魔族転生~どうやら私は希少魔族に転生したようで~

厠之花子

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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない

20.正座から始まる

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 立っていても仕方ないので、青年に誘われるまま私は青年の横に座った。


 ──正座で。


 それを見てイサは何とも言えぬ顔をした。
 ・・・・・・こちらとしても正座は足が痺れるのでやりたくはないが、緊張のあまり足を崩せないのである。察してほしい。


「変な座り方するんだね・・・・・・疲れない?」

「・・・・・・、いえ、お構いなく」


 これが伝統的なジャパニーズスタイルだ。誰であろうと文句は受け付けない。
 私は正座のままですっと背筋を伸ばす。


「あの・・・・・・それで、私に何か?」


 とっとと本件に入ってほしい。その思いも込めて私は青年を見上げる。くれない色の瞳と視線が絡み合った。
 ああ、と青年は口元を綻ばす。


「せっかく新しい仲間に会えた事だし親睦を深めようと思ってね」


 嘘つけ。最初同族と分かった途端、不機嫌になっていたじゃないか──・・・・・・とは流石に言えず、はあ、と私は困惑気味に言葉を返した。
 それよりもさっきの言葉が気になる。

〝どうして君も黒い魔素を持っているの?〟

 あの言葉を言った時、イサは演技ではなく本当に不思議そうな顔をしていた。もしかすると、黒い魔素を持っている=希少魔族ではないのかもしれない。

 余程変な顔をしていたのだろう。イサが心配そうに私の顔を覗き込む。


「──・・・・・・何か困ってるの?」

「えっ、えっと・・・・・・」


 これは素直に答えるべきか。

 突然の接近に声を漏らした。無駄に顔が整っている分、余計に驚いてしまう。だが、これは情報収集にはいい機会だろう。私はどもりながらも何とかイサに聞く。


「──実は記憶喪失でして、色々教えて下さると助かるのですが・・・・・・」

「いいよ?」

「えっ」


 勇気を振り絞り言葉尻をすぼめて聞いた質問は、実にあっけらかんと軽い口調で返された。しかし続けて、でも、とイサは残念そうに呟く。


「──・・・・・・残念ながらもう時間かな、洞窟に戻ろうか。そろそろ番人が戻ってくる頃だよ」


 洞窟は恐らく私が元いた場所。それに言わずもがな番人とはエンシャのことだろう。
 ・・・・・・なぜこの青年がそこまで知っているのか。洞窟にいた事はともかく、そろそろ返ってくる頃までもこの青年は知っているのだ。

 怪訝そうな私をそのままにイサは立ち上がり、私に手を差し出す。


「ほら、早く行かなきゃ。・・・・・・大丈夫、いつでもいいから明日またこの場所においで。その時に教えてあげるよ」


 イサの優しげな微笑みにつられるようにして私は手を重ねる。その手を握りしめられたかと思えば、強い力で引き寄せられた。バランスを崩しながらも何とか立ち上がる。


「っと、じゃあ行こうか」


 鮮やかな紅色の瞳に見つめられ、こくんと頷く。イサが私の両手を掴んだ。何事かと掴まれた手を凝視して見上げると、苦笑いで見返される。


「・・・・・・もう時間が無いからね。一瞬で着く転移魔法で行くよ」


 そう言ったかと思えば、足元に青白い光を放つ魔法陣が現れる。それは一際強く光ると、私たちを包み込むようにして薄く広がる。
 思わず目を瞑った私に、大丈夫、とイサは声をかける。


「すぐ着くから」


 実際その言葉は本当だった。内臓が浮くあの感じが起こったのはほんの一瞬。すぐに感じた地に足がつく感触で目が開く。立っていたのはあの洞窟の前だった。
 信じられない思いで、足がついた地をまじまじと見つめる。


「本当だ・・・・・・」

「ね?」


 そう言って微笑むイサ。どこか得意気そうにも見える。


(──・・・・・・魔法とはこんなにも素晴らしいものだったのか。これは凄いな)


 流石にどこへでも行き放題というわけではないだろうが、一瞬で移動してしまう魔法とはなかなか便利である。


「じゃあ、僕はそろそろ行くね。・・・・・・また明日」


 そう言う声に顔を上げると、少し離れたところでイサが軽く手を振っている。うん、と私も小さく振り返した。
 ──明日、少しでも自分のことを知ることができれば・・・・・・黒い魔素について何か知ることができれば。


(・・・・・・この出会いは幸運だったのかもしれない)


 何故、初対面ではあんなにも冷たかった青年が、ネックレスを外した私を見てからは態度が軟化したのかは不明だが・・・・・・。恐らくは私が希少魔族だと知ったからだとかそんな理由だろう。

 手を振っていたイサが転移魔法の魔法陣と共に姿を消す。それを見送ると、私はゆっくりと腰を下ろした。ひんやりとした土の地面が心地よい。

 幸いにも、しん、と静まり返った洞窟に二人の気配はない。あとは二人の帰りを待つだけである。

◇◇
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