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一章 云わば、慣れるまでの時間
23. なんと不便な身体になったことだろう
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「ここが女子寮・・・・・・」
私は呆けた表情で呟く。当たり前だ、寮として紹介された建物が校舎並みに立派なのだから。ここが寮だと言われたところで信じられるわけが無い。
しかし、何度確認しても学園長の答えは変わらず、ここが寮で間違いないと言う。
「これが金持ちの常識か・・・・・・そうか・・・・・・」ぼんやりと呟いていると、「私はここで」とジェラトーニが背を向ける。
「貴方の部屋番号は606号室。6階にありますから、簡易移動魔法陣で移動してください。
明日からの事ですが、それはルームメイトに色々教わって貰いなさい。彼女も同じクラスですから」
それだけを一気に言うと、私の返事も聞かずにさっさと去ってしまった。1人残された私は暫くの間の後に寮の扉を開く。
・・・・・・クラスメイトと同じ部屋というのは何かと便利だろうが、そのクラスがワケありなクラスなだけに何とも言えない。
中に入るとそこはホテルのようで、豪華なシャンデリアが天井から吊り下げられていた。何か小さな石のようなものが発光しているようだ。よく見ると魔法陣らしき円も書かれている。
(魔法陣を利用した光る石か・・・・・・石が魔力の供給をしているのかもしれないな)
キョロキョロと周りを見ていると、一人の女性が声をかけてきた。豊満な胸を揺らして近づいてくる。
フェデルタ程ではないが、すっと切れ長な紫の瞳の美しい女性だ。腰まであるブロンドの髪を1つに纏めている。
「お待ちしておりました。アゼリカさん、ですね?」
こくん、と頷くと手のひらにカードのようなものを乗せられる。女性に怪訝な目を向ければ、「それが部屋の鍵です」と説明してくれた。
「部屋番号の下にある魔法陣にかざせば、鍵が開く仕組みとなっています。
・・・・・・あ、申し遅れました。私、ここの管理を務めさせていただいております、マリネッタ=クレイスと申します。──以後お見知りおきを」
「・・・・・・、はい、こちらこそよろしくお願いします」
カードは手に乗せたまま、努めて笑顔で対応する。これからお世話になる場所の為、もちろん口調も敬語だ。
にこやかな表情を浮かべるマリネッタ。しかし、カードに記されている部屋番号を口にした途端、僅かに表情に曇りが見えた。
「606号室・・・・・・は、6階ですね。そちらの簡易移動魔法陣をお使い下さい」
示されたスペースには人ひとりが乗れるくらいの魔法陣。マリネッタによると、あの上に立ち階数を言えば移動できるとのこと。
ありがとうございます、と一礼し、早速その魔法陣へと乗る。
・・・・・・カードを手に乗せたまま、動かす事も出来ないのが何とももどかしい。
が、つまんだ瞬間折れるのは目に見えているので、私が触ることは出来ない。
それよりも、部屋番号を言った時の表情の曇りが気になる。606号室のルームメイトは私と同じクラス──やはり、あのクラスは疎まれている存在なのだろうか。
マリネッタが逃げるように足早に扉の奥へと戻るのを見て、私は何となくそう感じざるを得なかった。
6階、と呟くと魔法陣が青白く光り輝く。──次の瞬間、煌びやかだったフロアは一瞬で姿を変えた。
「これは・・・・・・なんとまあ」
代わりに現れたのは、あまりにも殺風景な風景だった。
余計な調度品など一切なく、光源も埋め込み式。壁と床は全て黒色に統一され、とても頑丈そうな石で造られている。重々しい雰囲気に包まれた廊下に並ぶ扉も、相当重厚そうな造りだ。
ただ、何よりも気になったのは〝気配〟である。
少し神経を研ぎ澄ませば、手を取るように容易に気配を感じとる事が出来る。
日も暮れて寮に暮らす生徒は皆帰る頃。上下階のフロアには沢山の生徒の気配がある。数にして2桁はいるだろう。
対する6階。
「・・・・・・少ないな」
3名──私を含めた数で、だ。
まだ帰宅していない可能性も残されてはいるが、明らかに部屋数と合っていない。
ふと頭に浮かんだ。もしかしたら・・・・・・いや、恐らく6階はあのクラス専用のフロアなのだろう。ならば、調度品の少なさも、頑丈そうな造りも、人の少なさも全て説明がつく。
(なるほど。黒色は汚れを目立たなくする為、調度品の少なさは破壊されても被害を最小限に抑える為・・・・・・有り得る話だ)
私は歩を進める。606号室はさほど離れていなかった。
部屋の中に1つ気配を感じて、私は安堵する。・・・・・・手のひらの上のカードキー。フェデルタの用事が終わるまで、部屋に入れないかもしれなかったからだ。1人ではノックすら出来ない。
・・・・・・なんと不便な身体になったことだろう。
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