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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
19.出会いから始まる
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◇◇
深く生い茂った森には、底知れない不気味さが漂っていた。夜の暗さと相まってソレは増す。
木の幹に自身の小さな身体を隠しながら、そっと目の前の光景を覗き込む。鈴の音に導かれた先にあったのは少し開けた花畑。
そこに一人の青年がいた。
(あれは・・・・・・魔族?)
なんだ、魔族かと引き返そうとした時、あることに気づいて息を呑む。木の後ろへと隠れようとして音を立ててしまう。
──その体内に見えたのは、私と同じ黒い魔素だった。
注視してみれば濃い色が青年の体内を巡っている。
頭には黒い角が赤い模様を覗かせていた。その模様はあと少しという所で途切れている。
若干の紅を帯びた月光を浴びながら、木にもたれかかり座る青年。夜空に浮かぶ満月を仰ぎ見る姿は、美しくも妖艶な雰囲気を漂わせている。
女人のような線の細い身体、地につく指は白く長い。
こちらの視線に気づいたのか、不意に闇を思わせる黒髪から覗く紅い瞳がすっと細められた。
「人間・・・・・・? いや、違うな・・・・・・」
一瞬怪訝そうになった青年だったが、おずおずと覗いているこちらの姿を見つめるとすぐにその言葉を否定し、同族か、と不機嫌そうに眉をひそめる。
「何? 僕に何か用でもあるの?」
「い、いえ・・・・・・」
見るからに不機嫌そうだ。思わず見とれていた私は、はっと我に返り、掴まっていた幹から手を離す。離れた方がいいと告げる本能に警戒心が高まった。
やばい。これ関わっちゃいけない類いのやつだ。
つまり、地球で言うヤの付く自由業の方のような感じである。
刺激をしないようにそろそろと後ずさりをすると、ちょっと待って、と青年が言う。
なんだろうか。顔色をうかがいつつも足を止めれば、不思議そうな顔をされた。
「・・・・・・僕が《譲渡》した相手なら把握している筈なんだけど。どうして君も黒い魔素を持っているの?」
「へっ?」
黒い魔素を持っているのが希少魔族ではないのか。もしかして数量限定的なアレなのか。確か、角に赤い模様を持つ者が希少魔族だったか。
何とも言えず困り顔で青年を見つめると、さらに言葉を重ねてきた。私の胸のあたりを指さす。
「じゃあ、人間に見せている魔法を解いてみてよ。・・・・・・角を見れば分かるからさ」
指の先を辿れば固い感触。──エンシャから貰ったネックレスだった。青年はこれが人間に見せている原因だと見破っていたのだろう。
(・・・・・・フェンリルさえ見破れなかったのに。やはり、関わらない方がいいかもしれない)
要するに、フェンリル<希少魔族という式が成り立つ。
本能は正しかったのである。だがこの状況で逃げようものなら、確実に秒で捕まってしまうだろう。だとしたら、とるべき行動は一つ。
ゴクリと唾を飲み込むと、私はネックレスを握りしめ、ゆっくりとそれを外す。
完全に外れた瞬間、息を呑む音が聞こえた。まるで有り得ないものでも見たかのような表情をしている。
この無言の状況に耐えきれずに、あの、と声を掛けると青年は堰を切ったように笑い出した。
先程までの不機嫌さはどこへやら、あっははは、と肩を震わせている。一頻り笑い終え最後に目元を拭うと、そっかそっかぁと青年は小さく繰り返す。
口元には柔らかな微笑みが浮かんでいる。目線だけで人を殺しそうだった先程までとは、明らかに様子が変わっていた。
「──・・・・・・なんだ、そっか。そっかぁ・・・・・・」
──なんだなんだ、何がおかしいんだ?
その様子を一部始終見ていた私は困惑していた。顔に何か付いているのかとぺたぺた触ってみるが、そんなことはなく・・・・・・。
よく分からずに佇んでいると、「ああ、ごめんね」と謝る声が聞こえる。
「そのネックレスは絶対に外しちゃダメだよ? 魔族以外には特に、ね」
言われなくともそうするつもりである。今回は見破られていたから・・・・・・という例外だ。
そっちが外せと言ってきたのに、という文句は口に出さないでおく。機嫌を損なわせるようなことはしたくない。
その代わりにこくんと無言で頷いた。それを見て満足したのか青年は満足気な顔で言う。
「僕はイサ、君と同じ希少魔族だよ。君の名前は?」
「・・・・・・わ、私はコウ」
幹に身体を半分隠したままでの自己紹介。失礼にも程があるが、青年──イサは気にしていないようだった。少し横に移動すると、ほら、と自身の横を軽く叩く。
・・・・・・まさか、私に座れと? 隣りに?
深く生い茂った森には、底知れない不気味さが漂っていた。夜の暗さと相まってソレは増す。
木の幹に自身の小さな身体を隠しながら、そっと目の前の光景を覗き込む。鈴の音に導かれた先にあったのは少し開けた花畑。
そこに一人の青年がいた。
(あれは・・・・・・魔族?)
なんだ、魔族かと引き返そうとした時、あることに気づいて息を呑む。木の後ろへと隠れようとして音を立ててしまう。
──その体内に見えたのは、私と同じ黒い魔素だった。
注視してみれば濃い色が青年の体内を巡っている。
頭には黒い角が赤い模様を覗かせていた。その模様はあと少しという所で途切れている。
若干の紅を帯びた月光を浴びながら、木にもたれかかり座る青年。夜空に浮かぶ満月を仰ぎ見る姿は、美しくも妖艶な雰囲気を漂わせている。
女人のような線の細い身体、地につく指は白く長い。
こちらの視線に気づいたのか、不意に闇を思わせる黒髪から覗く紅い瞳がすっと細められた。
「人間・・・・・・? いや、違うな・・・・・・」
一瞬怪訝そうになった青年だったが、おずおずと覗いているこちらの姿を見つめるとすぐにその言葉を否定し、同族か、と不機嫌そうに眉をひそめる。
「何? 僕に何か用でもあるの?」
「い、いえ・・・・・・」
見るからに不機嫌そうだ。思わず見とれていた私は、はっと我に返り、掴まっていた幹から手を離す。離れた方がいいと告げる本能に警戒心が高まった。
やばい。これ関わっちゃいけない類いのやつだ。
つまり、地球で言うヤの付く自由業の方のような感じである。
刺激をしないようにそろそろと後ずさりをすると、ちょっと待って、と青年が言う。
なんだろうか。顔色をうかがいつつも足を止めれば、不思議そうな顔をされた。
「・・・・・・僕が《譲渡》した相手なら把握している筈なんだけど。どうして君も黒い魔素を持っているの?」
「へっ?」
黒い魔素を持っているのが希少魔族ではないのか。もしかして数量限定的なアレなのか。確か、角に赤い模様を持つ者が希少魔族だったか。
何とも言えず困り顔で青年を見つめると、さらに言葉を重ねてきた。私の胸のあたりを指さす。
「じゃあ、人間に見せている魔法を解いてみてよ。・・・・・・角を見れば分かるからさ」
指の先を辿れば固い感触。──エンシャから貰ったネックレスだった。青年はこれが人間に見せている原因だと見破っていたのだろう。
(・・・・・・フェンリルさえ見破れなかったのに。やはり、関わらない方がいいかもしれない)
要するに、フェンリル<希少魔族という式が成り立つ。
本能は正しかったのである。だがこの状況で逃げようものなら、確実に秒で捕まってしまうだろう。だとしたら、とるべき行動は一つ。
ゴクリと唾を飲み込むと、私はネックレスを握りしめ、ゆっくりとそれを外す。
完全に外れた瞬間、息を呑む音が聞こえた。まるで有り得ないものでも見たかのような表情をしている。
この無言の状況に耐えきれずに、あの、と声を掛けると青年は堰を切ったように笑い出した。
先程までの不機嫌さはどこへやら、あっははは、と肩を震わせている。一頻り笑い終え最後に目元を拭うと、そっかそっかぁと青年は小さく繰り返す。
口元には柔らかな微笑みが浮かんでいる。目線だけで人を殺しそうだった先程までとは、明らかに様子が変わっていた。
「──・・・・・・なんだ、そっか。そっかぁ・・・・・・」
──なんだなんだ、何がおかしいんだ?
その様子を一部始終見ていた私は困惑していた。顔に何か付いているのかとぺたぺた触ってみるが、そんなことはなく・・・・・・。
よく分からずに佇んでいると、「ああ、ごめんね」と謝る声が聞こえる。
「そのネックレスは絶対に外しちゃダメだよ? 魔族以外には特に、ね」
言われなくともそうするつもりである。今回は見破られていたから・・・・・・という例外だ。
そっちが外せと言ってきたのに、という文句は口に出さないでおく。機嫌を損なわせるようなことはしたくない。
その代わりにこくんと無言で頷いた。それを見て満足したのか青年は満足気な顔で言う。
「僕はイサ、君と同じ希少魔族だよ。君の名前は?」
「・・・・・・わ、私はコウ」
幹に身体を半分隠したままでの自己紹介。失礼にも程があるが、青年──イサは気にしていないようだった。少し横に移動すると、ほら、と自身の横を軽く叩く。
・・・・・・まさか、私に座れと? 隣りに?
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