型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
208 / 282
第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第285話・切り札は、最初に切りましょう。

しおりを挟む
 おばあさま奪還作戦。

 はぁ。
 色々と策を練って見たのですが、すでに頓挫しそうです。
 フェイールの里に滞在する間は、おばあさまの館をお借りすることになりましたので、そこで今後のことについてノワールさんとも話し合いを行っています。
 ですが、そもそもカマンベール王国に私自身が向かうこと自体、ノワールさんは反対しているのです。

 裏ギルドだか闇ギルドが暗躍し、私を狙っていること。
 その黒幕にはカマンベール王国の上級貴族が関与していること。
 そして私を帝国に嫁がせることで、カマンベール王国は平和を得るということ。
 そのために、おばあ様を攫っていったこと。

 すべてが一つに繋がっているようにも感じられるのが、実に不愉快です。
 かといって、現状、私が出来ることは何一つないように思えていましたので、最後の手段を取ることにしました。

――翌朝
 私が取った最後の手段。
 それはこれです。

「おはようございます。型録通販のシャーリィより、商品をお届けに来ました。ハーバリオスでは久しぶりですね、お元気そうで……はありませんね、何かありましたか?」

 不足している定番商品を【型録通販のシャーリィ】に発注。
 それを届けてくれるペルソナさんに、ちょっとアドバイスがもらえたらなぁと思いました。
 とりあえずは納品が終わるまでは表に出さないように頑張っていたのですけれど、どうやらペルソナさんの顔を見て、気が緩んでしまったようです。

――ポロポロポロポロ
「え、ま、まあ、何かあったかといえば、ありましたけれど……」

 そう、気取られないように告げたのですけれど。
 目の前に立っているペルソナさんは、優しく微笑んでから、私にハンカチを差し出してくれました。

「まずは、その涙を拭いてください。まずは商人としてお仕事をしましょう。そのあとで、私でよろしければお話を伺わせていただきますので。それでよろしいですか?」

 え。
 やだ、私……泣いて……。
 いけない。
 ペルソナさんを心配させちゃだめです。
 うん。
 しっかりと前を向かないと。

――スッ 
 そう思っていたのに。

「失礼します」

 そうペルソナさんが呟いたかと思ったら、ハンカチで私の頬を拭ってくれます。
 やっぱり、私、泣いていますよね。
 
「さて。それじゃあ、先にクリスティナさんの御話を伺った方がいいですね。そちらの方が大切ですから……」
「ふぁ……ふぁい……うっ………うううっ……」

 そんな優しい言葉を掛けたら、私、もう我慢できなくなってしまいますよ……。
 それから、私は泣きました。
 ペルソナさんに縋って、彼の手を握って。
 私のせいで、おばあさまが攫われてしまったこと。
 そしてどうにか助けたいと思っているけれど、なにもできないこと。
 そのつらさ、悔しさが口から零れていきます。
 
 そしてどれぐらいの時間がたったのでしょうか。

「……おちつきましたか?」
「はい、あの、すいませんでした……」
「いえ、クリスティナさんが落ち着けたのでしたら、それで私は十分ですから。さて、先ほどのお話ですけれど、かなり厄介な状況であることは理解しました。そのうえで、私が手伝えることがありましたら、喜んでお手伝いします……と、まずはその前に、納品を終わらせてしまいましょうか」
「はい……」

 あとはノワールさんに手伝ってもらい、一気に納品業務を終わらせます。
 そして一段落したので、家の前に置いてある長椅子に腰かけると、隣のペルソナさんも腰かけてくれました。

「この里の世界樹が枯れ始めているのは、里長であるクリスティナさんのおばあ様がいなくなったから。そして、このフェイールの里に根付いている世界樹は、このハーバリオス中のエルフの里の世界樹の中でも、特に重要な存在であることは、クリスティナさんはご存じですか?」
「い、いえ……そうなのですか?」
「はい。これはですね、ハーバリオス東方、メメント大森林にも恩恵を授けています。あの森に生えていた世界樹は今から500年前、魔族の大侵攻の際に燃やされてしまいました。その時、里のエルフたちも近隣の森に避難してしまい、メメント大森林は精霊の加護を失っていたのです」

 そんなことがあったのですか。
 初代勇者の時代に、まさかそのような事件があっただなんて、私は初めて知りました。

「ですが、初代勇者の一人、カナン・アーレストは、このフェイールの里にそびえる世界樹に願い、大地に流れるマナラインを通じてメメント大森林にも加護を授けるようにと、その命を賭けて大規模の儀式魔術を執り行いました。その時から、このフェイールの里にそびえる世界樹は、ハーバリオスの大地すべてに加護を授け続けていたのですが……」

 そう告げてから、ペルソナさんは地面に手を触れ、そして土を軽くつまみます。

「今は、その加護もかなり失われています。このままでは、東方から侵攻を始めているらしいバルバロツサ帝国が、メメント大森林の加護結界を打ち破るのも時間の問題でしょう……」
「そ。それじゃあ、そのことも国王に伝えないと!! 急いでメメント大森林の結界に騎士団を……」
「それについては、すでに手を打っていると思われますよ。あの森は常に王国騎士団によって監視していたはずですから……と、それよりも、おおもとの問題を解決した方がよさそうですか……」

 おおもとの問題ですか。
 それはつまり、おばあさまを助け出してこの里の世界樹を活性化させること。
 でも、どうやって救出すればよいのでしょうか。
 
「カマンベール王国の王宮に向かって、おばあさまを返してもらうように進言する? いえ、その前に私が囚われてしまいそうですけれど。でも、私のエセリアル馬車では、あの勇者の加護の中では姿を隠すことはできませんし……」
「そうですね。ノワールの力も振るうことは出来そうにありませんし、お渡ししたエセリアルホースの効果も発揮することはできません。そうなりますと、使える手は数少なくなってしまいますけれど……ないわけではありませんよ」
「え!! そ、それはどうするのですか!!」

 そう思わず問いかけますと、ペルソナさんは被っている帽子を脱いで、私の頭に被せてくれました。

「おばあさまの好きな食べ物は、ご存じですか?」
「え、はい、世界樹の側に生えているゲンゲの花畑がありまして。そこの蜜を蓄える蜂がいるのですよ。その蜂蜜を使った焼きたてのパンが大好物だと聞いたことがあります」
「ふむふむ。では……そうですね。では、おばあさまに蜂蜜を届けるとしましょうか。ですが、普通に届けるのは問題がありますので……」

 そう告げてから、ペルソナさんは私が持っている【シャーリィの魔導書】を指さします。
 
「型録通販のシャーリィ……ここに載っている蜂蜜を届けるのですか?」
「ええ。お手数をお掛けしますが、発注書をここで書いていただけますか? ひょっとしたら、いま馬車に積んである返品用の蜂蜜と同じものがあるかもしれません。それを教えるのはルール違反ですので、こちらに掲載してある商品から選んでいただけますか?」
「わかりました……それでは……」

 急いで型録を開き、蜂蜜のページを探します。
 そこに記されている商品は二つ。
 一つはサンダ養蜂場というところの限定蜂蜜2本セット。
 そしてもう一つは、同じ養蜂場の蜂蜜ですが、マヌカという植物からとれたもの。
 
「サンダ養蜂場の……普通のやつです。これでいいのでは」

 そこに書いてある限定蜂蜜は、蓮華草という花から集めたもの。
 ゲンゲと蓮華って、なんだか似ていますよね。

「では、こちらでよろしいですか?」
「はい、それでは確認しますね……と、ああ、こちらでしたか。ちょうど1セット、返品する予定のものがありましたので、こちらをお届けしましょう。届け先は、カマンベール王国の王都王城内、クリスティナさまのおばあさまでよろしいのですね?」

 そうか、指定先配達ですか。
 でも、王城には精霊の加護が与えられているので、エセリアル馬車は姿を消すことはできないのですよ。

「はい。ですが、馬車は姿を消すことができません。精霊の加護が与えられていると」
「ですから、その精霊の加護のおおもとを考えてみてください。この型録通販のシャーリィは、精霊女王であるシャーリィさまの直営。大賢者カナンの施した精霊の加護程度では、私の馬車を捕らえることはできません」
「え、それってつまり……」

 まさか。
 ペルソナさんが、おばあさまを迎えに?

「ええ。それでは今から、クリスティナ・フェイールさんは臨時配達人として雇用します。ノワールさんと一緒に、馬車に乗ってください。私はこのまま馬車をカマンベール王国へと向かわせましょう」
「「え?」」

 まさかの言葉に、一瞬言葉を失ってしまいます。
 そしてベルソナさんの言葉の真意に気が付き、私は急いで馬車に乗り込みました。

………
……


「あの、ペルソナさま。このようなことをして、よろしいのですか?」

 クリスティナが馬車に乗ったのを確認してから、ノワールが御者台に座っているペルソナに問いかける。

「ええ。クリスティナさんの持っている【精霊女王の加護】を失わせるわけにはいきません。まったく、どこの魔族が後ろで手を引いているのか知りませんけれど、喧嘩を売る相手をちゃんと調べろと言いたいところです。ちなみにですが、すでに女王様からはゴーサインを頂いています。結果としてカマンベール王国が精霊の加護を失う可能性もありますけれど、それは自分たちが招いた種ですから……まずは御届け物をすることにしましょう」
「畏まりました……」

 笑顔で告げるペルソナだが、その目は真剣そのもの。
 そしてノワールも馬車に同乗すると、ゆっくりと馬車は走り出した。
 目的地は、カマンベール王国王都王城。
 そこで待っているであろう、ミネルバ・フェリシモア・ベルーナの元へ。
しおりを挟む
感想 762

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。