型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第209話・自由と不自由のはざまで

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 ハーバリオス王城で宰相から色々と尋ねられたり、王都に店舗を構えないかと誘われたりしましたが、私はそれらを謹んで辞退。
 そののち国王との謁見のため、私たちは控室で待機していました。
 そして部屋で休んでいる事1時間、ようやく私たちの出番がやって来たようです。

「それでは謁見の間へ向かいます。こちらへついてきてください」

 背筋の伸びた男性が、私たちを迎えに来てくれました。
 執事もしくはそのたぐいの方なのか、それとも文官なのか服装だけでは区別がつきずらいのですが、その一挙手一投足はとても丁寧且つ礼儀正しく、見た目にも美しい仕上がりです。
 
「はい、それでは行きましょうか」
「そうだね、まあ、また国王にお小言を言われるかもしれないけれど、あーしが勝手にクリスっちについていっただけだし」
「そうなのですか!!」
「だって、もうあーしたちが召喚された目的は達成したので、あとは従う必要もないし。武田っちたちもそう思って、のんびりとしていると思うし」
「なるほど……セフィラさまの話していた契約と関係しているのですか」
「そういうこと」

 やがて謁見の間の外へとたどり着くと、先ほどの文官がゴホンと小さく咳払い。
 そして扉に向かって綺麗に立ち止まると、大きな声で私たちの名前を告げました。

「フェイール商店店主・クリスティナ・フェイール、同、従業員のクリムゾン、勇者・柚月ルカの入室です」

──ゴゴゴゴゴツ
 その叫び声と同時に扉がゆっくりと開きます。
 そして真っすぐ伸びた赤い絨毯の先、階段上になっている玉座の上には国王であるリチャード・ハーバリオス14世の姿が見えます。
 金銀糸をあしらった綺麗なローブを身に着け、額には国王であることを示す王冠。
 そして階段下には宰相および文官、護衛の騎士たちの姿が左右に広がっています。
 私たちは儀礼にのっとりまっすぐに進んだのち、階段下で跪いて頭を下げました。

「クリスティナ・フェイール、クリムゾンに間違いはないな。王家の剣の再生、実に大儀であった」

 頭を上げるように告げられていないため、返事をすることも許されません。
 
「それとアーレスト侯爵家の件、誠に残念であったな。貴殿はあの魔族の企みに巻き込まれたにすぎず、その結果として王都を離れることになってしまったという。だが、今はその魔族に操られた者たちも処分し、貴殿に害をなすものはもういない。安心して王都に出入りするがよい」
「あの~、国王って、相変わらず硬いことをいうし。クリスっちはただ、王都に帰ってこれるようになるために頑張って来ただけで、別にそれ以上は何も含んだものはないし」

 ああっ、柚月さんいきなり国王に向かって何ということを言うのですか……。
 そんな話し方をしたら不敬罪で囚われますよ。

「あ、いや、柚月よ、わしは別に、フェイールを困らせるためにここに呼びつけたのではないのだが」
「でも、現に困り果てているし。そもそも、そんなことを言うためだけに、謁見をさせたとは思えないし……何か企んでいるし?」

 そ、そんなことはありませんよ。
 国王は私が無事に帰還したので、アーレスト侯爵家の顛末について説明しているだけなのですよ。
 それを聞いているだけでも光栄なのに、何か含んでだなんて。

「あ、いや、その……フェイール商店で取り扱っている数々の装飾品やドレスなどは、今は国内の有力貴族にとっては喉から手が出るほどの価値があってだな。それらを定期的に王城に下ろすことが出来るのならば、フェイール商店には『王室ご用達』のライセンスを発行しようと考えているのだが、流石にそのためには商店では格が低すぎてな。やはりクリスティナ・フェイールには今一度、歴史あるアーレスト侯爵家に戻ってもらい、アーレスト商会筆頭について貰わなくてはならないと考えているのだが、どうだろうか」

 ……んんん?
 それってつまり、私にアーレスト侯爵家に戻れということですか?

「それに、勇者の系譜であるアーレスト家を存続させるという意味でも、そなたには良き血筋の婿を受け入れて貰わなくては困るのだよ。宮廷魔導士たちによる鑑定の結果、現当主であるグラントリには勇者カナンの力は全く受け継がれていないという報告を受けている。それでだ、カナンの血を絶やさないためにもそなたにはこの王都で子をなしてもらわなくては……」

──ガタッ
 クリムゾンさんが今にも立ち上がりそうになっています。
 これは一方的に、私にこの地に残って子を成せと命令しているのではないですか。

「という話が王宮内のあちこちから出ていたのだが。クリスティナ・フェイールよ、そなたには選ぶ権利がある。アーレスト家に戻り勇者カナンの力を受け継ぐ子を成すか、それともフェイールとして自由に生きるか……どうする?」

 え?
 その言葉で私は思わず頭を上げてしまいます。
 玉座の上の国王は、ばつが悪そうに頬をぼりぼりと掻いているではありませんか。
 ちらりと横を見ると、柚月さんが右手でサムズアップ。
 どうやら私がいないあいだに色々なことが起こったようです。

「ああ、返事ができないか。頭を上げて構わない」

 ようやく許可が出たのですけれど、すでに私は頭を上げてしまいました。
 柚月さんと反対側に跪いているクリムゾンさんも、ほっとした顔をしています。

「それで、すぐに返事をするというのも難しかろう。この件についてはゆっくりと考えてみるとよい」
「はい、ありがとうございます……ですが陛下、私の心はすでに決まっています」

 私は自由に生きたい。
 勇者カナンの力、それが私の中にあるとしても。
 いずれはこの力は誰かに受け継いでいくことになるでしょう。
 でも、それはこの国の、この王都で、私のために選ばれた人との子ではありません。

──ポフッ
 あ~、どうしてこのタイミングでペルソナさんの顔が浮かんでくるのですか!!
 いえ、確かにあの方は私にとって白馬の王子様であって、ピンチはチャンスではなくピンチを幾度となく助けてくれた人です。
 それに、あのホワイトデーの告白。
 うん、もう私の心は決まっているのですよね。

「私は、私の愛する人と一緒に生きたい。そのためには、私はもっと自由に、商人としてこの世界を見て歩きたいのです……」

 そうきっぱりと、国王の目を見て告げました。
 周囲に集まっている文官や護衛の騎士たちはざわざわとし始めますが、国王はゴホンと咳ばらいを一つして。

「では、そうするがよい。そもそも貴族ではないそなたの自由を奪うなど、このわしでもすることは出来ぬからな。ではクリスティナ・フェイールよ、こたびの謁見はこれで終了とする。フェイール商店の勇者ご用達の認可は継続し、宮廷出入り商人の許可証も与える……ということで、すまないがこののち、王妃の元を訪ねてはくれぬか? そなたの商品のいくつかを購入したいそうでな」

 最後の方は国王というよりも奥さんに頭が上がらない旦那様という感じになっています。
 ええ、私は商人です、求められたならばそれを用意するのが務めですから。

「畏まりました。フェイール商店店主、クリスティナ・フェイール。王妃様の求める商品をご用意します」
「うむ、頼むぞ……それと柚月殿は少し残ってくれぬか? ロシマカープ王国の国王から預かって来た親書について、詳しい話を聞かせていただきたい……それに、仲間たちはすでに帰還の準備を終えている。あとは柚月殿の準備ができ次第、送還の魔法陣を起動させられるのでな」

 え……。
 まだ一週間あったのでは?
 そう思って柚月さんを見ると、彼女もスマホとかいうものを開いて何かを計算しています。

「あ、一週間間違えていたし……」
「まあ、それではフェイール王妃の元へ」
「それではご案内します」

 文官の一人が私の元にやって来て、私を謁見の間から外へと案内してくれます。
 まさか、これでお別れなんていうことはありませんよね?
 まだ話をするぐらいの時間はありますよね?
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