38 / 59
一章 云わば、慣れるまでの時間
36. 大丈夫だ、私自身の身くらい1人で守れる
しおりを挟む挟まれたのは、苦笑混じりのグリムの言葉。
それが終わると同時に、バンッ、と後方で机を叩く音が聞こえた。机に手を乗せ、立ち上がったディルクが憎々しげに言葉を振り絞る。
「・・・・・・あれはイタズラとか生易しいモンじゃねぇよ。下手したら──死ぬ」
その顔は嘘をついているように見えない。ディルクから伝わってくる、これは本当の話だと。
「だが、流石に教師が・・・・・・」
「あいつはネジがぶっ飛んでんだよ。だから、αのクラス持ってんの」
信じられねぇけどな、とディルクが吐き捨てる。その瞳には苦々しいものが浮かんでいた。
彼はつかつかと前へと出ると、私の側に立つ。いいか、と言い聞かせるようにして話す。
「あいつが止まった時・・・・・・その時に、この教室へ魔法が送られてくる」
「どんなだ?」
「・・・・・・、大体が上から下へ流れるものだ。──魔法を放って止めるしかない」
確かにそれはイタズラでは済まされないものだ。スパルタ過ぎやしないだろうか。
天井を見上げる。女子寮の廊下と同じように照明が埋まっているということ以外は、何も変わりはない。
そう話していると近づいていた気配が──ピタリと止まった。ディルクを見るが、彼は気づいていないようでしきりに天井あたりを警戒している。
「・・・・・・あの」
「ああ゛? なんだよ、邪魔するってぇならタダじゃおかねぇ──」
いや、とディルクの怒鳴り声を遮る。
「・・・・・・、止まったぞ、気配」
「っそれを早く言え!!」
伝えてからの行動は早かった。ディルクに目配せされたドーラは、さっと懐から4つ折りにされた羊皮紙を取り出す。床に広げて呼ぶ。
「こっち!!」
広げられた紙には、複雑な模様と文字列の並んだ魔法陣が描かれている。その上に小さな手が乗せられた。
不意にエルミータに手を引かれる。すぐさま魔法陣の側に引き寄せられた。
「ドーラは魔法陣学が得意なのよ、これは結界陣」
エルミータが指差しで説明していると、ドーラがぼそりと言葉を零す。
「・・・・・・こっちは無理、1人多い」
そう言ってディルクの方を見る。目を逸らし、舌打ちをした。
「俺だって余分に1人で限界だ。あのクソ野郎のイタズラの威力知ってんだろ?」
ドーラの結界陣にはエルミータが、ディルクの側にはグリムがいる。もう1人分の余裕はもう、ない。
「大丈夫だ、私自身の身くらい1人で守れる」
「えっちょっと、アゼリカちゃん!?」
「・・・・・・ほっとけ、ああ言ってんだ。1人なら大丈夫だろ」
あくまでも、スキルによる吸収が上手く出来ているのならばの話である。
泣きそうな顔のエルミータがこちらを見つめてきたが、静かに呟いたディルクの声でその表情は引き締められた。
「来るぞ」
その声で天井に黄色に光り輝いたのは、巨大な魔法陣。あれが、と感動する間もなく、ソレの光は輝きを増す。
瞬間──無数の雷撃が降った。
耳を劈くような轟音。机や椅子が跳ね、地面が揺れる。思わずしゃがみこみ、膝を抱えて顔を埋めた。ぎゅっと目を瞑れば、チカチカと明るい光が瞼の裏に走る。
(これが・・・・・・魔法か。想像以上だ)
雷が束となって私の背を打ち付けている。当たっている感覚はあるけれど、その痛みは全くない。ダメージを負っているとも思えなかった。
スキルの吸収は本当に出来ていたのか、と雷を背に受けながら安堵する。
その時あの気配と共に、轟音に混じってガラリと扉の開く音がした。
「おーおー、お前ら生きてっか?」
姿は見えないが、間延びした低い声で男だとわかる。この状況を見て何の反応もないのは、やはり何度も行われているせいだろうか・・・・・・。
雷の音によって掻き消される声。しかしディルクだけには聞こえたようで、後方から必死さが混じった罵声が飛んでくる。
「──こんのクソ野郎!! 毎回毎回、こんな目に合わせやがって・・・・・・!!」
「愛のムチだよ愛のムチ。実際、魔力壁強くなってんだろ? 今では人ひとり守ってんじゃねーか」
時間にして数十秒間。ようやく雷は収まり、眩しかった光も今は薄暗い空間へと戻っている。
度の越えたイタズラに、教室は惨劇──のようにはならなかった。
立ち上がり見渡すと、ぽつりと呟く。
「・・・・・・思いの外、綺麗なものだな」
机や椅子の乱れはあるものの、何か破損物があるわけでもない。教室自体も綺麗なもので、傷一つついていなかった。
それはまるで、先程の光景が嘘だったかのように思えてくる程だ。
1
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる