異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第一部・二人の転生者と異世界と

ラグナ動乱・その10・王都動乱、出陣前夜

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 ドラゴンの活性化に伴い、ストームの命を狙う竜の眷属がいる。
 そいつらが王都にやってこないように、ストームは一度『転移の祭壇』を使って辺境都市カナンの郊外にある森林にやってきていた。
 ここは以前、マチュアが転移の祭壇を設置した場所であり、街道からは少し離れている。
 そのため偶然発見しても、これがなんであるのかなんて誰にも理解できない。


「明後日までは野宿か。先に竜の眷属たちのいる場所に行って話を付けられればいいのだが、この世界の竜は何処までの知識を持っているんだろう」
 と考えつつ、ストームは森の中でベースキャンプを作り始める。
 薪を集めて焚き火を行い、雨露を凌ぐためのテントの設営も開始。
 もっとも現代のようなテントではなく、防水加工された皮を、木々の間にピンと貼ったロープに固定するだけである
 そして食事は、マチュアの作った寸胴カレーを貰ってきたので、それを食べることにした。
 幸いライ麦パンも残っているし、干し肉をカレーに加えて柔らかく煮込むのも美味い。
 昼飯はそれですまそうと、鍋を火にかけていた。

「しかし、この世界に来て野宿というのは始めてのような気がするなぁ‥‥」
 のんびりとカレーを食べながら周囲を見渡す。
 マチュアの話だと、このさきには『ノッキングバード』の集落があるらしく、今は繁殖期なので近寄らないほうがいいと言われている。
「街の中だけでなく、たまにはこういう冒険者らしいことをするのもいいもんだなぁ‥‥」
 と、ゆっくりとした時間を堪能している時。

──ドドドドドドドドドドドドドトッ
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 と野太い絶叫が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと、そのタマゴを放して、それ持っているから追われているんですよっ。聞こえていますか~」
「そのとーり。それ諦めるっぽい!!」
 と三人ぐらいの声が森の奥から聞こえてくる。
 そちらをちらりと確認すると、3人組の冒険者らしき人影が、大量のノッキングバードに追いかけられているのが見えた。
「のぉぉぉぉ。ズブさん、ポイさん、これを手放すと依頼が失敗になるのですぞ」
「依頼よりも命っ!!」
「そうそう。まだ生きていれば未来があるっぽい」
 と、どんどんストームのいる方に近よってくる。

「あー、ありゃ初心者冒険者か。仕方ないなぁ」
 ストームは聖騎士にチェンジして、声のする方角に走り出す。
「さてと、よーし、そのまま此方に来い!」
 と叫ぶと、どうやら声が届いたらしく冒険者たちはストームの方に向かって走ってくる。
「き、騎士様たすけてっぽいぃぃぃぃぃぃ」
 と少女の悲鳴が聞こえてくる。
「まっすぐ此方だ!!」
 そして冒険者たちがストームの横を通り抜けると同時に、楯をかまえてノッキングバードに向かって威圧する。
「そら、お前たちの敵はこっちだよ‥‥挑発(プロボックっ」
 すぐさま敵を引き付けるコマンドアーツを発動する。するとノッキングバード達は、ストームから発せられる敵意ヘイトに引かれ、ターゲットをストームに向けて突進してきた。

――ズバァァァァァァァァッ
 突進してくるノッキングバートの正面に立つと、ストームはロングソードを構え一気に振り降ろした。
 そこから衝撃波が扇状に飛び、次々とノッキングバードが倒れていった。
「ふう。大漁大漁と‥‥確かこいつは食えるんだよな」
 と助けた冒険者を放置して、ノッキングバードの死体を集め始める。
「あ、あの、ありがとうございます。私はカナンの冒険者ギルドに登録しているズブロッカと申しますわ。こちらは同じパーティーのワイルドターキさん、こっちがポイポイさんです」
 ズブロッカと名乗ったエルフの女性が、横でタマゴを抱えているドワーフのワイルドターキーと、恐らくはロリエッタであろう少女のポイポイを紹介してくれた。
「ストームだ。サムソンで鍛冶師をやっている。ちよっと訳ありで、暫くはこの辺りでキャンプをしている筈だ。とりあえず無事で良かったな」
 と告げつつ、ノッキングバードの脚にロープを回して纏めると、そのままキャンプまでズルズルと引っ張り始める。
「助けて貰ったお礼に、こいつらを運ぶのを手伝うぞ‥‥フン、ヌラバッ!!」
 とドワーフのワイルドターキーが、ノッキングバードを一匹持ち上げる。
 ドワーフの戦士なのだろう、背中に巨大な両手斧を背負っている。
「それなら、ポイも此方を引っ張るっぽい」
 とポイポイさんとズブロッカも女性二人がかりで、一羽をズルズル引っ張り始めた。残りの数は3匹なのでストームが引っ張り、キャンプまで皆で戻っていくことにした。

「さて、ここまでありがとうな。しかし、なんであんな奴相手に手こずっているんだ?」
 と、ストームが手伝ってくれたお礼に、3人にカレーをご馳走していた。
 差し出された木皿のカレーを、3人は夢中で食べると、一息ついて話を始めた。
「私たちは、先週冒険者訓練所カレッジを卒業した冒険者です。まずは一番簡単な依頼を受けて、腕慣らしをしようと思ったのですが、思ったよりも依頼の難易度が高くて」
「依頼はノッキングバードのタマゴを3つ回収してくるだけっぽい。けど、すぐに見つかって追い掛け回されていたっぽい」
「そこで、今度は正面から堂々と戦って倒してから回収しようと考えたのじゃが、巣には親鳥が居なかったのでそのまま持ってきて‥‥途中で見つかってあのざまじゃ。誠に面目ない」
 と反省する3人。
「依頼の難易度が高かったか、パーティーメンバーが足りなかったかのどちらかだな。まあ頑張れ」
 と食事の後片付けを終えて、ストームはノッキングバードの毛を毟り始める。
「ありがとうございました」
「いつもなら、カナンのギルドには私達のような新人冒険者の手助けをしてくれる『指導教官』っていうベテラン冒険者がいるのですよ。けれど、今のカナンは指導教官登録している冒険者が皆、出払っていまして」
「うむ。カナンには有名な『トリックスターの指導教官』がおってのう。一通りのクラスのことが出来るので冒険者ギルドでも重宝しているらしいのぢゃが、いまは護衛任務でカナンから離れてしまっているのじゃよ‥‥」
「依頼の期限ももうすぐなので、とりあえず3人でやってきたっぽい」
 と落ち込みつつ告げる3人。

(あー、マチュアだろうなぁ。普通に冒険者しているなぁ‥‥)

「そうか。まあ頑張れ」
 と、努めて冷静に告げるストーム。
「俺はここでキャンプをしているので、もしまた何かあったらここに来い。それでもし俺が居なかったら諦めろ」  
 と告げると、毛を毟り取ったノッキングバードを一匹、大袋に放り込む!!
「そ、それは空間拡張の袋ですか!!」
「ある所にはあるのぢゃな。以前カナンにいた指導教官の方も持っていたと、先輩殿が教えてくれたのう」
「トリックスターの方ですね、ポイもきいたことるっぽい。無限袋っていっていたっぽい」
「へぇ、無限袋っていうのか。なら、今度からそう呼ぶわ」 
 そんな会話に耳を傾けていた時。

――ヒュンッ
 と突然ストームの目の前にマチュアが姿を表した。
「ハローウ。お元気」
 いつものように手をヒラヒラとしながら、にこやかに問い掛けるマチュア。
「ああ、とってもお元気だ。ほら。羽毛を毟り候へ‥‥」
「ノッキングバードじゃん。これで美味しいザンギが作れる‥‥と、こちらの新米冒険者さん御一行様は? どっかで拾ったの?」
 と毛を毟り始めたマチュアが問い掛けるが、ストームは静かに頷くだけである。
「ふうん。装備から察するにカナンの冒険者さんだね。ここにいるという事はタマゴ集めでしょ? 頑張ってねー」
 と、ヒラヒラと手を振るマチュア。
「は、はい。さっきの魔法は転移ですか?」
「魔術師さんですよね?」
「是非とも、我々の依頼の手伝いをお願いしたいのじゃが」
 と告げられるが。
「うーん。手伝いたいのも山々だけど、すぐに戻らないとならなくてねぇ。ストーム、状況が変わった。あたしたち此れからドラゴン退治、おっけ?」
 と告げると、ストームはノッキングバードをマチュアに手渡す。
「ふう。何がどうしてそうなったのか全く理解できていないが。急ぎか?」
「そ。ブリュンヒルデ殿とミスト殿が詳しい話をしに間も無くやってくるから、急ぎ戻るよ」
 と告げる。
 ストームもやれやれという感じで、せっかく用意したキャンプ道具を片付け始める。
「カナンの冒険者なら、ギルドの受付で手伝いを募集した方がいいよ。多分サイノスっていう冒険者がいる筈だから、マチュアさんの紹介って言ってくれれば、手伝って貰えるからね」
 とマチュアが告げると、ストームは無言で祭壇に手をかざして先に転送。
 そのあとで、マチュアは祭壇を元の銀色の旗に戻すと、それを無限袋に入れて自力で転移していった。

──スッ
「のうズブさんや。ワシ等は夢でも見ているのじゃろうか?」
「さてね。けどサイノスさんていう冒険者がギルドに居たのは知っているわ。マチュアさんの助言どおり、話を通して見ましょう?」

――ポン
 と手をたたくポイポイ。
「思い出した。マチュアさんって、ポイと一緒のトリックスターっぽい!!最強の、トリックスターっぽい」
「あーはいはい。それじゃあいくよー」
 と3人はカナンへと一度帰還することにした。


 ○ ○ ○ ○ ○ 
 

 王都ラグナのシルヴィー邸に戻ったストームは、その場にやってきたミストとブリュンヒルデから、シルヴィーがベルナー領の女王として任命されたことを告げられた。
 そしてストーム自身が今から3日以内に、この王都から出ていかなければならないという事も同時に聞かされたのである。
「さて、ということはこれで一先ずは依頼は終了なのか?」
 とシルヴィーに問う。
「そ、そうぢゃな。うむ‥‥」
 と歯切れの笑い言葉を返すシルヴィー。

――ポンポン
 と、ストームはシルヴィーの頭を叩きつつ、一言。
「良かったな。後のことは心配するな。俺とマチュアがいればドラゴン如きなんとでもなる。だから気にするな」
「そうそう。ストームと私が居ればって、おい、私も数に入っているのかよ」
「俺一人で戦えと? 回復は自己回復セルフヒールしか使えない聖騎士に何をしろと? 死ねと?」
 と告げる。
 慌ててマチュアはストームの近くに駆け寄ると、耳を引っ張ってコソコソと会話を始める。  
「ちょっとまて、お前、僧侶の回復が使えるだろう?」
「あ、あれな。僧侶をサブクラスにすると使えないんだわ。聖騎士の自己回復セルフヒールが上書きするらしいのよ」
「それじゃあ聖騎士外して‥‥無理かぁ」
 とがっくりと項垂れるマチュア。

 ストームの僧侶クラスは、サブに設定すると回復魔法が使えなくなるらしい。正確には、僧侶の回復スキルが他のクラスとリンクしないようである。
 その為、まともに回復魔法を使うためにはメインに僧侶を持ってくるか、聖騎士を設定から外さなくてはならないらしい。
 ストーム自身が魔術について訓練なりを行っていれば、普通にスキルリンクすることが出来たのかもしれない。が、近接戦闘系と鍛治師に特化して鍛えまくっていたので、魔術についてはからっきしの模様である。
 加えて、装備の面でもスキルの使用に制約があることも判明した。

「ああぁぁぁぁぁ。分かった分かった」
「という事で、俺達はドラゴン退治に向かう。が、そのボルケイドというのがどのへんにいるのか全く分からない。何か情報はないか?」
 と二人はブリュンヒルデに問い掛ける。
「赤神竜の眷属は、大体は東からやってくる。彼らが休眠する時は、海の向こうにある島で休眠に入るのだ。元マクドガル領から出ている船で、沖にある孤島へと向かうといい。そこは『古代魔導王国スタイファー』の遺跡群があると噂されている地なのだが、長い間、領主だったマクドガルが危険だということで近づくことを許していなかったのだ」
「報告では、マクドガルは彼処が竜の眷属達の住処だったことを知っていたのよ。それで迂闊に近づいて目覚めさせたり、怒りに触れないようにするため、誰も近寄らせなかったらしいわ」
 ブリュンヒルデとミストが、そう説明する。
「つまり、その島全体が眷属たちの寝床みたいなものなのか」
「ああ、他の大陸にもそういう場所がいくつもあるのだが、『ボルケイド』はその島に滞在しているらしい」
 ブリュンヒルデが説明すると、マチュアは腕を組んでウンウンと頷く。
「随分とお詳しいですなー」
「これはパルテノが偶然見つけたらしい。兎に角ドラゴンとの戦いになると、対炎の護符タリズマンや熱を遮断するミスリルの鎧、あの強靭な竜の鱗を貫く武器などがないと難しいぞ」
 ブリュンヒルデがそう告げると、暫しマチュアは考える。

「それに、バランスのとれたパーティ構成が大切ですよ。例えば、パーティの護りの要である屈強な鎧騎士と」
 マチュアがストームを指差す。

「仲間達の怪我を癒したり、魔法で防御力を高める者も必要です」
 ストームがマチュアを指差す。

「当然ながら、竜の鱗を貫く武器や一撃を叩き込める火力担当と」
 マチュアとストームがお互いを指差す

「此処一番に、強力な攻撃魔法を使う者が居なくてはなりません」
 ストームがマチュアを指差す。

「そして弱った竜にとどめの一撃を叩き込める者は絶対です」
 マチュアがストームを指差す。

「あと、これは最も大切なことですが、全て信頼できる仲間というのが前提ですね」
 マチュアとストームがお互いを指差す。

――ガクッ
 ブリュンヒルデとミストが、膝から崩れる。
「そうじゃない。いや、あってはいるんだ。けどそうじゃないんだ‥‥」
「どうして貴方達は、何でも二人で解決したいのですか」
 二人がそう叫ぶのも仕方ないのだが。
「ストーム以上の前衛を知らないからなぁ」
「マチュア以上のことできる後方支援を知らないからなぁ」
 とあっさり呟く。
「貴方たちは、他に仲間はいなかったのですか?」
「冒険者登録はしてあるけれど、まともに依頼を受けたことがないからなぁ」
 とミストにストームが返す。
「私は結構依頼は受けていたよ。暫くの間はカナンが私のホームグランドだったからねぇ。けど、固定チームには登録していないよ」
 何かを思い出そうとしているマチュア。
「ウィルとアンジェには、まだドラゴン退治は厳しいと思うし、そもそもウィルの意識が戻ってない以上、二人を連れて行くことは出来ないからねぇ」
「そういう事。仲間はいるが、まだ修業中と治療中。いずれ二人には、俺やマチュアと同等のことが出来るようになって貰わないと困るのでね」
 という事で、今のメンバーで向かう事となる。
「流石にそれは厳しいでしょうし、此方としても見届け人を付けさせて貰う。それは承知してくれ」
 とブリュンヒルデが二人に告げる。
「それは構わない。そちらとしても、俺の監視という点で必要なのだろう?」
「ええ。いつ頃、此方からでるのかしら? マチュアのことだから、一発で転移して行けそうですけれどね」
 とミストが呟くが。
「あのー。私の転移、行ったこと無い場所は無理。相手の記憶から風景を読み取ってとか、そういう変態的なことは難しいのですよ?」
 サムソンにあるストームの家に跳んだ時は、彼の『GPSコマンド』とリンクして場所の座標を引っ張り出せたのであって、これが他人だとかなり難しい。というかほぼ無理。
「あら、それは失礼。トリックスターは何でも出来ると思いましてね」
 と意地悪そうな表情を見せるミスト。
「あのですねぇ。そりゃあ、ある程度は変なことしますけれど、出来ることと出来ないことがありますよ」
 と笑いつつマチュアが呟く。
「で、監視はいつ此処に来るんだ?」
「見届人よ」
「どっちも同じだろう? ここに長くいると、それだけ王都が危険になる。できればマクドガル領に付いたらすぐにでも船で移動できるように手はずは整えてほしい」
 兎に角、できるだけ人里にいるのは危険と判断したストーム。
「早馬でここから移動したとしても、マクドガル領まではゆうに7日は掛かるわね。その間に襲撃される可能性もあるから、移動も慎重にしないといけないし、それよりも装備はどうするのかしら?」
 とミストが問い掛けるが。
「ああ、これでいいだろうさ」

――シュンッ
 とストームとマチュアが、ほぼ同時に換装する。
 ストームは聖騎士、マチュアは暗黒騎士にクラスと装備を同時に変化した。
 これも『換装』のコマンドにクラスの設定を組み込んだ結果である。

「そんじょそこらの装備でないことは、ブリュンヒルデは理解してくれるよな」 
「ミスト殿は、私のこの装備知っているよねー」
 と告げて、兜や剣を二人に手渡して見せる。
 それらを受け取ってしげしげと見た後、ブリュンヒルデはため息を着いた。
「ふぅ。この王都でも、これ以上の装備はないわ。軽く見てもSSクラスの装備、伝説級の代物ね」
「魔法の加護が半端なく施されているわね。それにこの材質はミスリル?」
 と二人に問われるが
「ストームの鎧と楯は火廣金ヒヒロガネ、私のはアダマンタインですよ。何方も耐火の加護を入れてあります。ストームの聖剣カリバーンはオリハルコン、私のこれは、以前使ってみせた太陽剣ではなく、偶然ですが『ザンジバル』という竜殺しの大剣です」
 と説明を終えるマチュア。
「全く。今更ながら呆れる装備ね。これは古代遺跡の発掘物かしら?」
「そうだな。まあ、材料があれば似たようなものは作れる。この国では、オリハルコンとかアダマンタインは手に入るのか?」
「遺跡とか、古い鉱山とかで極稀にね。ミスリルでさえ、一般的には出回りにくい代物なのに、今聞いた名前の殆どは神話の世界ね。幻影騎士団って、みんなこんな装備付けているのかしら」
 というミストの問に、二人で手をブンブンと振る。
「それは無理だ。ウォルにはこんな装備使い切れない」
「アンジェもそうだね。ていうか彼女は治療師だけどね。そのうち、クラスを高位司祭にしてみせる。フッフッフッ」
 と不穏当な発言をしている二人。
「まあ、いずれにしても、あなた達については心配無用ね。とっととドラゴンでも退治していらっしゃい。今馬車の手配はしてあげるから」
 とミストが護衛の騎士に指示を送ると、一行はようやく食堂へと移動して食事会を始めた。

「もう今日には出発するのか?」
 という、明らかに元気のないシルヴィーの声が、食堂に響き渡る。
「ああ。随分とお世話になったが、そろそろ行かないとな。いつ此処にボルケイノが来るか判らんから」
「シルヴィー、短い間だけどお世話になったねー。何時でも必要な時は連絡してね」
 と告げるストームとマチュア。
「二人は幻影騎士団の団長と参謀ぢゃ。何時でも帰ってきて良い。ベルナー王城には、二人の部屋も用意しておくからのう‥‥」
 ボソボソッと下を向いてそう告げるシルヴィー。
「あ、それなら」
 とマチュアはゴソゴソと銀色の旗ポイント・フラッグを取り出して、シルヴィーに手渡す。
「これは?」
「王城の適当な場所にぶっ刺して魔力注いでね。『転移の祭壇』が作れるから」

――ブホッ
 とミストがスープを吹き出す。
「そ、そんなことで作れるのですか?  転移の祭壇は古の魔導器ですよ」

――シュゥゥゥゥゥゥッ
 と、マチュアは無詠唱で銀色の旗ポイント・フラッグを3本作り出すと、ミストに手渡す。
「はい、ミスト殿にも3本預けておきます。ラグナ王城地下への接続方法は教えましたよね?  サブ権限で追加するだけですから。それと今度、シルヴィーには携帯電話みたいの作ってあげますよ」
「ケータイデンワ?」
「えーっと、ストームにタッチ」
「遠くはなれていても連絡を取り合うことが出来る魔導器だ。それがあれば、いつでも何処でもシルヴィーの元には駆けつけられる」
 とストームがニィッと笑いつつ呟いたので、ようやくシルヴィーは笑顔になる。
「そ、それは助かるのぢゃ、で、いつ作ってくれるのぢゃ?」
「いや、色々と調べないと作れないので、しばしお待ちあれ」
 などど、他愛もない会話をしつつ、一同はゆっくりと食事を楽しんだ。
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