妹と幼馴染の前世が、寝取り魔王と寝取られ勇者+宇宙、そして未知との遭遇

森月真冬

文字の大きさ
43 / 43

不老不死の猫がピアノの鍵盤を歩けば、いつかショパンの曲を弾くのだろうか?

しおりを挟む
 大皿に、山と盛られたカキフライとコロッケ。飲み物は雪印のコーヒー牛乳である。
 見ただけで胸焼けしそうな大量の揚げ物とコッテリ甘い飲み物を、アニスと炙山父は次々と口へ入れていく。
 いささかゲンナリしつつ、空那は言う

「いやあの……もうちょっと、栄養のバランスとか考えてくださいよ……」

 炙山父は、爪をブンブン振り回して反論する。

「一食ごとにバランスを取る必要はない。要は、トータルでバランスが取れていればいいのだ」

 空那は手提げからタッパーを取り出し、机に置く。

「はぁ……そっすか。それが、この家の方針なんすね。じゃ、尊重そんちょうします。あの、これ、うちで作った炊き込みご飯です。母が持って行けと。よかったら、食べてください」
「では、ありがたくちょうだいする」

 炙山父は、爪の先で揚げ物を避けて大皿にスペースを作る。それからタッパーの蓋を開けて逆さにし、ガパリと直方体に盛りつけた。
 アニスが、さっそく箸を伸ばして自分の皿に取り分けて、口へ運ぶと咀嚼そしゃくしてから呟いた。

「もちもち……しんしょくかん」

 炙山父も、炊き込みご飯を食べながら言う。

「時に、荒走空那よ。君を呼んだのは他でもない。スキーズブラズニル。『亜空間移動型戦艦』についての話だ」

 尋ねられて、空那は首を傾げた。

「あれが、どうかしましたか?」
「あれを入手するに至った経緯を、教えて欲しい」
「……え」

 自分も炊き込みご飯に手を伸ばそうとしていた空那は、言葉に詰まる。
 前世だのなんだのを、この宇宙人に、どのように説明するべきか迷ったからだ。

 ……とはいえ、秘密にしてもしかたがないし、そもそもバカバカしさ……いわゆる、『オカルト度合い』で言えば、前世も宇宙人も大した違いはあるまい。
 それに説明したからと言って、悪用できるものでもないだろう。
 そう思い、空那は素直に話し始めた。

「えーっと。ことの始まりはですね。俺と妹、それから幼馴染の……」


 ……すべてを聞き終えた炙山父は、無言で爪で机を叩く。
 トン、トン、トン、トン、トン、トン……一定のリズムを刻んでいたが、やがて抑揚よくようのない声でポツリと言った。

「懐かしい」
「……ん? え、懐かしい? なにがですか?」
「亜空間移動型戦艦。スキーズブラズニルがだ」
「は? ……それ、どういう意味です? そもそもなんで、こんな話を聞きたがったんです?」

 しばしの沈黙の後、炙山父は言った。

「わからない」

 ガクリ。空那はズッコケて、脱力する。
 しかし、炙山父はまるで気にした風もなく続けた。

「冗談を言っているわけではない。以前にも話したが、私の記憶を保存してある器官の大部分は、この星の人間に奪われたままである。今の私は、二百年ほどの超短期記憶しか有していない。ただ、その記憶以外の、もっと『根源的な部分』で、あの船は私の感情に、強く訴える物がある」

 アニスは炊き込みご飯が気に入ったのか、ひたすらモチャモチャと食べながら首をかしげ、小さな声で言う。

「ほかに?」

 他になにか、気になることは? 突き止めるヒントはないのか?
 そのような娘の問いかけに、炙山父は答える。

「アルカ、シェライゴス、セレーナ。この名前もだ。
 ……どういうわけだ? 私は、これらの人物の『顔』を知っている」

 空那はカキフライを飲み込みながら言った。

「んくっ。……え! それじゃあまさか、俺らの前世に、炙山父さんが関わりがあるって話ですか!?」
「いや、それはわからない。先ほども伝えたが、そう断言するにはデータ不足だ。ただ……」

 それから一旦、言葉を区切る。

「魂とは、『永遠に使い回されるバッテリー』のようなものだ。魂は、『どのような性格に生まれるか』には作用する。しかし、生まれた後は魂を入れ替えても、肉体や人格に変化はない。
 ゆえに私は、クローンに『魂の再現』は不必要だと考える。そもそも魂とは、再現できるものではないからな。つまり魂は現世において、その程度の影響しかないはずなのだ」

 空那はちょっと不満げに、眉をひそめた。

「でも……その程度って、言われてもなぁ……? 俺ら、本当に前世を思い出して、すげえ苦労したんすけど!」

 炙山父は、目をチカチカと点滅させる。

「もっと簡単に、それも断定的に言おうか。『魂の記憶』と言うのは、普通は思い出せるものではないのだ。なぜなら肉体のあるうちは、必ずリンクが切れているからだ。
 それは電灯のスイッチそっくりで、どちらかオンにすれば、片方は必ずオフになる。
 同時に繋ぐには、構造そのものを壊してしまう『強引な方法』でしか法則を乱せない。
 しかし、過去に強い因縁を持った魂が三つもこの地に集結し、同時にリンクを取り戻したという。
 ……ならばそれは、誰の意思によるものだ?」

 尋ねられて、空那は肩をすくめた。

「誰の意思って……知りませんよ、そんなのっ!? 少なくとも、俺が何かをした覚えはないです。砂月も雪乃も、急に思い出したと言ってましたよ!」

 炙山父は、しばらく考えるかのように両目を明滅させ、それから、

「何者かの意思が介在したのでないとするならば、さて、原因はなんだろうか?」

 他者ではなく、己に問いかけるような一言だった。
 ややあって、空那は答える。

「それは……例えば、偶然とか?」

 不意に、「ピョーピョーピョローピョピョーピョピョピョー!」と、調子はずれのサンバのホイッスルのような音が鳴り響いた。

「な、なんだぁ!?」

 場違いに楽しげな音楽に、慌てて空那は辺りを見回す。と、炙山父が鋭い爪で机をバシバシ叩きながら言った。

「すまない。つい笑ってしまった!」
「……い、今の、笑い声だったのか」
(なんていうか、マヌケな笑い方だなぁ)

 炙山父は、「笑ってしまった」の言葉とは裏腹に、まったく面白くなさそうな、相変わらずの平坦声で続けた。

「なるほど、『偶然』か。それもまた、絶対にないとは言い切れないのが、世界の面白い所だ。しかし、君たち地球人はこう言った場合において、素晴らしく『的確な例え』を持っているではないか」
「……それは?」
「猿が無限にキーボードを叩き続けるならば、いずれシェイクスピアを書き上げるという文句だ」

 それは『無限の猿定理』と呼ばれる、有名な話である。
 とある猿が、タイプライターを乱打する。
 その猿には言葉がわからない。猿は、なんにも考えちゃいない。適当に叩くだけだ。
 めちゃくちゃに、そして大量に吐き出される字の繋がりの中には、『読める言葉』が含まれる事がある。『cat』『appleリンゴ』『people人々』『sophistic精巧なated』……もちろん全部、たまたま出来上がった単語である。
 しかし、その猿が無限にタイプライターを叩き続けるならば……いずれはランダムに生まれる文字列の中に、シェイクスピアの物語さえ含まれるだろう。それも、全ては偶然に……。

 なんとも言えず、空那が黙っていると、アニスがゆっくりと顔を上げ、ボソリと呟いた。

「無限と言われる宇宙においても、確率が意味をなさない事もありうる。それはありえるけれど、ありえないのだ。世界は無限のようでいて、無限ではない」

 薄暗い部屋には、それからしばらく……食べ物を咀嚼する音だけが続いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...