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一章 云わば、慣れるまでの時間

13.頼むから絡まないでくれ

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 頼むから絡まないでくれ──そう念じても無駄だった。アンナを初め他の2人もこちらへと近づいてくる。
 ──しかも、だ。


(うわあ・・・・・・なんて高そうな・・・・・・)


 初期装備であるボロいロープを纏っただけの私とは違い、3人ともぱっと見ただけで高級品だとわかる装備品を着ていた。何だこの格差は。
 若干嫌な顔をする私にお構い無しに、アンナは話しかけてくる。


「目が覚めたら、アゼリカちゃんだけ召喚されてなかったんだもん・・・・・・びっくりしちゃったぁ」


 演技混じりの言葉の後に他2人も言葉を続ける。


「だな。てっきり4人召喚されてると思ったけどさぁ・・・・・・よく生きてたな」

「やはりスキルの違いでしょうか・・・・・・同情しますね」


 揃いも揃ってわざとらしい態度である。きっと本心ではそんなこと微塵も思っていないのだろう。舌打ちでもしようかと思ったが、群衆の視線が集まる今、それはあまり良くない。印象が変わってしまう。

 私は無理やりにこやかな表情を作る。


「それはそうと、君たちは召喚ってなんだ?」


 えっとねぇ、と甘ったるい声で返したのはアンナだった。口元に拳を当て考えるような仕草で答える。


「私たち3人はこの国の王宮で召喚される形で来たのぉ、魔王を倒してくれって!」

「そーそー、俺はだからさ。やっぱ、こので世界の平和を守んなきゃいけないわけ。そんで平和になったら・・・・・・勝ち組の人生だぜ、なんてったってだからな!!」


 やけに2点を強調してくるカズキの鼻の下は、だらしなく伸び切っている。

 ・・・・・・薔薇色の人生でも思い描いているのだろうが、魔王が死んだ後は利用されて捨てられるか、強大な力を持つ危険人物とされるのがオチだ。
 よっぽど国王が善人では無い限り、崇め奉られることは無い。諦めろ。

 ぷぅーっと可愛らしく頬を膨らませたアンナも便乗して言う。勇者だけではなく、聖女だってこの国にとっては大切な存在だと言われていたのだ。
 実際、彼女の側には護衛らしき数人の男性が立っている。それも皆顔が整っていた。


「私だってぇ、モテモテなんだからぁ」

「へーへー、知ってますよって」

「もーカズくんはわかってないんだからぁ」


 突然始まった茶番に私は口を閉ざすしかなかった。あまりのくだらない自慢大会に呆れ返る他ない。

 どうせ、国王に豪勢なお迎えをされたのだろう。

 見たことのない料理、もてなすのは美男美女ばかり、そうして与えられたのは最上級の装備品──ここまでされては断る理由かなくなってしまう。


「2人とも話はそれくらいにしないと・・・・・・アゼリカさんが困ってますよ」


 ようやく賢者であるトモキの言葉で2人の自慢話が止まった。ごめんねぇ、とわざとらしくアンナが謝る。


「ついつい盛り上がっちゃったぁ。あっ、アゼリカちゃんの服ボロボロだね・・・・・・可哀想」

「いや、これは別に」

「えぇーでも女の子がこんな格好してるのは可哀想だよぉ~」


 突然、アンナは私の服に視線を移すと途端に表情を曇らせる。懐から丈夫そうな袋を取り出すと、ニッコリと微笑んだ。


「私聖女で優しいからぁ、あげよっかぁ? ──お・か・ね♡」


 周りの群衆から歓声が上がる。アンナはそれに応えるようにして笑顔を振りまく。手の中の袋からチャリと貨幣が触れ合う音が聞こえた。

 恐らくは支給された金だろう。改めてこの格差に嫌気がさす。それに、ここで施しを受けてしまえばこの先〝借り〟として一生付きまとわれることだろう。

 結構だ──そう答えようとした時だった。こちらへと近づいてきたアンナが、「きゃっ」と小さい悲鳴をあげて突然よろける。バラバラと手元から金貨が数枚落ちた。


 ──なんてわざとらしい行動だろうか。


 「大丈夫ですか!?」それを見た周りの冒険者の一部が慌てて駆け寄る。それらを彼女は笑顔で制すると、立ち上がった。


「いったぁい・・・・・・あーあ落ちちゃった」


 ぺろっと舌を出した彼女の足元には数枚の金貨。ごめんねぇ、と可愛らしく謝る。くすくすと小さく笑って言葉を吐く。


「──お金欲しいんでしょ? じゃあ、自分で拾ってねぇ?」
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