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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
12.談笑から始まる
しおりを挟む「──っとにかく、母上様の負担にならないようにしてよね!!」
「うんうん、善処する」
横にいるバーバチカに笑顔で返事をしてから、真っ直ぐに洞窟を見た。笑顔が消え真顔に戻る。
エンシャとしても私生かした事に何か考えがあるのだろうが、話を聞く限りではメリットが全く見つからない。寧ろ、バーバチカの言う通り余計なお荷物にしかならないだろう。
いくらバーバチカが私の相手をしてくれているとはいえ、厳しいものがある。子供だから保護が必要不可欠──と甘えるわけにもいかない。
早めに自立をするべき、いてもあと数日程度だ──私は薄暗くなってきた空を見上げ、固い決意の意を含んだ瞳で虚空を見つめた。
◇◇
眼下に広がるのは境界の森。その上空を二体の竜が並ぶようにして泳いでいた。
冷たく澄んだ空気が身体を撫でる。薄い紺と朱色が入り混じった空に、長い体躯をくねらせ、竜たちは大きく翼を動かす。
藍色の鱗と黒色の鱗が優雅に身をくねらせる姿は、ため息が漏れるほど美しい。
森にも警戒の目を配りながら、蒼色の鱗を持つ竜──ナムザが隣に並ぶ竜に向けて思念を飛ばした。話すことのない彼らの意思疎通方法である。
『──なぁエンシャよお、今日のおめぇ、ちと嬉しそうじゃねーか。何かあったのかい?』
『そ、そうか? 別に儂はいつも通りだと思うが・・・・・・』
『ウソつけ、俺にゃーわかるぞ。さては上質の肉でも手に入れたか?』
ニヤニヤと口角を上げるナムザの視線の先には、ふるふると嬉しそうに揺れるエンシャの尻尾。表情にはあまり出ていないものの、その動きからは直接的に感情が伝わってくる。
お主じゃあるまいし、そんな単純なことで喜ぶか、と不貞腐れた声音でエンシャは否定する。数度横を見ると、内緒話でもするかのように声を潜めた。
『・・・・・・実はな、幼い女子を拾ったんだ』
『また、魔盲の子か? なんだ、処分しなかったのか』
ランクが高く、強力な魔物ばかりが出る境界の森には、しばしば赤子が捨てられている事がある。その殆どがヒト族の赤子であり、且つ魔素が感じられない者──魔盲の子である。
浅い入り口ではあるが、普段は絶対に立ち入らないようなこの森に来てまで、赤子を捨てようとする理由は大方予想がつく。
だからこそ、捨て子を見る度にエンシャの心は傷んでいた。痛みなく処分をしているのは、彼女なりのせめてもの情けだ。この森に捨てられた以上、助けることなどできない。
その為、今回の件は例外中の例外である。
『いや、それが捨てられたようではないらしいのだ』
『ならば、何故? この森に害をなす者かい?』
ナムザの声に怒気が籠る。漏れ出した殺気に、やれやれと首を振る。短気な性格は昔から変わっていない。
『落ち着けナムザ、そうではない。もしそうならば儂とて許さぬ──そうではないのだ』
『・・・・・・ワケありかい?』
低く放たれた声音は静かなもの。ゆっくりとした動きでエンシャは頷いた。
『間違いなく天と地がひっくり返す程の・・・・・・な』
いつになく真剣な声だ。流石に大袈裟な表現だとは思うが、冗談を言っているようには見えなかった。
それと同時にナムザはエンシャの発言に驚いていた。
彼の知ってる彼女は、危険と承知で首を突っ込む性格ではなかったはずだ。寧ろ、頑丈な石橋ですら何度も叩くような慎重さがある。
それなのに、処分せずして拾うとは。
『エンシャよぉ、なーんかおめぇらしくねぇなぁ・・・・・・どうしたよ?』
訝しげな問いを投げかけられ、エンシャの瞳に動揺が走る。チラチラとナムザの方を伺った後、迷いに迷ってようやくエンシャが返答した。
──何故か照れるような表情を浮かべながら。
『放っておけぬ種族だったのだ。それに・・・・・・まあ、可愛いかった』
『可愛いだあ? いつからおめぇは、仕事に私情を持ち出すなんて馬鹿なことを・・・・・・』
『し、仕方ないだろう!! 彼奴を処分するなど儂には出来ん!!』
『ったく、本当に頑固だなぁ・・・・・・まあ、拾っちまったもんは仕方ねぇ。せいぜい危険に巻き込まれんようにするんだな』
ナムザとしても、危険を承知で首を突っ込む気はさらさら無い。本来ならば、ここで話を切り上げて仕事に戻る──はずだっが、不意に心の奥底から好奇心が顔を覗かせる。
放っておけないほどの種族とはどのような種族なのか・・・・・・気になってしまったのだ。
ゴクリと飲み込んだ唾が思いの外大きな音を立てる。聞くだけでも、そこには謎の緊張感があった。
『──なあ、その種族ってぇのは何だい?』
ただ聞くだけ。そう言い聞かせながら問いかけたナムザは、次に聞いたエンシャの言葉に絶句した。そして聞いたことを後悔することとなる。
それは予想の遥か上、いや、予想すら出来ないであろう答え。
『〝純希少魔族〟──恐らく、だがな』
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