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序章 全てはここから始まった
2.食べ歩きから始まる
しおりを挟む充分に花畑を堪能した私は、さて行くかと華奢な身体をぐっと伸ばした。足元には根こそぎ抜いたハート型の草が山のように積まれている。
胃袋も子供仕様だ、暫くは大丈夫だろう。
問題は持ち運びが出来るかどうかだが・・・・・・。
よいしょ、と目一杯腕を広げて持ち上げてみるも、案の定ぽろぽろと草が落ちてしまう。やはり細い腕では全てを運ぶのは不可能か。
(となると、ここに住むとか・・・・・・いや、でもなぁ)
苦い顔で私は躊躇う。ここを拠点にしようにも雨風が防げる穴はない。その上、とても獲物が見やすい場所だ、狙われたらひとたまりもない。
「・・・・・・仕方ないか」
渋々と持てるだけ持つとその場を離れた。落ちてしまった葉は諦める。
それでも一日二日は保てるはずだ。
後ろに落ちた黄緑色を名残惜しそうに目で追いつつも、私は再び歩き出した。当然当てなどない。
・・・・・・せめて誰か人がいればまだマシだっただろうに。
──延々と続く緑色の景色に飽きてきた頃、手持ち無沙汰に草を食んでいた私は不意に足を止めた。
ごくりと甘さの残る草を飲み込んで足元を見やる。
(・・・・・・おかしい)
今までも枝やら草やらで険しい道には違いなかったが、ここはそれ以上に鋭く、うっかりしていると肌が切れそうになる。
──明らかに雰囲気が変わっていた。
ほのぼのした空気から不気味な空気へ。気のせいか頭上の鳥が騒ぎ出した気もする。更には、薄暗くなった空と肌寒い空気も相まってふるりと身体が震えた。
・・・・・・夜が近づいてきたのである。これは早々と野宿場所を探さなければ、と周りを見渡す。恐らくは小学生くらいの背丈、隠れる程度ならばこの辺でも問題は無いだろう。
こちとら動物避けの焚き火すら出来ないのだ、身を隠すしかない。
はむはむと腕に抱えた草を少しばかり食べつつ、足でやや乱暴気味に草をかき分ける。少女らしからぬ行為ではあるが、それを咎める者はいない。
「よーいしょっと」
鼻歌交じりにどんどん草を押し込み続ける。少女の身体だからか、アラサー時代は常に感じていた疲れは全く出ていなかった。嗚呼、若いってすばらしい。
進む度に草花が高くなっていく。ついには草の先が眼前に迫る程にまでになっていた。私が小学生程度の身長だとしたら1m以上はある。
それにしても妙な形だと私は眉を顰める。腕の中のハート型の草もそうだが、
(・・・・・・まあ、ここら辺でいいかな)
立ち止まったのは、木々が密集し尚且つ草が鬱蒼としている茂みである。身を隠すのにこれ以上の絶好の場所はないだろう。
ふあ、と小さな欠伸をひとつ。体力は有り余っているのだが、もしかしたら気疲れしたのかもしれない。
よっと腕の中のハート草を下ろすと、傍の草をそれに覆い被せる。完全に下の草が隠れれば簡易型の枕の完成だ。
食料を風から守れる上に、ちょっとした枕にもなる。因みにさっき思いついたばかりだ。
地面が芝生のような草で覆われている所を見つけると、草の枕に頭を乗せ横たわる。決して柔らかいわけではないものの、身体に土が付くよりはよっぽど良い。
そうして小さく身体を丸めると、思った通り私の姿は完全に隠れた。ひんやりとした心地よい冷たさが体を包み込む。幸いにも寒いというほどではなかった。
膝を抱え込みながらこれまでの事を思い返す。
いきなり、わけのわからない場所で目を覚ましたと思えば、何故か幼い少女になっていたという謎状況。それでも何とか〝衣食住〟の内の〝食〟は手に入れた。
元の世界に未練がないと言えば嘘になる。だが、戻れる手段もわからない今、ここで頑張っていくしかない。
それにぼんやりとしかわからないが、以前の自分は録な人生を送っていなかった気がする。寧ろ、ここへ来て良かったのかもしれない。
◇◇
「よぉし、今日も快晴だ!」
野生動物の餌にならず、問題なく翌朝を迎えることが出来た私は一人で自身の無事を祝っていた。
こらそこ、一人で虚しいとか言わない。
朝食代わりに草をひとつかみ。口へと放り込むと、再び探索を始める。・・・・・・とはいえ、かなり森の深い場所に来てしまったようで、見渡しても周りは背の高い草と太い幹ばかり。
森から抜け出せる自信がない。
とりあえず、腕に草を抱えとぼとぼと道なき道を進んだ。
ここまで来ると、地面に落ちている枝は所々が鋭くなり触れただけで切れそうである。痛み等は特に感じないが、私の足ももうボロボロだろう。
急げ急げと進んでいると、木々の隙間から光が漏れているのを見つけた。恐らくは先程の花畑のような開けた広場だ。
──全く警戒していなかった。勢いのまま足を踏み入れた瞬間、私は後悔することとなる。
視界いっぱいに強い光が溢れ、思わず目を細めた。徐々に目が慣れてゆっくりと目を開ければ、眼前に現れたのは黒い鱗。
太陽の光を受け艷めくソレはかなりの分厚さを持ち、一切の攻撃をも通さないように見える。
その鱗を隙間なく纏っている身体。それは、恐らく・・・・・・ドラゴン。
瞬間、私の頬に冷や汗が垂れた。──恐る恐る顔を上げたその先には。
「・・・・・・そ、んな。まさか・・・・・・」
ソレを見た瞬間、身体がまるでコンクリートのように硬直する。
鎧のように分厚い鱗は黒く艷めき、頭頂部には立派な二つの角が生えている。
こちらを大きな黄色い瞳でギョロリと見つめているそれは──
ドラゴン、だった。
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