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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
8.覚醒から始まる
しおりを挟む尚も疑うように水面を睨みつけていると、そういえば、と上から声がした。
顔をしかめたバーバチカが、自身の指にくるりと灰髪を巻き付ける。少し前に見たコウの姿を思い出し、形の良いその眉を歪める。
「アンタ、自分の角見てみた? ネックレスをつける前に見てみたんだけど・・・・・・普通の希少よりもかなり不気味でさ。──何なの? その・・・・・・文字みたいなやつ」
「文字?」
バーバチカにそう言われてようやく思い出した。
先程はあまりの衝撃で顔ばかりを注視してしまい、肝心の人外部分は見ていなかった。エンシャからも、文字列のような何かがあると言われていた所である。
確か希少魔族に見られる模様らしいが、バーバチカの口振りからして何かが違うらしい。
(とはいえ、私は普通のを見たことがないからな・・・・・・比較しようにも出来ない、か)
同族どころか、未だにドラゴン以外の種族に出会っていない為、普通が何かなどを私が分かるはずもなかった。・・・・・・せっかくファンタジックな世界に来させられたのだ、もっと何かイベントがあってもいい気がしなくもない。
これじゃあ、ここに来ただけ損じゃないか──そうブツブツ呟きながらも泉の傍へと寄る。こうなったら楽しむしかない、と私は腹を括っていた。
そうして再び淵に手をつくと、私はそろそろと身を乗り出す。その気持ちに期待と不安が入り混じった。
波打った水面に映った黒髪、そこに隠れるようにしてあったのは二つの角。
「これが・・・・・・私の?」
無意識に息を呑んだ。同時に、全身を雷で貫かれたような気分に襲われる。
──若干の捻じれがある漆黒の角。そこに刻まれているのは、紅い羅列。
私は目を瞬かせた。その意味を汲み取ろうと何度もソレを見る。
(なんだ・・・・・・これ。読めないけど、何か文字列のような・・・・・・)
不気味な鮮やかさを持ち怪しく光る文字。びっしりと空きがないように詰められたソレは、見ているだけでもクラクラと目眩のような何かを感じた。
直視していては危ない──本能がそう警告する。
「・・・・・・ぅあ」
「コウ?」
突然、酷い吐き気が襲う。心配したバーバチカが、横から怪訝そうに声をかける。しかし、その呼びかけに言葉を返す余裕はなかった。
胃の奥から何かが逆流する感触。それに呼応するかのように段々と紅い光も強くなる。
気持ち悪いと目を逸らし口元を押さえた──その瞬間。
──・・・・・・ズキンッ
「・・・・・・いっ!?」
鋭い痛みが脳内を走る。思わず押さえていた手を離せば、ふらりと力が抜けた。それを見たバーバチカが、慌ててその身体を支える。
少女のように細い腕だが力強い。軽々と受け止めると、衝撃が伝わらないようゆっくり地面に下ろした。
「・・・・・・えっ、ちょ、ちょっと!! 一体何が起きたのさ!?」
慌てふためくバーバチカの声。だが生憎、私にも何が起きたのかは分からないのだ。ただただ、頭の奥から重く響く痛みに身体を丸めて耐えるだけである。
グワングワンと痛みで脳が揺さぶられ、もう何が何だか分からない。考えようとしても思考が纏まらない。その上、激しい衝撃が絶えず私を襲う。
痛みから少しでも逃げようと更に身体を丸めた。──が、痛みは和らぐどころか益々増してくる。
(痛い・・・・・・痛い、誰か・・・・・・)
痛みで涙が頬を一筋伝っては地面にシミを作る。
藁をも掴む思いで無意識に助けを求めても、誰かが助けてくれるわけではない。この痛みが治まるわけではない。解放されるわけではない。
《激しい痛みを感知──》
断続するのは信じ難い程の強い痛み。それは、段々と私の意識を蝕んでいく。徐々に闇に染まる視界。そして意識は深い深い奥底へと落ちてゆく・・・・・・。
プツリと意識の糸が切れる直前。・・・・・・最後に聞こえたのは必死に私を呼ぶバーバチカの声だった。
《──感知しました。一時、痛覚を遮断致します》
《〝純希少魔族の証〟の自己認識を確認──確認致しました。ロックされていた能力を解除致します──解除に成功しました》
《──***魔法の成功を確認》
《『固有技能:魔素変換』を解放》
《また、ロック解除に伴い魔素性質が変化します──固有性質へ複数の変化を確認致しました》
《詠唱型魔法の行使が不可能となりました》
《体内に致死量の猛毒を確認──確認致しました。『スキル:猛毒完全耐性』を強制解放致します──解放致しました》
《猛毒によるダメージはありません》
《他のロックされている項目を確認──現在は解除不可能です。終了致します──》
◇◇
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