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一章 云わば、慣れるまでの時間
30. まさかこんなに簡単だとはな
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金貨の詰まった袋を前に私は笑いが止まらなかった。思った以上の結果で、ようやく落ち着いた後も再び笑い出しそうになる。
「まさかこんなに簡単だとはな」
何の疑いも持たず私の存在をあっさりと信用し、差し出された〝商品〟を見るや否やすぐに金貨の詰まった袋を取り出す。少女だからと警戒していなかったのか、人を呼びつけることはなかった。
私としては非常にやりやすい容姿である。あの自称女神に感謝をしなければと口元を歪める。
(・・・・・・それに、思いの外作成が上手くいって良かった)
イメージ通り──この言葉で、ディバージュ氏は妻の理想像を想像した筈だ。そして思惑通り、商品は彼の想像に近いものとなり、無事に商談は成立した。
見せてからは本当に順調だった。予め決めておいた値段を伝えると、彼は躊躇いなく別の部屋から金を取り出した。
初めは奴隷だと思っていたらしく身体状況を心配していたが、奴隷ではないと説明すると酷く喜んだ。
・・・・・・出処に関しては疑問に思っていたようだが、聞いては来なかった。破談にされるのが怖かったのだろう。
ついでに私のことを宣伝して欲しいと頼むと、快く了承してくれた。
──自身から抜き取られた代償も知らずに。
〝寿命10年分〟──それが妻を引き換えに彼が支払った代償だ。ただし、これは変更後に提示されたものである。
変更前は〝対象の下半身及び、寿命30年分〟だった。
結論から言うと、変更自体は1度のみだが可能だ。しかし、変更後は代償が少なくなるらしく、ご丁寧に彼の頭上に注意書きの文字も現れた。
因みに、私に対するデメリットは無い。
常々疑問に思う。このスキルは使用者に優しすぎはしないか、と。詐欺じみたスキル内容も、デメリットが殆ど無いのも・・・・・・誰かに無理やりスキル内容を変更されたような、そんな気もしてくる。
しかしまあ、私にとって好都合なのに変わりはない。ありがたく利用するとしよう。
私は数枚の金貨を別の袋へ移すと、残り全ての金貨をフェデルタに渡す。
「──これはフェデルタが預かっていて欲しい。私が持つには不自然過ぎるからな」
「御意」
「ああ、それと仮住まいは2つ確保して欲しい。一つはフェデルタの寝泊まり用、もう1つは私の商売用だ」
今回は平気だったが、相手の陣地へと自ら身体を投げ出すのは危険。それよりは、相手から来てもらう方が良いだろう。
「商売用は別に目立たない場所である必要は無い。表向きはただの家、鍵を開けるのは私が都合が空く夜の間だけだ。
──ただし、フェデルタは決してその家と関わりがあると知られるな」
もし目をつけられた場合、フェデルタの仕事にも影響が出てしまう。どうしても不信感が出てしまうとはいえ、仮住まいを2つに分けたのもそれを避けるためだった。
「商売用の方は私の金を使うこと。だが、広くなくて良いからな」
「了解致しました」
そう一言残してフェデルタが音もなく消える。しん、と静かになった部屋で、私はベッドに寝転んだ。
ようやく身体を落ち着かせることが出来る。
10万の魔族を吸収したとはいえ、その恩恵は身体のみ。流石に精神は疲弊してしまうようで、無意識に「疲れた」と呟いてしまう。
(身体は全然疲れてはいないのだが・・・・・・慣れない生活だからか? 睡眠時間を削るのも良くないだろうし、商売に関しては少し頻度も考えるか)
スキル内容を知る存在がいる以上、あまり大きく動くことは出来ない。1回につき貰える金額を考えれば、そこまで頻繁に行う必要はないだろう。1ヶ月に1度でも十分なくらいだ。
さてようやく眠れる、と瞳を閉じる。余程お金をかけているのだろう、ベッドは柔らかに身体を包み込む。
──次に考えるべきはクラスで上手く立ち回れるか、か。
僅かな不安は残しながらも、私の意識はすっと自然と沈みこんだ。
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