むし。あとは冷気の結界を作るので、そこでゆっくりと粗熱を取ってから固まるまで待つし……その間に、ラッピングとかの準備もするし」
「へぇ~。ただ箱に入れるだけじゃダメなのですね?」
「気持ちは必要だし。ということで、手書きのメッセージカードも用意する必要があるし。クリスっちは私たちの言葉は読めるんだよね? 書ける?」

 いえ、勇者言語の解読能力はありますが、書いたことはありませんね。

「書いたことはないですよ。だって、普段は使わないですよね?」
「それなら、あーしがサンプルで何枚か作るから、それを写し書きしてみるし」
「それなら便利ですね。では、早速!!」

──カキカキカキカキ
 まずは、ペルソナさん用。

『A toi, mon précieux, avec amour.』
(大切な貴方へ、愛を込めて贈ります……)

 って、普段見たことがない文字でしたけど、書き写したら意味が分かりましたよ!!

「な、ゆ、柚月さん!! これは愛の告白じゃないですか!!」
「あ、間違えたし。こっちこっち」

 テヘッと笑いつつ舌をぺろっと出す柚月さん。
 
「今度は騙されませんからね」

 では、内容を確認して。

『Merci pour tout.Nous nous réjouissons de travailler avec vous à l'avenir.』
(いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします)

 うん、硬いです。
 もっと優しい文章にしたいですね。

「柚月さん? もう少しこう、手加減といいますか。業者同士のやり取りすぎません?」
「うん、あーしもそう思ったし。それじゃあ、これは?」

『Voici un chocolat pour vous remercier de votre soutien.
 Nous nous réjouissons de poursuivre notre relation avec vous.』
(日頃の感謝の気持ちを込めてチョコレートです。 これからもお付き合いをお願いします)

 うん、まあ、気持ちが大切。
 でも、柚月さんっていろいろな国の言葉が使えるのですね。
 勇者さんは言語万能という加護を持っているから、当然と言えば当然ですよね。

「よし、あとはラッピングして完了だし。メッセージカードはちゃんと箱の中に納めて、ここに並べるし」
「はい、師匠!!」

 これで夕方のペルソナさんの定期便には間に合いそうです。
 まあ、クラウンさんとブランシュさんの分はお預けしますし、クラウンさんの分は明日の朝、直接お渡ししますから大丈夫ですよね。
 


 
しおりを挟む
感想 762

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。